ページ

2019年12月2日月曜日

キノコ中毒 + シイタケ皮膚炎

キノコによる中毒症は自然毒中毒症で最も多い.
日本国内の平成元年〜22年に報告された自然毒の中毒症頻度
(食衛誌 2012;53(2):105-120)

全国どこでもあり, 家庭内での中毒が多い
(食衛誌 2012;53(2):105-120)

中毒キノコの種類と件数

キノコ中毒による死亡例

ドクツルタケ, シロタマゴテングタケ, タマゴタケモドキ, タマゴテングタケの毒成分はアマニタトキシンであり, 死亡例の大部分はAmatoxinが関連している

------------
キノコ中毒にはどのような症状パターンがあるのか?

28018例のキノコ中毒症例より摂取~発症までの時間と症状から中毒症状パターンを分類
(Crit Care Med 2005; 33:427–436)
・全部で14パターンあることが判明
 早期発症(<6h)8タイプ
 晩期発症(6-24h)3タイプ
 遅発(1d)3タイプ

早期発症タイプ: 摂取後6時間以内に症状が出現(主に消化管症状)
症状タイプ

原因キノコ

神経障害
コリン作働性
ヤブシメジ(Clitocybe spp.)
アセタケ類(Inocybe spp.)
ムスカリンを多く含み, 末梢のコリン症状を呈する. 中枢移行はない. 唾液や流涙, 排尿の増加, 下痢, 嘔吐, 縮瞳, 気管分泌物の増加を認める. 対症療法で数時間で改善.

グルタミン作働性
ベニテングダケ(Amanita muscaria)
テングダケ(Amanita pantherina)

含まれるイボテン酸が中枢のグルタミン受容体を刺激し, 過敏や興奮, ミオクローヌス, 痙攣を生じる(小児で多い)
ムシモールはGABA受容体を刺激し. ふらつきや傾眠, せん妄, ジストニア, 幻覚を呈する(成人で多い)

てんかん誘発性
シャグマアミガサタケ属(Gyromitra spp.)
摂取後4-6hで消化管症状と頭痛, 脱力を認める
神経症状では失調, 倦怠感, 眼振, 振戦, めまいがある. てんかん発作まで至るのは稀. 肝障害も認める

幻覚誘発性
シビレタケ属(Psilocybe spp.)
サイロシビンによるLSD様の幻覚症状を呈する.
失調, 幻覚, 過活動
アレルギー性
免疫溶血性
ヒダハタケ(Paxillus involutus)
摂取後30-3時間で消化管症状を呈し, その後免疫複合体による溶血, 腎障害を呈する.

肺臓炎
ホコリタケ(Lycoperdon spp.)
胞子の吸入によるアレルギー性の肺臓炎を呈する
摂取後早期に消化管症状. その後数日の経過で過敏性肺炎
消化管障害
ジスルフィラム反応
ヒトヨタケ(Coprinus atramentarius)

その他
消化管症状のみ
ヤマドリタケ(Boletus spp)
オオシロカラカサタケ(Chlorophyllum spp.)
ハルシメジ(Entoloma spp.)


晩期発症タイプ: 摂取後6-24時間で症状が出現するタイプ
症状タイプ

原因キノコ

肝障害
Amatoxin
テングタケ(Amanita)
ケコガサタケ属(Galerina spp.)
キツネノカラカサ属(Lepiota spp.)
Cyclopeptideによる中毒. Amatoxin, phallotoxin, virotoxinを含む
三相性の経過で, 摂取後6-24hで非特異的な消化管症状. 18-36hで一過性の改善を認め, 2-6日で急性肝不全を呈する.
キノコ毒で最も致死率が高い. 劇症肝炎となり肝移植を考慮することもある
腎障害

Amanita proxima
Amanita smithiana
(
テングタケ類)
上記経過に腎不全も合併し, 透析を必要とする場合もある
肝障害よりも腎不全を主とする症例も報告されている
四端紅痛症

Clitocybe acromelalga
Clitocybe amoenolens
(
ヤブシメジ類)
キノコ毒による四端紅痛症がある. 摂取後1日以降で出現し, 8日〜5ヶ月で徐々に改善
日本からもヤブシメジ摂取後3日で四端紅痛症を発症した報告あり(Clitocybe acromelalga)
・致死率の高いAmatoxinは晩期発症タイプにはいる
・四端紅痛症もキノコ毒でありえる

遅発タイプ: 摂取後1日以降で症状が出現するタイプ
症状タイプ

原因キノコ

腎障害
オレラニン
 フウセンタケ
(Cortinarius spp.)
オレラニンは尿細管間質性腎炎を誘発する
摂取後24-36h(平均3)で消化管症状を呈する
数日〜数週経過(平均8.5)して間質性腎炎を発症し, 晩期では間質の線維化を生じる
大半が腎機能は改善するが, 透析となる例もあり
横紋筋融解症

キシメジ(Tricholama equestre)
ニセクロハツ(Russula subnigricans)
摂取後24-72hで横紋筋融解症や筋痛, 筋脱力を認める. 近位筋での障害が多い
神経障害

タマチョレイタケ
(Hapalopilus nidulans)
摂取後24時間以上経過して視力障害, 傾眠, 脱力. 筋緊張の低下を認め, 血液検査では電解質異常や肝障害, 腎障害を認める
・オレラニンによる間質性腎炎や横紋筋融解症がはいる

香港におけるキノコ中毒の解析
2005-2015年に中毒センターに報告された中毒症例
(Hong Kong Med J 2016;22:124–30 )

・67例報告され, 60(90%)は消化管症状, 嘔吐, 下痢, 腹痛
・このうち53例は摂取後6時間未満の早期発症で, 対症療法で改善
・7例は6時間以降での晩期発症タイプで, 重症の経過をたどった.
・重症経過ではAmatoxinが関連.

・晩期発症タイプの大半がAmatoxin関連
 死亡や肝移植例, ICU症例も晩期発症で多い

香港におけるキノコ中毒症候群のタイプ
・コリン作用, 消化管症状タイプ, 幻覚タイプ, Amatxinタイプの4タイプが主な中毒パターンであった.

(以下2019/12/2 Update)

これまでの分類でカバーできなかったキノコ中毒を大きくGroup 1-6に分類し,
鑑別アルゴリズムを作成した報告
(Toxicon 157 (2019) 53–65)
・分類は大きく,
 Group 1: 細胞毒性. 1-1 肝障害, 1-2 腎障害
 Group 2: 神経毒性
 Group 3: 筋障害
 Group 4: 代謝/内分泌障害
 Group 5: 消化管
 Group 6: 他. シイタケ皮膚炎, 四端紅痛症様, ヒダハタケ症候群, 脳症

それぞれの症状と時間経過

これらの症状や経過からの鑑別アルゴリズム



--------------------

ついでに, シイタケ皮膚炎のReviewより
(Int J Dermatol. 2017 Jun;56(6):610-616.)
シイタケ(Lentinula edodes)の細胞壁を構成するPolysaccharideであるLentinanに対する皮膚反応.
生焼けのシイタケを摂取することで稀に生じる.
・Systematic review(n=50)によると, 平均年齢は44.6[25-86]
線状の鞭で打たれたような皮膚炎(98%)が特徴的

 丘疹や蕁麻疹が80%, 掻痒感を伴うのが78%
 他には点状出血(14%), 紫斑(2%), プラーク(6%)
 焼けるような痛み(2%), Blanching(2%), 膿疱(2%). 
全身症状は発熱(6%), 下痢(4%), 手の感覚低下(2%), Urticarial dermographism (2%), 口腔内, 粘膜潰瘍(4%), 嚥下障害(2%), 結膜炎(2%)

・摂取~発症まで42.4時間(範囲2-120時間)
皮膚生検は非特異的な所見となる
・治療なしで12.5日間[7-28]で自然に改善
 外用ステロイドでは11.2日間[2-35], 
 全身ステロイドでは9.3[7-14]