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2014年8月26日火曜日

くも膜下出血の診断

くも膜下出血の診断について Subarachnoid hemorrhage

Thunderclap Headache: 雷鳴頭痛 Lancet Neurol 2006;5:621-31
 劇症発症する強い頭痛のこと. 代表的な原因はくも膜下出血(SAH)であるが, 以下の原因でこのタイプの頭痛が生じ得る.
 くも膜下出血 11-25%
 Sentinel Headache
 脳静脈洞血栓症 2-10%
 脳動脈解離, 突発性頭蓋内圧低下, 下垂体卒中, Retroclival Hematoma
 虚血性脳梗塞, Acute Hypertensive Crisis, Cerebral vasoconstriction Syndrome
 Third Ventricle colloid cyst, Intracranial Infection

くも膜下出血
85%が動脈瘤の破裂によるもの
 中脳周囲の出血が10%
 残りを AVM, 動静脈瘻, Mycotic aneurysm, コカインなどが占める
70%が頭痛のみ, (Hospital Basedだと50%)
 数日持続する頭痛で, <2hrで改善するものは稀
 意識障害は1/3,   痙攣 6-9%,   せん妄 16%で認める
頭痛を主訴にERを受診した患者の内, 1-4%がSAH
“人生で最も酷い頭痛” を訴えた患者に限定すれば12%がSAH (NEJM 2000;342:29-36)
1999名のCohortでは, 人生最悪の頭痛を訴えた割合は, SAH(+)群では93.1%, SAH(-)群では77.5%(p<0.001) (BMJ 2010;341:c5204)

動脈瘤性SAH Lancet Neurol 2011;10:349-56
脳動脈瘤破裂によるSAHは 9/100000person-yrの発症率
 平均発症年齢は55yrと若い.
 生存率は過去30年間で17%上昇し, 65%.
 SAHの12%は発症直後に死亡する.
初回aSAH後に外科的, カテーテルで脳動脈瘤閉鎖した後も, 再出血のリスクは高く, 一般人口の15倍(190/100000pt-yr)となる.
 再出血部位は初回の動脈瘤と同部位のこともあるが, 新規出現病変のことも多い.
 クリップ後2-19yrでCT angioを施行したStudyでは, 151箇所の脳動脈瘤(+).
 その内22箇所が初回Angioで認めていた部位. 129箇所は新規病変.
 再出血のリスクとなる因子(HR)は,
若年(/10yr)
1.7[1.1-2.5]
家族歴
3.8[1.1-13.2]
喫煙
4.8[1.3-17.4]
複数箇所の動脈瘤
5.7[2.3-14.5]

動脈瘤性SAHの予後
 Independence(mRS 0-3)となるのは36-55%(1-12mo)
 来院時に言語, 運動の反応が全くない場合は, Independenceとなるのは僅か5%のみ.
 認知障害も多く, 生存したaSAH症例では, 約60%で記憶障害, 75%で統合障害, 75%で言語障害を認める.
 気分障害も多く, 不安障害, うつ症状は約半数で認める.(発症後2yr)
  PTSDは1/3, 睡眠障害は1/3で認める.
 嗅覚, 聴覚; 味覚消失は25-33%. 食事摂取やQOLに重大な影響を及ぼす.
  特に味覚障害はA-comの動脈瘤破裂例で他部位の2倍の頻度.
  また, クリッピング治療はCoilingの2-10倍のリスク.

未破裂動脈瘤の頻度.
中国でのCohort. 35-75歳の4813名でMRAを施行. Ann Intern Med. 2013;159:514-521.
 未破裂動脈瘤の頻度は全体で7.0%[6.3-7.7], 男性例で5.5%[4.6-6.4], 女性例で8.4%[7.3-9.5]
 ピーク年齢は55-75歳

部位, サイズ別の頻度


Meta-analysisより, 未破裂動脈瘤の頻度 Lancet Neurol 2011; 10: 626–36
68 studiesのMeta-analysis
 特に基礎疾患がない患者群における未破裂動脈瘤の頻度は3.2%[1.9-5.2]. 平均年齢50yr
 各疾患と未破裂動脈瘤頻度は以下の通り.

PR
常染色体優性多発性嚢胞腎
6.9[3.5-14]
瘤によるSAHの家族歴
3.4[1.9-5.9]
脳腫瘍
3.6[0.4-30]
下垂体腫瘍
2.0[0.9-4.6]
動脈硬化
1.7[0.9-3.0]
女性
1.6[1.02-2.54]
動脈瘤の特徴.

脳動脈瘤の破裂率 N Engl J Med 2012;366:2474-82.
UCAS Japan study; 日本国内のStudy.
 2001-2004年に診断された脳動脈瘤患者のProspective cohort.
 ≥20yrで≥3mmの嚢状動脈瘤を認めた患者 5720名. 動脈瘤は計 6697例.
 91%が偶発的に発見. 患者の大半が無症候性であった.
 女性例が2/3, 平均年齢62.5±10.3歳.
 瘤の平均サイズは5.7±3.6mm, 高齢者程サイズは大きい傾向あり.
Outcome; 11660動脈瘤-yrフォローし, 年間破裂率は0.95%[0.79-1.15]
 径が大きい程破裂リスクも高い,
3-4mm
Reference
P-com vs *
HR 1.90[1.12-3.21]
5-6mm
HR 1.13[0.58-2.22]
A-com vs *
HR 2.02[1.13-3.58]
7-9mm
HR 3.35[1.87-6.00]

*; A,P-com除く部位
10-24mm
HR 9.09[5.25-15.74]
形がいびつ
HR 1.63[1.08-2.48]
≥25mm
HR 76.26[32.76-179.54]


動脈瘤の部位と径別の年間破裂率


PHASES score Lancet Neurol 2014; 13: 59–66
脳動脈瘤をフォローした6つのprospective cohort, N= 8382 にて, 5年破裂リスクを評価し, scoreを作成
 1年破裂率は1.4%[1.1-1.6], 5年破裂率は3.4%[2.9-4.0].
動脈瘤のサイズと部位, 年齢, リスク因子からの破裂率(数字は5年破裂率)

日本人での破裂率

日本人では破裂率が高い傾向がある.

スコアと破裂リスク 5%を超えるのは10点以上.


SAHの見逃し
早期発見, 治療が予後を規定するのに重要だが, 画像検査が普及した今日でもSAHの診断ミスは認められる. NEJM 2000;342:29-36
 典型的なひどい頭痛, 失神, 嘔吐, 突然発症などあれば見逃すことはほぼ無いと思われるが, 上記症状がない場合も多い.
1980年代, Iowa大学ではSAHの23-37%が初期診察で見逃されていた.
 それら患者群は他のSAH患者と比較して症状は軽い傾向にあった.
1990年代のConnecticutではSAHの25%が初期診察で見逃されている.
 見逃された患者群では症状の増悪, 出血の増悪Riskが高い.
見逃し群の内訳(4 Studyの合計)
Misdiagnoses
%
Misdiagnoses
%
診断無し, 不明な頭痛
24%
副鼻腔疾患
6%
Migraine, Cluster, Tension type
21%
頸部由来
5%
髄膜炎, 脳炎
10%
精神疾患
5%
全身感染症(influenza, 胃腸炎, Viral syndrome)
10%
外傷由来
1%
Stroke, cerebral ischemia
8%
背部痛
<1%
Hypertensive crisis
7%
その他
15%
心原性(MI, 不整脈, 失神)
6%



1996-2001年のNew YorkのStudy; 482名のSAH患者のCohort
12%が初期診断でSAHを見逃し.
誤診断内訳;
Migraine, Tension headache
36%
高血圧
5%
Viral syndrome
11%
髄膜炎
5%
診断無し
12%
AVM
4%
筋骨格系の疼痛
7%
不明
4%
副鼻腔炎
5%
その他
11%
診断ミスの原因として,
 CT未撮影が最多(73%).
 CT, LPの結果解釈ミス(16%)
 CTを施行するが, LPは未施行(7%)
 その他
⇒ 主に,
SAHの臨床症状Spectrumの理解が足りないこと, CTの限界を理解できていないこと, LPの結果の解釈ができていないことが主な原因となり得る.

見逃した群で, 意識レベルの低下が25%, 再出血が21%, 水頭症が12%, Vasospasmが7%生じている.
JAMA 2004;291:866-9, NEJM 2000;342:29-36

見逃しのリスク因子
見逃しRiskを上昇させる因子として,
Hunt Hess grade I or II HR 8.4[4.3-16.5]
Sentinel Headaches§ HR 2.7[1.4-4.9]
Right-sided aneurysm HR 3.6[2.0-6.4] が挙げられる.
見逃したことで全体的には予後に影響はしないが, 早期に脳外科的処置が必要なHunt Hess I-IIに限ると予後は増悪.
Outcome
全患者HR
Hunt-Hess I II HR
@3mo
死亡(mRS 6)
0.6[0.2-1.3]
3.4[1.0-11.2]

死亡 or 重度後遺症(mRS 4-6)
0.5[0.2-1.1]
3.4[1.3-8.9]

死亡 or 後遺症(mRS 2-6)
0.8[0.4-1.5]
2.5[1.2-5.4]
@12mo
死亡(mRS 6)
0.6[0.3-1.3]
4.7[1.7-13.0]

死亡 or 重度後遺症(mRS 4-6)
0.5[0.3-1.1]
3.1[1.2-7.7]

死亡 or 後遺症(mRS 2-6)
0.7[0.4-1.3]
1.5[0.7-3.2]
また, Hunt-Hess I-II(軽症)なほど見逃しやすい
→ 外科的処置の遅れが予後の増悪に繋がる群で見逃しやすい
JAMA 2004;291:866-9

§Sentinel Headache (Warning Headache) NEJM 2000;342:29-36
SAHと同じような頭痛がSAH発症の数日~数週前に生じる
 突然発症であり, 数時間~数日持続.
 他のThunderclap headacheを来たす疾患も鑑別に挙がるが, 基本, 同様の頭痛を診た際はSAH, 動脈瘤精査を行うべき.

11-40%(20-50%)で認められ, 半数が医療機関を受診する
 しかし, 16-60%で見逃される
 Warning Headacheの存在は誤診の確率を上げる(OR 2.7) (JAMA 2004;291:866-869)
 若年者に多く, Warning Headache後平均10.5日後にSAHを発症する (J Neurol Neurosurg 1973;38:575-80)

以前に頭痛があっても, SAHを否定する材料とはならない

SAHによる非典型的な頭痛
SAHの半数がMinor bleedingであり, その場合非典型的な頭痛を呈することがある
 500名のSAH患者の解析では, 34%が特にストレスにならない活動下で発症し, 12%が睡眠中に発症している
 頭痛は局所, 全体どこでも起こってよく, 軽度のこともあり得る.
 自然に改善を認めたり, NSAIDにて改善を認めることもある. → Tension type, Migraine, 副鼻腔由来の頭痛などと間違われる.
 嘔吐が強く, 微熱があれば胃腸炎や髄膜炎と誤診されることも多い.
“人生で最も痛い頭痛”ではなくても, 初めて経験する頭痛, 最近発症した頭痛ならばCTを考慮するのもアリか
NEJM 2000;342:29-36

頭痛患者においてくも膜下出血を除外する
1999名の頭痛患者のProspective cohort BMJ 2010;341:c5204
 内130名がSAHと診断.
 “今までで最悪の頭痛” と訴えたのは1546名(78.5%).
 SAH患者の頭痛の特徴から, 3つのPrediction ruleを作成.
 1つ以上に当てはまればHigh Risk.
Rule 1
Rule 2
Rule 3
年齢>40yr
救急車で来院
救急車で来院
頸部痛, 項部硬直あり
年齢>45yr
年齢>45yr
意識障害の目撃あり
1回以上の嘔吐
1回以上の嘔吐
運動時に発症
dBP>100mmHg
dBP>100mmHg
High RiskとSAHに対するSn, Sp
High RiskSAH
Sn(%)
Sp(%)
Rule 1
100[97.1-100]
28.4[26.4-30.4]
Rule 2
100[97.1-100]
36.5[34.4-38.8]
Rule 3
100[97.1-100]
38.8[36.7-41.1]
上記を満たさない場合はくも膜下出血を除外することが可能かもしれないが, 高齢者, 救急車使用者はそれだけで引っかかる.
救急車利用に関しては病院, 国より特異度は変化するだろう

SAH(+)群と(-)群の比較:
病歴より
SAH(-) 1869
SAH(+) 130
P
年齢
42.6
54.4
<0.001
女性
60.6%
56.9%
0.41
Onset-peakの時間
9.2min
3.4min
<0.002
Peak時のPain scale
8.6
9.3
<0.001
運動時の発症
10.7%
23.1%
<0.001
性交渉時の発症
6%
5.5%
0.79
睡眠時に頭痛で起床
19.3%
10.8%
0.016
最悪の頭痛
77.5%
93.1%
<0.001
意識障害(+)
4.5%
16.9%
<0.001
意識障害の目撃
2.5%
11.5%
<0.001
安静を必要とする頭痛
24%
43.9%
<0.001
頸部痛, 項部硬直
30.9%
71.1%
<0.001
嘔吐
26.3%
58.6%
<0.001
救急車使用
16.7%
56.9%
<0.001
救急に転送
7.9%
18.5%
<0.001
所見より
SAH(-) 1869
SAH(+) 130
P
項部硬直
5.2%
30.4%
<0.001
平均体温
36.4
36.3
0.39
平均HR
80.2
79
0.38
平均SBP
141
159
<0.001
平均DBP
81
88
<0.001

上記の3 rulesのValidation study JAMA. 2013;310(12):1248-1255
1時間以内にピークを迎えた頭痛で, 他の神経所見(-)を満たす2131名のProspective cohort (@カナダ)
  過去6mで3回以上の同様の頭痛がある場合は除外.
 上記のうちSAHは6.2%
 この群において上記3 ruleとOttawa SAH Rule*の感度特異度を評価

感度はどれも9割後半, 特異性は2-3割
除外には有用なRuleと言える.
Thunderclap headacheと項部硬直を加えたOttawa SAHでは感度100%となる.

日本国内からの研究 日救急医会誌 . 2011; 22: 305-11
 2001-2006年に頭痛を主訴に搬送された症例356例(SAH88例)でScoreを作成し, 2007-2009年に搬送された同様の患者群でValidation
 外傷, 酩酊, 昏睡, 転帰不明は除外.
 最終的に血糖, BP, K, WBCがScoreとして有用と判断.
 Score 0ならばSAHは除外可能.

くも膜下出血の診断
CT検査
頭部CTは3mmのThin sliceで撮影すべき
 左右対称に, 水平に撮影する必要がある.

頭部CTの感度は 93%[88-97] (Ann Emerg Med 2008;51:697-703, 頭部CT + LPにて診断)
 Ht<30%では偽陰性のRiskが高くなる.  Hb<10gでもIsodenseとなり得る
 時間の経過とともに感度は低下し, 発症3wk後では感度0%
時間
当日
1日後
2日後
5日後
感度
92%
86%
76%
58%
頭痛〜6h以内のSAHではCTの診断能は良好
Prospective cohort. BMJ 2011;343:d4277
 SAHが疑われた3132名でCT, 他の検査を施行.
 最終的に240名(7.7%)でSAHを診断.
CTの感度, 特異度;

感度
特異度
LR(+)
LR(-)
全患者群
92.9%[89.0-95.5]
100[99.9-100]
infinity
0.07[0.05-0.11]
頭痛から6hr以内
100%[97.0-100]
100[99.5-100]
infinity
0.00[0.00-0.02]
頭痛から6hr以後
85.7%[78.3-90.9]
100[99.8-100]
infinity
0.14[0.14-0.17]
発症早期(≤6hr)ならばCTも感度良好だが, 時間が経つと見落としが増える.

頭部CTの感度が100%ではないため, 疑わしい場合で頭部CTが陰性ならば, 腰椎穿刺を考慮すべきである
 劇症の頭痛で頭部CTで陰性であった152例中, 12%でLPでキサントクロミー(+)
 キサントクロミー(+)の72%に脳動脈瘤(+)であった (Mayo Clin Proc. 2008;83(12):1326-1331)

頭部CT, LPでキサントクロミー(-)ならばSAHは否定可能
感度 98%[91-100], 特異度 67%[63-71], LR+ 2.98[2.63-3.38], LR- 0.024[0.00-0.17]
(Ann Emerg Med 2008;51:707-13)

ただしキサントクロミーの判別が難しいことがある
XanthochromiaのMeta-analysis Ann Emerg Med. 2014;64:256-264.
 肉眼による評価とSpectrophotometryを用いた評価で比較.
 発症〜LPまでの時間(12h以上, 以内)と判断別の感度, 特異度.
 肉眼での判断では感度47-67%と低い.
 Spectrophotometryでは高感度となる.
 肉眼所見だけで判断するのは危険.

頭部MRI
急性期はCTと同等, 亜急性期~慢性期はCTよりも優れた感度を示す
FLAIR, T2 STIRを用いる(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;70:205-211)
(T2*では黒く抜ける)
画像条件
急性期 (~4)
亜急性期 (4~)
T2 STIR
94%
100%
FLAIR
81%
87%

画像で分かりにくいSAH: Convexal SAH(円蓋部のSAH)
出血が脳円蓋部に限局する稀なTypeのSAH
 脳幹周囲や脳室での出血は認めず, 脳動脈瘤に寄らないSAHである
 様々な原因が報告されている
 皮質静脈閉塞, PRES, Coagulopathy, Cocaine use, Lupus, Cavernoma
 Reversible cerebral vasoconstriction syndrome(RCVS),
 脳膿瘍, Cerebral amyloid angiopathyなど. (Case report, series)

Single Center Retrospective Study; (Neurology 2010;74:893-9)
 5yrのフォローでSpontaneous SAH患者が389名. 内29名がcSAH(7.5%)
 平均年齢は58yr[29-87], 男女差無し.
 >60yrが13名, =<60yrが16名.
 若年ではRCVSが62%を占める一方, 高齢者ではCAAが77%と高い.