60台の男性, 3日前からの発熱, 全身倦怠感を認め, 来院当日意識障害を呈し搬送された.
来院時BT 38.5度, BP 136/70mmHg, HR 112bpm, 不整, RR 28回, SpO2 94%
意識レベル E1V1M4.
身体所見では眼瞼に点状出血+ 四肢に塞栓症状はない
心雑音なし。呼吸音正常。腹部, 四肢に異常所見なし
経胸壁心エコーでは明らかな疣贅なし. 弁逆流所見なし.
頭部CTでは後頭葉に軽度の脳出血あり.
胸腹部CTでは肝臓のごく一部に門脈内ガス, 腎動脈内に一部ガス+
また, 以下の写真のような画像が得られた.
血液培養からはグラム陽性レンサ球菌が採取後数時間で検出.
(Innovations (Phila). 2017 Jul/Aug;12(4):e3-e5.)
既往歴を聴取すると,
4週間前に慢性心房細動に対してアブレーションを施行.
他, 高血圧, 脂質代謝異常症の既往あり.
さて, この疾患はなにか?
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アブレーション後の心房食道瘻(Atrioesophageal fistula: AEF)
心房細動に対するアブレーション後の合併症頻度は以下の通り;
日本国内のアブレーション施行例 10795例の解析:
・最も多いのは心タンポナーデ, 穿刺部の血腫
・他には処置に伴う空気塞栓, 心外膜炎, 動静脈瘻など.
・AEFは2例のみと非常に希.
アブレーション後の心房食道瘻(Atrioesophageal fistula: AEF)とは?
(Circulation. 2017;136:1247–1255.)(Innovations (Phila). 2017 Jul/Aug;12(4):e3-e5.)
アブレーション後のAEFは非常に希な合併症で, 頻度は<0.1-0.25%. また致死率も高い(40-80%)
・症例報告でもまだ数える程度のみ.
・アブレーション後数週間経過し, 発熱や脳梗塞(空気塞栓), 他臓器の空気塞栓, 敗血症, 吐血で受診する.
・口腔内常在菌の菌血症を呈する例もあり.
AEF形成前に食道潰瘍が先に生じることがわかっている.
(Circulation. 2017;136:1247–1255.)
・進行すると瘻孔を形成する.
・AEFに至らずとも, 食道-心外膜瘻, 食道穿孔のみもある.
・アブレーション~発症までは19.3±12.6日, 範囲6-59日
・また, 瘻孔と呼ぶものの, 交通は食道→心房の一方通行であることが多い.
機序は,
熱損傷やそれによる血管傷害, 虚血
神経損傷によるGERD, 食道蠕動の障害などが考えられている.
参考: 食道と心房の位置関係
アブレーション後のAEF症例のReview.
(Innovations (Phila). 2017 Jul/Aug;12(4):e3-e5.)
・術後~発症まで3-4週間程度とやや時間をあけて発症する
・症状は発熱, 神経症状, 吐血, 意識障害, 胸痛など.
AEFを疑うきっかけ, 状況は,
アブレーション後数日~数週経過し, 原因がよくわからない発熱や全身症状, 胸痛が出現した場合は食道潰瘍やAEFを考慮し, 経口造影, 経静脈造影を使用したCT検査を行うことが推奨される.
アブレーション後数週間経過して出現する炎症や発熱, 非特異的な全身症状で発症することが多く, アブレーションを施行した病院を受診せず, 開業医や総合病院の内科, 救急病院を受診する可能性があるため, この病態は頭の片隅に置いておきたい.
「1-2ヶ月以内にアブレーション既往がある人の発熱, 非特異的症状」というのを一つのキーワードとして押さえておくと良いかもしれない.