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2015年12月19日土曜日

褐色細胞腫のスクリーニング

褐色細胞腫は二次性高血圧の原因として重要.
また、副腎の偶発腫瘍を認め場合も評価が必要となる.

褐色細胞腫のスクリーニング適応は以下のとおり
若年者の高血圧
MI, Stroke, 高血圧性腎症を伴う高血圧症
以下の特徴を認める高血圧
 
再発性のクライシス
 
変動が激しい血圧
 
起立性低血圧
 
心筋症を伴う
 
体重減少
 Neurocutaneous fibroma
高血圧を認めないが, 臨床的に褐色細胞腫が疑わしい
以下の家族歴を認める
 Pheochromocytoma, Paraganglioma
 Von Hippel-Lindau disease
 Multiple endocrine neoplasia type 2
 Medullary thyroid carcinoma
 Neurofibromatosisi type 1 (Recklinghausen’s disease)
画像検査にて副腎腫瘍を認める場合
The American Journal of Surgery 2011;201:693-701

ということで, 日常診療においても, 結構スクリーニングをする機会はある
しかしながら, このスクリーニング検査が結構厄介なのである.

褐色細胞腫のスクリーニング検査
褐色細胞腫 24例, アルドステロン分泌腫瘍 17例,コルチゾール分泌腫瘍 21例, 非機能性腺腫 30例,本態性HT 16例, 健常人 42例において,血液検査, 24時間蓄尿による評価を施行(prospective) (Eur J Endocrinol. 2006 Mar;154(3):409-17.)
各検査結果

褐色細胞腫
コルチゾール分泌腫瘍
アルドステロン分泌腫瘍
非機能性腺腫
本態性HT
健常人
血清E
(pg/mL)
10.0
[10-1780]
10.0
[10-68]
10
[10-21]
10.0
[10-33]
10.0
[10-10]
30.5
[10-118]
血清NE
(pg/mL)
378.5
[10-10000]
104.0
[10-924]
27.0
[10-591]
98.5
[10-856]
10.0
[10-399]
292.5
[10-604]
血清MN
(pg/mL)
103.5
[10-1971]
21.0
[10-263]
19.0
[10-73]
15.5
[10-104]
22.5
[10-125]
16.5
[10-51]
血清NMN
(pg/mL)
296.0
[46-8500]
54.0
[23-163]
53.0
[27-146]
57.5
[15-106]
38.0
[17-108]
30.5
[14-88]
尿E
(µg/d)
7.4
[1-469.0]
1.5
[1-6.6]
2.1
[1-6.4]
1.0
[1-100.0]
4.7
[1-13.7]
6.2
[1-13.3]
尿NE
(µg/d)
112.6
[29.6-1000]
32.2
[1.0-83.0]
45.8
[5.0-94.6]
32.2
[6.3-128.7]
42.8
[1.0-84.9]
33.8
[17.7-63.4]
尿MN
(µg/d)
246
[30-5040]
74.5
[37-116]
67.0
[28-188]
50.0
[13-300]
85.5
[14-266]
70.2
[11-130]
尿NMN
(µg/d)
1040
[224-4466]
269.2
[92-813]
163.0
[29-516]
141.0
[38-596]
200.0
[26-396]
193.2
[48-747]
E=エピネフリン, NE: ノルエピネフリン, MN=メタネフリン, NMN=ノルメタネフリン

褐色細胞腫に対する, 血液検査, 尿検査のカットオフと感度, 特異度
血液検査
検査
カットオフ
感度
特異度
LR+
LR-
血清E
24.5 pg/mL
40.0%[19.1-64.0]
88.7%[78.1-95.3]
3.54
0.70

56.0 pg/mL
30.0%[11.9-54.3]
>95%
6.2
0.74
血清NE
219.5 pg/mL
60.0%[36.1-80.9]
72.6%[59.8-83.1]
2.19
0.59

674.5 pg/mL
35.0%[15.4-59.2]
>95%
7.23
0.68
血清MN
38.0 pg/mL
70.8%[48.9-87.4]
79.4%[67.9-88.3]
3.44
0.29

92.0 pg/mL
54.2%[32.8-74.5]
>95%
12.28
0.48
血清NMN
86.0 pg/mL
>95%
77.9%[66.2-87.1]
4.34
0.05

125.5 pg/mL
91.7%[73.0-100]
95.6%[87.6-99.1]
20.78
0.08

尿検査
尿検査
カットオフ
感度
特異度
LR+
LR-
E
2.5 µg/d
73.3%[45.0-92.2]
64.2%[49.8-76.9]
2.05
0.39

7.0 µg/d
53.3%[26.6-78.7]
>95%
14.13
0.49
NE
27.9 µg/d
>95%
35.9%[23.1-50.2]
1.56
0

68.1 µg/d
73.3%[44.9-82.2]
84.9%[72.4-93.3]
4.86
0.32

101.5 µg/d
60.0%[32.3-83.7]
>95%
15.90
0.42
MN
29.5 µg/d
>95%
9.6%[3.2-21.0]
1.11
0

110.7 µg/d
80.0%[51.9-95.7]
82.7%[69.7-91.8]
4.62
0.30

191.0 µg/d
60.0%[32.3-83.7]
>95%
15.60
0.42
NMN
221.5 µg/d
>95%
59.6%[45.1-73.0]
2.48
0

436.5 µg/d
93.3%[68.1-99.8]
86.5%[74.2-94.4]
6.93
0.07

633.5 µg/d
80.0%[51.9-95.7]
>95%
20.80
0.21

これらの結果から,
 血液中エピネフリン, ノルエピネフリン値の感度は低く, 除外には向かないことがわかる.
 検査するならば血液中メタネフリン, ノルメタネフリン値,
 24時間蓄尿 メタネフリン, ノルメタネフリン値が診断, 除外に有用と言える.


外来で24時間蓄尿をするのは正直結構ハードルが高いため,
スクリーニングとしては血中メタネフリン, ノルメタネフリンがベストと言える.

がしかし, 現在国内では血中遊離メタネフリン, ノルメタネフリンの測定はできない. 臨床研究段階である.

となると, もう24時間蓄尿を行うしかない....
随時尿でどうにかできないものか?

随時尿によるメタネフリン, ノルメタネフリンの評価
メタネフリンやノルメタネフリンはカテコラミンの代謝産物であり, 尿中のメタネフリン排泄は比較的一定していると言われている.

・高血圧患者において, 随時尿における 尿中メタネフリン/クレアチニン比を評価すると, 0.351±0.356µg/mg Crであった. (Arch Intern Med. 1977 Feb;137(2):190-3.)

・日本国内における健常人の随時尿中のメタネフリン, ノルメタネフリンを評価すると,
 メタネフリン 0.125±0.037µg/mg Cr
 ノルメタネフリン 0.198±0.047µg/mg Crであった (Nihon Naibunpi Gakkai Zasshi. 1988 Aug 20;64(8):707-16.)

82例の褐色細胞腫患者において, 3時間毎に尿中NM, M濃度を評価(日本国内のStudy).
(World J Surg. 1998 Jul;22(7):684-8.)
・3時間毎の尿検査ではNM, M濃度は一定しており, 24時間蓄尿と比較してもNM 98.5±9.6%, M 97.6±10.8%で一致していた
・褐色細胞腫患者における尿中NM, M値は,
 NM 6.8[0.093-88.25] µg/mg Cr, 
 M  5.6[0.22-31.53] µg/mg Crと高く, 
・一方Incidentalomaでは,
 NM 0.12[0.036-0.25] µg/mg Cr
 M 0.25[0.084-0.47] µg/mg Cr と有意に低い結果.
・褐色細胞腫とIncidentalomaの鑑別において, 
 尿中NM + M値が≥1.0µg/mg Crならば, 感度 97.6%, 特異度 100%
 NMもしくはMのどちらかが ≥0.5µg/mg Crならば感度 100%, 特異度 100%で褐色細胞腫を示唆する.

メタネフリン/クレアチニン比ではなく, 1時間蓄尿ではどうか?
健常人30例, 本態性高血圧 40例, 褐色細胞腫が疑われたがその後除外された30例(疑い症例), 褐色細胞腫が証明された31例において, 尿中ノルメタネフリン(NM), メタネフリン(M)を評価(日本国内での研究).
・NM, Mは1時間蓄尿による評価と, 24時間蓄尿による評価を施行.
・1時間蓄尿の時間帯はランダムで行われている

検査結果
µg

NE
E
NMN
MN
24時間蓄尿
健常人
26.6±10.5
3.37±1.98
172.2±54.4
96.3±33.1

本態性HT
26.4±9.1
4.85±2.11
180.2±74.4
114.0±47.5

褐色細胞種疑い
28.9±11.7
6.43±4.54
232.6±86.8
128.2±47.3

褐色細胞腫
729.4±696.8
235.5±371.6
3358.6±2544.9
1858.8±2262.3
1時間蓄尿
健常人
1.49±0.7
0.46±0.40
9.18±5.05
6.45±3.14

本態性HT
1.40±0.76
0.42±0.31
8.74±4.60
6.29±2.94

褐色細胞腫
25.9±27.4
9.0±12.1
161.2±149.8
170.8±298.6

・1時間蓄尿と24時間蓄尿の一致率は
 NE(γ=0.79), E(γ=0.90), NM(γ=0.81), M(γ=0.65)と良好.

随時尿におけるメタネフリン/Cr比もしくは, 1時間蓄尿における評価ならば外来で簡便にできるスクリーニング検査であり, まずそこから始めるのも手である.
(そのうち血中遊離メタネフリンが評価できるようになれば不必要となる知識かもしれない)