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2014年4月18日金曜日

Periodic Fever Syndrome: 家族性地中海熱

家族性地中海熱 Familial Mediterranean Fever
(Medicine 2012;91: 131-136) (Allergy 2007;62:1349-58)

〜まずは一般的知識から〜
FMFは周期性発熱疾患の1つ
MEFV gene @16pの異常が原因で, 小児, 成人の不定期の発熱で発症.
 MEFV遺伝子の異常によりIL-1βを誘導し, 漿膜炎を来す.
 50%が4yrまでに発症, 80%が10yrまでに発症する
 好発人種はnon-Ashkenazi*, ユダヤ人, トルコ人, アルメニア人, アラブ人.
 特にトルコ人で最も有病率が高く, 400-1000人に1名の割合. 
 * Ashkenazi 北欧, ドイツ在住のユダヤ人のこと. 

 腹痛が初発症状であることが多い. その後40度台の発熱を生じる.
 再発性の発熱, 漿膜炎. 
 症状は1-3日間持続し, 寛解期は不定. 1wk-4moで再発.

FMFで問題となるのはAA amyloidosis.
 末期腎不全のリスクとなる. 
 コルヒチンによる治療が確立される前までは, 大半の患者は<40yrでAA amyloidosisを発症し, 50yr以上まで生存する例は稀であったが, コルヒチンにより予後は改善.

トルコの大学病院において1992年〜2009年に診断されたFMF 650例のフォロー.(女性51%, 年齢38.6±12.6yr) (Medicine 2012;91: 131-136)
 その内587名(90.3%)で評価.
 症状は発熱と腹膜炎が殆ど.
 女性例では関節炎を呈する例が男性よりも多い(52.3% vs 43.3%, p=0.034)
 コルヒチンにより治療されたのは94.2%で, 平均Doseは1.5mg/d[0-3]
症状はほぼ全例で発熱と腹膜炎.
 胸膜炎は7割, 関節炎は4-5割, 丹毒様皮疹が2-3割.

このFMF 587例のうち, 遺伝子検査されたのは436名.
M694V
43.9%
M680I
16.2%
V726A
9.9%

Exon10の変異が典型的(M694I, M680I, M694V)

 炎症反応はESR 19.5mm/hr[2-110]
 CRP 0.98mg/dL[0-14.9]と軽度のことが多い.
 生検にてアミロイドーシスを認めたのは37例(6.3%)
 3名が無症候性タンパク尿, 12名がネフローゼ症候群, 22名が腎不全を発症. 17/22が透析.

6年間[2-10]のフォローにて, 14/587(2.4%)が死亡
 死因はアミロイドーシス, 腎疾患, 加齢, 冠動脈疾患, 高血圧.
 アミロイドーシスは死亡HR 17.5[3.8-81.4]と死亡に関連する.

FMFの診断Criteria; (Jpn J Clin Immunol 2011;34:355-360)
Tel-Hashomer criteria
 Major 1項目またはMinor 2項目以上で診断
Major
Minor
典型的発作* + 以下を満たす
不完全な発作** + 以下を満たす
1 非限局性の腹膜炎
1 胸膜炎, または心膜炎
2 胸膜炎(片側性) または心膜炎
2 単関節炎
3 単関節炎(股関節, 膝関節, 足関節)
3 労作後の下肢痛
4 発熱のみ
4 コルヒチンの良好な反応性


*典型的発作; 38度以上の発熱が12h-3d持続. 同じタイプの発熱を3回以上繰り返す
**非典型的; 発熱が38度未満, 発作期間が6h-1wk, 腹痛発作の間に腹膜炎所見がないか, 限局性の腹膜炎. 上記の関節以外に関節炎を認める.

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と, ここまでが一般的な家族性地中海熱の総論.
ここで日本国内の地中海熱の特徴, 症状頻度をみてみる.

日本国内の292例の報告
(Jpn J Clin Immunol 2011;34:355-360)

性別, 発症年齢
発症年齢
男性(59)
女性(75)
Total(134)
0-9y
9
25
25.4%
10-19y
22
28
37.3%
20-29y
14
9
17.2%
30-39y
6
3
6.7%
40-49y
3
6
6.7%
≥50y
5
3
6.0%
発症年齢
22.5±14.4
17.2±15.7
19.6±15.3
診断時年齢
30.8±18.7
27.0±18.3
28.7±18.5
トルコでは小児での発症が一般的であるが, 日本国内での発症例は20歳以降が4割近くを占める.
成人発症例が多い特徴がある

国別の症状頻度

日本
トルコ
イスラエル
アラブ
発熱
95.5%
92%
100%
100%
腹痛
62.7%
93%
95%
94%
胸痛
35.8%
31%
43%
32%
関節痛
31.3%
47%
75%
33%
皮疹(丹毒様紅斑)
7.5%
21%
4%
3%
アミロイドーシス
3.7%
13%
27%
3%


日本でのFMFは腹痛の頻度, アミロイドーシスの頻度が低い.
典型的な "腹痛と発熱" というプレゼンは6割程度.

日本国内の126例のMEFV遺伝子変異型
Mutation



M694I/M694I
6.3%
E148Q/R202Q
1.6%
M694I/normal
12.7%
E148Q/G304R
0.8%
M694I/E148Q
19.8%
E148Q/S503C
0.8%
M694I/L110P
1.6%
E148Q/L110P/R202Q
0.8%
M694I/E148Q/L110P
11.1%
E148Q/R369S/R408Q
4.0%
M694I/E148Q/E148Q/L110P/L110P
0.8%
E148Q/R202Q/R369S/R408Q
0.8%
M680I/E148Q/L110P
0.8%
E148Q/G304R/R369S/R408Q
0.8%
E148Q/E148Q
0.8%
R202Q/normal
0.8%
E148Q/E148Q/L110P
1.6%
S503C/normal
0.8%
E148Q/E148Q/P369S/R408Q
1.6%
E84K/normal
2.4%
E148Q/normal
6.3%
P369S/R408Q
4.0%
E148Q/L110P
5.6%
(-)
13.5%
トルコでの587例の解析では, 遺伝子異常はM694V, M680I, V726Aの3種類である一方,
日本国内では様々な遺伝子変異型が報告されている.

トルコで多いExon10の変異(M694I, M680I, M694V)を認めるのが67例,
それ以外の変異が59例と国内では約半数がExon10以外の変異.
このExon10変異(+)群 vs (-)群を比較すると,

exon10
変異あり(67)
exon10
変異無し(59)
腹痛
74.6%
49.2%
胸痛
59.7%
13.6%
関節痛
22.4%
44.1%
筋痛
10.4%
13.6%
アミロイドーシス
4.5%
3.4%
発症年齢
17.9±11.6y
20.6±18.3
/
34/33
19/40
家族歴
35.8%
13.6%
漿膜炎の頻度, 関節炎の頻度が大きく異なる.
Exon10の変異(完全型FMF)では腹痛頻度が高く, それ以外(不完全型FMF)では腹痛よりも関節炎頻度が高い.

FMF variant(不完全型FMF)
 症状が非典型的なFMFで, 発熱期間が4日以上であったり, 発熱が<38度であったり, 漿膜炎発作が典型的ではなく, 関節症状, 筋症状が強かったりする.

典型的FMFと非典型的FMF(不完全型)の比較 (Medicine 2014;93: 158–164)
日本人のFMF 311例をTel Hashomer criteriaで典型的, 非典型的FMFに分類し, 双方を比較.
 典型例は178例, 非典型例は133例であった.
典型例と非典型例の比較.

 非典型例の方がより発熱期間が長い
 胸痛や腹痛は典型例で多く, 皮疹や関節痛は非典型例でより多い.

 典型例ではExon 10変異が62.4%, 非典型例では11.3%のみ.

非典型的なFMF (FMF variant)を疑った場合, 遺伝子検査が有用
 MEFV遺伝子検査を行い, Exon 10の変異があればFMFと診断.
 Exon 10以外の変異があれば, 不全型FMFの可能性あり.
 exon1(E84K), exon2(E148Q, L110-E148Q, R202Q, G304R), exon3(P369S-R408Q), exon5(S503C)の変異を伴っていることがある.
 FMF同様にコルヒチンへの反応は良好であり, 不全型FMF, 疑い例ならばコルヒチンへの反応性を評価し, 反応あれば不全型FMFと診断する形となる.

これらをふまえて, 
日本国内で提唱されたCriteria
 必須項目 + 補助項目 1項目以上を満たし, 他疾患が除外される場合に診断
必須項目
補助項目
12h-3d続く38度の発熱を3回以上繰り返す
発熱時の随伴症状として
 
非限局性の腹膜炎による腹痛
 
胸膜炎による胸背部痛
 
関節炎(股関節膝関節足関節)
 
心膜炎
 
精巣漿膜炎
 
髄膜炎による頭痛

発熱時にCRPや血清アミロイドAなど
 炎症検査の上昇を認め間欠期には消失

コルヒチンによる発作が消失軽減


(家族性地中海熱診療ガイドライン2011)
FMFの治療
 コルヒチンが1st choice. 
 小児例ならば0.01-0.02mg/kg/dを分2-1で開始. 0.03mg/kg/dまで増量可
 成人例ならば0.5mg/dを分2-1で開始. 1.5mg/dまで増量.
 コルヒチンが不応例が10%程度あり, その場合はIL-1 R拮抗薬(アナキンラ),  TNF-α阻害薬(インフリキシマブ, エナネルセプト) サリドマイド が効果的との報告があり, 試される.

 Rilonacept (IL-1 R拮抗薬) はコルヒチン不応性, もしくは副作用で使用できないFMF症例において, 発作頻度の減少効果が示唆されている(N=14のSmall study) (Ann Intern Med. 2012;157:533-541.)

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個人的にはFMFは2例経験があります。
双方とも成人発症の長い経過の後に診断。特にアミロイドーシス合併は無し。
発熱エピソードから、徐々に腹痛や胸痛、関節痛などが加わる経過でした。

トルコ近辺で言われているFMFと経過も症状も異なる事が多い日本国内のFMF。
これはもう家族性日本発熱(FJF)とか家族性アジア発熱(FAF)とか言ってはダメでしょうか?(笑)