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2015年12月29日火曜日

非複雑性の気道感染症における抗生剤投与方法

Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections. A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2016

>18歳の非複雑性呼吸器感染症(急性咽頭炎, 副鼻腔炎, 急性気管支炎, 軽度〜中等度のCOPD急性増悪)で, 抗生剤投与を迷うような症例を対象としたRCT.
抗生剤処方の方法として以下の4つの群に割り付け 症状の変化, 抗生剤使用率, 合併症(肺炎, 膿瘍, 蜂窩織炎)を評価
処方 表記 方法
事前処方群 Patient-led 初回に抗生剤を処方するが, 内服はさせない.
数日で症状が増悪する場合*に抗生剤を使用するように指導
再来指導群 Collection 初回に抗生剤を処方せず,
数日で症状が増悪する場合*に再度来院させ, 抗生剤を処方する
早期開始群 Immediate 初回に抗生剤を処方し, 内服開始する
*
を満たす場合は再度来院するように指導する
非処方群 No Prescription 抗生剤を処方しない.
*
を満たす場合は再度来院するように指導する
* 咽頭炎で5日間、他で10日間、症状が改善しない場合

母集団のデータ:
 患者の大半が咽頭炎と気管支炎
 COPDは2%しかない.

アウトカム
症状の持続期間
 早期抗生剤使用群では症状の持続期間も最も短くなる.
 特に全身倦怠感や全身の疼痛がある場合, 抗生剤投与群の方が有意に持続期間が短縮刺される.
 副鼻腔炎や咽頭炎において, 頭痛がある場合も症状の持続期間の短縮効果は高い.

症状の程度の変化
 症状は〜6ptの点数で評価. ptが高いほど症状も強い.
 症状の重症度は抗生剤の投与方法により大きな差はない.

二次アウトカム
 症状が増悪する場合に抗生剤を使用する群(Collection, Patient-led)では大体 1/4~1/3で抗生剤を使用する結果となっている.
 どの群でも合併症に有意差はない.

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気道症状があり, 抗生剤どうしようかなぁ、と思う患者を投与方法別に比較した,
日常診療に一石を投じてくれそうなRCT.

個人的に, 副鼻腔炎や咽頭炎(扁桃炎)で頭痛が強い患者では抗生剤処方の閾値を下げていることが実は多い. 
全身痛がある患者ではどうかというと, 今の季節はインフルもあるので, それで閾値は下げていない.
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以下は私見です.

基本的に上気道炎や気管支炎、副鼻腔炎はウイルス性が多く, ウイルス性にはどのような抗生剤を使おうが、効果はない.
 それどころか, 抗生剤の副作用により害をうけるリスクがでてくる.

医療者としては, 基本的にはそのような患者には抗生剤は使用しない.
 ただし, 中には細菌が関与したものも紛れており, その患者では抗生剤を使用する利益がある.

ではどの患者で, どのように抗生剤を使用すれば, 不利益 < 利益となるのか. 
それが永遠のテーマでもある.

不利益は, 抗生剤による副作用, コスト, 使用することによる耐性菌リスクの増加が挙げられる.
・日本では保険制度が優秀のため, このコストというのはあまり重要視されない. 結局1-3割負担であり, 小児に至っては無料である.
・耐性菌もすぐに生じるリスクではなく, 自分の子供や孫の世代で影響する話であり, 実感として得られにくい.
・結果として, 不利益として患者側が実感できるのは副作用程度である.

利益は, 抗生剤を投与することで, 合併症(肺炎や病状の増悪)の予防ができたり, 治癒期間を早めたり, 死亡を回避したりというところである.
・利益は病状、患者の症状に関わるものが大半であり, 実感しやすい.
 これが抗生剤を要求する患者が多いことにつながっているのであろうと思う.

このRCTの結果より, 抗生剤を投与すべきかどうかという点については以下のことが言える

利益に関すること
・抗生剤を投与すれば症状の改善期間は短縮される.

不利益に関すること
・抗生剤と投与しても, 合併症や死亡のリスク低下効果はない.
・副作用は有意差はないものの, 各群100例前後であり, 副作用の評価には向いていない.
・コストや耐性菌については考慮されていない.

不利益の評価が不十分なので, この患者群において, 抗生剤の利益 と 不利益のどちらが高いかという点に関しては, このStudyでは判断はできません. というかそれが目的ではない.

このStudyで重要なことは, 抗生剤の投与方法を調節することで, 抗生剤の使用率を減らし, 且つ症状改善期間の短縮効果も期待出来るということ.
・投与方法の調節方法が,
 ①前もって抗生剤を処方し, 改善がない場合に使用するように指導する方法
 ②処方せずに改善がない場合に改めて処方する方法 である.

 これらの使い分けは, 患者が指示を守れるかどうか, 再度受診ができるかどうかという点.

 あまり頻回に受診ができない, 忙しいという患者では①が良いかもしれない. ただし, 指示が守れず, 結局抗生剤をすぐに使用してしまうというリスクもある.
 確実なのは②であるが, 頻回の受診が困難であるという患者もいる.

 その点を患者の背景に応じて使い分けるのが良いと思う.

2015年12月27日日曜日

骨髄穿刺、吸引中の疼痛

J Pain Symptom Manage 2003;26:860–866. 2003

骨髄穿刺を行う132例において, 疼痛を評価.
全例で2%キシロカインで局所麻酔を行っている.
・疼痛はVASで評価し, 31-54mmで中等度, ≥55mmで重度の疼痛と判断
アウトカム
・骨髄穿刺中に疼痛を自覚したのは84.1%, 疼痛VAS 27.2±2.1mm
 VAS <30mmが64.4%,
 VAS 30-54mmが19.7%
 VAS ≥55mmが15.9%
 手技の10分後はに疼痛を自覚したのは9.1%でその全例がVAS<30mm程度

疼痛に関連する因子は,
 若年, 手技に時間がかかる, 骨髄穿刺の経験が少ないほど, 疼痛は強くなる.

さらに, 骨髄穿刺を行う100例において, 手技の1時間以上前にトラマドール50mg vs Placebo内服群に割り付け, 疼痛を比較したRCT.
疼痛VASの比較では, 局所麻酔中, 穿刺時の疼痛に差はないが骨髄吸引中の疼痛は有意にトラマドール使用中の患者で低い結果.

2015年12月25日金曜日

非HIV患者のカリニ肺炎の原因疾患

Pneumocystis jiroveciによる肺炎.
以前はPneumocystis cariniiと呼ばれていたので, 未だカリニ肺炎(PCP)と呼ばれることが多い.

主にはHIV患者や, 長期間のステロイド, 免疫抑制剤, リツキシマブなどの使用がリスクとなり, このような群ではカリニ肺炎の予防投与が推奨される.

カリニ肺炎の予防投与の適応
・HIV患者ではCD4+ T細胞 <200/µLで推奨される
 ただし, 適切な予防をされても20%で発症するといわれている.
 特にCD4+ T細胞 <50/µLでは高リスクとなる
HIV患者における予防投与適応のまとめ
10, 成人例のHIV
CD4+ T cell <200µL
2wk
以上持続する原因不明の発熱
口咽頭カンジダ症の既往
Viral titer
の急激な上昇
CD4+ T cell
数の急激な低下
<11moの小児HIV症例
CD4+ T cell<1500/µL
1-5yの小児HIV症例
CD4+ T cell<1000/µL
>5yの小児HIV症例
CD4+ T cell<500/µL
全小児例
CD4+ T cell数が24%以下
(Arch Pathol Lab Med. 2004;128:1023–1027)(ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY 1998;42:995–1004)

・非HIV患者における予防投与の適応は明確なルールはない.
 化学療法や放射線療法で免疫抑制となる患者や,
  PSL 20mg/dを4wk, 報告によっては3-6mo以上継続する患者, 
 臓器移植後6mo以内, 
 好中球減少症患者が高リスク群となり, 予防を考慮する.
(Arch Pathol Lab Med. 2004;128:1023–1027)(ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY 1998;42:995–1004)

厚生労働省免疫疾患の合併症と治療法に関する研究班によるPCP一次予防投与基準(2004)
以下の場合に予防的投与を考慮すべきとされる
年齢50歳以上でかつ以下のいずれかを満たす
 ① PSL換算 1.2mg/kg/日以上
 ② PSL換算 0.8mg/kg/日以上と免疫抑制剤併用
 ③ 免疫抑制剤使用中末梢血Ly ≤500/µL
しかしながら, 上記基準の感度は低く(75%程度) 十分とは言えない.
(Nihon Rinsho Meneki Gakkai Kaishi. 2009 Aug;32(4):256-62.)

HIV陰性例のカリニ肺炎では, どのような疾患背景が多いのか?
HIV陰性のカリニ肺炎 154例の解析
背景疾患

 もっとも多いのは血液悪性腫瘍で, NHL, CLL, 急性白血病, 骨髄移植, 多発性骨髄腫など
 ついで固型腫瘍, 炎症性疾患(血管炎も含むと2番目に多い原因), 臓器移植後

各疾患の頻度を考慮した疾患毎のカリニ肺炎のリスク
 特に多いのがPN, GCAで, そのあとに血液悪性腫瘍で多い.
疾患毎のリスク(OR)
(The American Journal of Medicine (2014) 127,1242.e11-1242.e17 )

HIV陰性のカリニ肺炎 116例の解析
(Mayo Clin Proc 1996;71:5-13)

血液悪性疾患に合併するカリニ肺炎の解析
60例のHIV陰性, 血液悪性腫瘍に合併したPCP症例の解析
 非ホジキンリンパ腫が18例(30%),
 慢性リンパ急性白血病が13例(21.7%)
 急性白血病 10例(16.6%)
 多発性骨髄腫 5例(8.3%)
 Waldenstrom病 4例(6.6%)
 慢性骨髄性白血病 4例(6.6%)
 骨髄異形成症候群 3例(5%)
 ホジキン病 2例(3.3%)
 血小板減少 1例
化学療法中が81.7%, 長期間のステロイドが41.7%, 骨髄移植後が25%
(Journal of Infection (2003) 47, 19–27)

52例のHIV陰性, 血液悪性腫瘍に合併したPCP症例の解析

各血液疾患と治療内容
血液悪性疾患でPCPを合併する症例はそのほとんどが化学療法や移植, 維持療法を行っている患者群である.
治療されていない患者でPCPを発症したのは4例のみであり, その内訳はNHL, MDS, 骨髄線維症のみ.
(British Journal of Haematology, 2002, 117, 379–386)

2015年12月24日木曜日

Shock Indexと死亡リスク

Shock Index. おそらく, バイタルをチェックする際に、ほぼ無意識に計算, チェックしていると(思われる)もの.

Shock Index(SI) = 心拍数 (bpm) / 収縮期血圧(mmHg)で計算され,
健常人では0.5-0.7となることが大半.

これが1を超えると, 少なくとも1Lの出血があるであろうとか言われる. 

元々は外傷患者や出血患者において, 予後と相関するとされているが, 内科的な重症疾患患者や敗血症患者でも有用との報告もある.

敗血症患者におけるShock Index

重症敗血症でERを受診した2524例のRetrospective study.
・28日死亡率は14%.
SIと乳酸値上昇, 28日死亡の関連を見ると
青: 高乳酸血症, 赤: 28日死亡率
・SI≥1.0では有意に高乳酸血症, 死亡リスクが高い
 SI≥1.0では28日死亡率 23.3%, ≥0.7では16.7%, <0.7では10.7%となる.
・SIRSクライテリアと同等かそれ以上の予測能が期待できる
[West J Emerg Med 2013;14(2):168-174.] 
 ERにおけるSI上昇と, その後(≤72h)の循環動態破綻の関連を評価したRetrospective study.
・SIRSクライテリアを2項目異常満たす感染症患者で且つ1つ異常の臓器不全を認める患者を対象(重症敗血症)
 臓器不全: sBP<90mmHg, Lac≥2.0mmol/mL, pH<7.35, HCO3<21mg/dL, 意識障害, PLT<15万, Bil>1.2mg/dL, 凝固障害, AKI, 低酸素など
・ERにてSIを評価し, ER管理中の80%以上でSI≥0.8を満たす場合は持続性SI高値群
 それ以外の場合を一過性SI高値群とし, その後の循環動態破綻リスクを比較.

ER管理中のSI≥0.8状態が持続する割合と, その後の昇圧剤開始率
295例中, 140例が持続性SI高値群であり, 
 そのうち38.6%が72h時間以内に昇圧剤を必要とした. 
 一方で非持続性SI高値群では11.6%, OR 4.4[2.28-8.55]


持続性SI高値群と非持続性SI高値群の比較
呼吸数は有意差がない.
 SIはより早期に異常がでるバイタルサインなのかもしれない.
[West J Emerg Med. 2014;15(1):60–66.]

年齢やDM, 高血圧, 降圧薬はSIに影響するか?
1995-2011年にERを受診した111019例を後ろ向きに解析.
・Shock Indexと, 30日以内死亡率を評価.
・また, 年齢(65歳未満, 以上), 糖尿病の有無, 高血圧の有無, β阻害薬やCCBの使用の有無などがSIに影響するかどうかも評価.
・患者群の受診理由は,
 外傷 41%, その他 21%, 心血管系疾患 9%, 神経疾患 8%, 消化管/泌尿器 7%, 呼吸器 5%, 感染症 4%, 精神疾患 2%, 筋骨格系 2%, 代謝性疾患 2%.
・30日死亡率は3.0%であった.

SIは<0.7をReferenceとして, 0.7-1.0, ≥1.0を評価.
SIと28日死亡リスク
・SI ≥0.7, 特に≥1.0は有意な死亡リスク因子となる.
・年齢やDM, HT, 降圧薬があっても解釈は同じで良い.
[Ann Emerg Med. 2016;67:106-113.] 

SI≥1.0にばかり目がいきそうであるが, SI≥0.8くらいをカットオフとすれば, Shock Indexは初期から異常となるバイタルサインと言える. もしかしたら呼吸数よりも早いかもしれない.

2015年12月23日水曜日

軽症頭部外傷における頭蓋内損傷を予測する病歴, 所見(JAMA rational clinical examination)

JAMA. 2015;314(24):2672-2681. 

JAMAのRational clinical examinationより,
成人例の軽症頭部外傷(GCS 13-15)における, 頭蓋内病変を予測する病歴, 所見を評価したMeta-analysis
23079例中, 重度の頭蓋内損傷は7.1%[6.8-7.4]
 死亡や脳外科手術を必要とした症例は0.9%[0.78-1.0]
・重度の頭蓋内損傷を示唆する病歴/所見は
  2回以上の嘔吐, 外傷後の痙攣, 前向性健忘
 頭蓋骨骨折所見, GCS 13, 神経局所症状が挙げられる

病歴, 所見の感度, 特異度, LR

頭蓋骨骨折所見は
 Battle sign, 髄液耳漏, 鼓室内出血, Raccoon eyesがある

各予測ルールの感度/特異度
 予測ルールは感度は良好であるが, 特異性は低い.
 ルールアウト目的のルールである.

上記を踏まえた, 頭部外傷患者診療のフローチャート


胸膜着術に使用するチューブの大きさ、鎮痛剤のRCT

JAMA. 2015;314(24):2641-2653. 
胸膜癒着術において, NSAIDは成功率を低下させるとの指摘があり, またチューブサイズは小さい方が疼痛が少ないとされているが, 実際のところは不明.

TIME I trial : 癌性胸膜炎で, 胸膜癒着が必要とする患者群を対象としたRCT
 症候性の悪性胸水貯留があり, 癒着術を予定されている患者群 320例
 そのうち, 
・胸腔鏡を施行された206例において, 24Fの胸腔ドレーンを留置し, NSAID群 vs Opioid群に割り付け,
・胸腔鏡を行わなかった114例において, 以下の4群に割り付け
 24Fチューブ + Opioid群(モルヒネ 10-20mg x 4回/日)
 24Fチューブ + NSAID群(イブプロフェン800mg x 3回/日)
 12Fチューブ + Opioid群
 12Fチューブ + NSAID群
・チューブ留置中の疼痛(VAS)と, 3ヶ月後の癒着術成功率を比較した. 
・全患者でアセトアミノフェン 4g/dを併用している

母集団データ

アウトカム
・チューブ留置中の疼痛は有意に12Fチューブの方が少ない結果.
 NSAIDとOpioidで有意差はないが, レスキュー使用頻度はよりNSAID群で多い(38.1% vs 26.3%, RR2.1[1.3-3.4])
・3ヶ月後の胸膜癒着術成功率は, チューブのサイズ, NSAID, Opioidの使用で差はない結果

二次アウトカム

胸膜癒着の鎮痛剤ではNSAIDは避けるべきと言われてはいるが, 効果には差はなさそう.
チューブは細いので十分. でもたまにドレナージがうまく行かないこともある...

2015年12月19日土曜日

褐色細胞腫のスクリーニング

褐色細胞腫は二次性高血圧の原因として重要.
また、副腎の偶発腫瘍を認め場合も評価が必要となる.

褐色細胞腫のスクリーニング適応は以下のとおり
若年者の高血圧
MI, Stroke, 高血圧性腎症を伴う高血圧症
以下の特徴を認める高血圧
 
再発性のクライシス
 
変動が激しい血圧
 
起立性低血圧
 
心筋症を伴う
 
体重減少
 Neurocutaneous fibroma
高血圧を認めないが, 臨床的に褐色細胞腫が疑わしい
以下の家族歴を認める
 Pheochromocytoma, Paraganglioma
 Von Hippel-Lindau disease
 Multiple endocrine neoplasia type 2
 Medullary thyroid carcinoma
 Neurofibromatosisi type 1 (Recklinghausen’s disease)
画像検査にて副腎腫瘍を認める場合
The American Journal of Surgery 2011;201:693-701

ということで, 日常診療においても, 結構スクリーニングをする機会はある
しかしながら, このスクリーニング検査が結構厄介なのである.

褐色細胞腫のスクリーニング検査
褐色細胞腫 24例, アルドステロン分泌腫瘍 17例,コルチゾール分泌腫瘍 21例, 非機能性腺腫 30例,本態性HT 16例, 健常人 42例において,血液検査, 24時間蓄尿による評価を施行(prospective) (Eur J Endocrinol. 2006 Mar;154(3):409-17.)
各検査結果

褐色細胞腫
コルチゾール分泌腫瘍
アルドステロン分泌腫瘍
非機能性腺腫
本態性HT
健常人
血清E
(pg/mL)
10.0
[10-1780]
10.0
[10-68]
10
[10-21]
10.0
[10-33]
10.0
[10-10]
30.5
[10-118]
血清NE
(pg/mL)
378.5
[10-10000]
104.0
[10-924]
27.0
[10-591]
98.5
[10-856]
10.0
[10-399]
292.5
[10-604]
血清MN
(pg/mL)
103.5
[10-1971]
21.0
[10-263]
19.0
[10-73]
15.5
[10-104]
22.5
[10-125]
16.5
[10-51]
血清NMN
(pg/mL)
296.0
[46-8500]
54.0
[23-163]
53.0
[27-146]
57.5
[15-106]
38.0
[17-108]
30.5
[14-88]
尿E
(µg/d)
7.4
[1-469.0]
1.5
[1-6.6]
2.1
[1-6.4]
1.0
[1-100.0]
4.7
[1-13.7]
6.2
[1-13.3]
尿NE
(µg/d)
112.6
[29.6-1000]
32.2
[1.0-83.0]
45.8
[5.0-94.6]
32.2
[6.3-128.7]
42.8
[1.0-84.9]
33.8
[17.7-63.4]
尿MN
(µg/d)
246
[30-5040]
74.5
[37-116]
67.0
[28-188]
50.0
[13-300]
85.5
[14-266]
70.2
[11-130]
尿NMN
(µg/d)
1040
[224-4466]
269.2
[92-813]
163.0
[29-516]
141.0
[38-596]
200.0
[26-396]
193.2
[48-747]
E=エピネフリン, NE: ノルエピネフリン, MN=メタネフリン, NMN=ノルメタネフリン

褐色細胞腫に対する, 血液検査, 尿検査のカットオフと感度, 特異度
血液検査
検査
カットオフ
感度
特異度
LR+
LR-
血清E
24.5 pg/mL
40.0%[19.1-64.0]
88.7%[78.1-95.3]
3.54
0.70

56.0 pg/mL
30.0%[11.9-54.3]
>95%
6.2
0.74
血清NE
219.5 pg/mL
60.0%[36.1-80.9]
72.6%[59.8-83.1]
2.19
0.59

674.5 pg/mL
35.0%[15.4-59.2]
>95%
7.23
0.68
血清MN
38.0 pg/mL
70.8%[48.9-87.4]
79.4%[67.9-88.3]
3.44
0.29

92.0 pg/mL
54.2%[32.8-74.5]
>95%
12.28
0.48
血清NMN
86.0 pg/mL
>95%
77.9%[66.2-87.1]
4.34
0.05

125.5 pg/mL
91.7%[73.0-100]
95.6%[87.6-99.1]
20.78
0.08

尿検査
尿検査
カットオフ
感度
特異度
LR+
LR-
E
2.5 µg/d
73.3%[45.0-92.2]
64.2%[49.8-76.9]
2.05
0.39

7.0 µg/d
53.3%[26.6-78.7]
>95%
14.13
0.49
NE
27.9 µg/d
>95%
35.9%[23.1-50.2]
1.56
0

68.1 µg/d
73.3%[44.9-82.2]
84.9%[72.4-93.3]
4.86
0.32

101.5 µg/d
60.0%[32.3-83.7]
>95%
15.90
0.42
MN
29.5 µg/d
>95%
9.6%[3.2-21.0]
1.11
0

110.7 µg/d
80.0%[51.9-95.7]
82.7%[69.7-91.8]
4.62
0.30

191.0 µg/d
60.0%[32.3-83.7]
>95%
15.60
0.42
NMN
221.5 µg/d
>95%
59.6%[45.1-73.0]
2.48
0

436.5 µg/d
93.3%[68.1-99.8]
86.5%[74.2-94.4]
6.93
0.07

633.5 µg/d
80.0%[51.9-95.7]
>95%
20.80
0.21

これらの結果から,
 血液中エピネフリン, ノルエピネフリン値の感度は低く, 除外には向かないことがわかる.
 検査するならば血液中メタネフリン, ノルメタネフリン値,
 24時間蓄尿 メタネフリン, ノルメタネフリン値が診断, 除外に有用と言える.


外来で24時間蓄尿をするのは正直結構ハードルが高いため,
スクリーニングとしては血中メタネフリン, ノルメタネフリンがベストと言える.

がしかし, 現在国内では血中遊離メタネフリン, ノルメタネフリンの測定はできない. 臨床研究段階である.

となると, もう24時間蓄尿を行うしかない....
随時尿でどうにかできないものか?

随時尿によるメタネフリン, ノルメタネフリンの評価
メタネフリンやノルメタネフリンはカテコラミンの代謝産物であり, 尿中のメタネフリン排泄は比較的一定していると言われている.

・高血圧患者において, 随時尿における 尿中メタネフリン/クレアチニン比を評価すると, 0.351±0.356µg/mg Crであった. (Arch Intern Med. 1977 Feb;137(2):190-3.)

・日本国内における健常人の随時尿中のメタネフリン, ノルメタネフリンを評価すると,
 メタネフリン 0.125±0.037µg/mg Cr
 ノルメタネフリン 0.198±0.047µg/mg Crであった (Nihon Naibunpi Gakkai Zasshi. 1988 Aug 20;64(8):707-16.)

82例の褐色細胞腫患者において, 3時間毎に尿中NM, M濃度を評価(日本国内のStudy).
(World J Surg. 1998 Jul;22(7):684-8.)
・3時間毎の尿検査ではNM, M濃度は一定しており, 24時間蓄尿と比較してもNM 98.5±9.6%, M 97.6±10.8%で一致していた
・褐色細胞腫患者における尿中NM, M値は,
 NM 6.8[0.093-88.25] µg/mg Cr, 
 M  5.6[0.22-31.53] µg/mg Crと高く, 
・一方Incidentalomaでは,
 NM 0.12[0.036-0.25] µg/mg Cr
 M 0.25[0.084-0.47] µg/mg Cr と有意に低い結果.
・褐色細胞腫とIncidentalomaの鑑別において, 
 尿中NM + M値が≥1.0µg/mg Crならば, 感度 97.6%, 特異度 100%
 NMもしくはMのどちらかが ≥0.5µg/mg Crならば感度 100%, 特異度 100%で褐色細胞腫を示唆する.

メタネフリン/クレアチニン比ではなく, 1時間蓄尿ではどうか?
健常人30例, 本態性高血圧 40例, 褐色細胞腫が疑われたがその後除外された30例(疑い症例), 褐色細胞腫が証明された31例において, 尿中ノルメタネフリン(NM), メタネフリン(M)を評価(日本国内での研究).
・NM, Mは1時間蓄尿による評価と, 24時間蓄尿による評価を施行.
・1時間蓄尿の時間帯はランダムで行われている

検査結果
µg

NE
E
NMN
MN
24時間蓄尿
健常人
26.6±10.5
3.37±1.98
172.2±54.4
96.3±33.1

本態性HT
26.4±9.1
4.85±2.11
180.2±74.4
114.0±47.5

褐色細胞種疑い
28.9±11.7
6.43±4.54
232.6±86.8
128.2±47.3

褐色細胞腫
729.4±696.8
235.5±371.6
3358.6±2544.9
1858.8±2262.3
1時間蓄尿
健常人
1.49±0.7
0.46±0.40
9.18±5.05
6.45±3.14

本態性HT
1.40±0.76
0.42±0.31
8.74±4.60
6.29±2.94

褐色細胞腫
25.9±27.4
9.0±12.1
161.2±149.8
170.8±298.6

・1時間蓄尿と24時間蓄尿の一致率は
 NE(γ=0.79), E(γ=0.90), NM(γ=0.81), M(γ=0.65)と良好.

随時尿におけるメタネフリン/Cr比もしくは, 1時間蓄尿における評価ならば外来で簡便にできるスクリーニング検査であり, まずそこから始めるのも手である.
(そのうち血中遊離メタネフリンが評価できるようになれば不必要となる知識かもしれない)