血管浮腫は血管透過性亢進による浮腫であり, 非圧痕性, 左右非対称性, 非重力依存で一過性の浮腫を呈する.
好発部位は眼周囲や口唇, 舌, 四肢, 腸管など.
・腸管の浮腫では下痢や腹痛, 嘔吐など消化管症状を呈する
・喉頭浮腫では致命的となり得る
(ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2014;21:469–484 )
血管浮腫, またはクインケ浮腫で救急や外来を受診する患者はたまにいる.
その場合しっかりと系統立って鑑別することが重要.
私個人的な診療フローチャートはこんな感じ
・まず多臓器障害や気道狭窄があればアナフィラキシーや気道緊急として対応する.
それがなければ, 血管浮腫の鑑別に入る.
血管浮腫の鑑別では,
①じんま疹の有無, 好酸球増多の有無をチェック.
じんま疹を伴う場合, ヒスタミン関連の血管浮腫と判断する
好酸球増多を伴う場合, 好酸球性血管浮腫を考える
参考:好酸球性血管浮腫
②上記を認めず, また明らかなアレルギーを疑う状況ではない場合, 非ヒスタミン関連性血管浮腫を考慮する. 主にブラジキニンが関連する
ここには薬剤性(ACE阻害薬が主. NSAIDは厳密にはヒスタミン関連性), 遺伝性血管浮腫, 後天性血管浮腫がある. これらが否定的ならば特発性.
両者の浮腫, 症状の比較
(International Journal of Emergency Medicine (2017) 10:15)
経過の比較
・ヒスタミン関連性は出現も早く, 改善も早い
・ACE阻害薬や遺伝性血管浮腫(非ヒスタミン関連)は1日かけて増悪し、数日で改善
それぞれの鑑別疾患
| 
ヒスタミン関連性 (主にじんま疹を伴う) | 
備考 | 
| 
アナフィラキシー反応 | 
皮膚, 粘膜, 消化管, 呼吸器, 循環器(血圧低下), 中枢神経障害(意識障害)など多臓器障害を呈する | 
| 
アレルギー反応 | 
食物, 薬剤, 洗剤, 化粧品などに対するアレルギー反応 
ヒスタミン不耐症 | 
| 
薬剤性 | 
NSAIDやアスピリンで多い じんま疹を伴わないこともあり | 
| 
物理的じんま疹 | 
皮膚描記症, 遅発性圧じんま疹, 振動性じんま疹, 寒冷じんま疹, 温熱じんま疹, 日光じんま疹 | 
| 
他のじんま疹 | 
コリン性じんま疹, 特発性じんま疹 | 
| 
非ヒスタミン関連性 (主にじんま疹を伴わない) | 
備考 | 
| 
遺伝性血管浮腫 | 
発症年齢は2-13歳と若年 家族歴が75%で陽性 | 
| 
薬剤性 | 
ACE阻害薬で多い | 
| 
後天性血管浮腫 | 
MGUSやB細胞リンパ増殖性疾患, リンパ網様体形悪性腫瘍, SLEなどの自己免疫疾患で合併する. | 
| 
好酸球性血管浮腫 | 
繰り返すタイプ(1-2割)と繰り返さないタイプ(8-9割)がある.  じんま疹は1/3から半数程度で認めることがある. | 
| 
特発性血管浮腫 | 
明らかな原因を認めない場合 | 
(Int J Emerg Med. 2017 Dec;10(1):15.) (Acad
Emerg Med. 2014 Apr;21(4):469-84.)( Crit Care Med. 2017 Apr;45(4):725-735. )( Immunol
Allergy Clin North Am. 2014 Feb;34(1):73-88.)を参考に作成
じんま疹(-)の繰り返す血管浮腫 929例の解析
(CMAJ 2006;175(9):1065-70)
・原因の判明した776例
| 原因 | 頻度(%) | 男:女比 | 発症年齢 | 
| 特異的な因子に関連* | 16% | 0.51 | 39[13-76] | 
| 自己免疫疾患/感染症 | 7%(55) | 0.62 | 49[3-78] | 
| ACE阻害薬関連 | 11% | 0.93 | 61[32-84] | 
| C1-inhibitor欠損 | 25%(197) |  |  | 
| 先天性 |  | 0.88 | 8[1-34] | 
| 後天性 |  | 1.8 | 56.5[42-76] | 
| 不明(Idiopathic) | 38% |  |  | 
| Histaminergic |  | 0.56 | 40[7-86] | 
| Nonhistaminergic |  | 1.35 | 36[8-75] | 
| 末梢, びまん性浮腫 | 3% | 0.17 |  | 
*薬剤, 食事, 虫刺され, 環境, 身体刺激
自己免疫性疾患/感染症の内訳
各論
ACE阻害薬による浮腫についてはこちらを参照
遺伝性血管浮腫
(Lancet. 2012 Feb 4;379(9814):474-81. )(Medicine (Baltimore). 1992 Jul;71(4):206-15.)
・C1エステラーゼインヒビター(C1 INH)の異常が主な病態.
 C1 INH自体が低下する1型(85%), 
 C1 INH活性のみ低下する2型(15%).があり.
 またC1 INHと関係のない3型(XII因子遺伝子異常)があるが, 国内からの報告はない.
| 
タイプ | 
頻度 | 
病態 | 
検査所見 | 
| 
I型 | 
85% | 
C1インヒビターの分泌, 活性が低下 | 
C3正常, C4低下 
C1インヒビターは活性, 蛋白量ともに低下 C1qは正常 | 
| 
II型 | 
15% | 
C1インヒビターの活性のみ低下 | 
C3正常, C4低下 
C1インヒビターは活性のみ低下 C1qは正常 | 
| 
III型 | 
国内からの報告例なし | 
C1インヒビターは正常. 女性のみ生じる | 
上記以上は認めない | 
・10歳未満での発症が多く,
20歳までに85%が発症している. 30歳以降での発症は1%程度と稀.
・血管浮腫は精神的,身体的なストレスや月経に付随して生じることが多い. 発作頻度は年1回程度〜月1回以上と様々. 浮腫は24時間程度かけて増悪し,
2-3日かけて消退する経過となる.
・血液検査では発作時にC3正常,
C4低下が認められるが, 補体低下は後天性血管浮腫(SLEや血液腫瘍)でも認められるため注意が必要. C1インヒビター活性の検査は保険適応あるが, C1インヒビターの定量検査は保険適応外となるため注意.
 検査はSRLで受け付けている.
後天性血管浮腫
・40歳以降の発症が多く, 血液悪性腫瘍と自己免疫疾患が原因となる
・血液悪性腫瘍ではMGUSやB細胞リンパ増殖性疾患.
 C1インヒビターの消費が主な病態. また一部でC1インヒビター抗体の産生もある
・自己免疫疾患ではSLEが有名. これもC1インヒビター抗体の産生.
 SLEではじんま疹様の皮膚症状も呈するため注意. また補体も低下する.




