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2014年9月27日土曜日

VAP(Ventilator Associated Pneumonia) 検査, 原因菌

Ventilator Associated Pneumonia: 人工呼吸器関連肺炎

挿管, 人工呼吸器管理中の患者で発症する肺炎. 挿管管理後, 48hr経過して起こる肺炎と定義されている.
 <96hrで生じるEarly onset, >96hrで生じるLate onsetがある

挿管患者の9-27%に合併し, 死亡リスクを2倍にする
 院内肺炎の頻度は5-10case/1000入院, 呼吸器管理患者ではではRiskが6-20倍に上昇する
 院内肺炎であり, ICUで最も多い致死性の院内感染症
 CDCによる診断Criteriaもあるが, コンセンサスに欠ける部分も

気管内のColonizationとVAPの中間であるVAT(Tracheobronchitis)という概念もある.
 発熱 + 喀痰量の増量, 変化 + XPで浸潤影増悪, 出現無し.
 喀痰培養は≥10
5CFU/mLを満たす.
 挿管管理患者の1.4-2.7%.(VAPは4.0-10.6%)で認め, VAPと同じ原因菌. Abx投与が有効である可能性あり Chest 2011;139:Issue 3, Mar.

VATの1/3がVAPへ進展する. 
 ICUで挿管管理されている188例のCohortでは, VATが11%, その内29%がVAPへ進展.
 またVATを経ずにVAPを発症したのが12%であった.
 VATとVAPの原因菌はほぼ同じ.
The American Journal of Medicine (2013) 126, 542-549

ICU患者2436名の解析では,
 1089名が肺炎で入室 or 肺炎を併発
 24.1%がCommunity acquired, 75.9%がNosocomial Pneumonia (20.6%がHAP, 42.7%がVAP, 12.7%がVE-VAP)
 VAPは18.3case/1000venti-dayの頻度であった (Crit Care Med 2009;37:2360-8)

VAPの89.1%がICU入室後10日以内に発症する (Crit Care Med 2009;37:2360-8)

VAPのリスク評価
ICU管理, >48hr人工呼吸管理された1856名のCohort
 その内, 1233名をTraining data, 623名をValidationとして使用
 VAPを発症したのは16.9%(15.9[9.7-26.1]/1000MV-d)
 原因菌はP aeruginosa 29.8%, S aureus 24.5%, E coli 10.1%, Haemophilus spp 8.2%
VAP Risk
Risk
OR
Risk
OR
男性
1.97[1.32-2.95]
Day1-2で経腸栄養無し
2.29[1.52-3.45]
入院時SOFA Score

Day1-2で広域抗生剤無し
2.11[1.46-3.06]
 0-2
1(ref)
MVの期間

 3-4
2.57[1.39-4.77]
 3-4d
0(ref)
 5-8
7.37[4.24-12.8]
 5-7d
15.5[3.53-67.9]
 >8
5.81[3.20-10.6]
 8-15d
43.4[10.4-181]


 >15d
183[43.9-762]
 抗生剤予防投与群で有意にVAP発症率は低くなるものの, 使用抗生剤に関しては広域でなくても良い(1st, 2nd Cephem).

西欧の27 ICUでのProspective cohort. Crit Care Med 2014; 42:601–609

 48h以上挿管管理されている45-64歳 670例, 65-74歳 549例, ≥75歳 516例でVAPの頻度, リスクを評価
VAPの頻度;
VAPのリスク因子;

神経機能障害, 心血管不全, 腎, 肝, 代謝障害がリスク因子となる. つまり多臓器不全程 High-risk.

VAPの原因菌
S aureusが全体の20-25%程度を占める. 肺炎球菌もあるが, GPCならばほぼS aureusと言える. GNRでは腸内細菌群が25-30%. 緑膿菌も20%程度と頻度が高い.

VAP時の所見頻度; 年齢別の差は特に無し
 酸素化低下や膿性喀痰や喀痰の性状の変化も有用な所見となる.
 Consolidationの臨床サイン(多分呼吸音等)は5-6割程度と当てにはならない
 WBC上昇も6割程度の感度となる.

HAP, VAPの原因菌
原因菌が同定できたのはHAPで62.5%, VAP 76.6%, VE-VAP 57.2%(Crit Care Med 2009;37:2360-8)
原因菌
全体頻度
HAP
VAP
VE-VAP
Enterobacteriaceae
43.8%
50.0
43.0
36.7
S aureus
32.3%
31.4
32.6
33.0
P aeruginosa
23.1%
25.7
22.8
20.3
Acinetobacter baumannii
19.1%
21.4
20.2
10.1
S pneumoniae
4.9%
2.1
5.1
8.9
H influenzae/Moraxella
8.2%
2.9
7.8
19.0
他のGram-neg
6.8%
8.6
5.9
7.6
嫌気性菌
0.9%
0.7
0.6
2.5
Polymicrobial
32.2%
32.9%
32.0%
31.6%
Early-onset VAPでは, Late-onsetと比較して,
 MSSA(27.6 vs 11.4%), S pneumoniae(9.0 vs 2.4%), H influenzae, Moraxellaの頻度が高く, Acinetobacter baumannii(11.0 vs 26.5%), P aeruginosa(17.9 vs 26.1)の頻度が低くなる

11カ国, 56施設のICUでVAPの頻度を評価. Crit Care Med 2014; 42:2178–2187
 挿管48h-7dまでに発症した肺炎例をVAPと定義.
 母集団は, US 502例, 西欧 496例, ラテンアメリカ 500例, アジア太平洋 376例で評価した.
VAPの頻度は全体で293例 (15.6%).
 USでは13.5%,
 西欧では19.4%,
 ラテンアメリカでは16.0%
 アジア太平洋では16.0%であった.
緑膿菌が占める割合は, 全体の4.1%
 USでは3.4%,
 西欧では4.8%,
 ラテンアメリカでは4.6%
 アジア太平洋では3.2%であった
. 緑膿菌はこの報告では5%に満たない頻度

VAPの所見, 診断
症状によるVAPの診断 (JAMA 2007;297:1583-93)
症状
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
発熱
46-67
42-65
1.2[0.76-1.9]
0.86[0.54-4.1]
WBC異常
50-77
45-58
1.3[0.76-2.4]
0.74[0.34-1.6]
膿性喀痰
69-83
33-42
1.3[0.88-1.8]
0.63[0.28-1.4]
湿性ラ音
73
40
1.2[0.75-2.0]
0.68[0.27-1.7]
低酸素
64
40
1.1[0.63-1.8]
0.91[0.40-2.1]
胸部XPにて新規浸潤影
78-100
33-75
1.7[1.1-2.5]
0.35[0.14-0.87]

VAPの胸部レントゲン所見 (JAMA 2007;297:1583-93)
所見
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
Air bronchogram (単一)
17
96
3.8[0.74-19]
0.87[0.72-1.1]
Air bronchogram (, 複数)
83
58
2.0[1.3-2.9]
0.29[0.11-0.73]
シルエットサイン
79
33
1.2[0.89-1.6]
0.63[0.26-1.5]
Alveolar infiltrate
88
27
1.2[0.95-1.5]
0.47[0.15-1.5]
Fissure abutment
8
96
1.9[0.3-12.5]
1.0[0.84-1.1]
無気肺
29
62
0.77[0.37-1.6]
1.1[0.81-1.6]

肺分泌物質検査によるVAPの診断 (JAMA 2007;297:1583-93)
所見
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
BAL fluid
Cell >400 000/mL
90
94
15[2.3-103]
0.11[0.03-0.40]

Neu >50%
100
53
2.0[1.4-3.0]
0.09[0.01-1.4]

Neu, 細胞内細菌(+)
33-54
53-60
1.0[0.55-2.4]
0.87[0.41-1.8]
Gram Stain
気管支吸引喀痰
56
74
2.1[0.81-5.5]
0.60[0.28-1.3]

Mini-BAL fluid
56
89
5.3[1.3-22]
0.50[0.24-1.0]

BAL fluid
44
100
18[1.1-302]
0.56[0.32-0.99]
培養
気管支吸引喀痰(>105CFU/mL)
56-69
92-95
9.6[2.4-38]
0.42[0.27-0.67]

BAL fluid (>104CFU/mL)
11-77
42-95
1.4[0.76-2.5]
0.78[0.51-1.2]
ETTのコロナイゼーションと原因菌の一致率は70%
血液培養の陽性率は8.9-12.6% (Crit Care Med 2009;37:2360-8)

組み合わせの所見 (JAMA 2007;297:1583-93)
所見
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
浸潤影 + 喀痰培養陽性 + (WBC↑ or 発熱)
54
62
1.4[0.85-2.4]
0.74[0.45-1.2]
膿性喀痰 + WBC↑ (or 浸潤影)
72
42
1.2[0.71-2.2]
0.67[0.25-1.8]
浸潤影
発熱, WBC↑, 膿性痰の内 >=2
69
75
2.8[0.97-7.9]
0.41[0.17-0.99]
上記の内, 3


2.8[0.33-23]

上記の内, 2


2.8[0.69-11]

上記の内, 1


0.37[0.09-1.6]

何れも満たさない


0.46[0.10-2.1]

発熱, 浸潤影, 膿性痰, Gas交換の変化
100
62
2.5[1.3-4.8]
0.06[0-0.87]
CPIS >6
72-77
42-85
2.1[0.92-4.8]
0.38[0.20-0.74]

CPIS; Clinical Pulmonary Infection Score
Pt
体温
WBC
PaO2/FiO2
胸部XP
気管吸引
気管吸引培養
0
36.5-38.4
4000-11000
>240 or ARDS
浸潤影(-)
*<14
病原菌 陰性
1
38.5-38.9
<4000, >11000

びまん性浸潤影(+)
*>=14
病原菌 陽性
2
=<36, >=39
>500 Stab
=<240
局所性浸潤影(+)
膿性痰
陽性, グラム染色と一致
* 気管吸引Score; 吸痰の量を0-4ptで評価. 1回ずつ評価し、1日の合計を足し算

VAPに対するグラム染色
24 trialsのMeta-analysisでは, Clinical Infectious Diseases 2012;55(4):551–61
 VAPの診断に対するグラム染色の感度は79%[77-81], 特異度 75%[73-78].
 検査全確率を20-30%の場合, PPV 40%, NPV 90%と, 否定には有用な検査と言えるかもしれない.
 ちなみにグラム染色所見と, 培養検体の一致率(GP, GNの評価)は54%[0-95]であり, 検者により大きく異なる.

Single center prospective studyにおいて, VAP症例115例で気道分泌物のグラム染色と培養結果の一致率を評価. Journal of Critical Care 29 (2014) 739–742
 グラム染色はGPC, GNRで評価. 
グラム染色でGPCが見えた場合,
 感度90.5%[69.7-98.8], 特異度 82.5%[72.4-90.0]で培養結果もGPC.
グラム染色でGNRが見えた場合,
 感度 69.6%[59.1-78.7], 特異度 77.8%[40.0-97.1]で培養結果もGNR
グラム染色で菌体が見えた場合,
 感度 50%[11.9-88.1], 特異度 79[69.4-88.6]%で培養も陽性であった
グラム染色がGPCで無かった場合, S aureusであるNPVは97%.

これは結構実臨床の感覚に合っている結果.
GNR, とくに緑膿菌なんかはグラム染色で見逃すこともあるが, GPCクラスターはほぼ見逃さない. GPCクラスターが無い場合はMRSAカバーはせず, それで失敗した経験も無い.
判断が難しい場合は翌日 or 時間を置いて(抗生剤が入った状態で)再度グラム染色をすることで判明することもある.

VAPにおけるグラム染色の異議はS aureusを除外する目的, としてもよいのかもしれない.