ページ

2015年9月29日火曜日

重症筋無力症

重症筋無力症のReviewより (Lancet Neurol 2015; 14: 1023–36)

抗アセチルコリン受容体抗体などにより神経間隙の伝達障害がおこり, その結果麻痺, 脱力が生じる病態
・神経間隙に関連した疾患は先天性疾患(Congenital myasthenic syndrome), ボツリヌス毒素, Lambert-EatonやNeuromyotoniaなどもある.
・MGはPontsynaptic muscle endoplateのアセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体やAChR発現に影響するタンパクに対する抗体によるものであり, 変動性の脱力を呈する.
・自己抗体にはAChRに対する抗体, MUSK(muscle-specific kinase)に対する抗体, LRP4(lipoprotein-related protein 4)に対する抗体が判明している

・抗AChR抗体はMGに特異的な抗体であり, 症状があり抗体陽性ならばMGと診断可能.
・抗MUSK抗体も同様に特異性の高い抗体. AChRの機能維持に関わる. 主にIgG4で構成されている. 国内で検査可能.
・抗LRP4抗体はagrin-LRP4 interactionを阻害し, AChRの発現を阻害する. 検査は自費で68000円

これら抗体は胸腺腫によるMGでは高頻度に認めるが, Late-onset MGでは中等度, Early-onsetや眼筋のみのMGでは低頻度.

自己免疫性のMGは40-180/100万の頻度であり, 年間発症率は4-12/100万人年と稀な疾患.
・高齢者ほど多く, 発症ピークは70歳台
・女性では20-40歳でもピークがある.
 女性では他の膠原病への合併例が多く, 男性では高齢でのLate-onset MGが多い.
・地域性もあり, アジアではEarly-onsetの眼筋単独タイプが多い. 15歳未満の発症例の50%をしめる.
(JAMA. 2005;293:1906-1914)(Lancet Neurol 2015; 14: 1023–36)


重症筋無力症の症状: 脱力が最も多い症状.
・運動により増悪する脱力, 脱力の部位がポイント.
 高齢者では眼筋の運動障害や複視で発症し, 脳血管障害と間違われることもある.
・60%が眼瞼下垂や複視を主訴に来院する. そのうち20%が外眼筋のみの障害パターン.
 外眼筋障害は左右非対称性だが, 四肢筋障害は左右対称性で, より近位筋の障害が強い
・脱力の部位は外眼筋, 球麻痺症状, 四肢, 体幹筋で多い.
 自己抗体と障害されやすい筋の分布 

重症筋無力症のSubgroup
Early-onset MG with AChR抗体
・Early-onsetは50歳未満での発症で定義される.
・AChR抗体は通常の血液検査(RIA)で評価.
・画像や手術所見で胸腺腫がある場合は除外される. (過形成は含まれる. 過形成の場合も切除で改善する可能性あり)
・女性が多く, 男女比は1:3程度.
 HLA-DR3やHLA-B8に関連し, ほかの膠原病の合併も多い.

Late-onset MG with AChR抗体
・≥50歳発症でAChR抗体陽性のMG
・画像や手術所見で胸腺腫がある場合は除外される. (過形成は含まれる. 過形成の場合も切除で改善する可能性あり)
・男性でやや多く,
 HLA-DR2, HLA-B7, HLA-DRB1*15:01との関連性がある

胸腺腫関連MG
・MGで画像や手術所見で胸腺腫を認める症例で定義.
・MGの10-15%で胸腺腫が認められ, 胸腺腫の30%でMGが合併.
・ほぼ全例で抗AChR抗体が陽性で, 全身性の症状を呈する

MUSK関連MG
・MGの1-4%がMUSK関連MGであるが, より感度の高い検査が開発されれば頻度は上昇する可能性あり
 抗MUSK抗体と抗AChR抗体が同時に認められることは稀.
・MUSK関連MGは成人で多く, 小児や高齢者では少ない
 胸腺腫や胸腺過形成との関連も無し
 抗体はIgG4であり、HLA-DQ5との関連がある.
・MUSK関連MGは頭頸部筋障害や仮性球麻痺をきたすことが多い
 1/3が眼瞼下垂や複視で来院する.
 仮性球麻痺は40%以上で認める
 四肢筋の障害は少ない

LRP4関連MG
・AChR抗体, MUSK抗体陰性のMGの2-27%がLRP4関連MG
・女性で多い.
・胸腺腫との関連は不明. おそらくはない.
・LRP4抗体はコマーシャルベースで測定はできない
・大半が外眼筋障害と軽度の全身性筋障害を呈する
 外眼筋のみの障害は20%程度
 呼吸筋障害を呈するのは非常に稀. MUSK関連MGとの合併例ではあり得る.

自己抗体陰性全身性MG
・AChR, MUSK, LRP4抗体が陰性のMG
 ほかの抗体によるものか, 抗体量が少ない場合や抗体親和性が弱く, 検出が困難な場合が考えられる.
 抗体陰性MGの20-50%が抗体の親和性が弱いために検出されない

眼筋無力症(Ocular MG)
・外眼筋に限局した筋症状を呈するMG
・MG発症初期に多く, 徐々に全身症状が出現することもある
 外眼筋症状から全身症状出現までは2年間以上かかる
 Ocular MGでは抗体検出率も低く, AChR抗体は約半数程度で陽性

重症筋無力症の診断
典型的な症状, 所見があり, 自己抗体陽性であれば重症筋無力症は診断可能.
 非典型例や診断に迷う場合に神経生理学検査を行う.
 反復刺激とSingle-fibre electomyographyが有用.

JAMA Rational Clinical Examinationより, 症状, 所見のLR (JAMA. 2005;293:1906-1914)
症状/所見
LR+
LR−
嚥下後に食物が口腔内に残存
13.0[0.85-212.0]
0.70[0.58-0.84]
長く話した後構語が不明瞭となる
4.5[1.2-17.0]
0.61[0.46-0.80]
Peek sign
30.0[3.2-278.0]
0.88[0.76-1.0]
Quiver eye movement
4.1[0.22-75.0]
0.82[0.57-1.2]
Ice test
24.0[8.5-67.0]
0.16[0.09-0.27]
抗コリンエステラーゼ試験
15.0[7.5-31.0]
0.11[0.06-0.21]
Rest試験
16.0[0.98-261.0]
0.52[0.29-0.95]
Sleep試験
53.0[3.4-832.0]
0.01[0.00-0.16]
Peek Sign:
抗コリンエステラーゼ試験は国内ではテンシロンテストとなる
・エドロホニウム(テンシロン): アンチレクス静注10mg®を使用する
 2mg(0.2mL)を先ず15秒かけてIVし, ムスカリン性副作用も症状改善も認めなければ30秒後に3mg追加, さらに30秒後に5mg追加する.
 投与量は積算で10mgまで
・投与後1分以内に症状が改善すれば陽性. 通常30秒以内に改善し, 5分程度で効果は消失する
・発汗や分泌物増加などムスカリン性副作用が高度, 徐脈があれば硫酸アトロピンを1A(2mg)使用する. 検査時にはすぐ使用できるように用意しておく
・必ずプラセボも行う(心因性の除外のため)

重症筋無力症の治療

対症療法: 神経間隙のアセチルコリン濃度を上昇させる
・ピリドスチグミン(メスチノン®)を使用する.
 使用により症状が改善するのもMG診断に特異的な所見.
・MUSK関連MGではAChE阻害薬の効果は弱く, 副作用が前面に出る.
 副作用と効果のバランスに注意して投与量を調節する
 副作用に対してはGlycopyrronium bromide, Atropine, Loperamideなどを使用する
・症状を増悪させ得る Dペニシラミン, FQ, アミノグリコシド, マクロライド, 神経筋ブロック作用のある薬剤の使用には注意が必要

免疫抑制療法
・対症療法でコントロール困難な場合は免疫抑制療法を考慮する
 PSLが最も効果が早く, 0.75-1.0mg/kg/dより開始. 改善すれば徐々に減量し, 必要最低限の量で維持投与する.
 Azathioprineも有用であり2-3mg/kgを使用. ステロイドと併用し, Steroid sparing agentとして用いる
・他に効果が期待できる薬剤はMycophenolate mofetil, Rituximab, Tacrolimus, Ciclosporin, MTXなどが試される.

胸腺切除術
・Early-onset MGでは早期の胸腺切除が推奨される
・Late-onset MGでは切除による利点を証明する報告が少ない
 60-65歳までで胸腺の腫大が認められる例では考慮してもよいという意見もある.
・MUSK, LRP4抗体関連MGでは胸腺切除術は意味がなく, 避ける

MGクリーゼの対応
クリーゼは呼吸筋麻痺により挿管管理が必要となった症例で定義される
・早期に抗体除去が可能なIVIGや血漿交換を行う必要がある.
 IVIGも血漿交換も効果は同等に見込めるが, 一方で効果が認めず, 他方で効果があった, ということもあるため, 効果が乏しければ他の治療も行ったほうがよい.
・IVIG, 血漿交換は3-6日連日で行い, 改善すれば免疫抑制剤を開始
 IVIG, 血漿交換の効果は2-3ヶ月間のみ. 再度増悪すれば繰り返し行うことも可能.