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2016年5月21日土曜日

先天性巨大血小板症

先天性巨大血小板症
・先天性の巨大血小板と血小板減少を呈する疾患群であり, 稀であると考えられていたが, ITPと誤診され不要な治療を受けている例も報告されている.
頻度は1/10万以上はあるとされており, 難治性のITPの中にこの疾患が隠れている可能性がある
・血小板減少に加えて, 巨大血小板は機械カウントで血小板として認識されず, さらに少なく算出される. >> 末梢血の目視が非常に重要となる.
(The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 49(3): 382–386, 2012)
(Blood Reviews (2006) 20, 111–121)

先天性の血小板減少症とその血小板の大きさ
血小板は通常1-3µmであり, 赤血球(8µm)の半分未満.
・赤血球の半分〜同等 (4-8µm)が大型血小板
・8µm以上は巨大血小板と呼ぶ
(Blood. 2004;103: 390-398)

A) 正常血小板
B) 巨大血小板
C) 小型血小板
(Blood. 2004;103: 390-398)

先天性巨大血小板症の原因となる疾患
(The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 49(3): 382–386, 2012)

MYH9異常症
MYH9変異は巨大血小板症, 血小板減少の代表的な原因遺伝子異常.
・MYH9遺伝子は非筋ミオシン重鎖IIA蛋白をコードする遺伝子
・May-Hegglin異常, Sebastian症候群, Fechtner症候群, Epstein症候群がある
 May-Hegglin異常は巨大血小板, 血小板減少, および顆粒球封入体を特徴とする代表的な先天性巨大血小板症.
 Sebastian症候群は封入体の形状が異なる.
 Fechtner症候群はAlport症候群を合併する.
 Epstein症候群は封入体を認めず, Alport症候群を合併する
・MYH9異常症は常染色体優性遺伝であるが, 20-30%は孤発性となる
(Blood Reviews (2006) 20, 111–121)(The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 49(3): 382–386, 2012)


May Hegglin異常の末梢像
・巨大血小板とDöhle小体と呼ばれる顆粒球内封入体が認められる

・採血〜塗抹まで時間がかかると封入体は消失〜不明瞭化するため注意が必要

Alport-like syndromeとは,
・腎不全, 難聴, 白内障, 巨大血小板性血小板減少症を呈する疾患群
・WBCの細胞内封入体(Dohle-like body)の有無は問わない.
・代表的な疾患がEPTSとFTNSで, EPTSでは難聴と腎不全, 巨大血小板性血小板減少を伴う.
・FTNSでは白内障, 多核球内封入体を認める.
(Hum Genet (2002) 110 : 182–186)

Bernard-Soulier症候群
巨大血小板性血小板減少症と出血時間の延長, リストセチンによる血小板凝集欠如を特徴とし, 先天性の出血傾向を呈する.
vWF受容体であるGPIb/IX複合体欠損が原因であり, 血小板の粘着 = 一時止血機能が障害される
・血小板機能の低下もあるため, 血小板減少の程度以上に出血傾向は重篤となる.
・診断はフローサイトメトリーによるGPIb/IX発現欠損の同定
(The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 49(3): 382–386, 2012)

先天性巨大血小板症の鑑別フローチャート
(Transfus Med Hemother 2010;37:260–267)

ITPと巨大血小板症の鑑別点
ITPでも大型血小板は認められる.
・しかしながら, 大多数の血小板は正常大である
・一方で先天性巨大血小板症の場合は大多数が大型〜巨大血小板である点が大きく異なる.
(The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 49(3): 382–386, 2012)

113例の先天性血小板減少症, 130例のITP患者における血小板径(MPD), MPVを比較.
・MPVはControl群と比較した(%)で表示
・MYH-9関連疾患, BSSは巨大血小板症となる疾患.
・ITPはControl群よりもやや大きめになる程度.
(British Journal of Haematology, 2013, 162, 112–119)

先天性の血小板減少症患者におけるMPD, MPV
(Blood. 2014;124(6):e4-e10) 

35例の先天性巨大血小板症患者と56例のITP患者において, MPV, MPD(diameter)を評価.
・35例の内訳は, MYH9異常症が15例, Bernard-Soulier症候群 20例
・採血から2時間以内に評価
MPV, MPDの比較
ITPは健常人と比較するとMPVが上昇するもののそれ以上に先天性巨大血小板症では上昇する
MPV >12.4flは感度83%[66-93], 特異度 89%[78-96]
・MPD >3.3µmは感度89%[73-97], 特異度 88%[73-97]で先天性巨大血小板症とITPを鑑別可能

23例の先天性血小板減少症と9例のITPの比較では以下の6項目が先天性血小板減少症を示唆する情報であった
発見時の年齢が34歳未満: PPV 88.2%[63.6-98.5]
・血小板減少の家族歴がある: PPV 100%[82.4-100]
・出血の既往がある: PPV 100%[76.8-100]
・MPV >11flである: PPV 93.3%[68.1-99.8]
・末梢血スメアで巨大血小板が多く認める: PPV 100%[76.8-100]
・電子顕微鏡で血小板の表面積が>4µm2となるものが>44%認める: PPV 83.3%[58.6-96.4]
上記6項目中3項目以上満たせば, 感度 91.3%[72.0-98.9], 特異度100%[66.4-100]で先天性血小板減少症と判断可能.
(Platelets. 2016 Mar 30:1-8. [Epub ahead of print]
A diagnostic approach that may help to discriminate inherited thrombocytopenia from chronic immune thrombocytopenia in adult patients.)