カルバペネム系抗菌薬はバルプロ酸の吸収, 分布, 代謝に影響し, バルプロ酸の血中濃度を低下させることがわかっている.
・腸管におけるバルプロ酸輸送体を阻害する
イミペネム投与下では経口吸収量は57%低下するラットの報告がある
・胆汁-腸管再吸収も低下する: グルクロン抱合されたバルプロ酸が,腸管の腸内細菌叢が産生するβ-glucuronidaseにより代謝され, 再度50-90%がバルプロ酸として吸収される機構があるが, 抗生剤によりβ-glucuronidaseは低下し, 再吸収機構が障害される
・分布では, 体内のバルプロ酸総量は変わりないものの, カルバペネム系抗菌薬併用下では, 赤血球内のバルプロ酸濃度が上昇し, 有効血中濃度は低下する.
・代謝では, カルバペネムはUDP-glucuronic acidを上昇させることで, バルプロ酸のグルクロン酸抱合を亢進させる.
(Ann Pharmacother. 2009 Dec;43(12):2082-7.)
6例の重症患者でバルプロ酸を使用し, その後カルバペネムを併用した患者群の血中濃度を評価
・血中バルプロ酸濃度はカルバペネム開始前後で58%低下(51.7[28.0-75.4]mg/L → 21.8[11.1-32.5])
・予測バルプロ酸クリアランスは191%上昇する結果(0.0158[0.0041-0.0275]L/h/kg → 0.0302[0.0169-0.0591])
(Drug Metabol Drug Interact. 2009;24(2-4):153-82.)
バルプロ酸とメロペネムを併用した26例を解析.
・後ろ向きに評価した13例と, 前向きに評価した13例を評価
・前向きの評価群では細かく薬物濃度をモニタリングし, それで血中濃度維持が可能かどうかを検討
・併用により, VPA濃度は5-9割低下する.
・カルバペネム中止後再度血中濃度が改善するのは2週間程度かかる
前向き群も後ろ向き群でも, バルプロ酸を有効血中濃度で維持できた症例は無く, モニタリングしても,有効血中濃度達成は困難と考えるべき.
(Neurología. 2012;27(1):34—38)
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敗血症 + てんかん重積の患者の管理とか,
すでにバルプロ酸を使用している患者での抗生剤選択では注意すべきでしょう.
併用によりてんかん重積が増悪したとか, 出現したとかそういう症例報告も過去にはあるようです.