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2014年6月6日金曜日

関節リウマチとANCA(抗好中球細胞質抗体)

関節リウマチ患者とANCA

関節リウマチ患者ではANCA, 特にpANCAが陽性になることが知られている.
MPO-ANCA, PR3-ANCAの検査が可能となってからは陽性頻度は低下しているが, RA患者におけるANCAの意義は未だに不明瞭.

早期RA(発症≤12M)の82例でANCAを評価したStudyでは,
 40例(50%)でp-ANCA陽性, 3例(4%)でc-ANCA陽性であった.
ANCA陽性例と陰性例の比較では, 陽性例の方がより関節予後が不良. (Larsen score)

ANCAタイプ別の陽性率.
pANCA陽性の40例中, MPO-ANCA陽性は1例のみ.
全体ではMPO-ANCA陽性は5/80 (6.25%)と陽性率は低下する.
最も多いタイプはHLE(human leukocyte elastase)で17/80
次いで Cathepsin Gで8/80, LysozymeとMPOが其々 5/80. PR3は0例であった.
(ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol. 43, No. 6, June 2000, pp 1371–1377)

RA患者群でRF, 抗CCP抗体, ANCAの陽性率を評価.
ANCAは29/198例で陽性(14.6%). このStudyではANCA陽性の合併はRA死亡リスク因子とはならなかった. (J Rheumatol 2005;32;2089-2094)

77例のRA, 25例のPsoriatic arthritis, 19例の薬剤性Lupus, 11例のSLE糸球体腎炎 患者でANCAを評価.
ANCA陽性率は,
 Rheumatoid vasculitisで29%, 長期のRAで48%, 早期RAで20%,
 Psoriatic arthritisで4%, 薬剤性Lupusで47%, SLEで45%. 

ANCA
c-ANCA
p-ANCA
a-ANCA
Lactoferrin
MPO
Elastase
Cathepsin G
α-granules
Control
0
0
0
0
0
0
0
0
0
RA
33%
1%
19%
13%
10%
10%
14%
6%
1.5%
RAV
29%
0
25%
4%
3.5%
17.8%
32.2%
7.2%
3.5%
晩期RA
48%
3%
22.5%
22.5%
19%
6.4%
3.2%
3.2%
3.2%
早期RA
20%
0
8%
12%
4%
8%
8%
8%
0
Pso
4%
0
4%
0
21%
8%
8%
4%
0
DI-LE
47%
0
32%
16%
54.5%
15%
37.8%
15.8%
0
SLE-GN
45%
0
9%
36%
28%
36.4%
0
0
18%
RA患者ではp-ANCAは19%で陽性. MPO-ANCAは10%のみ.
(British Journal of Rheumatology 1996;35:38-43)

97名のRA患者のうち29例(30%)でANCAが陽性. MPO-ANCAは12%で認められた.
MPOはIgGが6例, IgMが1例, IgGとIgMの混合が5例であった.
MPO-ANCA陽性RAと陰性RAの比較では, 陽性例でより結節, 関節症状が強い
(Annals of the Rheumatic Disease 1994;53:24-29)

日本国内のRA患者での評価: 
RA患者125例中24%がANCA陽性.
MRAでは25%, SLEでは33.3%, SjSで21.4%
膠原病全体的に20-40%でANCAは陽性.
MPO-ANCAは4.8%の陽性率. PR3-ANCAも4.0%程度で認められた.

ANCA陽性例と陰性例RAの臨床所見, Labの比較.
炎症反応(ESR), 関節症状はANCA陽性例でより高度となる.

ANCAパターン別の臨床, Labの比較
 Lactoferrin, PR3では関節症状が強い. ただし大きな差はない.
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これより, RA患者におけるANCA陽性の存在は, 関節症状, 骨病変が陰性例よりも重症になりやすい予測因子として使用可能かもしれない.
その場合はMPO-ANCAではなく, p-ANCAの方が有用性は高い.

RA患者でMPO-ANCA陽性の場合, それでANCA関連血管炎を生じるかどうか?
これについてはまとまったReviewはないが, いくつかの症例報告がある.

MPO-ANCA陽性の半月形成糸球体腎炎を合併したRA症例と非RA症例の比較.
RA患者でMPO-ANCA陽性半月形成糸球体腎炎症例 3例と,
 非RA患者でのMPO-ANCA陽性半月形成糸球体腎炎 10例を比較.
RA + MPO-ANCA陽性例の糸球体腎炎の方がより若年で経過が緩徐進行.
従って診断までも時間がかかっている.
(Clin Exp Nephrol (2010) 14:325–332)

TNF-α阻害薬投与後にANCA関連糸球体腎炎を呈した症例もある
 TNF-α阻害薬がANCA関連血管炎を誘導する機序は不明であるが, T helper type 1からtype 2 cytokine responseに誘導する作用が自己抗体を誘導する可能性が示唆されている.
 現にTNF-α治療によりANAやds-DNA, 抗カルジオリピン抗体が誘導されることも知られている. (
Am J Kidney Dis 2008;51:e11-e14)

11394例のTNF-α阻害薬使用例の内, 40例でSLE様の症状(+)
 ATIL: Anti-TNF-induced Lupusと呼ばれる.
InfliximabのRCTでは, 治療前後のANA陽性率は29%→53%
156例の使用群の内22例(14%)でdsDNA抗体が陽性となった.
抗体の大半がIgMであった.
実際にLupus症状を来すのは0.6%程度と少ない. (
Rheumatology 2009;48:716–720)

RAでTNF-α阻害薬開始後にANCA関連腎症を呈した症例報告
(Mod Rheumatol (2010) 20:602–605)

まとめると,
RAそのものにp-ANCAやMPO-ANCAを認める可能性がある.
 p-ANCAは15-50%程度の頻度, MPO-ANCAは5-10%程度の頻度.
 これらがあると関節症状や炎症反応が高くなる可能性がある.
 また, 急速進行性糸球体腎炎を呈する可能性がある.
RA+MPO-ANCA関連糸球体腎炎ではANCA関連腎炎と比較して, 若年 (40-60歳台), より緩徐な進行を呈する.
RAに使用されるTNF-α阻害薬でもANCAを誘導し, 急速糸球体腎炎を来す可能性がある.
 ただしこれらの症例報告ではTNF-α阻害薬導入前のANCAの有無は評価されておらず, RA+ANCA陽性例でTNF-α阻害薬を導入する際に腎炎のリスクになるかどうかは不明.

RA患者において, 腎不全が進行した場合,
アミロイドーシス
薬剤性
リウマチ性血管炎(ただし腎臓に来る可能性は低い) 
を考慮するが,
それに加えてANCA関連血管炎も念頭に置きチェックすべきと言えるかもしれない.