ページ

2014年3月10日月曜日

振戦 Tremorについて: 本態性振戦 他

本態性振戦 Essential Tremor
(Neurol Clin 27 (2009) 679–695)(Australian Family Physician 2009;38:678-683)(Postgrad Med J 2005;81:756–762.)
通常Action tremorであり, 姿勢時, 運動時両方認められる振戦.
 >40yrの0.4-6.7%で認められ, 振戦で最も多い原因.
 常染色体優性遺伝をとり, 家族内発症も多い.(3q13, 2p22-25が判明)
 浸透率は89%と高値であり, 65歳までに89%が発症.
 頻度は~51yrでは4-39/1000, 60yr以上では51/1000.
 65yr以上の振戦のうち, 5%が本態性振戦.
 左右対称性, 4-8Hzの振戦となる.

振戦の部位
ほぼ全例
頭部
34%
顔面,
7%
12%
30%
体幹
5%
下肢
30%


原因は明らかではないが,
 小脳, 脳幹のニューロン異常, GABA受容体異常の関連など指摘.
 Et-OHやベンゾ, β阻害薬が有効.

本態性振戦の病理 (Brain (2007), 130, 3297-3307)
 ET 33例, Control 22例の剖検例の報告.

ET 33例中, Lewy bodiesを認めたのが8例.
Lewy bodiesを認めないETでは, 
 Purkinje細胞が少なく, Torpedoesが有意に増加している.
Lewy bodiesを認めるET (Lewy body ET)は,
 Lewy bodiesは迷走神経背側核, 青斑核, 黒質緻密部に多く, 黒質緻密部に沈着を認める例ではParkinsonismを呈している.

10例のET, 12例のControlの組織所見 (Lewy bodies ET 6例) (NEUROLOGY 2006;66:1756–1759)
 non-LBETでは他のStudyと同様に, Torpedoes, Bergmann gliaが多くなっている.

まとめるとEssential Tremorには2つのパターンが考えられる.
 Lewy bodiesが青斑核や黒質, 迷走神経背側核など, = “脳幹” に沈着しているタイプ (Lewy body ET)か, Lewy bodiesに関連性のないET.
 ETにはParkinsonismや他の変性疾患の症状をともなう事も多く, これら組織タイプにより症状は異なる事が予測される.

本態性振戦とパーキンソン病の鑑別点
 (Postgrad Med J 2005;81:756–762.)
(JAMA. 2014;311(9):948-954)

PDでもPostural tremorを生じることがあるが, 新しい体位をとったあと短時間の潜時を経て振戦が生じる. 
本態性振戦では新しい体位をとったあと直ぐに振戦が生じる点で異なる.
(Australian Family Physician 2009;38:678-683)

本態性振戦の診断Criteria (Postgrad Med J 2005;81:756–762.)
Definite
Probable
一肢以上で中等度振幅の姿勢時振戦
一肢以上で中等度振幅の姿勢時振戦
運動時の振戦(水を注ぐ, スプーンを使用, 書く)
運動時の振戦(水を注ぐ, スプーンを使用, 書く)
振戦により1つ以上のADLが障害
 or 頭部振戦が出現している
薬剤, 甲状腺, アルコール, 他疾患が除外
薬剤, 甲状腺, アルコール, 他疾患が除外

本態性振戦の治療 (Neurol Clin 27 (2009) 679–695)
推奨ランクA

Proplanolol(インデラル)
β阻害薬
Primidone(プリミドン)
抗てんかん薬

推奨ランクB

Alprazolam(コンスタン, ソラナックス)
ベンゾジアゼピン
Atenolol(テノーミン)
β阻害薬
Gabapentin(ガバペン)
抗てんかん薬
Sotalol(ソタコール)
抗不整脈薬
Topiramate(トピナ)
抗てんかん薬
 推奨ランクAが最も有効.Bも有効だが, Aには劣る.
 Aの薬剤使用にて手振戦は50%軽減が望める.
 薬剤感受性は人により異なり, それぞれに合う薬剤を探す

 Propranololは10-40mgで使用するが, 60-240mg/dにて効果を認める場合もあり. 副作用に注意しつつ増量.
 Primidoneは12.5-25mg/dより開始. 眠前内服が良い.
 副作用として傾眠, めまい, 嘔気があり, 眠前投与が最も耐えられる
 耐えられれば, 数週間毎に増量し, 50-350mg/d 1-3回投与とする

他の振戦の特徴(Postgrad Med J 2005;81:756–762.)
Physiological tremor(生理的振戦)
 非病的であり, 健常人で認められる. 通常, 姿勢時振戦.
 周期は8-12Hzと, 脳波(7-13Hz)にほぼ一致する.
 9歳時では<6Hzであり, 10台半ばで12Hzまで増加. 60歳より軽度減少.
 振幅は細かく, 肉眼ではほぼ見えないこともある.
 ADLを障害することはほぼ無い.
 ストレスや緊張, 薬剤で増強され, 肉眼で見えるようになる.
 甲状腺疾患も増強因子. 増強因子となる疾患の殆どは可逆性.

Psychogenic tremor(精神的振戦)
 振戦の10%を占めると言われる.
 急速発症, 急速に改善し, 非典型的な経過, 所見を認める場合に考慮.
2つのtypeがある; coherent type, co-contraction type
 coherent type; ≤6Hzの潜在意識下の振戦
  他の四肢の能動的な運動にて周波数が変化, 振戦が消失する.
 co-contraction type; 他の筋収縮に付随して振戦が生じる.
  周波数, 振幅は他筋の収縮の程度により変化(co-activation sign)
治療は基礎疾患の治療だが, 長期予後は悪い.

精神的振戦を疑う所見(Neurol Clin 27 (2009) 679–695)
突然発症
薬剤に不応性
症状が突然改善する
安定した経過
意識すると増悪, 気が散ると減少
Lab, 画像で問題無し
突発的な改善
プラセボに反応
疾病利得がある
分類不能な振戦
他の神経所見が無い
精神疾患がある
臨床的な不一致
他の多数身体症状の訴え

振戦の特徴が変化
多数の診断できない病状

Parkinson tremor 
 3-5Hzの安静時振戦が特徴的. Pill-rolling tremorと呼ばれる.
 運動により消失, 軽減するが, 再度姿勢をとった後, 数秒を経て再出現する姿勢時振戦も特徴的. その際も3-5Hz
 安静時振戦自体はSteele-Richardson-Olszewski syndromeの21%, MSAの40%で認めるが, Pill-rollingはMSAの8%のみと少ない.
 能動的な筋運動で出現する5-10Hzの運動時振戦もある.
 本態性振戦に似ているが, 書字時の振戦は先ず認めない. むしろ小字症が主.
Parkinson tremorの治療
 Levodopaへの反応性は低いことがある.
 他 Dopamine agonist(Pramipexole, ropinirole)が有効なこともある
 また, 抗コリン薬, Amantadineが有効な場合もあり, 色々試すことが必要.
 また, それら薬剤への反応性が乏しい場合,  本態性振戦に対する薬剤も試すことがある.

Cerebellar tremor, intention tremor (小脳性)
 低周期(<5Hz)の動的振戦で, 随意的要素も含まれる.
 姿勢時振戦を伴うことがあるが, 静止時振戦は先ず伴わない.
 目標物に届くに従い増悪, 出現する振戦をTerminal tremorと呼ぶ.
 静止時振戦を伴うものをHolmes’ tremorと呼ぶ.
 中脳, 視床など上部脳幹病変で生じる.
 小脳腫瘍, Stroke, 小脳失調, MSなどで認められる.
 薬剤治療は本態性振戦の治療が試されることがあるが, 基本的にDeep Brain Stimulationが推奨される.

Task-specific, focal, Dystonic tremor 
 Dystonia様の振戦を来すもので, 障害部位がDystoniaと異なる.
 基本的にどの部位に生じても良い. 上肢や頭頸部に生じると著しくADLを障害する.
 Task-specific tremorもDystoniaの一部症として考える専門家も多い.
 長期フォローにてDystoniaに移行する例も多い.
 姿勢時, 運動時に出現する振戦. 
 周波は様々, <7Hzとなることが多い. 一定しない周波数もこの振戦の特徴
治療は経験的治療
 本態性振戦に対する薬剤を使用することもある.
 治療は抗コリン薬とClonazepamが使用されるが, 頭頸部のジストニアに最も効果があるのはボツリヌス毒素.

Orthostatic tremor 
 中年〜高齢で認める稀な病態.
 立位時の不安定性, 下肢の16Hzと速い振戦を特徴とする.
 速すぎて振戦に気付かないことも多く, その場合触診が有用.
 歩行時には減弱し, 座位, 臥位では消失するのが特徴的.
 患者は立位時には安定性を得る為にWide-baseとなるが, 歩行は問題なく可能.
 原因ははっきりしていないが, 高周波数であり, 下部の反射ループの異常ではあり得ない周波数. おそらくは中枢が関連しているのではないかと言われている.
 診断は立位時の筋電図で16Hzの振戦を証明すること.
 治療はClonazepam, Primidone, Gabapentin, Dopaminergic
 RCTはあるものの, Small sizeであり, これも経験的治療が主となる.