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2014年8月11日月曜日

アルコール離脱症

アルコール離脱症
Am Fam Physician 2004;69:1443-50

アルコールの中枢への作用
大きくは神経伝導系へ作用する
GABA(γ-aminobutyric acid); 抑制系
NMDA(N-methyl-D-aspartate); 興奮系

GABAを刺激し, 中枢を抑制する様に作用するが, 慢性暴露にてGABA受容体がDOWN-regulationをおこし, 反対にNMDA受容体がUP-regulationをおこす.
この状態でアルコール摂取をやめるとNMDAが過度に刺激され, 興奮作用を引き起こす.

アルコール離脱症の診断クライテリア
A)アルコール摂取の低下, 中止
B)A後,数時間~数日で以下の2項目以上を満たす
1. 自律神経興奮症状
2. 手指振戦増悪
3. 不眠
4. 嘔気, 嘔吐
5. 一過性の視覚, 触覚, 聴覚の幻覚
6. 精神運動性の興奮
7. 不安
8. てんかん 大発作
C)Bの症状が日常生活, 身体機能に障害を及ぼす
D)Bの症状が他の病態により来すものではない
(American Psychiatric Association 2000;216)

離脱症状出現のタイミング
症状
中止からの時間
Minor symptom
不眠, 動揺, 軽度不安
GI
症状, 頭痛
発汗, 動悸, 食欲低下
6-12hr
Alcoholic hallucinosis
視覚, 聴覚, 触覚
12-24hr
Withdrawal seizures
強直間代性痙攣
24-48hr
Withdrawal delirium
振戦せん妄, 幻覚(視覚)
見当識障害, 頻脈, HTN
軽度発熱, 興奮, 発汗
48-72hr
症状は最大6日程度持続

34名の入院後発症した離脱せん妄患者のうち
 25例(74%)が2日以内に出現
 6(18%)が3-4日で出現
 3(9%)が5日以降に出現.
入院後数日経過して出現するケースもあるので注意.
Am J Health-Syst Pharm. 2004; 61:1151-5

離脱症の症状 Crit Care Med 2010;38:S494-501
アルコール性の幻覚と振戦せん妄は異なる.
 幻覚では知覚, 感覚は正常に保たれている点で異なる.
 幻覚の有無は振戦せん妄発症を予測するものではない
けいれんは約10%で認められる症状.
 中断, 減量後12-48hrで生じる.
 強直間代性けいれんであり, 60%が多発性のけいれん発作となる.
 Status epilepticusは離脱患者の<4%程度と頻度が低く, 認めれば他の疾患, 原因を考える必要がある.
 アルコール離脱によるけいれんと思われたもののうち, 50%が他の疾患.
 外傷や低血糖なども考慮する.
 基本的にアルコール性のけいれんは除外診断となる
振戦せん妄は約5%で認める.
 中断後, 48-72hrで生じることが多い.
 せん妄 + 交感神経の興奮 + アルコール性の幻覚.
  → 頻脈, 高血圧, 発熱, 呼吸性アルカローシス, 脱水, 電解質異常.
 脱水補正が行われ始めてから死亡率は低下したが, 現在も感染症や, 合併症による死亡例はある.

以下の場合は他の病態を疑う
 Focal Seizure
 アルコール中止歴(-)
 中止から >48hrで出現
 発熱,外傷を伴う痙攣

離脱症の重症度評価には CIVA-Arが最適 
(Clinical Institute Withdrawal Assessment for Alcohol scale)
◎嘔気・嘔吐
◎振戦
◎発作性の発汗
◎不安
◎興奮
◎触覚異常
◎聴覚異常
◎視覚異常
◎頭痛・頭部不快感
◎見当識障害
上記10項目の程度に応じて点数をつけ離脱症状の重症度を判定する方法
J of Fam Pract 2004;53:545-54


アルコール離脱症の治療
急性期治療 J of Fam Pract 2004;53:545-54
脱水, 電解質異常, 低栄養の評価、改善 (Mg, Thiamine 100mg/day)

Benzodiazepines NNT 17 Arch Intern Med. 2004;164:1405-1412
 死亡リスク軽減効果, せん妄期間短縮効果を認める.
 ベンゾ系 vs 抗精神病薬の比較では, 抗精神病薬は死亡リスク RR6.6
 同様にせん妄期間もベンゾ系の方が有意に短い.
 プラセボとの比較は無し.

ジアゼパム(セルシン®); IV, PO(4-5mg tid)
 IV投与では5mgを2分かけてIV. 5-10分で改善無い場合に再投与.
 2回目投与でも効果乏しい場合は3-4回目は10mg IVにDose-up.
 5回目以降は20mgにDose-up.
 適切な鎮静が得られれば, 以後5-20mg/hで鎮静を維持する. (Light somnolenceを維持)

ロラゼパム(ワイパックス®); POのみ
 中期作用型。高齢者, 肝障害患者に使いやすい
 T1/2;Diazepam 20-50hr, Lorazepam 12.9hr(UpToDate®) 
 2-4mg q6hr x4回 ⇒ 1-2mg q6hr x8回

他の治療
Neuroleptic agents 
 2004年時点までRCTは無し.
 少なくともベンゾと比較して死亡リスク軽減効果, せん妄期間短縮効果は認めない.
 幻覚に対する効果は期待できる.
 痙攣閾値を下げる点, QT延長や悪性症候群など副作用が強い点から積極的に投与する必要性は乏しい.
 ベンゾ系に追加する形で使用する.
 Haloperidol 0.5-5mg IVを30-60分毎(興奮が治まるまで)
 もしくは経口0.5-5mg q4hr
β阻害薬
 興奮に対して使用されることがあるが, せん妄誘発効果があるため, 投与する必要性は乏しい.

カルバマゼピン(テグレトール®); NNT 36  J of Fam Pract 2004;53:545-54
 初日800mg, 5日目に200mgとなるようTapering
 Day 1 200mg qid
 Day 2 200mg tid
 Day 3-5 200mg bidの計5日間投与.

LorazepamとPhenobarbitalによる離脱治療を評価したRCTもあり,
双方効果は同等との結果 (American Journal of Emergency Medicine (2011) 29, 382385)