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2015年9月30日水曜日

Trauma tapとくも膜下出血の判断

くも膜下出血の診断では頭部CTが有用であるが, その感度は約93%程度と万能ではない.
しかも発症からの時間により感度は低下する.


感度
特異度
LR(+)
LR(-)
全患者群
92.9%[89.0-95.5]
100[99.9-100]
infinity
0.07[0.05-0.11]
頭痛から6hr以内
100%[97.0-100]
100[99.5-100]
infinity
0.00[0.00-0.02]
頭痛から6hr以後
85.7%[78.3-90.9]
100[99.8-100]
infinity
0.14[0.14-0.17]
くも膜下出血が疑われた3132例のProspective studyより (BMJ 2011;343:d4277)

さらにMRIも診断に有用.
・FLAIRで脳溝がHigh intensityとなり, T2 STIRで黒く抜ける所見.
 感度は以下のとおり
画像条件
急性期 (~4)
亜急性期 (4~)
T2 STIR
94%
100%
FLAIR
81%
87%
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;70:205-211)

画像所見では100%とくも膜下出血の除外はできないため, 画像所見で明らかではないものの, 多発性嚢胞腎の家族歴や、劇症の頭痛といったSAHを疑う場合は腰椎穿刺を行う.
・腰椎穿刺において血性髄液の存在やキサントクロミーを確認するのであるが, ここでTrauma tapとの鑑別が重要となる.
 Trauma tapは腰椎穿刺の16%程度で合併する.

Trauma tapとくも膜下出血の鑑別①: CSF−RBC Clearing
・CSF−RBC Clearingとは最初に採取したCSFと最後に採取したCSFのRBC数が減少する現象である.
 Trauma tapでは最初は血性であるが, 徐々にそれが薄くなるであろうという考えのもと提唱されたが, その有用性はStudyにより様々である.

①SAHが疑われ, CTで診断のつかなかった22例でLPを施行したStudy (AJNR Am J Neuroradiol 26:820–824, April 2005 )
・最終的に14例はSAHが否定され, 他疾患と判断された.
・血管造影でaSAHの診断がついたのは8例.
CSF clearingは最初のCSFと4本目のCSFチューブのRBC数が25%以上低下した場合と定義.

aSAHの8例中, CSF clearingは2例で認められた(25%)
一方SAH否定群の14例中, CSF clearingは3例(21%)で認められており, CSF clearing所見はTrauma tapとSAHの鑑別には使用できない結論.

②頭痛でLPを施行した患者群のRetrospective study.(Cal J Emerg Med. 2007 Feb;8(1):3-7.)
・血性CSFであり, 4 tube methodが評価可能な非SAH患者142例とSAH患者11例のRBC数を評価した.
Trauma tapの方がよりRBC数の低下が顕著であり, CSF-RBC Clearingは有用なのかもしれない

③頭痛を主訴に来院し, LPを施行し, CSF-RBC ≥5x10*6/Lを満たした患者群280例の解析(ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2013; 20:247–256 )
・上記のうち, SAHは26例, 非SAH症例は196例, 判別不能が58例であった.
・CSF-RBCの変動:

非SAH症例の方が低下する傾向にはありそう.
・最初と最後のCSF−RBCの減少率 <63%は、 SAHに対するLR+ 3.6[2.7-4.7], LR- 0.1[0.03-0.4]とSAHの否定に有用な可能性が高い.

CSF−RBC clearingは鑑別に有用な可能性はあるものの, 肉眼所見で評価するのはやはり危険であろう. しっかりと意識してRBCをカウントするならば有用かもしれない

Trauma tapとくも膜下出血の鑑別②: CSF−RBC数
CSF中のRBC数による評価では, 
・前述の②のStudyより,
CSF-RBC <500x106/LならばSAHを除外可能と言える (Cal J Emerg Med. 2007 Feb;8(1):3-7.)

前述の③のStudyより,
CSF所見
LR
CSF-RBC <100x106/L
0[0-0.3]
CSF−RBC 100-10000 x106/L
1.6[1.1-2.3]
CSF−RBC >10000 x106/L
6.3[3.0-13.1]
最初と最後のCSF−RBCの低下 >63%
0.1[0.03-0.4]
最初と最後のCSF−RBCの低下 <63%
3.6[2.7-4.7]
最後のCSF-RBC <100 x106/L
+ 最初と最後のCSF−RBCの低下 >63%
0[0-0.3]
最後のCSF-RBC <100 x106/L
+ 最初と最後のCSF−RBCの低下 <63%
0[0-3.1]
最後のCSF-RBC 100-10000x106/L
+ 最初と最後のCSF−RBCの低下 >63%
0.4[0.1-1.4]
最後のCSF-RBC 100-10000x106/L
+ 最初と最後のCSF−RBCの低下 <63%
3.2[2.0-5.2]
最後のCSF-RBC >10000x106/L
+ 最初と最後のCSF−RBCの低下 >63%
0[0-6.0]
最後のCSF-RBC >10000x106/L
+ 最初と最後のCSF−RBCの低下 <63%
23.8[7.0-81.9]
CSF-RBC <100x10*6/LでSAHは否定可能と言える (ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2013; 20:247–256)

さらに,
④15歳以上の頭痛を主訴に来院した患者で, SAH除外目的にLPを施行した1739例の解析. (BMJ 2015;350:h568)
・そのうち641例(36.9%)でCSF中RBC >1x106/Lであり, SAHとTraumatic tap群を比較.
・最終的に動脈瘤性SAHと診断されたのは15例(0.9%)
SAHとTrauma tapの鑑別にはCSF RBC<2000x106/L + キサントクロミーが重要
 CSF RBC<2000x106/L, キサントクロミー(-)ならば
 感度100%[74.7-100], 特異度91.2%[88.6-93.3]でaSAHを除外できる結果であった

この④のカットオフをaSAH疑いでLPを行った64例のデータにおいてValidation (American Journal of Emergency Medicine 33 (2015) 1249–1252 )
・CSF RBC<2000x106/Lは感度 96.9%[89.3-99.1]
・キサントクロミーは感度 84.5%[73.1-91.6]
・双方併用すると感度100%[94.3-100]でaSAHを示唆する結果.

CSF−RBC数で評価する場合は, CSF−RBC <100−500x10*6/Lならば除外に有用であり,
さらに動脈瘤性くも膜下出血を評価する場合はカットオフを<2000x10*6/Lとしてもよいかもしれない.
ただし、カットオフを<2000x10*6/Lとする場合はそれのみではなく, キサントクロミー所見も併用すべきであると言える.

ただ, このキサントクロミーがやや曲者で,
キサントクロミーとくも膜下出血に対する感度, 特異度を評価したメタアナリシスでは,
(Ann Emerg Med. 2014;64:256-264.)
まず評価方法が肉眼か、スペクトロフォトメトリーかで精度が大きく異なる点に注意
さらにLPのタイミングによっても感度が大きく異なる点に注意が必要である.

肉眼でのキサントクロミーの評価では見逃しが多いと考えるべきであり, となるとカットオフを低めで見積もるべきかのかどうか。難しいところ。

2015年9月29日火曜日

重症筋無力症

重症筋無力症のReviewより (Lancet Neurol 2015; 14: 1023–36)

抗アセチルコリン受容体抗体などにより神経間隙の伝達障害がおこり, その結果麻痺, 脱力が生じる病態
・神経間隙に関連した疾患は先天性疾患(Congenital myasthenic syndrome), ボツリヌス毒素, Lambert-EatonやNeuromyotoniaなどもある.
・MGはPontsynaptic muscle endoplateのアセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体やAChR発現に影響するタンパクに対する抗体によるものであり, 変動性の脱力を呈する.
・自己抗体にはAChRに対する抗体, MUSK(muscle-specific kinase)に対する抗体, LRP4(lipoprotein-related protein 4)に対する抗体が判明している

・抗AChR抗体はMGに特異的な抗体であり, 症状があり抗体陽性ならばMGと診断可能.
・抗MUSK抗体も同様に特異性の高い抗体. AChRの機能維持に関わる. 主にIgG4で構成されている. 国内で検査可能.
・抗LRP4抗体はagrin-LRP4 interactionを阻害し, AChRの発現を阻害する. 検査は自費で68000円

これら抗体は胸腺腫によるMGでは高頻度に認めるが, Late-onset MGでは中等度, Early-onsetや眼筋のみのMGでは低頻度.

自己免疫性のMGは40-180/100万の頻度であり, 年間発症率は4-12/100万人年と稀な疾患.
・高齢者ほど多く, 発症ピークは70歳台
・女性では20-40歳でもピークがある.
 女性では他の膠原病への合併例が多く, 男性では高齢でのLate-onset MGが多い.
・地域性もあり, アジアではEarly-onsetの眼筋単独タイプが多い. 15歳未満の発症例の50%をしめる.
(JAMA. 2005;293:1906-1914)(Lancet Neurol 2015; 14: 1023–36)


重症筋無力症の症状: 脱力が最も多い症状.
・運動により増悪する脱力, 脱力の部位がポイント.
 高齢者では眼筋の運動障害や複視で発症し, 脳血管障害と間違われることもある.
・60%が眼瞼下垂や複視を主訴に来院する. そのうち20%が外眼筋のみの障害パターン.
 外眼筋障害は左右非対称性だが, 四肢筋障害は左右対称性で, より近位筋の障害が強い
・脱力の部位は外眼筋, 球麻痺症状, 四肢, 体幹筋で多い.
 自己抗体と障害されやすい筋の分布 

重症筋無力症のSubgroup
Early-onset MG with AChR抗体
・Early-onsetは50歳未満での発症で定義される.
・AChR抗体は通常の血液検査(RIA)で評価.
・画像や手術所見で胸腺腫がある場合は除外される. (過形成は含まれる. 過形成の場合も切除で改善する可能性あり)
・女性が多く, 男女比は1:3程度.
 HLA-DR3やHLA-B8に関連し, ほかの膠原病の合併も多い.

Late-onset MG with AChR抗体
・≥50歳発症でAChR抗体陽性のMG
・画像や手術所見で胸腺腫がある場合は除外される. (過形成は含まれる. 過形成の場合も切除で改善する可能性あり)
・男性でやや多く,
 HLA-DR2, HLA-B7, HLA-DRB1*15:01との関連性がある

胸腺腫関連MG
・MGで画像や手術所見で胸腺腫を認める症例で定義.
・MGの10-15%で胸腺腫が認められ, 胸腺腫の30%でMGが合併.
・ほぼ全例で抗AChR抗体が陽性で, 全身性の症状を呈する

MUSK関連MG
・MGの1-4%がMUSK関連MGであるが, より感度の高い検査が開発されれば頻度は上昇する可能性あり
 抗MUSK抗体と抗AChR抗体が同時に認められることは稀.
・MUSK関連MGは成人で多く, 小児や高齢者では少ない
 胸腺腫や胸腺過形成との関連も無し
 抗体はIgG4であり、HLA-DQ5との関連がある.
・MUSK関連MGは頭頸部筋障害や仮性球麻痺をきたすことが多い
 1/3が眼瞼下垂や複視で来院する.
 仮性球麻痺は40%以上で認める
 四肢筋の障害は少ない

LRP4関連MG
・AChR抗体, MUSK抗体陰性のMGの2-27%がLRP4関連MG
・女性で多い.
・胸腺腫との関連は不明. おそらくはない.
・LRP4抗体はコマーシャルベースで測定はできない
・大半が外眼筋障害と軽度の全身性筋障害を呈する
 外眼筋のみの障害は20%程度
 呼吸筋障害を呈するのは非常に稀. MUSK関連MGとの合併例ではあり得る.

自己抗体陰性全身性MG
・AChR, MUSK, LRP4抗体が陰性のMG
 ほかの抗体によるものか, 抗体量が少ない場合や抗体親和性が弱く, 検出が困難な場合が考えられる.
 抗体陰性MGの20-50%が抗体の親和性が弱いために検出されない

眼筋無力症(Ocular MG)
・外眼筋に限局した筋症状を呈するMG
・MG発症初期に多く, 徐々に全身症状が出現することもある
 外眼筋症状から全身症状出現までは2年間以上かかる
 Ocular MGでは抗体検出率も低く, AChR抗体は約半数程度で陽性

重症筋無力症の診断
典型的な症状, 所見があり, 自己抗体陽性であれば重症筋無力症は診断可能.
 非典型例や診断に迷う場合に神経生理学検査を行う.
 反復刺激とSingle-fibre electomyographyが有用.

JAMA Rational Clinical Examinationより, 症状, 所見のLR (JAMA. 2005;293:1906-1914)
症状/所見
LR+
LR−
嚥下後に食物が口腔内に残存
13.0[0.85-212.0]
0.70[0.58-0.84]
長く話した後構語が不明瞭となる
4.5[1.2-17.0]
0.61[0.46-0.80]
Peek sign
30.0[3.2-278.0]
0.88[0.76-1.0]
Quiver eye movement
4.1[0.22-75.0]
0.82[0.57-1.2]
Ice test
24.0[8.5-67.0]
0.16[0.09-0.27]
抗コリンエステラーゼ試験
15.0[7.5-31.0]
0.11[0.06-0.21]
Rest試験
16.0[0.98-261.0]
0.52[0.29-0.95]
Sleep試験
53.0[3.4-832.0]
0.01[0.00-0.16]
Peek Sign:
抗コリンエステラーゼ試験は国内ではテンシロンテストとなる
・エドロホニウム(テンシロン): アンチレクス静注10mg®を使用する
 2mg(0.2mL)を先ず15秒かけてIVし, ムスカリン性副作用も症状改善も認めなければ30秒後に3mg追加, さらに30秒後に5mg追加する.
 投与量は積算で10mgまで
・投与後1分以内に症状が改善すれば陽性. 通常30秒以内に改善し, 5分程度で効果は消失する
・発汗や分泌物増加などムスカリン性副作用が高度, 徐脈があれば硫酸アトロピンを1A(2mg)使用する. 検査時にはすぐ使用できるように用意しておく
・必ずプラセボも行う(心因性の除外のため)

重症筋無力症の治療

対症療法: 神経間隙のアセチルコリン濃度を上昇させる
・ピリドスチグミン(メスチノン®)を使用する.
 使用により症状が改善するのもMG診断に特異的な所見.
・MUSK関連MGではAChE阻害薬の効果は弱く, 副作用が前面に出る.
 副作用と効果のバランスに注意して投与量を調節する
 副作用に対してはGlycopyrronium bromide, Atropine, Loperamideなどを使用する
・症状を増悪させ得る Dペニシラミン, FQ, アミノグリコシド, マクロライド, 神経筋ブロック作用のある薬剤の使用には注意が必要

免疫抑制療法
・対症療法でコントロール困難な場合は免疫抑制療法を考慮する
 PSLが最も効果が早く, 0.75-1.0mg/kg/dより開始. 改善すれば徐々に減量し, 必要最低限の量で維持投与する.
 Azathioprineも有用であり2-3mg/kgを使用. ステロイドと併用し, Steroid sparing agentとして用いる
・他に効果が期待できる薬剤はMycophenolate mofetil, Rituximab, Tacrolimus, Ciclosporin, MTXなどが試される.

胸腺切除術
・Early-onset MGでは早期の胸腺切除が推奨される
・Late-onset MGでは切除による利点を証明する報告が少ない
 60-65歳までで胸腺の腫大が認められる例では考慮してもよいという意見もある.
・MUSK, LRP4抗体関連MGでは胸腺切除術は意味がなく, 避ける

MGクリーゼの対応
クリーゼは呼吸筋麻痺により挿管管理が必要となった症例で定義される
・早期に抗体除去が可能なIVIGや血漿交換を行う必要がある.
 IVIGも血漿交換も効果は同等に見込めるが, 一方で効果が認めず, 他方で効果があった, ということもあるため, 効果が乏しければ他の治療も行ったほうがよい.
・IVIG, 血漿交換は3-6日連日で行い, 改善すれば免疫抑制剤を開始
 IVIG, 血漿交換の効果は2-3ヶ月間のみ. 再度増悪すれば繰り返し行うことも可能.

2015年9月28日月曜日

ICUでの挿管困難を予測するスコア: MACOCHAスコア

ICUの救急での挿管は慌ただしく、患者の状態もいろいろであり、
麻酔管理下での挿管よりも難易度が上昇すると言われている。

ICUにおける挿管で、挿管困難例を予測する因子を抽出し、スコアを作成したStudy

(Am J Respir Crit Care Med Vol 187, Iss. 8, pp 832–839, Apr 15, 2013)
ICUでの挿管 1000例を前向きにフォローし, 挿管困難に関わる因子を抽出し、スコアを作成した。
 さらに同様に400例でそのスコアのValidationを行った. 
ICUでの挿管例 1000例中, 挿管困難例は11.3%
 挿管困難を予測する因子は, Mallampatiスコア III-IV, OSAS, 頚椎の可動域の低下, 開口<3cm, 昏睡, 重度の低酸素(<80%)など

スコア: MACOCHAスコア


点数
患者因子
Mallampatiスコア III-IV
5

OSASの病歴
2

頚椎の可動域制限
1

開口制限<3cm
1
疾患因子
昏睡
1

重度の低酸素(<80%)
1
術者因子
非麻酔科医
1
合計

12

 

スコア >3は感度 73%、特異度 89%で挿管困難例を予測する
スコア ≥6-8となると半数以上が挿管困難

非麻酔科医のICU研修医による, ICUでの挿管におけるMACOCHAスコアの有用性を評価
(Journal of Critical Care 30 (2015) 876–880)
大学病院のICU(単一施設)における前向きCohort.
指導医1名につき, ICU研修医 3−4名(夜間は2名)の環境でICU研修医による挿管における挿管困難例をMACOCHAスコアで予測
アウトカム: 6ヶ月間で134例の挿管があり,  MACHOCHAスコアと挿管試行回数
スコア ≤3ならばICU研修医でもほぼ1回目で成功することが多い
スコア ≥8ではまず1回目では成功しない。


≤3ならば比較的安心して任せられる
≥8では要注意. 件数を積んでからやらせるべき
4−7ならば指導医が注意しつつやらせても良いかも

2015年9月25日金曜日

虫垂切除歴はClostridium difficile感染の重症化に関連する

虫垂は共生細菌のリザーバー的な役割を持つ部位であり, 結腸における細菌フローラの再構築に関連すると言われる
 しかしながら虫垂切除歴がCDIそのもののリスクとはならない.
(J Clin Med Res • 2011;4(1):17-19)

重症CDIで結腸切除した55例中, 24例(43.6%)で虫垂炎による虫垂切除の既往があった
 この43.6%[28.0-60.6]は一般人口における生涯虫垂切除率17.6%と比較すると有意に多い数字であった(World J Gastrointest Surg 2013 August 27; 5(8): 233-238 )

507例のCDIで入院した患者の解析
 そのうち388例は虫垂切除歴(-)であり, その群で劇症型CDIで結腸切除を必要としたのは5.2%
 虫垂切除既往歴のある119例では, 結腸切除を必要としたのは10.9%

結腸切除が必要となるリスク因子は
 虫垂切除歴(OR 2.3[1.1-4.7], p=0.03
 年齢, 性別補正でもOR 2.1[0.99-4.5], p=0.05
>40歳の患者群456例で評価しても,
 虫垂切除歴は 劇症型CDIで結腸切除のリスク因子となる (OR 2.2[1.1-4.7], 年齢, 性別補正後)
(The American Journal of Surgery (2015) 209, 532-535 )

虫垂切除とCDIリスクについてはまだ報告が少なく, 上記くらいが主な論文。
虫垂切除はCDIのリスクにはならないが
虫垂切除歴のある患者がCDIを発症した場合、重症化する可能性が高い、というのが今の認識となる。

胆石性膵炎の胆嚢摘出のタイミング

胆石性膵炎の急性期治療は急性膵炎と同じ。
異なるのはESTと胆嚢摘出術が必要となる点。

胆嚢摘出術施行後も1−2%の再発率があるが、胆嚢摘出を施行しない場合、3ヶ月で~2/3で再発を認める報告もある。さらにその際はより重症となるため、原則胆嚢摘出を勧める。
(Surg Clin N Am 94 (2014) 257–280 )

胆嚢摘出のタイミングとしては、
6週間以内に施行できれば、その後2年間の胆石に伴う合併症、症状は2%まで低下する(非施行群では47%)報告がある(Ann Surg 2006;243:154-68)

今週のLancetよりPONCHO trialが発表
(Lancet 2015; 386: 1261–68 )
軽症の胆石性膵炎患者 266例を対象としたRCT.
・患者群は定義は臓器不全(-), 膵壊死(-), 膵周囲体液貯留(-), CRP≤10mg/dL, オピオイド必要なし, 経口摂取可能
・75歳以上や慢性膵炎合併例, アルコール多飲例は除外

上記患者群を3日以内の胆嚢摘出術施行群 vs. 一旦退院し, 25−30日後に胆嚢摘出術施行群に割つけ, 胆石由来の合併症発症率を比較.
・ESTを施行したのは早期施行群で27%, 退院後施行群で31%.
アウトカム:

・胆石による合併症での死亡/再入院は5% vs 17%, RR 0.28[0.12-0.66]と有意に早期胆摘施行群で少ない結果.
・胆石疝痛は3% vs 51%, RR 0.06[0.02-0.19]と待機的施行群ではかなり多い

・開腹手術への移行率は4% vs 3%と変わらない

EST施行群で比較しても
 primary outcomeは17% vs 3%, p=0.07と有意差はないが, 数値的には変わらない結果.


2013年のコクランより
胆石性膵炎患者における腹腔鏡下胆嚢摘出術を
入院後48時間以内の早期群と症状, Labが改善後に施行する晩期群で比較したMeta
・死亡リスクは有意差なし
・重大な合併症リスクも有意差なし RR 0.33[0.01-7.81]
・開腹手術移行率も有意差なし
・入院期間は早期群で短縮される WD -2.3[-4.4~-0.2]
(Cochrane Database of Systematic Reviews 2013, Issue 9. Art. No.: CD010326.)

ということで、可能ならばなるべく早めに胆摘を行うことを勧めたほうが良い。
可能ならば、というのは、腹腔鏡下摘出ができる程度の炎症で、膵壊死や体液貯留がない場合、全身状態が良好ということを意味する。
膵壊死や体液貯留がある重症例ではそれら所見が落ち着いてから行うのには変わりはないであろう。

2015年9月24日木曜日

ARDSではない患者における人口呼吸器設定

ARDS患者ではLung-protective ventilation(Low tidal volume ventilation: TV 6mL/kg)とするが、ではARDSではない患者における設定でもLow tidal vol.とする必要があるのかどうか?

(JAMA. 2012;308(16):1651-1659)より
ARDSではない挿管患者群において, Low Tidal Vol. ventilation (Lung-protective ventilation)と, High Tidal Vol. ventilationを比較した12 trialsのMeta-analysisでは
アウトカム
RR
NNT
肺損傷
0.33[0.23-0.47]
11
死亡
0.64[0.46-0.86]
23
肺炎合併
0.52[0.33-0.82]

無気肺
0.62[0.41-0.95]

結論としては, non-ARDS群でもLow Tidalとすることが推奨される.

また、(Crit Care Med 2015; 43:2155–2163) より
ARDSではない患者に対する呼吸器設定を以下の3群で比較したMeta-analysis
・Low tidal(≤7mL/kg)
・Intermediate(7-10mL/kg)
・High(≥10mL/kg)

患者はP/F >300もしくは画像検査で浸潤影(-)の群.
呼吸器設定は最初の2日間の設定で判断
各設定群におけるARDSや肺合併症の発症率を比較した.

アウトカム

肺合併症, ARDS合併リスクはLow tidalほど低い結果.

Tidal vol.の設定と肺合併症リスク
Tidal vol. ≤7mL/kgでは肺合併症のリスクはプラトーとなる。
それ以上ではリスクは上昇する可能性が高い。

結局、ARDSだろうが、なかろうが、基本的にはLow−tidal volとすると覚えておく。