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2015年7月31日金曜日

Chagas病

New England Journal of MedicineのReviewより。
まあ、お目にかかることは無いでしょうが、せっかくまとめたので。

N Engl J Med 2015;373:456-66.
Chagas病
寄生原生動物であるTrypanosoma cruziによる感染症
・感染した哺乳類の血液中に病原体が存在し, サシガメが感染.
・虫内で増殖し, 糞便として排泄
・糞便中の病原体が, 刺し傷や粘膜(消化管)を介して哺乳動物へ感染する.

Trypanosoma cruzi流行地域

都市内でベクター(サシガメ)を介して感染, 流行するパターンと
流行地域からの移民により流行するパターンがある.
サシガメは土壁の亀裂内や藁葺き屋根に生息する
Chagas病の臨床経過

 潜伏期間は1−2週間
 急性期の症状は発熱, 悪寒, 肝脾腫, 異形リンパ球増多など非特異的だが, 末梢血中に原虫が確認できる.
 稀ながら皮膚結節(chagoma)や無痛性の眼瞼浮腫(Romana’s sign)を認めることもある
 急性期症状は大半の症例で気付かれない.
 髄膜脳炎や心筋炎をきたして致命的となるのは<1%と非常に稀.
 汚染食物による経口感染例では心筋炎の頻度が高い

急性期感染後は細胞性免疫が原虫の増生を抑制し, 無症候となる
 4−8週間で血液中の原虫も消失し, 慢性期へと移行する.

慢性期では大半の患者が無症候で経過.
 20−30%が数年〜数十年かけて感染が進行し, Chagas’ cardiomyopathyやGastrointestinal Chagas' diseaseを発症.
 感染細胞に対する自己免疫機序が関連していると考えられる.
Chargas’s cardiomyopathyの早期症状はRBBBやLBBBなどの伝導障害や多源性のPVC
 不整脈リスクが高く, 洞性徐脈, Junctional rhythm, Af, AVブロック, VTのリスクにもなる
 進行すると拡張型心筋症, 左室瘤を形成. 血栓症リスクにもなる
Gastrointestinal Chagas’ diseaseは主に食道, 大腸で多く,
 無症候性の蠕動障害や軽度のアカシジア,  拡張による巨大食道や巨大結腸症をきたす.
 粘膜内神経叢の障害が原因.
 吸収不良や逆流, 便秘など様々な消化管症状や, 低栄養となる

免疫不全患者におけるChagas病
 臓器移植患者などの免疫不全状態でT cruziに感染すると潜伏期間が延長し, 急性期の症状も重度となる.
 急性心筋炎を呈し, 心不全や致命的となることもある
 慢性期ではHIV治療による免疫状態の改善と共にImmune reactivation syndromeとして髄膜脳炎, 脳膿瘍, 急性心筋炎を呈する.

Chagas病の診断
急性期では錐鞭毛期の原虫が末梢血より検出される
 虫体はギムザ染色で確認可能.
 他には血液培養やPCRも診断に有用.
慢性期では血清抗体検査が有用.
 T. cruzi IgG(ELISA, IFA)を評価するが, 感度/特異度は様々.
 2つ以上の検査で陽性となれば有意と判断する(Whole-parasite lysateとrecombinant antigenなど)
 PCRも有用であるが, 感度は様々で除外には使用できない.
 DNA定量法が疾患のモニタリングとして有用.

Chagas病の治療
T. cruziに有効な薬剤はNifurtimoxとBenznidazoleのみ
 FDAでは認可されていないし, 日本国内でも流通していない.
副作用の観点から1st choiceはBenznidazoleが良い.
 多い副作用は皮疹で抗ヒスタミンで対応可能
  重度の皮疹やDIHSを生じた場合は薬剤の中断が必要.
 晩期では用量依存性の末梢神経障害が出現し, この場合は減量が必要
  末梢神経障害は可逆性であることが多い.
 他に気をつけるべきは骨髄抑制

Nifrtimoxは消化管症状が70%と高頻度で認められる.
 神経症状(イライラ, 見当識障害, 不眠, 振戦)もある
 感覚障害や多発神経症, 末梢神経炎は稀であるが, 深刻な副作用
急性Chagas病や早期の先天性Chagas病ではbenznidazoleやnifrtimoxにより症状や重症度の改善効果, 血液中の虫体陽性期間の短縮効果がある.
 血中抗体陽性率の低下も認められており, 急性感染症では早期診断, 早期の薬剤投与が基本.
慢性Chagas病でも50−55歳までに治療することで心筋症の増悪予防効果や死亡リスク改善効果が期待されている
 50−55歳を超えると不可逆性の心筋症となる例が多い.
 ただし, 現在までに薬剤の効果を評価したRCTはなく, 現在BENEFIT trialという軽症〜中等症のChagas’ cardiomyopathy患者を対象した, benznidazole使用 vs Placeboを比較したDB−RCTが進行中. 2015年に終了予定.
まとめ