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2017年10月27日金曜日

修正バルサルバ法

バルサルバ法はPSVTに対する治療の一つ.
腹部を圧迫したり, 息こらえをしたりするが, 修正バルサルバ法はさらに効果が高い.

修正バルサルバ法:
・上体を45度程度挙上した姿勢で強制呼気(10mlのシリンジを口側から吹いてもらい, ピストンが動く程度の圧力をかける. 40mmHg程度)を15秒施行.
・その後すぐに仰臥位とし, 下肢を受動的に45度挙上する. 挙上は15秒間継続.

この方法が評価された論文は2015年のLancet.
状態の安定したPSVT 433例を対象とし, 通常のValsalva法 vs 修正群に割り付け, 洞調律復帰率を比較したRCT.
(Lancet. 2015 Oct 31;386(10005):1747-53.)
・洞調律復帰率は通常方法法で17%, 変法で43%と変法で有意に良好. OR 3.7[2.3-5.8]

修正バルサルバ法の追試
単一施設での前向きStudy.
(American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1662–1665 )
・18-65歳のPSVT患者56例を対象としたRCT.
通常のValsalva vs Modified valsalva法に割付け, 比較
・通常のValsalva: 座位の状態で10mlのシリンジを吹いてもらい, ピストンが動く程度の圧力を15秒かける
・修正valsalva: 上記に加えて, 急速に臥位とし, 45度下肢挙上を行う方法
・両群とも3回まで施行し, 
洞調律復帰を評価する
 3回施行しても改善なければ薬剤を使用

アウトカム
洞調律復帰率は 10.7% vs 42.9%Modified valsalva法で有意に良好
・薬剤使用率も低下

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数年前に一斉を風靡?した修正バルサルバ法
その追試が出ましたので紹介します.

どちらも効果は4割ほどあり, 通常のバルサルバは1割程度と効果は良好.
やはり試す価値はありそうだ.

でも10mlシリンジ吹くのって、普通でもきつい.

2017年10月26日木曜日

剣状突起痛: Xiphodynia

40台男性. 数日前からの強い心窩部痛を自覚.
 疼痛は持続痛で、お腹に力をれると増悪. またうつ伏せでも増悪あり、疼痛で眠れない.
 仰臥位ならばなんとか眠ることができる.
 消化器症状なし. 咳嗽もなし. 深吸気で軽度疼痛あり.
 近医にて血液検査、心電図、内視鏡を施行されるが正常. 腹部CTまで行われ異常なし.

診察すると, 心窩部に限局した強い圧痛あり, さらに評価すると剣状突起に一致して圧痛が顕著に認められる結果であった.

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剣状突起痛, Xiphodynia. 
別名 Xiphoid syndrome, Xiphoidalgiaなど

剣状突起の急性, 慢性, 間欠的な頭痛.
・心窩部を圧迫するような行為, 腹臥位で頭痛が増強する.
 疼痛は胸部や背部へ放散することもあり, しばしば診断が難しい.
触診で剣状突起の限局した圧痛を認める.
 腹痛患者では意識して診察する必要がある.
外傷性や軟骨炎, 周囲の筋炎, 肋剣靭帯の炎症などが原因となる
 あきらかな原因を認めないものも多い
・心窩部痛の評価として, 内視鏡など評価され, 異常が認められれず, たらいまわしになれるケースもあり虚血性心疾患を疑われるケースもある.
・一般人口の2%で認められるとされ, 思ったよりも多い病気
(Occupational Medicine 2014;64:64–66)(Intern Med 54: 1563-1566, 2015)(JAMA 2012;307:1746)

剣状突起の解剖
・剣状突起は胸骨と結合する軟骨組織であり, 加齢とともに化骨を生じる.
・腹直筋が付着し, 肋剣靭帯で下位肋骨(第7-8肋骨)と結合している.
・後部では横隔膜が付着.
(Chiropractic & Osteopathy 2007, 15:13)

Xiphodyniaの診断
・診断には剣状突起の触診が重要.
 軽度の圧迫で疼痛の誘発が認められることが重要.
剣状突起の前方への突出がある場合Xiphodyniaとなりやすい可能性がある.
 剣状突起の側面から見たViewで, 前方に突出している場合, 剣状突起痛を認めるリスクが高い報告がある.
 

 Xiphodyniaの3例では, 105度, 135度, 120度
 一方でControl群の60例では172±15度.
( 2010 Oct;77(5):474-6.)

・とは言え, 角度が浅いからといって否定できるものではない.

治療は対症療法が基本
・自然に改善することが多いが改善が乏しい場合はトリガーポイント麻酔も行われる.
難治性では剣状突起切除が有効

2017年10月24日火曜日

気管内挿管時の体位

気管内挿管時の体位はSniffing positionが基本.

挿管時の体位と成功率を比較したMetaでは,
・Sniffing Positionで有意な成功率上昇は認めなかったが単なる頭部後屈と比較して, 喉頭蓋の確認はしやすい結果であった
(American Journal of Emergency Medicine 33 (2015) 1606–1611)

Ramped positionというものもあり, 上体を25度程度挙上したSniffing positionのような体位(B)
肥満患者では換気しやすく, 低酸素リスクも少ないとされる

Ramped position vs Sniffing positionを比較したRCT.
(CHEST 2017; 152(4):712-722 )
・ICUで挿管される260例を対象としSniffing position vs Ramped position群に割付け, 低酸素リスク, 挿管成功率を比較
・挿管は呼吸器, ICUフェローが施行.
 RSIを行い, 挿管.
低酸素は挿管後2分以内の最低SpO2を評価した

母集団
BMI27前後と肥満体型が多い母集団.

アウトカム
最低SpO2両者で有意差なし
・ブジーなどIntroducer使用するのはRamped群で多い

声帯の見え方, 挿管困難率

・Sniffing positionの方が声帯は見やすい.
 挿管困難となることも少ない.
 トライ回数も少なく挿管可能.

BMI別の最低SpO2
・高度肥満だからといって, Ramped positionが低酸素を回避できることはない

患者要素別の両群の最低SpO2の差
・どれも有意差はないものの, 挿管前に長時間低酸素であった症例やMACOCHA 3, 経験がある術者ならばRampedの利点があるかも.

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ICUやERで挿管するならばSniffing positionが基本
Ramped positionは高度低酸素がある患者ではもしかすると挿管時の低酸素リスクを軽減できるかもしれないが, 声帯は見えにくくなり, 挿管はしにくくなる.
その場合は経験のある術者がやるべき

2017年10月18日水曜日

非特異的胸膜炎

滲出性胸水貯留では胸膜炎を考える.
胸水検査, 培養などで精査するが, それでも原因がわからない場合は胸腔鏡検査, 胸膜生検を行う.

胸膜生検において, 胸膜の炎症所見や線維化は非特異的所見で診断に寄与するものではない.
特異的所見は腫瘍性細胞や乾酪性肉芽腫, 血管炎所見など
・このような組織所見しか得られない原因不明の胸膜炎をnonspecific pleuritis/fibrosis(NSP: 非特異的胸膜炎)と呼ぶ
・このうち他の精査やフォローでも原因が判明しないものが特発性胸膜炎
・NSPの中には引っ掛けられなかった悪性腫瘍も含まれる.
・ちなみに胸腔鏡検査の悪性腫瘍に対する感度は85-100%
(Current Opinion in Pulmonary Medicine 2011, 17:242 – 246)

胸腔鏡検査を施行した142例の解析では, NSP31%. 
他の報告でもNSP31-38%の頻度.
(Current Opinion in Pulmonary Medicine 2011, 17:242 – 246)
・胸腔鏡で胸膜炎の原因疾患が判明するのは58-69%(悪性腫瘍症例も含む)
・NSPの中に最終的に悪性腫瘍であった症例も0-12%程度あり

上記の31%(44)の解析:
(European Journal of Cardio-thoracic Surgery 38 (2010) 472—477)
・このうち5(12%)9.8±4.6ヶ月のフォローで悪性腫瘍を診断(全例が悪性中皮腫)
残りの37例中, 特発性は26(18.3%).
 他にはアスベスト関連, Cabergoline関連アミロイドーシス, RA, CABG後など原因となる疾患あり

滲出性胸水貯留があり, 胸腔鏡検査, 組織検査でNSPと診断された75例の解析
(Respiration 2005;72:74-78)
・平均年齢は63.4±13.3, 男性 49, 女性 26.
 喫煙歴(+)68%, アスベスト暴露歴は23%, 悪性腫瘍は29%
・7例は腫瘍性が推測され残り68例をフォローし, 最終診断
・特発性胸膜炎は15例(25%)
・フォロー中に肺癌や中皮腫を認めた症例が5例.
・NSPで胸水の再貯留をきたしたのは10例.


NSPにおける悪性腫瘍や悪性疾患の可能性をあげる因子:

胸腔鏡検査を施行された287例の解析では101(35.2%)Fibrinous pleuritisと診断.
(Respiratory Medicine (2012) 106, 1177e1183)
・Fibrinous pleuritis患者を2年間フォローした結果悪性中皮腫は16転移性腫瘍が2例, 結核が1例認められた.
・Fibrinous pleuritisにおいて, 術者の胸腔鏡所見からの印象は重要で
 良性だろうと判断した場合95.7%が良性.
 悪性だろうと判断した場合66.7%(2/3)が悪性
 判断に困る場合は68.7(2/3)%が良性となる

・Fibrinous pleuritis症例における悪性疾患を示唆する情報
 女性例, CTで悪性疾患が疑われる場合, 疼痛を認める場合は悪性の可能性.

NSPではいつまでフォローすべきか?

2001-2012年に診断されたNSP 413例より1年未満のフォロー症例, 膿胸, 結核性胸膜炎, 活動性の膠原病, 血管炎, 活動性の悪性腫瘍症例を除外した86例を解析.
(Ann Thorac Surg 2014;97:1867–71)
・平均フォロー期間は1824±1032
・胸膜悪性腫瘍と診断されたのは3例であった(3.5%)
 全例が悪性中皮腫で, 診断までの期間は205±126(範囲 64-306)
・22例が原因となりえる疾患が疑われ原因不明のIdiopathic 64例で計算すると4.7%が悪性腫瘍.

これより1年間のフォローが重要と言える.
それ以降で悪性腫瘍が判明することは少ない.