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2018年3月14日水曜日

甲状腺機能亢進症と慢性筋症

数年の経過の下腿筋のこむら返りで受診.
診察すると, 肩, 上腕, 大腿の筋萎縮が目立つ. 他症状は認めない.
 一般採血でも電解質, CPKに異常なし. 甲状腺機能評価でHyperthyroid(+). エコーで甲状腺のびまん性腫大(+)よりおそらくバセドウ病. という症例.

Reviewより, 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状, 所見頻度
(JAMA. 2015;314(23):2544-2554.)

と, 筋症状は含まれていない.
しかしながら, 実際筋症状を呈する患者は少なく無いイメージがある.

色々論文を調べると, かなり古い報告が多い.

甲状腺機能亢進症による筋症
・甲状腺機能亢進症に伴う筋症は急性経過と慢性経過の2通りあり.
 急性経過では周期性四肢麻痺やMGがある.
 慢性経過では筋萎縮, 脱力が主. 特に近位筋が障害を受けやすい.

44例の甲状腺機能亢進症患者における評価では,
(Journal of the Neurological Sciences 1979;42:441-451)
・68%(33)で臨床的な筋症所見(脱力, 筋萎縮)が認められた.
筋症所見は1例を除き近位筋の障害であった.
多い部位は棘上筋, 三角筋, 三頭筋が多く, 次いで股関節屈筋群
 肩周りの筋の萎縮が主となる

・筋収縮や筋線維束性攣縮が12% 母指や上腕で多い.
・Muscle cramp10% 下腿で多く, 筋力低下に伴う.
他に仮性球麻痺や眼筋麻痺もあり

1895-1962年に報告された甲状腺機能亢進症に伴う著明な筋萎縮症例 73例のReview
(Postgrad med J 1968;44:385-397)
・平均年齢は47.7, 男性は20-69, 女性11-70. 性差は無し
・甲状腺機能亢進症の病歴は男性で11.3ヶ月, 女性で25.3ヶ月
 筋症状の病歴は男性で11.1ヶ月, 女性で22.5ヶ月
近位筋のみの障害が49.3
 近位筋+遠位筋の障害は34.3%
 残りの16.4%は全身性(球麻痺を含む)
23%は筋症状を主訴に受診. 筋力低下が主な症状となる
Muscle crampや筋痛を主訴とすることは少ないが報告はあり
・球麻痺症状では嗄声や構音障害, 嚥下障害

この報告と他の甲状腺機能亢進症症例における筋症状の頻度.

・特に筋症状の有無に限定していない報告でも6-8割で脱力, 筋力低下が認められる
・脱力を主訴として受診するのは数%と少ない.

筋電図を評価した報告
・筋電図で評価した場合, かなり高頻度で筋症を伴う

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・バセドウ病では近位筋の障害は高頻度で認められる.
 ただし, 主訴として筋症状を訴えることが少なく, 意識して評価していないと見落としている可能性がある.
・しっかりと診察する場合は6割程度で筋力低下や萎縮が認められる. 部位は上肢近位部. 肩周りが多いと覚える. 
・筋電図を用いるとさらに高頻度.