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2016年5月24日火曜日

門脈内ガス Hepatic portal venous gas: HPVG

門脈内ガスは文字取り, 門脈内にガス像を認める病態
(World J Gastroenterol 2009 August 7; 15(29): 3585-3590)(Can J Gastroenterol 2007;21(5):309-313)
・機序としては, 腸管壁でのガス産生, 膿瘍内ガスが門脈へ流入, 門脈内でのガス産生菌の増生の3つが考えられている.
・CT, XP, Echoといった画像検査で検出され, 肝被膜直下 2cm以内にAirを認める場合は門脈ガスである可能性が高い(胆道内ガスは中心部に多い)
  >> 門脈流は中心→末梢, 胆汁流は末梢→中心と逆のため.


・原因としては腸管壊死(72%), UC(8%), 腹腔内膿瘍(6%), SBO(3%), 胃潰瘍(3%)と腸管壊死が多く, その為死亡率も56-90%と高値. 
・ただし, 近年CTが普及してから, 無症候性, 非致死性の原因が増加しているため, 上記頻度は当てにならない. 近年では死亡率25-35%程度と報告あり.

HPVGの原因とその頻度:
(Ulster Med J 2012;81(2):74-78)

HPVGの治療
・治療に関しては以前は手術治療が第一選択であったが, 近年は保存的加療が多く行われる.
・保存的加療で改善しない場合, 腸管虚血がある場合は手術適応.
(Can J Gastroenterol 2007;21(5):309-313)

別のReviewにおける対応アルゴリズム
(Arch Surg. 2009;144(6):575-581)

ポイントは, 
・腸管虚血を見逃さない
・膿瘍や腸閉塞がある場合は要注意
・上記がない場合は経過観察も選択肢となる.

では, 腸管虚血を予測する因子には何があるか?

腸管気腫症, 門脈内ガスの患者において, 腸管虚血を予測するアルゴリズムを作成.
(J Gastrointest Surg (2010) 14:437448)
・単一施設にて最初の4年間で来院した腸管気腫 or HPVG 74例でアルゴリズムを作成, 残り1年間で来院した14名でValidation.
・腸管気腫, HPVGは主に3つのグループに分類される.
 Mechanical 38%, Ischemic 31%, 良性特発性 26%.

機械的機序, 虚血, 良性特発性を評価するアルゴリズム
・バイタルサインが異常ならば安定化させ, 必要に応じて外科手術を考慮
・画像上機械的機序が推測される場合や, 48h以内のGI処置がある場合は機械的機序を考慮し, 対応する.
・上記を満たさない場合, スコアを計算. スコアは以下の要素で計算
 動脈硬化リスク因子, 冠動脈疾患既往, 末梢血管疾患既往, 腸管血流の低下リスク, 血管閉塞, 腹部診察所見, 乳酸値, 小腸の腸管気腫所見
 このスコアが>6点ならば腸管虚血を強く示唆する
 <4点ならば虚血の可能性は低い.
これにより, 感度 89%, 特異度 100%で腸管虚血を診断し得る

HPVGにおける腸管壊死の予測因子
(Surg Today (2015) 45:156–161)
・33例のHPVG症例を後ろ向きに解析.
 14例が腸管壊死(+), 19例が腸管壊死(-)群であった.
・両群を比較したところ, sBP, LDH, 腸管気腫所見が有意な腸管壊死のリスク因子.
これより, 
 sBP≤108mmHg
 LDH >387U/L, 
 腸管気腫所見の3項目中2項目以上で感度100%, 特異度78.9%で腸管壊死を示唆する

ガスの分布と腸管虚血の関連
(European Journal of Radiology 81 (2012) 3862–3869)
47例の門脈, 腸間膜静脈内ガス症例の解析.
・68.1%が腸管虚血に伴うものであり, ガスの分布と虚血との関連性を評価.

ガス分布の評価:

 AV: arcade vessel. 腸管壁から連続
 SV: segmental V, AVから流入
 SMV: 上腸間膜静脈
 PV: 門脈
 肝内門脈 の5部位で評価.

ガスの部位と虚血の予測能
部位
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR-
AV
93.8
70.0
3.13
0.09
SV
65.6
40.6
1.10
0.85
SMV
40.6
90.0
4.06
0.66
PV
15.6
90.0
1.56
0.94
肝内
75.0
20.0
0.9
1.3

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これらをまとめると,
門脈内ガスにおける腸管虚血のリスク因子として,
・病歴: 動脈硬化リスク: 糖尿病, 高血圧, 高脂血症, 喫煙歴
  冠動脈疾患既往, 末梢血管疾患既往歴
・所見: 低血圧やショックバイタル, 腹部所見が強い
・血液検査では乳酸値上昇, LDH上昇
・画像所見では, 大動脈やSMAの石灰化や狭窄所見や
 腸管気腫所見, Arcade vessel内のガス所見, SMV内のガス所見

 といった項目が腸管虚血に関連している可能性が高い.
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ちなみに
ERにおけるHPVGの予後不良因子は?
ERを受診した50例の門脈内ガス症例を評価した後ろ向きStudy
・全体の死亡率は56%であった.
・有意な死亡リスク因子はShock vitalと腸管気腫症所見
 Shockバイタル: OR 17.0[3.4-86.2]
 腸管気腫: OR 5.1[1.0-25.7]
・上記2項目がある場合, 死亡率は84%, 上記が認めない場合は死亡率 0%の結果.
・他, 発熱や消化管症状, 血便, 腹部所見, WBC, CRPなどは有意差なし
(American Journal of Emergency Medicine 32 (2014) 972–975)