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2016年7月20日水曜日

キノロン系抗生剤の副作用

キノロン系抗生剤, 特によく使用されるのレボフロキサシン(LVFX)であるが, 経口での吸収率がよく, 組織移行性もよく, 抗菌スペクトラムも広く, そして副作用も少なく, ととても外来で使用しやすい薬剤.

外来での処方頻度が多く, その結果LVFX耐性菌が巷で蔓延しているくらい.
これはとても問題.

また, 腎排泄であり, 腎機能に応じて投与量の調節が必要であるが, あまりその辺注意がされておらず, 高齢者や腎不全患者に通常量が使用されていることも多く目にする.
これもとても問題.

救急で処方された薬剤で副作用が多いもの一覧
Drug 年間合併率
インスリン 8%
ワーファリン 6.2%
Amoxicillin 4.3%
アスピリン 2.5%
ST合剤 2.2%
アセトアミノフェンヒドロコドン 2.2%
イブプロフェン 2.1%
アセトアミノフェン 1.8%
Cephalexin 1.5%
クロピドグレル 1.6%
Penicillin 1.5%
Amoxicillin-clavulanate 1.3%
Azithromycin 1.3%
Levofloxacin 1.2%
ナプロキセン 1.2%
フェニトイン 1.1
(JAMA 2006;296:1858-66)

・これを見ると, 抗生剤の副作用はやはり多い.
・抗生剤ではペニシリン系、ST合剤が目立つが, LVFXも副作用は多い.

薬剤性障害で救急受診する患者のうち, 19.3%が抗生剤由来である
アレルギーが78.7%[75.3-82.1]を占め, 副作用は19.2%[15.8-22.6]
薬剤別の頻度(ED visit/ 10 000 outpatient prescription)
薬剤
頻度
ペニシリン系
13.0[10.3-15.6]
セフェム系
6.1[4.5-7.7]
キノロン系
9.2[7.0-11.5]
ST合剤
18.9[13.1-24.7]
マクロライド
5.1[3.8-6.4]
テトラサイクリン
5.2[3.7-6.8]
メトロニダゾール
7.6[5.1-10.1]
Nitrofurans
9.7[5.8-13.5]
バンコマイシン, リネゾリド
24.1[10.9-37.3]
その他, 不明
14.7[9.6-19.8]
(CID 2008;47:735-43)

・このデータからは, 抗生剤による副作用で多い原因はペニシリン系とST合剤, バンコマイシンなど抗MRSA薬
 次いで2位集団にキノロン, セフェム, メトロニダゾールがいるような感じ.

さらに副作用別の頻度を見ると以下のようになる
薬剤
軽度
アレルギー
中等-重度
アレルギー
神経,
精神障害
GI障害
その他
ペニシリン
7.6[6.0-9.1]
2.2[1.7-2.7]
0.4[0.3-0.6]
1.1[0.6-1.6]
0.7[0.4-0.9]
セフェム
2.8[2.0-3.5]
1.3[0.9-1.7]
0.3[0.2-0.5]
0.7[0.3-1.0]
0.4[0.2-0.6]
キノロン
2.8[1.9-3.7]
2.4[1.8-3.1]
1.2[0.9-1.6]
1.1[0.6-1.5]
0.7[0.4-0.9]
ST合剤
8.3[5.8-10.7]
4.3[2.9-5.8]
1.7[0.9-2.4]
2.0[0.8-3.1]
1.2[0.6-1.9]
マクロライド
1.7[1.2-2.2]
1.1[0.7-1.4]
0.3[0.2-0.4]
1.0[0.6-1.4]
0.4[0.3-0.6]
クリンダマイシン
8.4[5.1-11.7]
2.8[1.3-4.2]

3.0[1.5-4.6]

テトラサイクリン
2.0[1.3-2.6]
1.2[0.6-1.8]

0.7[0.4-1.0]
0.4[0.2-0.6]
その他
4.0[2.9-5.1]
1.9[1.2-2.7]
1.4[0.8-1.9]
1.7[0.9-2.4]
1.2[0.6-1.8]
(CID 2008;47:735-43)

キノロン系の副作用
(Clinical Infectious Diseases 2005;41:S144–57)(Clinical Infectious Diseases 1999;28:352–64)
(Clinical Infectious Diseases 1999;28:352–64)

FQによる消化管症状
・2-20%で認められるが, 軽症のことが多く, 薬物中断の必要は少ない
 悪心嘔吐, 食欲低下, Dyspepsia, 腹痛, 下痢など. CDIも含まれる.
・FQでの消化管症状の頻度は Fleroxacin, grepafloxacin > torovafloxacin > sparfloxacin, Pefloxacin > ciprofloxiacin, levofloxacin > norfloxacin > enoxacin > ofloxacin.

CNS症状
・1-2%で認められ, 消化管症状に次いで2番目に多い副作用
 頭痛やめまい, ふらつき, 傾眠などが生じる.
・<45歳の女性で多い傾向あり
・投与開始後早期に出現し, 中止と共に改善を認める
・他には幻覚やせん妄, 痙攣などの報告もあり. 
・LVFXはFQの中でもリスクが低い

FQ投与中に精神症状を認めた590例の解析
多い症状は昏迷 51%, 幻覚 27%, 焦燥感 13%, 妄想 12%, 不眠 8%, 傾眠 4%.
(Rev Med Interne. 2006 Jun;27(6):448-52)
・国内からも症例報告されている(日老医誌 1999;36:213-7)

LVFXを高齢者や腎不全患者への使用,CYP450 1A2と競合する薬剤,阻害する薬剤と併用する際には痙攣に注意.
・Literature Reviewでは2009年までに6例報告あり, どれも競合する薬剤が併用されていた.
(Eur J Clin Pharmacol (2009) 65:959962)

FQによる肝障害
・2-3%で生じる. AST, ALTの上昇をきたすことが多い
 通常軽症であり, 薬剤中止と共に改善する

66歳以上で肝障害の既往の無い患者群, 広域抗生剤を使用して30日以内に急性肝障害で入院した群とその群に年齢, 性別をMatchさせた, 同様のAbxを使用し, 肝障害(-)であったControl群を比較.
・Moxifloxacin(アベロックス), LVFX, CPFX, Cefuroxime axetil, Clarithromycinのいずれか
・最終的に抗生剤曝露後の急性肝障害で入院したのは144例. 
 うち88例(61.1%)は入院中に死亡.
・Clarithromycinと比較して, 
 Moxifloxacinは肝炎リスク OR 2.20[1.21-3.98]
 LVFXは OR 1.85[1.01-3.39]と高リスク.
 CPFXとCefuroxime axetilは有意差無しという結果であった
( 2012 Oct 2;184(14):1565-70.)

腎泌尿器系の障害
・FQによる腎障害は稀であるが, 血尿や間質性腎炎, 急性腎不全の報告例はある.
・報告例のほとんどが50歳以上, 特に>65歳が多く, 高齢者では注意
・腎毒性は過敏性反応による機序や直接的に腎毒性を示す機序がある
・FQが尿中に析出するCrystalluriaを呈することもあり. 
 尿中pHが上昇すると析出し, 腎障害を起こすため, FQ投与中の患者では脱水を避ける必要がある点と尿pHを上昇させる治療は避ける(生理的範囲内であればまずCrystalluriaのリスクはない).

高血糖, 低血糖リスク
糖尿病患者で抗生剤を使用した78433名の解析.
・入院, ER受診が必要な高血糖, 低血糖の頻度は以下の通り
・Macrolideと比較して, どれもリスクになる. 
・Moxifloxacinが最もHigh riskとなる.
(Clinical Infectious Diseases 2013;57(7):971–80)

皮膚障害
・FQは稀であるが日光過敏症のリスクとなる
・日光過敏症には2タイプあり,
 Photoallergic reactionは稀で, 薬剤曝露後数日経過して生じる.
 Phototoxic reactionは比較的多く, 初回投与後でも生じる. 薬剤の暴露と反応するのに十分な量の紫外線があれば生じ得る.

過敏性反応
・過敏性反応は0.6-1.4%で認める. 
・紅斑や掻痒感, 蕁麻疹が多い. 他に過敏性血管炎, 血清病, アナフィラキシー.

筋骨格系障害
・関節症はFQ投与例の~1%程度で認められ, 特に下肢関節で多い.
 また患者は<30歳の若い年代で多く, 関節痛や強張り, 関節腫脹を呈する
・腱炎と腱断裂リスクあり. アキレス腱で多い
 関節症と異なり, 腱障害は>50歳の高齢者で多い. 報告例は25-84歳
 ステロイド併用でさらにリスクは上昇する

FQによる腱断裂: Literature reviewにて98 caseを評価 (CID 2003;36:1404-10)
・Pefloxacinによるものが37%で800mg/dが最も多い
 Ciprofloxacinによるものが25.5%で500-2500mg/d
 Norfloxacinは11.2%, 800mg aid
 Levofloxacinは8.2%, Ofloxacinが6.1%
最も多い部位はAchilles腱; 89.8%
 44.3%で両側性, 83.7%でTendinitisを認める
・他の部位は稀だが, 三頭筋腱, 手指屈曲筋腱, 母指屈筋腱, 膝蓋腱, 棘上靭帯, 大腿四頭筋, 肩甲下筋, 肩板の報告がある
投与開始より17.6±19.5Dで生じる
 50%が投与開始から6日以内に発症
 投与後2hr~6moと幅広い

腱断裂の症状, 対応
FQ投与中の突然発症の重度の疼痛, 圧痛, 浮腫, 発赤, 腫脹には注意
・診断は超音波, MRIが良い
FQの中断, 内科的治療が中心. たまに外科治療もFQの減量により症状の改善も認められる
・FQの再開も, 高用量ならば再発も認めるが, 低用量, 他のFQの使用にて投与継続可能との報告もアリ
患者側のRisk Factor
 発症年齢; 59±16yr (28-92yr), M:F = 1.9:1
 ステロイド併用患者での発症が多い傾向
 他は透析, 腎不全, 腎移植, RA, 糖尿病, 痛風, 副甲状腺機能亢進, 甲状腺機能低下, 運動への参加 がリスクとして挙げられる可能性がある

FQによる心血管系障害
・一部のFQではQTc延長リスクがある
 LVFXでは基本的にはないとされている.
・またEMよりも軽度であり, それが原因で不整脈を呈することは稀
・様々な因子が重なり, 不整脈リスクとなる

その他
FQと網膜剥離 (JAMA. 2012;307(13):1414-1419)
カナダにおける989591名のCohort study.
その内網膜剥離を来した4384名と43840名のControl群を比較.
・経口FQのCurrent userは網膜剥離RR 4.50. NNH 2500.
 Recent, Past userは有意差無し
・内服薬ではCPFXが82.7%, LVFX 7.2%, Norfloxacin 4.9%, Moxifloxacin 4.0%, Gatifloxacin 1.1%
 β-Lactam, β-agonistは有意差無し

高齢者ではClCrを意識して, LVFX投与量を決めた方が良い
岐阜市民病院における報告:
 ≥75歳の高齢者でLVFXを使用する際に薬剤師により腎機能を評価し, 適切な投与量に調節するようにマネージメント. (Pharmazie 68: 977–982 (2013) )
・上記介入を行った142例と, 非介入コントロール群98例において, 薬剤の副作用頻度を比較した.
・介入群では, LVFXはClCr≥50で500mg/d, ClCr 20-50で初日500mg, 以後250mg/d, ClCr<20では初日500mg, 以後250mg/2dで継続するように指導, 調節した.

母集団と副作用頻度

・介入群における副作用頻度は4.2%, 非介入群では13.3%と有意に介入群で副作用リスクは低下する.
・副作用にかかる費用の軽減効果も見込める

副作用は
・介入群: 掻痒感2例, 黄疸, 肝障害2例, 下痢
・非介入群: 悪心/嘔吐, 脱力による転倒, 結膜充血, 掻痒感, 下肢の強張り, 幻覚, 紅斑, 下痢, 痙攣など.

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良い薬だからこそ, しっかりと知って, 適応, 量, 期間を考えて使いたいものですね...