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2014年3月11日火曜日

せん妄, Delirium: リスク, 診断

せん妄とは (NEJM 2006;354:1157-65)
 急性の錯乱状態. 認知症は慢性の錯乱状態.
 入院時での合併率は14-24%であるが, 入院中の発症率は母集団, 環境, 疾患により頻度は様々(6-56%)
 高齢者の術後は15-53%, ICU管理ではさらに70-87%に及ぶ
 施設入所者, 急性疾患後では60%に及ぶ
 終末期では83%と高い.

一般社会では発症率は低く, 1-2%程度であるが, 加齢とともに上昇し, >85yrでは14%まで増加.
 せん妄は死亡Riskも高く, せん妄を伴う入院患者の死亡率は22-76%

せん妄の頻度 (Lancet 2014; 383: 911–22)
外科患者群
Prevalence
Incidence
アウトカム(RR)
心臓外科手術

11-46%
認知障害 1.7, 機能低下 1.9
非心臓外科手術

13-50%
機能低下 2.1, 認知障害 1.6
整形外科手術
17%
12-51%
認知症, 認知障害 6.4-41.2
施設への入所 5.6


内科患者
Prevalence
Incidence
アウトカム(RR)
一般病棟
18-35%
11-14%
死亡 1.5-1.6, 機能低下 1.5
高齢者病棟
25%
20-29%
転倒 1.3, 死亡 1.9,
施設入所 2.5
ICU
7-50%
19-82%
死亡 1.4-13.0,
長期滞在 1.4-2.1,
人工呼吸器管理延長 8.6
脳梗塞

10-27%
死亡 2.0,
長期滞在, 機能低下, 死亡 2.1
認知症
18%
56%
認知障害 1.6-3.1,
施設入所 9.3, 死亡 5.4
緩和ケア

47%

介護施設
14%
20-22%
死亡 4.9
ER
8-17%

死亡 1.7
せん妄のリスク因子 (NEJM 2006;354:1157-65)
せん妄患者の基礎疾患, 状態
背景
年齢>65yr
経口摂取の低下
脱水

男性

低栄養
認知機能
認知症(+)
薬剤
多数の向精神病薬を使用している

認知障害

多数の薬剤を内服している

せん妄の既往

アルコール中毒

うつ病
併存疾患
重症疾患
機能
介助が必要

多数の基礎疾患

体幹抑制

慢性腎疾患, 肝疾患

活動レベル低

Strokeの既往,神経疾患

転倒の既往あり

感染症, HIV
感覚
視覚障害

代謝性疾患

聴覚障害

骨折, 外傷



終末期
高齢者で基礎疾患多数, 多薬剤内服, 急性疾患で内服
 ⇒ 超High Riskであると認識すべき.

せん妄を悪化させる因子
薬剤
鎮静剤
併発疾患
感染症

Narcotics

医原性合併症

抗コリン薬

急性重症疾患

多剤使用

低酸素

アルコール離脱, 薬物離脱

Shock
神経疾患
Stroke

発熱, 低体温

頭蓋内出血

貧血

髄膜炎, 脳炎

脱水
手術
整形外科手術

低栄養, Alb

心臓手術

代謝; 電解質, 血糖

Cardiopulmonary bypass
環境
ICU

非心臓手術

体幹抑制
睡眠障害

尿道カテーテル



多数の手技



疼痛, 感情ストレス

入院患者のせん妄リスク評価
(*JAMA 1996;275:852-7 Primary Care Geriatrics 5th Ed)
認知症はせん妄の最も大きいRisk Factorであり, せん妄を発症した患者の2/3は認知症(+)である
Risk Factor
OR
Pt
身体拘束具の使用
4.4[2.5-7.9]
1
栄養不良
4.0[2.2-7.4]
1
3つ以上の新規薬剤の使用
2.9[1.6-5.4]
1
尿カテ留置
2.4[1.2-4.7]
1
Iatrogenic Eventへの暴露
1.9[1.1-3.2]
1
術中の低血圧(<31%, sBP <80)
1.4
術後Hct < 30%
1.7
術後疼痛 未コントロール
5.4-9
抗コリン薬の使用
1.5-2.7

pt*
せん妄発症率
0
3-4%
1-2
20%
>=3
35-59%

予測リスクスコア
Factor
OR
pt
Factor
OR
pt
Cognitive 
 カルテにて認知症(+)
 MMSE < 24
 せん妄の既往あり

3.5-5
2-4
4

3
2
1
HTN
CHF
DM
CVA
Af
2.3
1.3-2.9
1.3
2.2
1.4
1つ以上
あれば
1pt
現在うつ病である
2-4
1
現在アルコール中毒である
3-6.5
2
入院理由
Hip Fx
AAA待機手術

3
6

2
3
現在聴覚障害がある
2
1
現在視覚障害がある
2-3.5
1
日常生活の2つ以上の行為に介助を要する
2.5
1



現在抗コリン薬を使用している
1.5-2.7
2



脱水; BUN/Cr > 21
1.8-2
1



Na異常 (Na<130, Na>150)
2-4
1




Score
(0-17)
Risk
予測発症率
0-1
Low
<5%
2-3
Mild
5-20%
4-7
Moderate
21-40%
>7pt
Severe
>40%
術後せん妄のリスク (JAMA 1994;271:134-9)
Variable
OR
Pt
年齢>=70yr
3.3[1.9-5.9]
1
アルコール中毒
3.3[1.4-8.3]
1
TICS score <30*
4.2[2.4-7.3]
1
SAS class IV**
2.5[1.2-5.2]
1
周術期のNa, K, Glu異常
3.4[1.3-8.7]
1
大動脈瘤手術
8.3[3.6-19.4]
2
心臓以外の胸部手術
3.5[1.6-7.4]
1

Pt
せん妄発症率
0
2%
1-2
11%
>=3
50%
*TICS; Telephone Interview for Cognitive Status
 (<30は認知症ありを意味する)
**SAS; Specific Activity Scale
 (Class IVは重度の身体活動制限を意味する)

せん妄の臨床症状 (NEJM 2006;354:1157-65)
基本的に臨床診断であり, 特徴を抑えることが大事
急性の発症
数時間~数日の速い経過で起こる
認知障害
全体的, 複数の認知機能低下

周囲の介護者からの情報が重要
知覚障害
幻覚を約30%で認める
変動性の症状
24hr以上の経過で増悪, 軽快を繰り返す
精神運動障害
過活動; 興奮, 不眠

意識清明な期間がある

活動抑制; 無気力, 活動性の低下
注意障害
集中持続不可能

上記混合型

注目することが不可能, 困難
睡眠障害
睡眠サイクルの異常
混乱状態
支離滅裂な会話

昼夜逆転

非論理的な考え方
感情障害
恐怖, パラノイア, 不安, うつ
意識障害
周囲への反応低下

いらいら, 無動, 怒り, 多幸感

有用な検査はなく, 脳波も偽陰性率17%, 偽陽性率22%であり推奨はされない.

MDAS(Memorial Delirium Assessment Scale)
(J Pain Symptom Manage 1997;13:128-37)
10項目, 0-3点で評価したScore (0-30pt)
 意識状態
 見当識
 短期記憶
 数字記憶
 注意
 思考
 知覚
 幻覚
 精神運動
 睡眠, 覚醒 を0-3ptの4段階で評価

Cut-off score
Sn(%)
Sp(%)
10
82.4%
75.0%
11
76.5%
81.3%
12
76.5%
87.5%
13
70.6%
93.8%
14 
64.7%
93.8%
15
64.7%
100%
16
64.7%
100%
悪性腫瘍, AIDS患者における せん妄評価のValidation

Validationは小規模であり, 基礎疾患にも偏りがあるため, 診断に必ず有用というわけではない. 上記項目をCheckすることに価値があるかもしれない

せん妄の診断: 25 studiesのMeta-analysis 
(JAMA 2010;304:779-86)
Criteria
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
CAC
36[24-49]
95[92-97]
7.4[4.2-13]
0.67[0.56-0.81]
CAM
86[74-93]
93[87-96]
9.6[5.8-16.0]
0.16[0.09-0.29]
DOSS
92[74-98]
82[66-92]
5.2[2.7-9.9]
0.10[0.03-0.37]
DRS>=10
95[90-98]
79[58-91]
4.3[2.1-9.1]
0.07[0.03-0.13]
DRS-R-98>20
93[80-98]
86[68-97]
8.0[2.6-25]
0.08[0.03-0.24]
Digit Span test
34[22-48]
90[87-93]
3.4[2.1-5.5]
0.73[0.61-0.89]
GAR<7
94[73-100]
99[92-100]
65[9.3-458]
0.06[0.01-0.38]
MDAS>=10
92[75-98]
92[70-98]
12[2.4-58]
0.09[0.02-0.38]
MMSE<24
96[87-99]
38[23-55]
1.6[1.2-2.0]
0.12[0.04-0.38]
Nu-DESC>0
96[80-100]
69[59-79]
3.1[2.3-4.4]
0.06[0.01-0.40]
Vigilance “A” test
61[47-74]
77[73-81]
2.7[2.0-3.5]
0.50[0.36-0.71]
MDAS≥10は感度, 特異度ともに良好.

Delirium Triage ScreenとBrief Confusion Assessment Method.
(Ann Emerg Med. 2013;62:457-465)
Step 1(DTS)で否定的ならばせん妄は否定. 疑わしければStep 2(bCAM)へ.
救急患者406名の評価では, 
DTSの感度98% 特異度55%
bCAMの感度84% 特異度 96% であった.

ICU患者におけるせん妄の診断; CAM-ICU, ICDSC
(N Engl J Med 2014;370:444-54.)