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2019年1月20日日曜日

症例 40台男性, インフルエンザ後の低酸素血症

DM既往のある40歳台男性.
1週間前にインフルエンザを診断され, タミフルを処方された.
2日前より咳嗽, 喀痰, 呼吸苦が増悪し救急受診

来院時
BT 38.2度, BP 110/50mmHg, HR 100bpm, RR 28 SpO2 87%(RA)
呼吸音は両側で湿性ラ音〜一部Fine crackleを聴取.

胸部XPでは両側に斑状陰影を認めたため, 胸部CTを評価.

胸部CT(画像は症例報告より流用. 実際類似した所見)

・両側性の多発性の斑状陰影で, 一部空洞性病変を伴う.
・縦隔LN腫大は目立たず.

想定する肺炎の原因は。。。?














インフルエンザ後の市中S aureus肺炎
・喀痰グラム染色より多数のGPC clusterが確認され, MSSAと判明
・治療は喀痰Gram染色確認後, CTRXを開始し, 喀痰中の細菌の消失を早期に確認. その後継続し, 治癒.


インフルエンザの細菌感染症の合併
インフルエンザ感染症では細菌感染のリスクも上昇する
炎症に伴う粘膜障害で細菌の常在が増加. 感染リスクも上昇
・特に感染後数日〜1週間程度でリスクが上昇する
(Lancet Respir Med 2014; 2: 750–63)

機序のモデル
(JAMA. 2013;309(3):275-282 )

インフルエンザでICU管理した患者のうち細菌感染が合併していたのは18-34%.
致命的な症例では55%で細菌感染が合併していた報告もある
・健常若年者のインフルエンザ症例では0.5%, 併存症がある高齢者では2.5%で細菌感染が合併する報告もある
(JAMA. 2013;309(3):275-282 )
細菌感染の病原体は
S aureus, S pneumonia, Streptococcus pyogenes
・Pseudomonas spp, Hemophilus influenza 

2003-2004年にインフルエンザと診断された小児, 成人症例の解析

・細菌感染合併は1.6-2.0%
 このうちS aureus肺炎球菌の割合が多い
(Clinical Infectious Diseases 2005;40:1693–6 )

2009年のH1N1インフルエンザ流行期における同ウイルス感染症例4491例の解析
・入院例の1.1%で気道細菌感染を合併.
肺炎球菌が32%, S aureus26%, H influenzae18%と多い細菌
 S aureus 13例中MRSA2例のみ
(Intern Med J. 2012 Jul;42(7):755-60.)

インフルエンザで入院加療となった1345例をProspectiveに評価.

・36.4%が肺炎を合併. 起因菌で最も多いのは肺炎球菌.
(CHEST 2016; 149(2):526-534)

リスク因子は
・65歳以上の高齢者, 5歳未満の小児, BMI≥40, 妊婦
 慢性肺疾患や心血管疾患, 腎疾患, 肝疾患, 神経, 内分泌などの併存症
 免疫不全患者
・鼻咽頭の肺炎球菌やMRSAColonizationもリスクとなる
(JAMA. 2013;309(3):275-282 )

細菌感染合併にてICU管理となったインフル患者の解析ではインフルエンザ発症~入院まで5.2±4.9
・24時間の無症状期間を加味するとインフル患者における細菌感染合併のタイミングは感染後6.2[範囲1.3-11.1]
・ICU管理となったインフルエンザ症例において細菌感染合併群と非合併群では咳嗽や発熱, 筋肉痛は両群で有意差なし

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インフルエンザ感染症では頻度は様々(主に低い)だが, 細菌感染症の合併がある.
高齢者や併存症が多い患者ではリスクとなる.
細菌で多いのは肺炎球菌とブドウ球菌. 
 経験的には肺炎球菌が毎年多い印象があるが, この症例のようにブ菌も忘れてはいけない病原体.

市中MRSA肺炎の画像所見
15例の市中MRSA肺炎症例の解析(CHEST 2010; 138(1):130–136 )
・このうち1例のみ, インフルエンザウイルス感染後の発症.
画像所見は
 多発性の所見が4/12, CTでのみ認める空洞性病変が7/12と多い

市中MRSA肺炎 9例の画像所見(J Thorac Imaging 2008;23:13–19)
・診断は画像にて浸潤影を認め喀痰, 胸水よりMRSAが検出され, さらに呼吸器症状を伴う例で定義
・分布は斑状, 非区域性の分布が多く, 両側性病変が多い.
 小葉中心性陰影は4/9
 空洞性病変は6/9

市中ブドウ球菌肺炎(報告は主に市中MRSA肺炎であるが)の画像所見としては
びまん性・多発性の斑状陰影, 空洞性病変を伴う例が多い.
画像からもこの症例は典型的と言えそう.

画像の例
(J Thorac Imaging 2008;23:13–19 )(Am. J. Trop. Med. Hyg., 93(5), 2015, pp. 1055–1057)