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2022年4月14日木曜日

網様皮斑: Livedo reticularis, Livedo racemosa

参考論文
Indian Dermatol Online J 2015;6:315-21.)

網様皮斑は網状の赤色〜青色, 紫色の皮疹で, 一過性のことも持続性のこともある.
・皮膚の血流低下に伴う所見であり, 生理的なものから, 末梢循環不全に伴うもの, SLEによる血管炎に伴うものなどある
・Ehrmannは1907年にLivedoのパターンを2つに分類し,
 生理的なLivedoをLivedo reticularis(LR)と呼び
 病的なLivedoをLivedo racemosa(LRC)を呼んだ.
・双方とも皮膚血流の低下, 皮膚血流の酸素濃度の低下による所見.

Livedo reticularisは良性で, 左右対称性, 可逆性, 形も均一な網様皮疹で定義される.
・若い女性や中年女性で生理的に認められる.

さらにLRは4つに分類される
生理的LR: 若年女性に多く, 寒冷曝露により四肢に生じる
 温めると戻る. 
・Primary LR: 気温によらず生じる
・特発性LR: 恒久的に認められるLR.
 二次性, 病的なLRCが否定された場合に特発性LRと診断
 早期のAPSやSneddon症候群で稀に認められる.
・アマンタジン誘発性LR: アマンタジンにより生じるLR

Livedo racemosaは二次性で, 左右対称性, 非可逆性, 形は不均一で「壊れた」環状皮疹
・LRCはLRに類似した所見となるが, より広範囲(体幹や臀部, 四肢)に認められ, 形もいびつ, 壊れた環状, 円環様の病変となる.
Sneddon症候群で報告された所見であるが, APSやSLE, 本態性血小板増多症, Thromboangiitis-obliterans, 真性多血症, 結節性多発動脈炎で認められる.
特にAPSの25%, SLEに伴うAPSの70%で認められる.
 結節性多発動脈炎でも多い皮膚所見となる.

LRCの原因


LRCを呈する頻度の高い疾患: CPN, LTA, LV, APSの臨床, 組織所見
CPN: cutaneous polyarteritis nodosa
LTA: lymphoytic thrombophilic arteritis
LV: livedoid vasculitis
APS: antiphospholipid syndrome

(Arch Dermatol. 2008;144(9):1175-1182)

LR, LRCによく似た皮疹: Erythema ab igne → 火胝(ひだこ)
・Erythema ab igneは熱に誘発される皮膚疾患であり, 初期は可逆性のLRに類似した所見となる.
熱曝露が持続することで色素沈着をきたし, 所見が残存するようになる


2022/4/14 UpDate

さて, これらLivedoをもう少し掘り下げてみる.
Australasian Journal of Dermatology (2011) 52, 237–244 
La Revue de médecine interne 29 (2008) 380–392 

Livedo reticularis, racemosaの機序

皮膚血管の解剖

・皮膚血管は小動脈が皮膚表面まで上がり,
周囲で静脈がドレナージし, 戻ってゆく.
・この動脈血流と静脈血流の差が生じると, 環状に皮疹が生じ得る

血管運動性リベド, 血管攣縮性リベド


・全体の血流が低下することで生じる.
 
・動脈血流が低下し, 静脈は鬱滞する.
 
 鬱滞した静脈血により
環状の皮斑を生じる.
 
・一般的な生理的なLivedoはこのタイプ
・さらに全身性の低循環状態(ShockやHypovolemia)では, これが高度に生じ, さらに静脈のうっ滞が起こり, その結果チアノーゼが目立つようになる. 
 より環が紫色となって見える.

Livedo racemosa


・皮膚内の特定の血管単位のみが障害

・障害部位に隣接する正常の血管領域が, そのドレナージを担う(黒矢印部分)


実はLivedoの本質は環状の部分ではなく, その中心
Livedo = 青白い, reticularis = 網状, racemosa = 枝分かれした.
・形態的に均一な網状ならばreticularis, 枝分かれしたものがracemosaとされるが, それ以外に中心の白斑にも注目することが重要.
・reticularisは白色化が主で, 温めると消失する
 = 小動脈支配領域の血流が低下し, 周囲の静脈が鬱血していることを示唆する
・racemosaは阻血領域では白色化, 炎症領域は発赤するため, 部分的に白く抜けることもあれば, 抜けないこともある. 温めても一部消失するが, 所見は残存.

・よくみるとRacemosa(右)の分岐状皮斑の周囲は白く抜けている. また分岐部も分厚く見えるところも多い = 炎症部位.
・Reticularis(左)は一様の太さの環が形成されているように見える


ここからは私見

となると, Livedoにも程度があるはず.
・生理的Livedo reticularis: 寒冷により血管が攣縮. 中心部が蒼白となり, 相対的に周りの色が正常〜軽度鬱滞した静脈部が発赤として認識され, 均一な太さの環状皮斑となる.

・Shock, 低灌流状態によるMottling: 中心が蒼白. さらに静脈も鬱滞し, チアノーゼを生じる. 蒼白+紫がかった縁を伴う環状皮斑となる.

・血管炎や血栓症, コレステロール血栓では部分的な動脈障害を生じ, racemosaとなる. 皮膚は発赤〜蒼白まで混在しえる.
 広範囲で生じる場合はReticularis様の環状に見えるかもしれないが, 中央の蒼白部分に注目し, 不自然な発赤や一部の環壁が癒合, 歪にみえる場合はやはり怪しいかもしれない.

・また, 静脈鬱滞が環を形成するならば,
 下肢を下ろす, またバルサルバを行うことでより環が明瞭化するのではないか?
 実際, 結節性多発動脈炎患者の診療において, 端座位や立位でしっかりとLivedo reticularisが出現するものの, 臥位になると消失, または不明瞭になる例は個人的にもそれなりに経験している.

ということで調べてみる

Positional, Postural, Livedo reticularisなどで検索すると, いくつか症例報告が引っかかる

・64歳男性, 突如発症した下腹部〜大腿のLivedo reticularisと高血圧, 腎障害. Livedoは立位で出現し, 臥位では完全に消失.

 >> コレステロール塞栓症が診断
(J Rheumatol. 1993 Nov;20(11):1973-4.)

・65歳男性, 10日前からの体幹と下肢のLivedo reticularisと足先のチアノーゼ, 腎障害. Livedoは立位でのみ出現し, 臥位で消失.
 
 >> 皮膚生検からは血管障害性と判断. 眼底所見よりコレステロール塞栓と診断.
(Clin Med (Lond). 2014 Jun;14(3):314-5.)

・80歳の女性, 大腿の疼痛と立位時のLivedo retiularisを自覚.
他に高血圧, 腎障害が認められた.
 
 >> 皮膚生検よりコレステロール塞栓症を診断
(Eur J Dermatol. Mar-Apr 2011;21(2):276-7.)

・腎不全でコレステロール塞栓症が疑われた8例のReview. このうち6例で病理で証明
 立位または臥位での皮膚診察にて, 全例でLivedo reticularisを認めた.

 その全例で, 立位時により所見は明瞭であった.

 2例は臥位で疑わしかった部位が立位でより明瞭化.
 
2例は臥位では認めず立位で出現した.
(Am J Med Sci. 2001 May;321(5):348-51)


ということでほぼコレステロール塞栓症の報告例のみであった.

同様に小血管障害や閉塞に起因するLivedoの場合, 立位で出現, または顕在化するような現象はあってもよいと考えている.

これからはLivedoは立たせて評価せねばならない, というクリニカルパールが流行ることでしょう.