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2014年6月8日日曜日

Relapsing Polychondritis 再発性多発軟骨炎

Relapsing Polychondritis 再発性多発軟骨炎
(Rheum Dis Clin N Am 39 (2013) 263–276)
RPは稀な全身性の軟骨炎を来す自己免疫性疾患. Episodic, progressiveな経過をとる.
 耳介のElastic cartilage, 気管や関節のHyaline cartilage, 軸関節のFibrocartilageを侵すことが多い.
 軟骨以外にもproteoglycanが豊富な組織: 眼, 内耳, 心臓, 血管, 腎臓にも自己免疫機序の障害を生じることがある.
 RP単独で発症することも, 他の免疫疾患に関連することもあり.
経過は変動性だが, 徐々に増悪する経過をとる.

RPは白人に多い疾患.
 Mayo clinicでは, 年間発症率は3.5/100万の頻度.
 男女差は無し.  どの年代でも発症するが, 20-60歳で特に多く, 40-50歳がピーク

RPの機序は未だ不明瞭な部分が多い
 コラーゲンに対する自己抗体が検出される.
  II型Collagenに対する自己抗体が急性軟骨炎の33%で検出.
  IX, XI型Collagenに対する抗体も検出されている.
  他, matrilin-I, II型Collagen等様々な報告がある.
 軟骨組織からは, CD4+ T cell, 形質細胞, Ig, 補体が検出される.

RPの分類:
 Primary PRと, 他疾患に由来するSecondary RPがある.
 RP患者の30-37%で他の自己免疫疾患の合併を認める.
 また, 軟骨の外傷を契機として発症する例もある (ピアスの穴あけ後の発症等)

RPに合併し得る疾患
皮膚
内分泌
消化管
血液
アトピー性皮膚炎, 乾癬
皮膚血管炎,
疱疹状皮膚炎
脂肪織炎, 白斑症,
扁平苔癬
糖尿病, バセドウ病,
橋本病
甲状腺機能低下
炎症性腸疾患, PBC
ALL, 
クリオグロブリン,
ホジキン病, MALT,
MDS,
悪性貧血
泌尿 生殖器
リウマチ性疾患
糸球体腎炎
後腹膜線維症
ベーチェット病, FMF, Juvenile RA, 関節リウマチ
強直性脊椎炎, 全身血管炎
RP + ベーチェット病の合併を ”MAGIC” Syndromeと呼ぶ
MAGIC: Mouth and Genital Ulcer with Inflamed Cartilage
(Clin Exp Rheumatol 2006; 24 (Suppl. 42): S108-S112.)

RPの臨床所見
耳介軟骨炎と関節炎が最も多い症状で, 診断時に20-30%で認められる.
 次いで鼻軟骨炎, 眼炎, 気道病変が10-15%で認められる.
 軟骨所見が無く, 発熱, 体重減少といった全身症状のみで発症する例もあり, その場合は診断が遅れる原因となる.

耳介の所見: 耳介の発赤, 疼痛, 腫脹を認めるが, 耳垂(耳たぶ)が保たれる所見が典型的.
 再発, 寛解を繰り返すと耳介はfloppyになり, 捻れを生じ, カニフラワー状となる.
 RPでは遅かれ早かれ, ほぼ全例で耳介の炎症を生じる.
 外耳道狭窄, eustachian tube軟骨炎, 重大な外耳道炎を生じ, 難聴となる.
 内耳動脈の血管炎で急性の難聴もあり得る (前庭神経症状も伴う)
眼の所見: RPの初期では20%で認める.
 多い所見は強膜炎, 上強膜炎で, 全経過中に65%で生じる.
 長期経過したRPではリンパ球浸潤によりサーモンパッチ状の結節形成を認める.
 寛解再発を繰り返すことで強膜が菲薄化し, 脈絡膜層の色素が見え, 青色強膜になる.
 Keratoconjunctivitis sicca, Keratitis, 角膜穿孔, 網膜症, 視神経炎も生じ, 失明の原因となる.
気道病変: 鼻軟骨炎は初期で10-15%, 全経過で50-70%
 急性経過の鼻腫脹, 熱感, 発赤を生じる.
 鼻中隔の遠位部に生じることが多い.
 寛解再発を繰り返し, Saddle nose変形を生じる.
 鼻梁や鼻周囲が詰まった様な感覚を自覚する.
気管軟骨炎は半数で認める.
 呼吸苦, 咳嗽, Wheeze, 閉塞感を伴う
 気管の炎症により反回神経麻痺や声帯浮腫を合併し, 急速な窒息を呈することもあり.
筋骨格系の症状: 関節痛, 関節炎双方認める.
 関節炎は全経過で70-80%で認める.
 左右非対称で, 遊走性の関節炎. 特に胸鎖関節, 肋軟骨で多い.
 腫脹関節の穿刺では非炎症性の所見のことが多く,XPでは関節裂隙の狭小化や骨量の低下を認める.
 骨融解はRAでない限り生じない. 
 重症例では鎖骨, 肋骨の脱臼を生じ, Flail chestとなることも.
血液系の症状: MDSに合併する症例がある.
 MDSに合併するRPは60-70歳の男性例で多い.
 新規発症のRPではMDSをチェックする必要がある.
心血管系の症状: 長期経過例で認められる
 ARが4-10%, MRが2%. 免疫抑制剤使用しても生じる可能性
 大動脈炎による動脈瘤, 心筋虚血, 伝導障害, 心外膜炎, 血栓性静脈炎も合併し得る.
 抗リン脂質抗体症候群合併による血栓症もある.
神経系の症状: 3%と少ないが, 亜急性, 急性経過となる
 脳神経障害が多く, 視神経炎, 外転神経, 顔面神経, 内耳神経症状が多い.
 脳動脈瘤や無菌性髄膜炎の報告もある
腎臓障害: Primary RPの6-10%. Secondaryではより多い.
 糸球体腎炎, 血管炎による腎障害. RP患者では尿検査はルーチンに行うべき.

臓器障害の頻度:


単一施設でのRP 200例の報告 (Medicine 2001;80:173-179)
 男性71, 女性129例. 平均年齢43±18 [6-87]y
 73/200(37%)がSecondary. 疾患の内訳は,

N
:女性
軟骨炎発症年齢
皮膚病変(%)
MDS
22
18:4
63
91%
IgA骨髄腫
2
1:1
61
50%
SLE
10
2:8
35.5
70%
RA
4
0:4
37.5
25%
MCDT
6
1:5
34
100%
DM
2
1:1
52.5
100%
高安病
3
1:2
28
0
GPA
3
1:2
42
33%
TA
1
0:1
79
0
乾癬
5
3:2
38

扁平苔癬
2
0:2
38.5

白斑症
1
0:1
26

アトピー性皮膚炎
1
0:1
11

自己免疫性甲状腺疾患
8
2:6
44.5
50%
強直性脊椎炎
4
0:4
36
50%
クローン病
2
1:1
50.5
100%
無菌性深部膿瘍
4
0:4
32.5
100%
家族性地中海熱
1
0:1
2
0

Literature Review 159例の症状頻度 (Medicine 1976;55:193-215)
症状
頻度
症状
頻度
-外部: 耳介軟骨炎
88.6%(141)
内耳障害
45.9%(73)
関節
81.8%(129)
蝸牛障害
(65)
胸部軟骨関節
(58)
前庭障害
(41)
末梢関節
(121)
心血管系
23.9%(38)
脊椎関節
(24)
A弁不全
(9)
: 鼻軟骨炎
72.4%(115)
MR
(5)
眼病変
65.4%(104)
心外膜炎
(3)
結膜炎
(56)
心筋虚血
(2)
強膜炎/上強膜炎
(65)
大血管血管瘤
(9)
虹彩炎, 脈絡膜炎
(41)
血管炎
(9)
角膜炎/結角膜炎
(15)
CNS血管炎
(5)
白内障
(12)
静脈炎
(5)
視神経炎
(7)
レイノー現象
(2)
外眼筋麻痺
(6)
皮膚
16.5%(26)
眼球突出
(4)
皮膚血管炎
(6)
呼吸器: 咽頭, 気管軟骨炎
55.9%(89)
結節性紅斑様病変
(4)
気管切開頻度
(30)
非特異的皮疹
(16)
RPの診断
診断は臨床診断が基本. Labは補助的な役割
 罹患軟骨の生検で診断を確定する.
McAdam Criteria: 3つ以上を満たし, さらに補助の1つ以上
McAdam
補助
両側性の耳介軟骨炎
ステロイド, Dapsoneで効果あり
非融解性, Seronegativeの多関節炎
罹患軟骨の生検で軟骨の障害あり(寛解期で)
鼻軟骨炎

眼の炎症性病変

気道の軟骨炎

内耳, 前庭の機能異常

Labは非特異的
 貧血, WBC上昇, PLT上昇, Eo上昇はありえる.
 炎症反応も亢進する. ESRは80%で亢進.
 抗核抗体は20-60%で陽性となる.
病理所見
 典型所見はBasophilic stainingの低下, 軟骨細胞の変性, Lysosomeの集積, 血管周囲の炎症細胞浸潤. CD4+ helper T cell有意の浸潤を認める.
画像所見: (Clin Nucl Med 2012;37: 712-715)
 CTでは軟骨周囲の非特異的炎症性変化.
 PETにて軟骨の炎症が検出される


RPの活動性評価: RPDAI (Autoimmunity Reviews 12 (2012) 204–209)
 27名のRP専門家による会合にて, 43例のRP症例の活動性を0-100ptで評価し, 活動性評価に関連する因子を抽出.
因子
pt
因子
pt
因子
pt
関節炎
1
蛋白尿
6
感音性難聴
12
発熱
2
前庭障害
8
網膜血管炎
14
紫斑
3
鼻軟骨炎
9
気道軟骨炎, 急性呼吸不全(-)
14
CRP上昇
3
心外膜炎
9
, 中血管炎
16
胸骨角軟骨炎
3
ブドウ膜炎
9
心筋炎
17
胸鎖軟骨炎
4
耳介軟骨炎
9
腎不全
17
血尿
4
強膜炎
9
急性A, M弁不全
18
肋骨軟骨炎
4
角膜潰瘍
11
脳炎
22
上強膜炎
5
運動, 感覚運動神経症
12
気道軟骨炎, 急性呼吸不全(+)
24

RPのマネージメント
 RP自体が稀な疾患であり, RCTは無し。
 NSAIDは軽症の関節炎, 関節痛例で使用される.
 軽症の眼病変の場合はステロイド点眼を併用する.
 耳介軟骨炎にはコルヒチン0.6mg bid.
 軽症〜中等症の軟骨炎に対しては, PSL 10-20mgを使用.
  鼻軟骨炎, 耳介軟骨炎単独例にはDapsone 50-200mgも使用

中等症〜重症のRPへの対応
(強膜炎, 聴前庭神経障害, 咽頭気管軟骨炎, 気道障害, 動脈炎, 他の臓器障害)
 PSL 1mg/kg/dの高用量ステロイドが推奨される.
 もしくはステロイドパルス療法
 エピネフリンの吸入も気道障害に対して有効
 PSL sparing agentとしてMTXやAzathioprineも使用される.
 致命的な臓器障害の場合はCyclophosphamide 1-2mg/d, CyCパルスも併用される.
 上記に不応の場合はCyclosporine A 5-15mg/kg/dを考慮.

生物学的製剤も使用される
 CD4モノクローナル抗体, 抗TNF-α阻害薬
 抗IL-6R阻害薬(Tocilizumab)は症例報告レベルで効果あり.