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2014年8月4日月曜日

脳膿瘍 Brain abscess

脳膿瘍 Brain abscess
N Engl J Med 2014;371:447-56.
脳膿瘍の頻度は0.4-0.9/100000であり, 抗生剤が発達しても未だ致死的な疾患.
 細菌, TB, 真菌, 寄生虫等様々な病原体が原因となる.
 免疫不全患者ではさらに頻度は増加.

脳膿瘍は血行性播種によるものと, 近接部位の感染からの波及がある.
 血行性の場合は心内膜炎, 感染性血栓等.
 近接部位の感染症は骨髄炎, 乳突蜂巣炎, 慢性中耳炎, 副鼻腔炎が多い.
感染経路により考慮すべき起因菌も異なる.
J Infect Chemother (2011) 17 (Suppl 1):50–55

HIVや免疫抑制剤使用, 臓器移植, 骨髄移植等の免疫抑制状態の患者ではTB, Toxoplasma gondii, 真菌, 寄生虫による脳膿瘍リスクとなる.
臓器移植後の脳膿瘍の90%が真菌によるもの 
N Engl J Med 2014;371:447-56.

脳膿瘍の原因菌頻度, 症状等のデータ:
1970-2013年に報告された脳膿瘍のLiterature review. Neurology® 2014;82:806–813
 123 studies, N= 9699例を解析 (N≥10のStudyを評価)
 培養陽性例は68%, 多数菌陽性例は902例(14%[13-15])
年代による検出細菌の変化

 レンサ球菌は常に最も多い原因菌.
 ブ菌も常に多い. 
GNRは減少傾向〜低値で推移している.

地域別の原因菌頻度

 アジアではレンサ球菌が30%. ブ菌19%, 次いでProteus, Bacteroides, Klebsiella, Peptostreptococcusの順.

年齢, 性別, 前駆感染症の頻度

 中耳炎, 乳突蜂巣炎, 副鼻腔炎で42%を占める.
 心疾患は先天性心疾患と心内膜炎を含む.

症状, 所見の頻度

 頭痛は69%で認める.
 神経局所症状は48%, 乳頭浮腫 35%.
 特異的な症状は頻度が低い.
 CSF正常が16%.

脳膿瘍の部位

 多発膿瘍が18%あり.

脳膿瘍の診断:
 画像診断では, 造影CTが迅速で部位, 大きさを評価するのに有用.
MRIではDWIで内容物がHighとなる. 115例で147のCystic brain lesionをMRIで評価したStudyでは(97例が脳膿瘍)
 脳転移病変との比較において感度, 特異度96%で判別可能であった.
 (93/97がDWIでHigh, ADCでLowであった.)
1H NMR spectroscopyではDWIよりも極僅か感度, 特異度が良好のみ.
CSFの培養で原因菌の検出が可能なのは1/4のみ.
髄膜炎合併例でより感度は上昇する.
 LPに伴うヘルニアリスクが伴うため, LPは髄膜炎合併が疑われる例, 膿瘍が脳室へ穿破した症例で行う.
 また画像検査でヘルニアのリスクが無い場合に限るべきである.
 副鼻腔や耳腔, 歯牙に原因がある場合は外科的ドレナージを行う.

外科的治療
 外科的治療は膿瘍の縮小のみならず, 原因の同定にも重要な処置となる.
 現在の技術ならば部位によらず, 1cm以上の膿瘍ならば穿刺可能.
 穿刺困難例, 内容液の採取が困難で原因菌推定が困難ならばEmpiric治療.
 CTやMRIで3D画像を構築することで穿刺がより精密になるが, それが困難な場合は開頭し, 術中エコーで部位を特定することは可能.
 ただし, この方法は小さな膿瘍な深い部位の穿刺には適さない.
 ドレナージチューブの留置は再手術リスクを軽減するものの, ルーチンには推奨されない.(リスク-ベネフィットが不明瞭のため)
 一部のエキスパートはドレナージチューブから直接抗生剤の投与を行う.

 外科的治療の適応は膿瘍径>2.5cmとされてきたものの, そのEvidenceは無い.
 患者の状態, 多峰性, ヘルニア, 脳浮腫等考慮して適応を決めるべきである.

抗生剤治療
 抗生剤開始の遅れは死亡リスクの上昇となるため, 疑った時点で抗生剤は開始する.
 抗生剤投与は膿瘍の培養感度を低下させるため, 穿刺後に開始する方法も考慮してよいが, 重症例では待たない方が良い.
 その場合外科的処置は数時間以内に行うべきである.
 膿瘍の進展は予測が難しく, 急速に悪化する可能性があるので注意.
 Retrospective studyでは脳膿瘍診断〜抗生剤投与まで平均2日間だが, それは空け過ぎと考えられる.

抗生剤選択は菌のEntry, 患者の免疫, 移行性で考慮する.


抗生剤の投与期間は決まってはいないが,
 適切な外科的処置が行われれば, 6-8wkの静注抗生剤が推奨.
 臨床的に経過良好ならば4wk程度でも可能と考えられている.
 その後2-3ヶ月の経口抗生剤を継続する.
 その場合はMetronidazoleやFQの様なCSF移行性良好な薬剤を選択すべき.
 CTやMRIにて膿瘍が消失 or 著明に改善すれば中止を考慮してもよい.

外科的処置が不十分な場合は12wk以上は静注Abxでいくべし.

HIV患者で抗トキソプラスマIgG陽性ならば抗トキソプラスマ治療をEmpiricに開始する.

脳膿瘍の予後, 合併症
 経過中に意識障害が出現した場合は水頭症, ヘルニアを考慮し, すぐに画像検査を行う.
 膿瘍の脳室穿破は水頭症のリスクとなり, その場合死亡率は27-85%と高い.
 脳室穿破がある場合はExternal ventricular catheterを留置することで, ドレナージ, 脳室圧のモニタリングが可能.
 また必要があれば抗生剤の脳室内投与を行う.
 後頭の膿瘍形成の水頭症のリスク.

急性の意識障害はてんかんや痙攣によるものの可能性もあり.
 脳膿瘍患者への抗てんかん薬の予防的使用に関するStudyはない.
 投与してもてんかんリスクは低下しないとの報告もあり,ルーチンの使用は推奨されない.

脳浮腫に対するステロイド
 膿瘍周囲の浮腫による神経症状の出現はある.
 その浮腫に対するステロイド投与は約半数の脳膿瘍患者で使用されている.
 しかしながら有用性を評価したStudyは無く, ステロイドは抗生剤の膿瘍移行性を阻害する可能性もあることから, 脳浮腫が高度, 残存しヘルニアのリスクがある症例に限り使用を考慮すべき

高圧酸素療法もStudyが少なく, 有用性は不明.

脳膿瘍の死亡率は15%程度.
 70%が神経予後良好であり, 昔と比較すると格段に良くなっている.