70台女性, 主訴: 言葉で言い表せない感じ
高血圧に対して降圧薬を使用している程度の背景の女性.
特に今まで問題なく生活していた.
3ヶ月ほど前より, 「言葉で言い表せないような感覚」を自覚. 最初は発作的に30分程度あり, それを繰り返していた. 強いて言うならばイライラ、モヤモヤ、不安などと言った症状. 動悸や冷や汗もあったとのこと.
症状の頻度は増加し, 常に変な感覚が付きまとい, たまに強く不安になる. よっとした音や光が過敏に感じ, イライラ, ムカムカするためにテレビも見ない. 食事も食べたくないなど症状が増悪した.
他病院を受診し, 血液検査など一通り評価したが異常なし(甲状腺機能含む). 精神疾患が疑われ, 精神科がある病院を受診せよとのことで当院へ(精神科外来ありませんが・・・). そして内科へ.
下痢はなく, むしろ便秘気味. 嘔気, 食欲低下あり.
既往:高血圧, 内服:アムロジピン
診察時はやや興奮気味ではあるが, 意識晴明. 見当識障害もなし. BP 130/60, HR 105bpm, reg. RR 22, SpO2 99%, BT 36.2度
頭頸部に問題なし. 心音は雑音や過剰心音なし. 頻脈. 他胸腹部に異常所見なし. 四肢の筋緊張は強く, なかなか脱力してくれない. 促すと可能.
DTRは減弱亢進なし. 左右差なし. 神経障害も明らかな異常なし.
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新規発症の精神症状であり, 精神科紹介前にやはり二次性の評価は必要
便秘症状や食欲低下などもあり, 甲状腺機能は前医にて正常範囲との報告.そこで基本的な血液検査を再度評価.
便秘症状や食欲低下などもあり, 甲状腺機能は前医にて正常範囲との報告.そこで基本的な血液検査を再度評価.
>>血清Ca 11.6mg/dLと高Ca血症あり.
ということで高Ca血症に伴う精神症の可能性を考慮. 補正をしつつ原因精査を開始した.
高Ca血症では消化管症状とともに精神症状も有名.どのような症状があるのか?
高Ca血症による精神症状
(Am J Psychiatry. 2017 Jul 1;174(7):620-622.)
・機序は不明確であるが, Caが中枢神経のMonoamine代謝に関わることが関連していると考えられている.
・長期間の高Ca血症により生じるが, 高Ca血症の重症度と精神症状は相関するとは限らない.
著明な高Ca血症は昏睡となるが, 10-14mg/dLでは抑うつ症状~イライラまで様々.
PHPT(原発性副甲状腺機能亢進症)において, 軽症の高Ca血症があり, 精神症状のみ認められる症例報告もある
(Am J Psychiatry. 2017 Jul 1;174(7):620-622.)
・PHPTに対して副甲状腺切除を行なった患者群の解析では,
不安症状が43.1-53.0%
抑うつ症状が33.0-62.1%, 自殺念慮が22%
易怒症状が51.9%
幻覚, 妄想が5-20%
認知障害が37.3-46.5%
・特に高齢者では見落とされやすい
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・高Ca血症による精神症状には抑うつ症状や無為など陰性症状〜興奮, 妄想幻覚, イライラなど陽性症状まで様々な精神症状呈する.
・精神症状は軽度の高Ca血症でも生じえる. 昏睡までいくのは>14mg/dLの高度上昇例で多い
・急性~亜急性経過の精神症状, 認知機能低下では高Ca血症に伴うものの可能性も考慮する.(Psychosomatics 2002; 43:413–417)