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2016年7月30日土曜日

グラム染色の幽霊

グラム染色で見える幽霊、というと
このブログの読者ならば 「ああ、結核ね〜」となると思われる。

まあその通りです。
綺麗な写真がとれましたので、載せます。それだけっす。


抗酸菌はグラム陽性桿菌だが, 通常グラム染色では染まらない.
菌量が多い場合, 白く抜ける桿菌として見えることがあり,フォーカスをずらすと一部染まっている桿菌が見えます。

この検体はガフキー5号でした。

2016年7月28日木曜日

イナビル1回投与によるインフルエンザ発症予防

インフルエンザ患者暴露後に内服することで, 発症率を有意に減少させることが可能.
・ただし, ルーチンの使用はオススメしない.
 医療関係者や発症すると重症する可能性がある患者(慢性呼吸器疾患や心疾患, 代謝疾患, 免疫不全患者など), 介護者に限るべきである.

・予防投与はタミフルを3-10日間使用する方法が一般的

Laninamivir(イナビル®) 1回投与も有用.
インフルエンザ発症48時間以内の患者と接触歴がある家族を以下の3群に割り付け, 発症リスクを比較したDB-RCT
(Clinical Infectious Diseases® 2016;63(3):330–7)
・Laninamivir 40mgを1回投与
・Laninamivir 20mg/dを2日間使用
・プラセボ群

・アウトカムは10日以内のインフルエンザ発症(検査陽性, >37.5度の発熱, 2つ以上の症状)
・ステロイドや免疫抑制剤使用患者は除外
 4wk以内にNeuraminidase阻害薬使用している患者も除外
 妊婦, 授乳婦, Study中に妊娠希望している女性も除外

対象者は最初とDay 3,11に鼻咽喉スワブを採取される
・経過中に発熱や感染症状を認めた場合は受診するように指導され,その際 鼻咽喉スワブを採取
・スワブはインフルエンザPCRで評価する.
・経過中にインフルエンザと診断された場合は治療をうけて, 予防投与は終了
・発熱と症状の重症度を2日毎に評価する.
 重症度は0-3で評価(0: なし, 1:軽度, 2:中等度, 3:重度)

母集団と、感染患者のデータ

アウトカム
・臨床的インフルエンザ: インフルエンザ陽性で, >37.5度の発熱, 中等度以上の症状が2つ以上認める場合で定義.
・症候性インフルエンザは上記で症状が1つ以上で定義.
・無症候性はインフルエンザ陽性のみ.
臨床的インフルエンザ, 症候性インフルエンザは有意に予防投与群で減少.
投与方法は40mg 1回投与、20mg 2日間投与で同等.

無症候性インフルエンザは有意差なし。

サブ解析

2016年7月25日月曜日

海外渡航前のチェックポイント, 指導ポイント

旅行医学は重要な領域と思います.
NEJMより非常に良いReviewがでました. 個人的にとても勉強になりましたので, 簡単にまとめました. 一部端折っています.

(N Engl J Med 2016;375:247-60.)より

海外旅行を計画している人から相談されたら
・旅行先にもよるが, 旅行者の22-64%が何らかの疾患に罹患する
 その大半が下痢や上気道炎, 皮膚疾患などの軽症例やSelf-limitedな病態であるが, 中には致命的な疾患も含まれる.
・近年旅行前にかかりつけ医に対して, 旅行先の医療情報や, ワクチン接種など, 対応を求めてくる事もあり, 非専門医でもその対応を身につけておくことが重要.
・感染症専門医に対応してもらった方が良いのは, 以下の場合
  感染症リスクが高いアドベンチャー目的の旅行, 
  免疫不全患者,
  慢性疾患がある患者, 
  海外へ長期間の移住を考慮している患者,
  妊婦, 近々に妊娠予定の女性, 
  若年の小児, 
  複雑な旅行日程を立てる場合

旅行前のアセスメントはまず患者のリスク因子と旅行先, 目的を明らかにすること
その後ワクチンや渡航先の感染予防対策を.

リスクの評価方法とその対策



指導で最も多く, 重要なものは節足動物媒介感染症の予防と旅行者下痢症の予防
・虫除けスプレーや, 現地での生ものの摂取, 生水の摂取を避けることなど重要となる.
・これら指導, 教育は平易な言葉で分かりやすく行う事が大事.
・簡単な日本語で文章を作成し, 説明, 配布すると良い.

渡航前のワクチン
・渡航先で流行している感染症とワクチンの推奨はCDCのホームページで検索する.(http://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/list)

ルーチンで推奨されるワクチン
A型肝炎ワクチン: 毎月旅行者5000人に1人の割合で感染する.
 たとえ渡航当日でも, ワクチン接種により94%で抗体陽性となるためどの時期でもよいので接種する事が推奨される.
・B型肝炎ワクチン: 未投与者のみ推奨.
 長期間の滞在や, 現地民との接触が多いとその分感染リスクも増加 
 タトゥーや性交渉, 医療行為, 怪我などあればさらにリスクは高い
・Typhoid, paratyphoid fever(南アジア): Salmonella enterica serovar Typhiは多剤耐性菌が増加しており, ワクチン接種が推奨される.
 これらが流行している地域への渡航ではワクチンを.
 ただし, 予防効果は60-80%程度のみ

旅行先に応じて推奨されるワクチン
・その地域の流行状況でワクチンを考慮する.
 例えば黄熱病は南アメリカ, Sub-Saharan Africaなど.
 CDCのHPでチェックして考慮する.

米国で使用可能なワクチン


マラリアの予防
マラリアの流行地域に渡航する場合はマラリアの予防対策が必要となる

マラリアの予防は虫除けスプレーや長袖服の使用など教育が第一. 
予防投与は抗原虫薬を使用する
予防投与がない状態での感染率は西アフリカ旅行で3.4%/月, Indian subcontinentで0.34%/月, 南アメリカで0.034%/月.
・同じ国でも地域により流行, 非流行があるため, 滞在する地域を調べて対応を考慮.

予防投与の第一選択はatovaquone-proguanil(マラロン配合錠®)
・他薬剤よりも比較的副作用が少なく, 流行地域から離れて7日後に中止可能.
・予防効果はatovaquone-proguanil, ドキシサイクリン, メフロキンで同等

マラリアワクチンはアフリカの小児に対して作られたもので, 旅行者の感染予防としての使用は不適切となる.

他の節足動物媒介感染症の予防
デング熱は流行地域を旅行し, 罹患した患者の2%を占める
・重症例となることは稀.
・近年ワクチンも開発されたが, これは流行地域における使用であり, 旅行者に対する予防目的での使用はまだない.
・また, デング熱に対する有効な抗ウイルス薬もない

他にChikungunya, Zika virus 感染症も重要.
・皮疹, 発熱で発症し, デングに類似している
・流行地域も重なっている部分が多い

旅行者下痢症の予防
旅行者下痢症の定義は, 渡航中, 渡航後7日以内に発症した≥3回/24時間の軟便〜下痢で, 他に1つ以上の症状を伴う場合で定義される.
・多い原因はウイルス性, 細菌性であり, Protozoaは<5%程度
・持続期間は4-5日程度である事が多い.
・旅行前の指導, 注意にもかかわらず, 10-40%は旅行者下痢症を発症

細菌の関与も多い為, 旅行者下痢症の対応は経口補液, 対症療法に加えて抗生剤も考慮される.
・キノロン(LVFX 500mg, CTFX)もしくはアジスロマイシン 1gを1回使用.
 もしくはアジスロマイシン500mgを3日間使用する.
・東南アジアやインド, ネパールではキノロン耐性菌が多い為, アジスロマイシンを使用する.

主な渡航先とワクチン, 感染症予防の推奨


感染症以外の注意点: 

高山病の予防
登山以外に, 車や飛行機で高所に行く場合に生じる.
・急速に高所(2500m)に移動する場合, 25%で高山病を発症
 2800m以上まで急速に上がる場合はほぼ全例で発症する.
・発症を予測するのも難しい.
 予防としては≥2800mの高所に行く旅行者に対してはアセタゾラミド 125mg bidを, 高所にゆく24時間前より開始し, 最大標高に到達するまで継続する

重症例では肺水腫や脳浮腫を生じるが,酸素投与で改善する事が多い
・これらは3500m以上の高所でリスクが上昇するため
 3500m以上を考えている旅行者は専門医にコンサルトを.

血栓症の予防
4時間を超えるフライト後, 1ヶ月におけるVTEの発症率は1/4600. 
・2時間増加するごとにリスクは18%上昇する.
・6時間未満のフライトでは重度の肺塞栓となることは稀.
・予防策としては, 脱水状態を回避すること, 下肢の運動をすること.
 リスクがある患者では, 弾性ストッキングの着用(15-30mmHg)も推奨.
  また, 血栓傾向がある患者やVTE既往がある患者の場合, フライト前と, その24時間後にLWMHを皮下注するのも有用である.
・アスピリンの服用は予防効果はなし.

2016年7月23日土曜日

5-FUによる高アンモニア血症

Snap diagnosis:大腸癌, 多発肝転移にて化学療法を施行中の患者.
 化学療法施行の翌日, 意識障害, 痙攣重積を来し搬送.
 血中アンモニア値が>900µg/dLと著明高値であった.

化学療法はFOLFILI. さて, 原因は?
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化学療法による高アンモニア血症

化学療法では, Cytarabine, vincristine, amsacrine, etoposide, L-asparaginase, cyclophosphamide, 5-fluorouracilを含むレジメで高アンモニア血症の報告がある.
・血液腫瘍(急性白血病, 多発性骨髄腫, リンパ腫)や, 幹細胞移植で高アンモニア血症の報告があるほか, 消化管腫瘍や乳がんに対する5-FUを含む化学療法で重度の高アンモニア血症, 脳症の報告が多い
(Leukemia & Lymphoma, September 2007; 48(9): 1702 – 1711)

5-FUによる高アンモニア血症
5-FUは稀であるが, 重度の高アンモニア血症を引き起こす事が知られている.
・5-FUの代謝産物であるFluoroacetateがクエン酸回路を障害し, その結果尿素回路も遅延し, アンモニアが蓄積する機序が推測
(Auris Nasus Larynx 35 (2008) 295–299)

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構のHPでは, 2013年までに5-FUによる高アンモニア血症は131例で報告され, そのうち4例で死亡.
(日消誌 2015;112:287―296)

高用量5-FU(2600mg/m2を24hで持続投与/wk)を行った280例中, 5-FUに由来する脳症を併発したのは5.7%.
・投与〜発症までは19.5時間[10-30], 5-FU中断から改善までは15時間[3-72]
・脳症(+)患者は血清アンモニア高値, 乳酸値高値に関連性あり.
(British Journal of Cancer 1997;75:464-65)

日本国内で報告された20例の解析では,
・平均年齢は69.4歳, 男性例が15例と多い.
・またeGFRは49.9ml/minと軽度低下しており, 腎不全が関連している可能性がある.

20例中10例が1コース目で生じていた.
平均アンモニア値は371.5µg/dLで, 治療後2日後には改善する例が大半であった.
・化学療法〜症状発症までの期間は1-6日. 17/20が3日以内
(日消誌 2015;112:287―296)

悪性腫瘍で5-FUの持続投与を行った患者群で, 一過性の高アンモニア血症による脳症を発症した29例, 32件の解析.
(Anti-Cancer Drug 1999;10:275-81)
・投与後〜脳症発症までは0.5日〜5日. 平均2.6±1.3日.
・血清アンモニア値は248~2387µg/dL
・感染症の併発や, 脱水症, 尿毒症, 便秘が関連している可能性.
・高用量では発症までの期間も短く, アンモニア濃度も高い.
 感染症併発例も同様.

5-FUによる意識障害は他にもある
・Dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)欠乏症: DPDは5-FUを代謝する主な酵素であり, これが欠損している場合5-FUが蓄積を起こす.
 5-FUが蓄積するとCSFへ移行し, 脱髄を生じる.

・PRES: 化学療法全般で生じる可能性がある
(Ann Surg Treat Res 2016;90(3):179-182)(Auris Nasus Larynx 35 (2008) 295–299 )

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というわけで5-FUを含むレジメに伴う高アンモニア血症でした.
化学療法中の患者での意識障害や痙攣ではアンモニアはチェックする習慣をつけましょう.
稀ながら, あります. 
自然に改善することも多いので, 軽症例は気づかれていない事が多いのかもしれません.

2016年7月22日金曜日

ベッドサイド飲水試験による誤嚥リスクの評価

嚥下機能の評価として, 飲水試験がある.
・ベッドサイドにて, 少量の水分を摂取してもらい, むせ込み, 咳嗽, 声の変化などを評価する.

成人患者における飲水試験の感度, 特異度を評価したMeta.
(CHEST 2016; 150(1):148-163)
・RSはNasoendoscopy, Videofluoroscopyによる評価とし, 前向きに評価した22 trialsでMeta-analysisを施行.
22 trials, N= 4617であるが, 単一のStudyでN=3000のものがあり.
母集団の基礎疾患は神経疾患(51%), CVA(34%), 認知症, 変性疾患, 外傷性脳挫傷がそれぞれ1-2%. 他には頭頸部癌(12%), 呼吸器疾患(10%)

飲水試験の誤嚥に対する感度, 特異度
・咳嗽や窒息, 咳払い, 声の変化(痰が絡むような声, うがい様の声など)があれば誤嚥リスクありと評価する.
 Single sips: 1回の少量の飲水で評価
 Consecutive sips: 1回の90-100mlの多量の飲水で評価
 Progressive challenge: 徐々に飲水量を増やして評価(2-90ml)

 誤嚥のReference standardはNasoendoscopy, Videofluoroscopy


これより,
・少量の水分でも蒸せる場合, 声が変わる場合は強く嚥下機能低下を疑う
多量に飲ませて大丈夫ならば, 誤嚥リスクは低い「かも」しれない.
 ただし, LR-は0.3程度.

「これは誤嚥するねー」とは言えるが
「これは大丈夫だねー」とは言いにくい

2016年7月21日木曜日

間質性肺炎ではNail-fold capillaryの異常をチェックする習慣を

以前 Nail-fold capillaryの評価は強皮症診断や皮膚筋炎診断において重要,
さらに強皮症におけるNail-fold capillaryの異常は肺高血圧や間質性肺炎との関連性が高いということを記載した.
詳しくはこちら

個人的には, 強皮症疑いの患者以外に, 間質性肺炎所見がある患者でも必ずNail-fold capillaryをチェックしている.
たまに間質性肺炎 + Nail-fold capillary(NFC)異常が認められ, 後々 ANA speckled が陽性, Scl-70が陽性。。。など強皮症に矛盾しない検査結果や所見が得られることも多い.

個人的な印象では 間質性肺炎患者においてNFC異常があれば, CTD-ILDの可能性が高いと思っている.



然しながら,


強皮症患者において, NFCを評価し, 間質影との相関性を評価しているStudyは多いが,
ILD患者において, NFCを評価し, SSc由来ILDやCTD-ILDとの相関性を評価しているStudyは少ない.

いくつか調べていると,

50例の特発性ILD, CTD-ILD, コントロール患者において, NFCを評価.
(Tuberk Toraks 2015;63(1):22-30)
・患者は
 特発性ILD(18): さらに特発性IPF(8), 特発性NSIP(10)
 膠原病肺(CTD-ILD)(15): さらにRA-ILD(7), SJS-ILD(8)に分類
 肺病変(-)コントロール群(17): さらにRA単独, SJS単独群に分類の3群, 6サブグループに分類し, Nail-fold capillary所見を評価.

Nail-fold capillaryは以下で評価
・正常: 毛細血管数 7-10本/mmで, ヘアピン様のループが並列している. 出血や蛇行, 交差, 血管新生は認められず
・軽度異常: 7-10本/mmで, 蛇行が<50%で認められる. ループは並列で, 出血や血管新生は認められず
・高度異常: 毛細血管の減少あり. 蛇行が>50%で認められる. 拡張やループの変形, 出血あり. >50%の血管新生, 拡張, 微小出血を認める.

アウトカム: 拡張所見はCTD-ILDで多く認められる

・毛細血管数はCTD-ILDで少ない傾向がある
・特発性ILDでもNFC異常所見は認められ, 特にねじれ所見が多い.
 拡張所見や微小出血, Bushy(もじゃもじゃした所見), 奇妙な所見はCTD-ILDで多い所見. 

ただし, このStudyではRAやSJS由来のILDのみであり, 強皮症由来ILDは含まれていない.

Lung-dominant CTD 52例の解析.
(J Bras Pneumol. 2015;41(2):151-160 )
・LD-CTDの定義はILD症例において,
 特異的なCTDの確定診断に足る肺外所見が乏しく(= 症状/所見は1つ以上ある)
 他のILDの原因が認められず, 
 さらに以下の1項目以上の自己抗体が陽性 or 2項目以上の組織所見を満たす
・CTD症状は関節痛, 関節炎, 朝のこわばり, 日光過敏, 皮膚所見, Gottron徴候, Heliotrope疹, レイノー現象, Sicca症候群, 難治性のGERD症状など

LD-CTDにおけるHRCT所見

・NSIPパターンが最も多い.
・CTで食道異常所見をチェックするのも大事.

Nail-fold capillaryの評価は22例で施行され, 17例(77%)で異常.
異常は強皮症様パターンが多い.

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いろいろ調べてはみましたが, やはりILD→NFCチェックというアプローチの論文は少ないようです。

ILD患者においてNail-fold capillaryの異常を認めた場合, CTD-ILDの可能性は上昇するものの, 特発性ILDでも蛇行くらいはあり得る.

拡張所見や出血, もじゃもじゃ, 変なNail-fold capillaryはやはりCTD-ILDかもしれないと捉えるべきか。

2016年7月20日水曜日

キノロン系抗生剤の副作用

キノロン系抗生剤, 特によく使用されるのレボフロキサシン(LVFX)であるが, 経口での吸収率がよく, 組織移行性もよく, 抗菌スペクトラムも広く, そして副作用も少なく, ととても外来で使用しやすい薬剤.

外来での処方頻度が多く, その結果LVFX耐性菌が巷で蔓延しているくらい.
これはとても問題.

また, 腎排泄であり, 腎機能に応じて投与量の調節が必要であるが, あまりその辺注意がされておらず, 高齢者や腎不全患者に通常量が使用されていることも多く目にする.
これもとても問題.

救急で処方された薬剤で副作用が多いもの一覧
Drug 年間合併率
インスリン 8%
ワーファリン 6.2%
Amoxicillin 4.3%
アスピリン 2.5%
ST合剤 2.2%
アセトアミノフェンヒドロコドン 2.2%
イブプロフェン 2.1%
アセトアミノフェン 1.8%
Cephalexin 1.5%
クロピドグレル 1.6%
Penicillin 1.5%
Amoxicillin-clavulanate 1.3%
Azithromycin 1.3%
Levofloxacin 1.2%
ナプロキセン 1.2%
フェニトイン 1.1
(JAMA 2006;296:1858-66)

・これを見ると, 抗生剤の副作用はやはり多い.
・抗生剤ではペニシリン系、ST合剤が目立つが, LVFXも副作用は多い.

薬剤性障害で救急受診する患者のうち, 19.3%が抗生剤由来である
アレルギーが78.7%[75.3-82.1]を占め, 副作用は19.2%[15.8-22.6]
薬剤別の頻度(ED visit/ 10 000 outpatient prescription)
薬剤
頻度
ペニシリン系
13.0[10.3-15.6]
セフェム系
6.1[4.5-7.7]
キノロン系
9.2[7.0-11.5]
ST合剤
18.9[13.1-24.7]
マクロライド
5.1[3.8-6.4]
テトラサイクリン
5.2[3.7-6.8]
メトロニダゾール
7.6[5.1-10.1]
Nitrofurans
9.7[5.8-13.5]
バンコマイシン, リネゾリド
24.1[10.9-37.3]
その他, 不明
14.7[9.6-19.8]
(CID 2008;47:735-43)

・このデータからは, 抗生剤による副作用で多い原因はペニシリン系とST合剤, バンコマイシンなど抗MRSA薬
 次いで2位集団にキノロン, セフェム, メトロニダゾールがいるような感じ.

さらに副作用別の頻度を見ると以下のようになる
薬剤
軽度
アレルギー
中等-重度
アレルギー
神経,
精神障害
GI障害
その他
ペニシリン
7.6[6.0-9.1]
2.2[1.7-2.7]
0.4[0.3-0.6]
1.1[0.6-1.6]
0.7[0.4-0.9]
セフェム
2.8[2.0-3.5]
1.3[0.9-1.7]
0.3[0.2-0.5]
0.7[0.3-1.0]
0.4[0.2-0.6]
キノロン
2.8[1.9-3.7]
2.4[1.8-3.1]
1.2[0.9-1.6]
1.1[0.6-1.5]
0.7[0.4-0.9]
ST合剤
8.3[5.8-10.7]
4.3[2.9-5.8]
1.7[0.9-2.4]
2.0[0.8-3.1]
1.2[0.6-1.9]
マクロライド
1.7[1.2-2.2]
1.1[0.7-1.4]
0.3[0.2-0.4]
1.0[0.6-1.4]
0.4[0.3-0.6]
クリンダマイシン
8.4[5.1-11.7]
2.8[1.3-4.2]

3.0[1.5-4.6]

テトラサイクリン
2.0[1.3-2.6]
1.2[0.6-1.8]

0.7[0.4-1.0]
0.4[0.2-0.6]
その他
4.0[2.9-5.1]
1.9[1.2-2.7]
1.4[0.8-1.9]
1.7[0.9-2.4]
1.2[0.6-1.8]
(CID 2008;47:735-43)

キノロン系の副作用
(Clinical Infectious Diseases 2005;41:S144–57)(Clinical Infectious Diseases 1999;28:352–64)
(Clinical Infectious Diseases 1999;28:352–64)

FQによる消化管症状
・2-20%で認められるが, 軽症のことが多く, 薬物中断の必要は少ない
 悪心嘔吐, 食欲低下, Dyspepsia, 腹痛, 下痢など. CDIも含まれる.
・FQでの消化管症状の頻度は Fleroxacin, grepafloxacin > torovafloxacin > sparfloxacin, Pefloxacin > ciprofloxiacin, levofloxacin > norfloxacin > enoxacin > ofloxacin.

CNS症状
・1-2%で認められ, 消化管症状に次いで2番目に多い副作用
 頭痛やめまい, ふらつき, 傾眠などが生じる.
・<45歳の女性で多い傾向あり
・投与開始後早期に出現し, 中止と共に改善を認める
・他には幻覚やせん妄, 痙攣などの報告もあり. 
・LVFXはFQの中でもリスクが低い

FQ投与中に精神症状を認めた590例の解析
多い症状は昏迷 51%, 幻覚 27%, 焦燥感 13%, 妄想 12%, 不眠 8%, 傾眠 4%.
(Rev Med Interne. 2006 Jun;27(6):448-52)
・国内からも症例報告されている(日老医誌 1999;36:213-7)

LVFXを高齢者や腎不全患者への使用,CYP450 1A2と競合する薬剤,阻害する薬剤と併用する際には痙攣に注意.
・Literature Reviewでは2009年までに6例報告あり, どれも競合する薬剤が併用されていた.
(Eur J Clin Pharmacol (2009) 65:959962)

FQによる肝障害
・2-3%で生じる. AST, ALTの上昇をきたすことが多い
 通常軽症であり, 薬剤中止と共に改善する

66歳以上で肝障害の既往の無い患者群, 広域抗生剤を使用して30日以内に急性肝障害で入院した群とその群に年齢, 性別をMatchさせた, 同様のAbxを使用し, 肝障害(-)であったControl群を比較.
・Moxifloxacin(アベロックス), LVFX, CPFX, Cefuroxime axetil, Clarithromycinのいずれか
・最終的に抗生剤曝露後の急性肝障害で入院したのは144例. 
 うち88例(61.1%)は入院中に死亡.
・Clarithromycinと比較して, 
 Moxifloxacinは肝炎リスク OR 2.20[1.21-3.98]
 LVFXは OR 1.85[1.01-3.39]と高リスク.
 CPFXとCefuroxime axetilは有意差無しという結果であった
( 2012 Oct 2;184(14):1565-70.)

腎泌尿器系の障害
・FQによる腎障害は稀であるが, 血尿や間質性腎炎, 急性腎不全の報告例はある.
・報告例のほとんどが50歳以上, 特に>65歳が多く, 高齢者では注意
・腎毒性は過敏性反応による機序や直接的に腎毒性を示す機序がある
・FQが尿中に析出するCrystalluriaを呈することもあり. 
 尿中pHが上昇すると析出し, 腎障害を起こすため, FQ投与中の患者では脱水を避ける必要がある点と尿pHを上昇させる治療は避ける(生理的範囲内であればまずCrystalluriaのリスクはない).

高血糖, 低血糖リスク
糖尿病患者で抗生剤を使用した78433名の解析.
・入院, ER受診が必要な高血糖, 低血糖の頻度は以下の通り
・Macrolideと比較して, どれもリスクになる. 
・Moxifloxacinが最もHigh riskとなる.
(Clinical Infectious Diseases 2013;57(7):971–80)

皮膚障害
・FQは稀であるが日光過敏症のリスクとなる
・日光過敏症には2タイプあり,
 Photoallergic reactionは稀で, 薬剤曝露後数日経過して生じる.
 Phototoxic reactionは比較的多く, 初回投与後でも生じる. 薬剤の暴露と反応するのに十分な量の紫外線があれば生じ得る.

過敏性反応
・過敏性反応は0.6-1.4%で認める. 
・紅斑や掻痒感, 蕁麻疹が多い. 他に過敏性血管炎, 血清病, アナフィラキシー.

筋骨格系障害
・関節症はFQ投与例の~1%程度で認められ, 特に下肢関節で多い.
 また患者は<30歳の若い年代で多く, 関節痛や強張り, 関節腫脹を呈する
・腱炎と腱断裂リスクあり. アキレス腱で多い
 関節症と異なり, 腱障害は>50歳の高齢者で多い. 報告例は25-84歳
 ステロイド併用でさらにリスクは上昇する

FQによる腱断裂: Literature reviewにて98 caseを評価 (CID 2003;36:1404-10)
・Pefloxacinによるものが37%で800mg/dが最も多い
 Ciprofloxacinによるものが25.5%で500-2500mg/d
 Norfloxacinは11.2%, 800mg aid
 Levofloxacinは8.2%, Ofloxacinが6.1%
最も多い部位はAchilles腱; 89.8%
 44.3%で両側性, 83.7%でTendinitisを認める
・他の部位は稀だが, 三頭筋腱, 手指屈曲筋腱, 母指屈筋腱, 膝蓋腱, 棘上靭帯, 大腿四頭筋, 肩甲下筋, 肩板の報告がある
投与開始より17.6±19.5Dで生じる
 50%が投与開始から6日以内に発症
 投与後2hr~6moと幅広い

腱断裂の症状, 対応
FQ投与中の突然発症の重度の疼痛, 圧痛, 浮腫, 発赤, 腫脹には注意
・診断は超音波, MRIが良い
FQの中断, 内科的治療が中心. たまに外科治療もFQの減量により症状の改善も認められる
・FQの再開も, 高用量ならば再発も認めるが, 低用量, 他のFQの使用にて投与継続可能との報告もアリ
患者側のRisk Factor
 発症年齢; 59±16yr (28-92yr), M:F = 1.9:1
 ステロイド併用患者での発症が多い傾向
 他は透析, 腎不全, 腎移植, RA, 糖尿病, 痛風, 副甲状腺機能亢進, 甲状腺機能低下, 運動への参加 がリスクとして挙げられる可能性がある

FQによる心血管系障害
・一部のFQではQTc延長リスクがある
 LVFXでは基本的にはないとされている.
・またEMよりも軽度であり, それが原因で不整脈を呈することは稀
・様々な因子が重なり, 不整脈リスクとなる

その他
FQと網膜剥離 (JAMA. 2012;307(13):1414-1419)
カナダにおける989591名のCohort study.
その内網膜剥離を来した4384名と43840名のControl群を比較.
・経口FQのCurrent userは網膜剥離RR 4.50. NNH 2500.
 Recent, Past userは有意差無し
・内服薬ではCPFXが82.7%, LVFX 7.2%, Norfloxacin 4.9%, Moxifloxacin 4.0%, Gatifloxacin 1.1%
 β-Lactam, β-agonistは有意差無し

高齢者ではClCrを意識して, LVFX投与量を決めた方が良い
岐阜市民病院における報告:
 ≥75歳の高齢者でLVFXを使用する際に薬剤師により腎機能を評価し, 適切な投与量に調節するようにマネージメント. (Pharmazie 68: 977–982 (2013) )
・上記介入を行った142例と, 非介入コントロール群98例において, 薬剤の副作用頻度を比較した.
・介入群では, LVFXはClCr≥50で500mg/d, ClCr 20-50で初日500mg, 以後250mg/d, ClCr<20では初日500mg, 以後250mg/2dで継続するように指導, 調節した.

母集団と副作用頻度

・介入群における副作用頻度は4.2%, 非介入群では13.3%と有意に介入群で副作用リスクは低下する.
・副作用にかかる費用の軽減効果も見込める

副作用は
・介入群: 掻痒感2例, 黄疸, 肝障害2例, 下痢
・非介入群: 悪心/嘔吐, 脱力による転倒, 結膜充血, 掻痒感, 下肢の強張り, 幻覚, 紅斑, 下痢, 痙攣など.

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良い薬だからこそ, しっかりと知って, 適応, 量, 期間を考えて使いたいものですね...