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2016年7月25日月曜日

海外渡航前のチェックポイント, 指導ポイント

旅行医学は重要な領域と思います.
NEJMより非常に良いReviewがでました. 個人的にとても勉強になりましたので, 簡単にまとめました. 一部端折っています.

(N Engl J Med 2016;375:247-60.)より

海外旅行を計画している人から相談されたら
・旅行先にもよるが, 旅行者の22-64%が何らかの疾患に罹患する
 その大半が下痢や上気道炎, 皮膚疾患などの軽症例やSelf-limitedな病態であるが, 中には致命的な疾患も含まれる.
・近年旅行前にかかりつけ医に対して, 旅行先の医療情報や, ワクチン接種など, 対応を求めてくる事もあり, 非専門医でもその対応を身につけておくことが重要.
・感染症専門医に対応してもらった方が良いのは, 以下の場合
  感染症リスクが高いアドベンチャー目的の旅行, 
  免疫不全患者,
  慢性疾患がある患者, 
  海外へ長期間の移住を考慮している患者,
  妊婦, 近々に妊娠予定の女性, 
  若年の小児, 
  複雑な旅行日程を立てる場合

旅行前のアセスメントはまず患者のリスク因子と旅行先, 目的を明らかにすること
その後ワクチンや渡航先の感染予防対策を.

リスクの評価方法とその対策



指導で最も多く, 重要なものは節足動物媒介感染症の予防と旅行者下痢症の予防
・虫除けスプレーや, 現地での生ものの摂取, 生水の摂取を避けることなど重要となる.
・これら指導, 教育は平易な言葉で分かりやすく行う事が大事.
・簡単な日本語で文章を作成し, 説明, 配布すると良い.

渡航前のワクチン
・渡航先で流行している感染症とワクチンの推奨はCDCのホームページで検索する.(http://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/list)

ルーチンで推奨されるワクチン
A型肝炎ワクチン: 毎月旅行者5000人に1人の割合で感染する.
 たとえ渡航当日でも, ワクチン接種により94%で抗体陽性となるためどの時期でもよいので接種する事が推奨される.
・B型肝炎ワクチン: 未投与者のみ推奨.
 長期間の滞在や, 現地民との接触が多いとその分感染リスクも増加 
 タトゥーや性交渉, 医療行為, 怪我などあればさらにリスクは高い
・Typhoid, paratyphoid fever(南アジア): Salmonella enterica serovar Typhiは多剤耐性菌が増加しており, ワクチン接種が推奨される.
 これらが流行している地域への渡航ではワクチンを.
 ただし, 予防効果は60-80%程度のみ

旅行先に応じて推奨されるワクチン
・その地域の流行状況でワクチンを考慮する.
 例えば黄熱病は南アメリカ, Sub-Saharan Africaなど.
 CDCのHPでチェックして考慮する.

米国で使用可能なワクチン


マラリアの予防
マラリアの流行地域に渡航する場合はマラリアの予防対策が必要となる

マラリアの予防は虫除けスプレーや長袖服の使用など教育が第一. 
予防投与は抗原虫薬を使用する
予防投与がない状態での感染率は西アフリカ旅行で3.4%/月, Indian subcontinentで0.34%/月, 南アメリカで0.034%/月.
・同じ国でも地域により流行, 非流行があるため, 滞在する地域を調べて対応を考慮.

予防投与の第一選択はatovaquone-proguanil(マラロン配合錠®)
・他薬剤よりも比較的副作用が少なく, 流行地域から離れて7日後に中止可能.
・予防効果はatovaquone-proguanil, ドキシサイクリン, メフロキンで同等

マラリアワクチンはアフリカの小児に対して作られたもので, 旅行者の感染予防としての使用は不適切となる.

他の節足動物媒介感染症の予防
デング熱は流行地域を旅行し, 罹患した患者の2%を占める
・重症例となることは稀.
・近年ワクチンも開発されたが, これは流行地域における使用であり, 旅行者に対する予防目的での使用はまだない.
・また, デング熱に対する有効な抗ウイルス薬もない

他にChikungunya, Zika virus 感染症も重要.
・皮疹, 発熱で発症し, デングに類似している
・流行地域も重なっている部分が多い

旅行者下痢症の予防
旅行者下痢症の定義は, 渡航中, 渡航後7日以内に発症した≥3回/24時間の軟便〜下痢で, 他に1つ以上の症状を伴う場合で定義される.
・多い原因はウイルス性, 細菌性であり, Protozoaは<5%程度
・持続期間は4-5日程度である事が多い.
・旅行前の指導, 注意にもかかわらず, 10-40%は旅行者下痢症を発症

細菌の関与も多い為, 旅行者下痢症の対応は経口補液, 対症療法に加えて抗生剤も考慮される.
・キノロン(LVFX 500mg, CTFX)もしくはアジスロマイシン 1gを1回使用.
 もしくはアジスロマイシン500mgを3日間使用する.
・東南アジアやインド, ネパールではキノロン耐性菌が多い為, アジスロマイシンを使用する.

主な渡航先とワクチン, 感染症予防の推奨


感染症以外の注意点: 

高山病の予防
登山以外に, 車や飛行機で高所に行く場合に生じる.
・急速に高所(2500m)に移動する場合, 25%で高山病を発症
 2800m以上まで急速に上がる場合はほぼ全例で発症する.
・発症を予測するのも難しい.
 予防としては≥2800mの高所に行く旅行者に対してはアセタゾラミド 125mg bidを, 高所にゆく24時間前より開始し, 最大標高に到達するまで継続する

重症例では肺水腫や脳浮腫を生じるが,酸素投与で改善する事が多い
・これらは3500m以上の高所でリスクが上昇するため
 3500m以上を考えている旅行者は専門医にコンサルトを.

血栓症の予防
4時間を超えるフライト後, 1ヶ月におけるVTEの発症率は1/4600. 
・2時間増加するごとにリスクは18%上昇する.
・6時間未満のフライトでは重度の肺塞栓となることは稀.
・予防策としては, 脱水状態を回避すること, 下肢の運動をすること.
 リスクがある患者では, 弾性ストッキングの着用(15-30mmHg)も推奨.
  また, 血栓傾向がある患者やVTE既往がある患者の場合, フライト前と, その24時間後にLWMHを皮下注するのも有用である.
・アスピリンの服用は予防効果はなし.