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2018年8月31日金曜日

ANCA関連血管炎に対するリツキシマブ MAINRITSANとMAINRITSAN2

ANCA関連血管炎に対してリツキシマブが使用されるようになり数年.

この分野で押さえておきたいStudyは, 寛解導入効果をシクロホスファミドと比較したRAVE-ITNとその続編
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2013/11/anca.html
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/06/ancapr3-anca.html

そして寛解維持治療として押さえておきたいのがアザチオプリンと比較したMAINRITSAN trial.

今回そのMAINRITSAN60ヶ月フォローの結果と,さらにリツキシマブの投与方法で比較したMAINRITSAN2が発表されたので紹介.

MAINRITSAN trial.
新規, 再燃性GPA, MPA, 腎限局型ANCA関連血管炎患者でCyclophosphamide+PSLで寛解を達成した115例を対象(GPA 87, MPA 23, 5)
(N Engl J Med 2014;371:1771-80.)
・Rituximab 500mgDay 0, 14, 6ヶ月, 12ヶ月, 18ヶ月に投与する群とAzathioprineを使用する群に割り付け, 22ヶ月継続.
アウトカムは28ヶ月時点での再燃率.
・Azathioprine2mg/kg 12ヶ月, 1.5mg/kg 6ヶ月, その後1mg/kgへ減量

アウトカム:
再発率はAZA群で29%, Rituximab群で5%と有意にRituximabで良好.

さらに, MAINRITSAN trial60ヶ月フォローでもRTX群の方がより寛解維持生命予後が良い(Ann Rheum Dis 2018;77:1151–1157. )
AZA vs RTXの比較において, 60ヶ月における
Major relapse-free survival 49.4%[38.0-64.3] vs 71.9%[61.2-84.6], p=0.003
・Minor, major relapse-free survival 37.2%[26.5-52.2] vs 57.9[46.4-72.2]
・Overall survival 93.0[86.7-99.9] vs 100


維持療法において, RTXを固定で使用するか, 患者毎に調節して使用するかを比較したRCT
MAINRITSAN2 trial: 初発, 再発性のGPA, MPAで寛解導入された症例を対象としたopen-label RCT.
(Ann Rheum Dis 2018;77:1144–1150. )
・患者毎に投与を決める群と, 固定投与群に割り付け, 経過をフォロー
・患者毎の投与群では, 初回に500mgを投与したのちは, CD19+ B細胞もしくはANCAが陽性化した際またはANCAが著しく上昇した場合に500mgを追加投与する.
 ANCACD19+ B細胞は3ヶ月毎にフォローし, 陰性化したANCAが陽性となった場合や, 2倍以上の増加を認めた場合, CD19+ B細胞>0/mm3を有意ととる. このレジメを18ヶ月継続
・固定投与群では, MAINRITSANと同様, 500mgDay 0, 14, 6M, 12M, 18Mに投与する.
・アウトカムは28ヶ月における再燃

患者背景
・寛解導入はCYC,RTX,MTXなど

アウトカム
・28ヶ月の時点で, 再燃を認めたのが17.3% vs 9.9%, p=0.22
 Relapse-free survival83.8%[76.1-92.3] vs 86.4%[79.2-94.2], p=0.58
 major relapse7.4% vs 3.7%, p=0.23
・GC投与量と期間は有意差なし
 総量 4915±2613mg vs 4850±2444mg
 期間 25.3M[23.9-26.6] vs 24.5M[22.8-36.3]
・RTX投与回数
 3[2-4] vs 5[5-5]と有意に低下.
 患者毎の調節群での投与回数の分布は1(4.9%), 2(28.4%), 3(37%), 4(18.5%), 5(7.4%), 6(2.5%), 7(1.2%)
 投与間隔は6.1M[3.1-9.2]

合併症

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寛解維持はRTXAZAに勝り長期的にもそれは持続.
またRTXは固定で行うよりも患者毎で投与を決める方が有意に回数は少なく済む

2018年8月29日水曜日

アルコール離脱症を予測する因子

JAMAのRational Clinical Examinationシリーズより
"Will This Hospitalized Patient Develop Severe Alcohol Withdrawal Syndrome?"
(JAMA. 2018;320(8):825-833. )

入院患者における重症のアルコール離脱発症を予測する因子をHigh-quality14 studies, N=71295(SAWS 1051, 痙攣 53, 振戦せん妄 251)Meta-analysisで評価
患者背景より
・精神疾患既往やアルコール離脱症の既往があるとリスクは上昇する

所見, 検査結果, 組み合わせからの評価
・血中エタノール濃度, BUN上昇, 血小板減少はリスク. ただし評価能は低い
・Studyは少ないが, PAWSS, LARS-10はリスク評価に有用.

補足; LARS-10, PAWSS, AWRS
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この患者では予防をどうするか、という判断は迷うことも多く, これら所見が参考となる.

2018年8月24日金曜日

症例: 繰り返す原因不明の貧血

80歳男性倦怠感を主訴に受診.
 顔面蒼白労作時呼吸苦を認め血液検査を施行するとHb 7.2g/dL, MCV 86flと貧血が認められた他血球は異常認めず
 食事量内容からは栄養障害リスクは低く明らかな黒色便や黒色吐物は無しフェリチンは20台と低値網赤血球は5万はあり.

 過去病歴を探ると普段のHb10g/dL程度とやや低い. 3年ほど前より年2回程度、Hb 4-6g/dL台まで低下し入院輸血緊急内視鏡を施行されている
 内視鏡では毎回明らかな出血源は認められない.
 便潜血は陽性のことが多い.

 既往歴高血圧弁膜症狭心症
 内服クロピドグレルアムロジピンアーチストなど.

 皮膚や粘膜の出血所見は認められず血腫を示唆する腫脹もなし.
 心雑音は心尖部〜頸部に放散する収縮期雑音を強く聴取.

 心エコーでは重症ASあり. PG 平均48mmHg, Max 78mmHg  壁運動問題なし.

ここまで提示すれば貧血の原因はある程度推測がつくと思いますが(実症例ではついてませんでしたが), 何でしょうか?























重症ASに伴う後天性von Willebrand Syndrome type 2A(wWS-2A),
それに伴う再発性消化管出血鉄欠乏性貧血
= Heyde症候群


Heyde症候群
(Age and Ageing 2009; 38: 267–270 )(Aortic stenosis and anemia with an update on approaches to managing angiodysplasia in 2018. Cardiology Journal)

1958年にEdward HeydeASと重症消化管出血の10例を報告しASに伴う消化管出血と鉄欠乏性貧血をHeyde症候群と呼称された
後にASは消化管出血リスクを3倍に上昇させる報告もあり
・現在はHeyde症候群はASによる後天性の凝固障害(von Willebrand syndrome type 2A), 腸管の血管異形成からの出血, 特発性出血による貧血で定義される.
・vWS-2AvWFHigh-molecular-weight(HMW) multimerの低下による凝固障害で, 消化管粘膜下の血管異形成による消化管出血を呈することが多い.
400例のTAVIを施行した患者のうち, 9.2%で消化管出血既往ありさらに1.7%(7)で血管異形成が証明された.
・治療はTAVIや弁置換により改善する例が多い.

ASと腸管の血管異形成
・腸管の血管異形成はどの部位に生じても良いが最も多いのは上行結腸, 特に盲腸で多い.
・1938例のCF施行例のうち, 血管異形成は3%で認めた. 80%が無症候性
 盲腸が37%, 大腸が18%
・AS自体が血管異形成のリスクとなるかどうかは報告により様々.
重症ASが繰り返す消化管出血に関連する報告はある(OR 3.0-6.4)
 特に石灰化を伴うASでリスクが高い.
・ASによる低酸素やコレステロール血栓により異形成が形成される理論もあり

ASと凝固障害
・重症ASにおけるShear stressにより凝固因子が消費され特にvWFが低下することで凝固障害を呈する.
・vWF multimerの高分子(HMW)が破壊される.
・PG50mmHgを超えると凝固障害のリスクとなると言われている.
・ASで弁置換を施行された50例の解析では重症AS21%が皮膚粘膜の出血症状, 67-92%で血液異常が認められた.
これら異常はASの重症度と相関していた.

(CMAJ. 2016 Feb 2;188(2):135-8.)

ASを含む後天性のvon Willebrand syndromeのリスクとなる因子

Heyde症候群の診断
・AS患者におけるIDAではHeyde症候群の可能性を想起する.
 当然悪性腫瘍や栄養障害の可能性は最初に考慮すべき.
上下部内視鏡検査にて明らかな出血源が認められない場合や上行結腸, S状結腸などに血管異形成を認める場合はHeyde症候群の可能性をさらに上げる
・機械弁置換を考慮する場合, 術後に抗凝固療法の継続が必要となるためよりHeyde症候群には気を使うべき.

vWS-2Aの診断ではvWFGel electrophoresisが重要.
・vWS-2AvWF multimerの消失が認められる.
検査の感度は以下の順で良好:
 gel electrophoresis, PFA-100 closure time, 皮膚出血時間, vWF restocetin cofactor activity, vWF antigen level.

vWFに関連する検査
・国内で可能なのはvWF活性(Ristocerin cofactor:RCo), wWF multimers, wWF Ag(自費検査)
 以下の図の赤線
CMAJ. 2016 Feb 2;188(2):135-8. 

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知っている人は知っているものの知らなかったら結構見落とす可能性がある病気.
ASと消化管出血、貧血で想起できるようにしておくと良いと思います