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2016年4月30日土曜日

SMA解離に対するワーファリン

SMA(上腸間膜動脈)解離は稀な疾患と言われてはいるものの,
気づかれていないだけでそれなりの数はあると思われる.

解離に伴う血流低下による腹部アンギナ, 腸管虚血が問題となり,
治療は手術治療やステント, 抗凝固療法が試されるが, 症例数も少なくまとまった報告はない.

単一施設において, 8年間で診断した特発性SMA解離で抗凝固薬で治療を行った52例を解析.
(Medicine 95(16):e3480)
・発症後11日目で48例で症状は改善.
・改善しなかった4例中, 3例は血管内治療, 1例は外科手術を施行された.
・抗凝固薬の投与期間は9ヶ月[3-60]
・出血性副作用は2例のみ.
・血管のリモデリングは41例で認められ, 変化を認めなかったのは7例.

CT血管造影所見の変化
 完全なリモデリングは42%で認められる
I) Entry, re-entryが保たれている
II) re-entryがなく, 盲端となっている
III) 偽腔内血栓閉塞があり, 潰瘍様の造影が認められる
IV) 偽腔内血栓閉塞があり, 潰瘍様の造影が認められない
V) SMAの解離と狭窄を認める
VI) 部分的, 完全閉塞

SMA解離の報告のまとめ
・抗凝固薬で治療を行うのは15-100%, その後腹腔内出血をきたすような報告もなく, 安全に使用は可能と考えられる.


2016年4月26日火曜日

PMRにおけるステロイド反応性

PMR(リウマチ性多発筋痛症)はステロイドが著効する疾患として有名.
ステロイド投与後に速やかに改善すると, やはりPMRだね〜と言ったりすることもある位.

PMR診断基準の会議におけるエキスパートのコンセンサスでも, 「ステロイド反応性良好」という項目の賛同が50%以上あった(J Rheumatol 2008;35:270-7)

しかしながら 「ステロイドは全ての疾患を一時的に改善させる(ように見せる)」薬剤であり, 「著効」というのがどの程度のことなのか, 他の疾患との区別がつくのかはよく分からない.

EULAR/ACRのPMRスコアリングからはその項目は外れている

PMRにおける短期的なステロイドへの反応
何例かの関節炎患者において, ビタミンC , PSL(15mg), ビタミンCを1週間ずつ投与し,
その間症状がどのように変化したかをフォロー (J R Coll Physicians Edinb 2012;42:341-9)

患者はPMR 4例, RA 3例, Capsulitis 2例.
症状の変化は以下通り
・PMRの4例では投与開始翌日〜翌々日には症状が1/10程度まで改善している.
 そして投与終了すると2-3日の経過で再度10/10まで増悪する
・RA患者ではPSL開始すると徐々に症状が改善する経過となる. 投与中止後も徐々に増悪する経過
・Capsulitisではあまり症状の改善は認められていない.

従って, ステロイド投与への反応性を評価する際は, 投与した1-2日での著名な改善を有意と考えるべきであろう.

長期的にはどうか?
PMRにおいてPSLを開始後〜どの程度の期間でどの程度改善するかをまとめたStudyは見つけられず. 幾つかの報告から抽出すると,

・経口ステロイド投与後 3週間後にはESRは正常範囲となる
(British Journal of Rheumatology 1998;37:189–195).
経口PSL投与後〜寛解までの期間は20.3日.
 一方でmPSLを使用した場合, 15.2日と有意に短縮する(PSL 25mg/日, mPSL 20mg/日)
(Rheumatol Int. 2015 Apr;35(4):735-9. )
ステロイド開始から4週以内に73%で臨床的改善が認められた結果.
 臨床的改善とはVASの70%以上の改善で定義
(J Rheumatol. 2012 Apr;39(4):795-803.)

ということから, 大体3-4週間程度で炎症反応が陰性化, 症状の改善, 寛解が認められるのが典型的なのかもしれない.

たまにPMRと診断しても, ステロイドの効きがなかなか遅い患者もおり, その場合はちょっと不安になります. そのような場合はやはり注意した方が良いのかもしれません.

2016年4月22日金曜日

脳梗塞の再発リスク予測

脳梗塞後 90日以内の再発率を評価する再発スコアが以下のURLにて計算可能 (Recurrence risk estimator: RRE)
http://www.nmr.mgh.harvard.edu/RRE/
・MRI所見, TIAや脳梗塞の既往, 脳梗塞のEtiologyからリスクを算出し7日以内の再発率, 90日以内の再発率を評価.
・MRI所見がない場合は臨床所見のみで計算する

RREの成り立ち:
(Neurology® 2010;74:128 –135)
2003年-2006年に受診した発症72h以内の脳梗塞症例1458例において, 90日以内の脳梗塞再発リスク因子を評価.
初期にMRI評価がなされていない症例は201例であった.
・90日以内の再発例は60例.
・再発(-)例 vs 再発例の比較

有意な再発リスク因子を抽出し, スコア化

RRE 和訳

MRI所見あり
点数
MRI未検査
点数
MRI: 時期の異なる脳梗塞が複数認められる
1
脳梗塞の機序: 大血管の動脈硬化性
2
MRI: 他血管支配領域の急性, 亜急性脳梗塞所見あり
1
脳梗塞の機序: 心原性, 大動脈原性の塞栓
2
MRI: 多発性脳梗塞所見
1
脳梗塞の機序: 小血管閉塞
0
MRI: 単一の皮質梗塞所見
1
脳梗塞の機序: 他の原因
3
1ヶ月以内のTIA, 脳卒中の既往がある
1
脳梗塞の機序: 機序不明
1
脳梗塞の機序*
1
1ヶ月以内のTIA, 脳卒中の既往がある
1
* 大血管の動脈硬化, 他の機序(解離など)の場合に1, 他は0点で計算

急性脳梗塞におけるREEと90日以内の再発リスク
・MRI評価の有無にかかわらず, 3点以上では再発リスクが高い.

米国と韓国からのコホートにおいて, 1468例の急性脳梗塞患者でRREスコアを評価.
・RREスコアと90日以内の再発率を評価した.
・母集団のデータ:

90日再発症例は59例
・RRE(MRI+臨床)と再発率は以下のとおり.
・オリジナルStudyよりはリスクは低いものの, 3点以上では10%以上の再発率がある.
・国別の再発率の比較では, 韓国の方が再発率は少ない.

RRE90日以内の脳梗塞再発率のまとめ
RRE
MRI所見あり*
MRI所見あり**
MRI未検査*
0
0.7%[0.0-1.8]
0.8%[0.0-1.6]
1.1%[0.0-3.3]
1
3.9%[1.5-6.3]
3.5%[1.7-5.3]
3.4%[1.5-5.3]
2
4.2%[1.6-6.8]
5.4%[2.7-8.1]
5.9%[3.6-8.1]
3
27.3%[17.8-36.8]
11.9%[6.0-17.8]
19.1%[11.1-27.2]
4-6
38.8%[17.2-60.5]
25.0%[11.7-38.3]
45.3%[6.0-84.6]
*オジリナルのスタディより(Neurology. 2010 Jan 12;74(2):128-35.)

**米国, 韓国のコホートによるValidation(JAMA Neurol. 2016 Apr 1;73(4):396-401.)