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2019年2月22日金曜日

脳静脈洞血栓症の単純CT所見

脳静脈洞血栓症は忘れがちな脳卒中, 頭痛の原因.
診断するならばMR静脈造影やCT血管造影, 脳血管造影検査が必要となる.

単純CT所見ではどのような所見が有用か、またその感度・特異度はどの程度なのだろうか?

285例のCVT症例と303例のControl群のCT所見を比較.
(Neurology® 2019;92:e841-e851. )
CVT症例は発症2wk未満で評価された単純CT, Reference standardCT血管造影, MRI, 脳血管造影による評価.
・Control群は同じ病院のERを受診した, 急性・亜急性の頭痛, 神経局所症状, 痙攣, 意識障害で, 単純CTを撮影した成人例(年齢は±5歳で合わせた). さらにCVTMRI, CT血管造影, 血管造影で否定され, CVT以外の診断がついている患者.
・3名の読影者(神経内科医師)が診断, 経過, 所見をBlindされた状態で, 以下の要素を評価.
 Visual Impressionによる評価
 静脈洞のCT(HU), 
 患部と非患部の静脈洞CT値の比

Visual Impressionは直接所見と間接所見を評価
・直接所見: 頭蓋内出血, 硬膜下血腫, 脳浮腫, 静脈梗塞
・間接所見: Cord sign, Hyperdense sinus
 Cord sign: 単純CTで静脈洞に沿って長い高濃度域を認める
 Hyperdense sinus: 静脈洞が高濃度に描出される

以前のStudyより, CT値のカットオフは,
患部静脈洞 CT>62HU,
・Ht補正: HU/Ht (H:H ratio) > 1.52
患部/非患部CT値比 >1.3 とした.

所見の例
・A,B: A: 右横静脈洞の血栓症疑い. CT値は3箇所で67, 72, 69HUと上昇している. B: 健側との比較では, 患側71, 健側47HU
・C,D, E: Cでは正常であるが, Dでは出血性梗塞を認める. ECT静脈造影で, 右の横静脈洞が造影されない.
・F,G,H: Fでは直静脈洞と内大脳静脈のCT値の上昇を認める(71HU). 左視床, レンズ核の低吸収域を認める. G,H: 直静脈洞の造影がされていない.
・I, J: I
では上矢状静脈洞のCT値が亢進(79HU). J: 血管造影では同部位が造影されていない

母集団
発症48h以内の評価は43%

アウトカム
CT値による評価
・どの指標を用いても感度, 特異度は同等.
 感度は6-7割程度であり, 否定に十分な所見とは言えない.

Visual impressionによる評価
・特異性は高く, 経験をつめば典型的な所見があれば疑うのは容易いが, 感度はバラツキがかなり大きく, やはり否定が難しい

2019年2月21日木曜日

比較的徐脈の鑑別

比較的徐脈(relative bradycardia)は体温上昇に比例したHRの上昇が生じず発熱の割には脈拍が遅い状態のこと
・体温が38.3度を超えると, 1度あたり8-10bpm心拍数が増加する
 この反応に満たないHRの上昇では比較的徐脈, Pulse-temperature dissociation, Faget’s signと呼ばれる.(WMJ. 2018 Jun;117(2):73-78.)
体温≤38.9度では体温と脈拍の解離を判断しにくいため>38.9度の場合に有意な所見として捉えた方がよいとする報告もある.(Clin Microbiol Infect. 2000 Dec;6(12):633-4.)
入院患者では熱型表から判断可能なことも多い

(Clin Microbiol Infect. 2000 Dec;6(12):633-4.)

比較的徐脈を呈する疾患
(Clin Microbiol Infect. 2000 Dec;6(12):633-4.)

201610月までに報告された比較的徐脈の症例Review
(WMJ. 2018 Jun;117(2):73-78.)

感染症と比較的徐脈の頻度

・頻度はばらつきが大きいが,
 デング熱では23-76%, レジオネラでは0-60%, マラリアでは13.6%, 
 ツツガムシ病では38-53%, 野兎病では42%, チフスでは14-63%.

感染症による比較的徐脈の原因一覧

非感染症による比較的徐脈の報告は
・リンパ腫
 薬剤熱
 人為的な発熱
 副腎不全
 周期性好中球減少症で報告あり
・薬剤熱は148例中11例で比較的徐脈を認めた報告もある
 さらに発熱の比較症状がない, 消耗症状がないことも薬剤熱を示唆する所見
(Ann Intern Med. 1987 May;106(5):728-33.)

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不明熱患者で比較的徐脈を伴うことがたまにあります.
新しいReviewがでていたので、メモがてら.

2019年2月18日月曜日

敗血症性ショックにおける蘇生の指標: 末梢循環 vs 乳酸

(JAMA. doi:10.1001/jama.2019.0071 
Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial )
ANDROMEDA-SHOCK trial: 敗血症性ショック424例を対象としたRCT.
・敗血症性ショックは感染症(疑い含む)Lac ≥2.0mmol/L, 補液20mL/kg60分で投与した後にもMAP≥65mHgを保つために昇圧薬を必要とする症例で定義.
 出血+症例や重症ARDS症例, DNAR症例は除外

・上記を満たす患者を末梢循環目標群と乳酸目標群に割り付け, 8時間蘇生を行ない, 28日予後を比較した.

末梢循環目標群ではCRTを評価
・CRTは右示指末端の腹側で, スライドグラスを用いて10秒間, 皮膚が白くなる状態で圧迫し, 元の皮膚色に戻るまでの時間を機器を用いて計測. >3秒を異常と定義する.
・CRT30分毎に計測し, フォローする. 正常化すれば以後は1h.
この群では正常化させることが目標とする.

乳酸目標群では, 2時間毎に乳酸値をフォロー.
この群では正常化もしくは2時間で20%低下することを目標とする

初療後の蘇生のフロー
1st step: 補液反応性の評価
 500mLの外液を30分で投与し, 反応があれば目標達成まで繰り返す
 CVPが設定した上限を超えるか, 反応がないと判断されれば不応と判断
 判断がつかない場合は輸液投与をCVP上限を超えるか, 目標達成まで継続する.
・2nd step: 慢性高血圧がある場合で1st stepで不応性だった場合
 ノルアドレナリンをMAP 80-85mmHgを維持する程度に増量し, CRTLac1-2hフォローする.
 反応があればその後はMAP目標値を80-85mmHgで管理
 反応がなければ元の量, MAP目標値に戻す.
・3rd step: Inodilator試験
 低用量のドブタミンやミルリノンを開始し, 1-2hフォローする
 反応があれば継続, なければ中止.
他の管理・感染コントロールはSSCGに則り行う

母集団

アウトカム
・プロトコールのアドヒアランス不良は末梢循環群で13.7%, 乳酸群で10.8%

・28日死亡や90日死亡リスクは両者で有意差なし.
・72h後のSOFAスコアは有意に末梢循環目標群で低い
・入院期間やICU管理期間は有意差なし

8h時点での補液量は末梢循環目標群でやや少ない(1本ほど)
透析やIntraabdominal hypertension, In-outバランス院内死亡リスクも有意差なし

サブ解析
APACHE II<25, SOFA<10といった比較的軽症例では末梢循環目標群の方が予後がよい可能性がある

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個人的に敗血症や重症管理ではCRTやMottlingといった末梢循環所見をバイタルサインと同じように頻回に, よくフォローし, 活用しています.
たまにその内容で講演もしてました(最近依頼がないのでしてません)

この本はそれら所見を重要視して診療することを基本に解説しています

内科病棟・ER トラブルシューティング


この論文は末梢循環所見は乳酸値フォローとほぼ同じ精度で病態を把握できるということを示してくれています. こういう研究は素晴らしい. ちょっと興奮.

2019年2月15日金曜日

RCVSを示唆する所見, 情報: RCVS2スコア

RCVS: Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome
・雷鳴頭痛を呈する疾患の1つで, 局所的な脳血管収縮を来し, 急性, 突発性の頭痛を生じる.
・血管収縮は通常数週間かけて改善する(3mo以内)
・特発性と二次性があり, 二次性では出産や薬剤が主.
周産期

薬剤性Cannabis, Cocaine, Ecstasy, Amphetamine, LAD) 
アルコール摂取,
SSRI
 
Ergotamine, Methergine, Bromocriptine, Pseudoephedrine, Ephedrine
 
Tacrolimus, Cyclophosphamide, Erythropoietin, IVIG, RBC, IFN-α,
 
Nicotine
パッチ甘草 (Neurology 2010;75:1939-41)
褐色細胞腫気管支カルチノイド

Ca血症ポルフィリア頭部外傷脊椎硬膜下血腫頸動脈内膜切除後脳外科手術後
(Neurology® Clinical Practice 2011;76 (Suppl 2):S31–S36)

薬剤性RCVSの原因, 他の原因となりうるもののまとめ
(Lancet Neurol 2012; 11: 906–17)

Emergency headache clinicでのRCVSの頻度は0.26%[0.21-0.31](@Paris)
・女性例が43/67(62.7%), 平均年齢は42[19-70]yr.
・Primary37%, Secondary63%.
 Secondaryでは出産後, 硬膜外麻酔血管作動薬(Cannabis, SSRI, 経鼻Decongestant, Nicotineパッチ)
症状は重度の頭痛のみが51(76%).
 24(16)で神経局所症状を伴い, 16%<4hrの短時間, 7%>24hr持続.
 痙攣は3%(2)で認められた.
 視覚症状が最も多く, 他には片側性の感覚障害, 失語, 片麻痺があ
(Brain (2007), 130, 3091-3101)
(Stroke 2010;41:2505-11)

RCVSの頭痛
・雷鳴頭痛を複数回認めた例が94%. 
 平均4.5[2-18], 頭痛の期間は7.4d(5.6), 1回のみが4.5%.
頭痛は通常10秒以内にピークに達する急速な頭痛.
 持続期間は5分~36hr, 平均5時間.
頭痛のTrigger; 79%がトリガーを自覚しており性行為29%, 排便21%, 急な感情の変化19%, 身体運動16%, 排尿行為11%, 咳嗽11%, 鼻すすり11%, 入浴10%, 急な頭部の運動9%.
頭痛はほぼ全例で両側性.
嘔気(57%), 嘔吐(38%), Agitation(32%), 羞明(30%)を伴う.
Strokeの合併もあり
 脳梗塞は2, 脳出血は5例で合併. 極軽度な円蓋部SAH15.
(Brain (2007), 130, 3091-3101)

症状, 画像所見の各Cohortのまとめ

 (Lancet Neurol 2012; 11: 906–17)

診断基準
(Neurology® 2015;84:1552–1558 )

RCVS診断スコア: RCVS2 score
(Neurology® 2019;92:e639-e647.)
・2013-2017年に新規診断したRCVS 30例とRCVSの動脈疾患(arteriopathy)80例の臨床経過・所見・画像所見を比較.
スコアは他のCohort, RCVSに類似した症状を呈するPrimary angiitis of the CNS(PACNS)症例においてValidationを行なった.
 (PANCSは頭痛, 脳卒中, 血管異常を呈し, RCVSと類似した症候となる)

RCVSの動脈疾患の内訳は,
 PACNS 13, もやもや病 24, 頭蓋内動脈硬化 29放射線性動脈疾患 4
 続発性血管炎 10(SLE, ヘルペス, PAN, Sjogren, HIV, Hodgkinリンパ腫)

RCVS2スコア

・雷鳴頭痛, 頭蓋内血管異常, 誘発因子, 性別SAH合併の有無が有用.

・5点以上ならば感度90%, 特異度99%RCVSを示唆する.
・PANCSとの鑑別は5点以上で感度86%, 特異度83%

疾患群におけるRCVS2スコアの分布

PACNSや血管炎では5点を超えることはない
RCVSと言うならば5点以上を
 否定するならば2点以下
 3-4点はグレー.

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雷鳴頭痛の鑑別の1つとなる疾患.
診断スコアについては雷鳴頭痛患者での評価ではない点に注意が必要. 主に血管炎疑いや血管異常所見を見た際の鑑別で使用する.
救急で応用できるかと言うとなかなか難しいかもしれないけども, RCVSの傾向として押さえておくと良いと思う.