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2014年8月22日金曜日

動悸

動悸について
動悸は内科外来患者の16%を占める主訴
 動悸を主訴にER受診, 入院, 外来フォローとなった患者では, 43%に心疾患を認め, 31%がPanic disorderとの報告もあり.
 心疾患を背景に持つ患者群では, 動悸の91%で不整脈を示唆
 その内, 19%でClinically significant arrhythmiaを認めた. (同患者群の不整脈検査前確率は31%)

 しかしながら, 来院時, 診察時に動悸を認めている例は少なく, 原因が判明しないことが多い.
 又, 不整脈があるからと言って, それが動悸の原因とは限らない.

 症状 + 不整脈で初めて原因と言え, 逆に 症状 + Sinus Rhythmならば不整脈が原因ではないと言える.
JAMA 2009;302:2135-43

動悸のアセスメント: N Engl J Med 1998;338:1369-73
どのような動悸か?
 動悸のタイプにより, 不整脈を予測できる場合がある.
Flip-Flopping (心臓が跳ねるような動悸)
 一旦心臓が止まり, その後強い脈を自覚する.(いわゆる “脈が飛ぶ”)
 PVC, PACで blockが生じ, その後過拡張した心臓が収縮する.

Rapid Fluttering(速く, 震える様な脈)
 これは大体上室性 or 心室性不整脈を疑わせる表現.
 洞性頻脈も含まれる.

Pounding in the Neck(頸部で感じる動悸)
 心房収縮と, 心室収縮の解離を示唆する. = Canon A wave.
 有名なのはPSVT(AVNRT)に伴うもの.

発症状況から疑う
パニック発作に伴う動悸
 パニック発作や不安に伴う発作は動悸患者の20%を占める.
 しかしながら, 当の本人から, 動悸の前にパニックがあったか? 不安があったか? を聞き出すのは困難な場合が多い.
 107名のPSVT(AVRT)患者のうち, 67%がパニック障害の診断基準を満たす >> しかも初診〜診断まで3.3年間かかっている...
 パニック発作による動悸は頻度は高いが, 除外診断となる.

カテコラミン増加状況での動悸
 運動時やストレス時は内因性カテコラミンが増加している状況.
 特発性VTやAf, PSVTは運動時に出現しやすい不整脈.
 QT延長症候群に伴うVTもストレス下で生じるtypeがある.
 当然洞性頻脈も...

体位に伴う動悸
 前屈み ⇒ 立位 への体位変換時に出現する動悸はAVNRTで多い.
 その場合, 臥位で消失することがある.
 仰臥位や左側臥位ではHRは低下する.
 この状態のときに動悸が生じる場合は期外収縮によるものを示唆. 

失神, めまいを伴う動悸
 これは要注意. VTを先ず疑うべき.
 上室性頻脈の発症初期にめまいや失神を伴うこともある.

他の病歴から分かること
年齢や発症時期から
 小児期より自覚している動悸ならば, 発作性上室性頻脈の可能性が高い.
 Af, AFは高齢者で多い不整脈であり, 若年者では稀.
 特発性VTやQT延長症候群も10台発症はあるので注意.

来院時には改善している場合が多く, どのような動悸だったかを評価するのも重要.
 患者本人に指でタップしてもらうことで, 動悸の整, 不整, 速さが判別可能.

動悸の始まり方, 終わり方も言及する.
 突如始まり, 突如終わる動悸はVT or PSVT.
 バルサルバ法や, 頸動脈マッサージ時に突如消失する動悸はPSVTを示唆

不整脈を示唆する所見 JAMA 2009;302:2135-43
左側: Any arrhythmia, 右側: Significant arrhythmia
所見
LR(+)
LR(-)
LR(+)
LR(-)
History
心疾患既往
NA
NA
0.42[0.06-3.06]
1.07[0.96-1.20]


2.03[1.33-3.11]
0.71[0.57-0.88]
NA
NA

男性
1.73[1.21-2.48]
0.69[0.54-0.89]
NA
NA


1.63[1.02-2.58]
0.76[0.56-1.03]
1.20[0.69-2.11]
0.90[0.65-1.26]


NA
NA
1.37[0.71-2.66]
0.88[0.65-1.19]

年齢 >60yr
1.70[0.95-3.06]
0.83[0.66-1.05]
1.89[1.03-3.47]
0.77[0.56-1.06]


NA
NA
1.43[0.74-2.78]
0.87[0.64-1.18]

喫煙 >11/d
0.78[0.27-2.26]
1.03[0.91-1.17]
0.77[0.26-2.25]
1.03[0.91-1.17]

不安神経症既往
0.98[0.59-1.63]
1.01[0.77-1.32]
0.92[0.49-1.72]
1.04[0.78-1.39]

動悸の家族歴
0.86[0.41-1.77]
1.04[0.87-1.26]
1.07[0.49-2.37]
0.98[0.78-1.24]

アルコール >10/wk
0.76[0.30-1.92]
1.05[0.90-1.23]
1.02[0.38-2.79]
1.00[0.83-1.19]

パニック障害既往
0.26[0.07-1.01]
1.30[1.10-1.53]
NA
NA

精神疾患の既往
NA
NA
0.67[0.29-1.58]
1.12[0.91-1.37]
動悸の性状
Regular
1.66[1.20-2.29]
NA
1.38[1.02-1.86]
0.55[0.27-1.14]

Irregular
1.65[1.22-2.22]
0.62[0.46-0.84]
NA
NA

持続時間 >5min
NA
NA
0.79[0.46-1.36]
1.23[0.81-1.86]


1.52[1.25-1.85]
0.38[0.22-0.63]
NA
NA

持続時間 >60sec
NA
NA
1.02[0.79-1.32]
0.95[0.40-2.24]


1.15[0.93-1.43]
0.69[0.36-1.31]
1.17[0.93-1.48]
0.63[0.27-1.44]

持続性
1.06[0.86-1.30]
NA
0.93[0.71-1.23]
1.20[0.62-2.31]

HR >100/min
0.91[0.63-1.31]
NA
1.08[0.78-1.50]
0.86[0.44-1.68]

HR<60, HR>100
NA
NA
3.00[1.27-7.08]
0.78[0.60-1.02]
所見
LR(+)
LR(-)
LR(+)
LR(-)
発症時状況
睡眠に関連
2.29[1.33-3.94]
0.70[0.53-0.93]
2.44[1.43-4.14]
0.63[0.42-0.93]
 増悪因子
仕事中に発症
2.17[1.19-3.96]
0.76[0.60-0.98]
1.54[0.78-3.04]
0.86[0.65-1.14]

カフェイン摂取に関連
1.84[0.74-4.61]
0.91[0.79-1.07]
2.06[0.78-5.39]
0.89[0.72-1.09]

休日に発症する
1.56[0.69-3.53]
0.92[0.78-1.09]
0.79[0.25-2.49]
1.04[0.88-1.24]

週末に発症する
1.43[0.74-2.76]
0.90[0.73-1.11]
0.72[0.27-1.88]
1.08[0.89-1.32]

アルコールに関連
1.36[0.53-3.49]
0.96[0.83-1.10]
1.94[0.74-5.12]
0.90[0.74-1.09]

ベッドで寝ている際に発症
1.30[1.01-1.68]
0.61[0.35-1.07]
1.02[0.73-1.44]
0.97[0.57-1.65]

運動に関連
0.74[0.36-1.50]
1.09[0.90-1.32]
0.78[0.33-1.82]
1.07[0.87-1.33]

呼吸に関連
0.52[0.25-1.08]
1.23[1.02-1.49]
0.52[0.20-1.33]
1.20[0.98-1.48]

休憩中に発症
NA
NA
1.02[0.69-1.50]
0.97[0.56-1.69]
随伴症状
頚部のRegular Rapid-pounding sensation
NA
NA
177[25-1251]
0.07[0.03-0.19]

Neck fullness
NA
NA
0.85[0.44-1.64]
1.04[0.90-1.20]

頚部の拍動が見える
NA
NA
2.68[1.25-5.78]
0.87[0.76-1.00]

ふらつき
0.93[0.65-1.33]
1.08[0.75-1.57]
1.34[0.96-1.88]
0.67[0.39-1.18]

胸痛
0.81[0.42-1.59]
1.07[0.87-1.30]
0.92[0.42-1.98]
1.02[0.81-1.30]

呼吸苦
0.31[0.07-1.29]
NA
0.27[0.04-1.96]
1.12[1.01-1.25]

血管迷走神経症状
NA
NA
1.72[1.11-2.65]
0.63[0.39-1.03]

Presyncope
NA
NA
1.04[0.71-1.51]
0.95[0.57-1.61]

動悸で循環器科紹介となった184例の解析 Q J Med 2003; 96:115–123
 不整脈による動悸が34%, 期外収縮によるものが41%, 動悸時洞調律だったのが26%.
不整脈 > 洞調律 をより示唆する所見

OR
HR perception test中に自覚症状無し
21.7
身体活動レベルが高い
2.56
心疾患合併
8.4
1年以上の動悸の自覚
3.95
男性
3.5
頻回の動悸発作
3.53

不整脈 > 期外収縮 をより示唆する所見

OR
1年以上の動悸の自覚
7.562
HR perception test中に自覚症状無し
0.455
頻回の動悸発作
2.22
HR perception test; 
 患者本人が, 自分の脈を触れずにHRを数える試験
 患者はリラックスし, ゆっくりと呼吸しながら行う.
 一方で検者はHRをモニタリングし, 患者のカウント数 / 実際のHR x100%で評価.

不整脈による動悸患者では, いくら集中しても, 洞調律のときには動悸は無い.
洞調律時に症状がある患者ならば, その時集中してもらえば, 動悸を訴えることが多い.
当然そのような患者では不安の訴えも多い傾向.

洞調律で動悸を感じて受診する人はやっぱりいろんなことに不安が多い.
(だからといって不安があれば不整脈ではない、とも言えません.)

動悸の患者で最低限チェックすべき事 N Engl J Med 1998;338:1369-73
心音; Mid-systolic click, Holo-systolic murmur
 若年女性の過換気, 動悸の一部に僧帽弁逸脱症による頻脈発作が含まれているとの報告がある. >> かなり見逃されている可能性が示唆される.
 パニック発作, 過換気発作とのレッテルが貼られている患者でも, 念頭において診察すべき.
12-ECG; 言わずもがな
心エコー; 心臓形態異常, 僧帽弁逸脱, MRのチェック
疑わしければホルターやモニター心電図チェック, ループレコーダーの使用を考慮すべき.

Event Recorderの携帯は心疾患の診断能を2.5倍, 不整脈の診断能を3.2倍に上昇させる.
General practice settingで動悸, ふらつきを主訴とする244名のRCT. Family Practice 2005; 22: 478–484.
 通常の不整脈, 疾患精査群と 加えてEvent recorder携帯群に割り付け, 6ヶ月間継続. 心疾と不整脈の診断頻度を比較.
 不整脈診断に対するNNT 7.