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2014年11月28日金曜日

腹部大動脈瘤について

腹部大動脈瘤 (Abdominal Aortic Aneurysm; AAA) 

腹部大動脈瘤
Ann Intern Med 2009 May 5; In the Clinic, JAMA 2009;302:2015-22

通常の大動脈径より50%以上増大していれば動脈瘤と定義
臨床的にはφ>3cmとすることが多い
50-79yrの米軍人にUSを施行したところ, 4.2%で3.0cm以上のAAA(+)
一般的には>50yrで3-10%はAAA(+)
 男:女 = 5:1であり, 男性での頻度が3-10%であるところ, 女性は1%程度.
 喫煙歴が強いRisk Factorとなる

AAAの成長速度;
 Φ4.0-5.5cmのAAAは0.3cm/yrの速度で拡大. <25%で0.5cm/yrの速度で拡大する.
 Φの大きさと成長速度は関連があり, Φ3.0-4.0cmは<10%/yr, Φ>4cmでは10%/yrの速度で拡大する.

AAAの破裂率
破裂した場合, 死亡率は80-90%に及ぶ.
病院前死亡率が30-50%, 到着後の死亡が40-50%
 Φ<4cmでは破裂率は0.3%/yr
 Φ4.0-4.9cmでは1.5%/yr
 Φ5.0-5.9cmでは6.5%/yrに及び, >8.0cmでは半年で25%の破裂率となる.
他のRisk Factorとして,
女性 HR 3.00[1.99-4.53]
高血圧HR 1.02[1.00-1.03]/1mmHg↑ が分かっている.
大動脈径と破裂率 (N Engl J Med 2014;371:2101-8. )

手術適応はΦ>5.5cmのAAAか, 4.0-5.5cmで1年以内に1cm以上の拡大を認める場合.
 Φ4.0-5.5cmで手術をする群と,
 Φ5.5cmとなるまでUSフォローする群ではOutcomeに有意差無し.

腹部大動脈瘤の診察; 触診では否定できない
 大動脈瘤の径と触診における感度, 特異度 (JAMA Rational Clinical Examinationより)
AAA Φ
Sn(%)
SP(%)
LR(+) 
LR(-)
>=3.0cm (all)
39%
99.2%
12[7.4-20]
0.72[0.65-0.81]
3.0-3.9cm
29%
97%


4.0-4.9cm
50%
16[8.6-29]
0.51[0.38-0.67]
>=5.0
76%

肥満, 腹壁緊張, 検者によりさらに感度は低下
 腹囲 >=100cm vs <100cmで比較した場合, 感度は53% vs 91%
 (全体の感度は82%[AAA Φ>5cm])
 腹部触診のκ =0.53 (Arch Intern Med 2000;160:833-36)

AAAのスクリーニングについて
AAAは破裂まで無症候であることが多い
 高齢者の3-6%で認めるが, 高血圧, 喫煙, 動脈硬化などRisk(+)群ではさらに頻度は高い
身体所見での感度は70%に満たない
 腹部エコーを用いた場合, ほぼ100%の感度を示す

>60yrの男性, >=1 Risk factor(+) をエコーにてスクリーニング Am J of Emerg Med 2008;26:883-7
 Risk Factor; 喫煙, HT, Stroke, PVD, DM, AAA家族歴
 179名中, 12名(6.7%[3.9-11.4])でAAA(+); Φ >=30mm
 その後のフォローにて手術適応となった例が3例認めた

 スクリーニングにより死亡率は有意に低下することが分かっている (OR 0.57[0.45-0.74], Φ>5.5cmはOpe目的でコンサルト)

Society for Vascular Surgeryの推奨では,
 全ての男性で65yr時にスクリーニングを行うべき
 AAAの家族歴(+)群では55yr時にスクリーニングを行うべき
 喫煙歴(+)の女性では65yr時にスクリーニングべき としている

U.S. Preventive Services Task Force Recommendation(2014)では 
 喫煙者では65-75歳時に1回のみUSでスクリーニングが推奨 (B recommendation)
 非喫煙者では, 65-75歳時に主治医の判断で適応を決める (C recommendation)
 非喫煙者の65-75歳の女性例ではスクリーニングの必要なし (D recommendation)


 USPSTFでは, 未だスクリーニングのRisk-benefitが不明確であるとしている. Ann Intern Med. 2014;161:281-290.

このスクリーニング施行群 vs 非施行群を比較した4 RCTsのReview.
Ann Intern Med. 2014;160:321-329.
高齢者; >55-65yにおけるAAAの有病率は4.0-7.2%, 女性では1.3%程度.

アウトカム;


スクリーニング群では当然AAAの早期発見, 手術適応例の発見が増加し, 手術自体も増加する傾向にある.
反対に破裂や緊急手術例は低下し, AAAに由来する死亡リスクも低下する.
しかしながら, 全死亡リスクは有意差がない.

どの程度のリスク因子がある患者で評価すべきか, という基準が次の課題.

AAAを見つけた時のフォロー間隔は
 Φ3.0-3.4cmでは3年毎
 Φ3.5-4.4cmでは毎年
 Φ4.5-5.4cmでは半年毎にフォロー J Vasc Surg 2009;50:880-96. 

腹部大動脈瘤破裂の所見
 腹部, 鼠径, 背部の疼痛は80-100%
 便秘, 排尿障害はそれぞれ22%で認める
 失神は26%で経験.

 AAAのRupture時に腹部の拍動性腫瘤を認めるのは40-60%のみ
 低血圧は50-70%
 腹部圧痛が70-90% と, History, 身体所見で完全に評価するのは困難.

画像所見では, 
TEST
Sn(%)
Sp(%)
腹部US
4%

CT
77-94%
93-100%
 USではAAAの存在は評価できても, 破裂の評価は困難.

 腹痛 + AAA(+) ⇒ 造影CTを撮ること!

AAA破裂の御診断
AAA破裂187例中, 初期に正しく診断できたのは99例のみ (CMAJ 1971;105:811-5)

誤診断の内訳
誤診断
(88)
(%)
心筋梗塞
17
19%
尿管結石
16
18%
未診断の腹痛
14
15%
憩室炎
9
10%
小腸閉塞
5
5.6%
消化管潰瘍穿孔
4
4.5%
腸管膜動脈塞栓
2
2.2%
その他
21
24%
疼痛の部位, 放散痛の頻度

AAAの治療: 血管外 or 血管内
OVER trial; AAAに対する待機的治療の適応患者881名のRCT JAMA 2009;302:1535-42
 血管内治療(444) vs 開腹手術(437)で術後2年間比較
Outcome
血管内
外科手術
P
全死亡率
7.0%
9.8%
0.13
 術後30日死亡
0.2%
2.3%
0.006
 術後30 or 入院中死亡
0.5%
3.0%
0.004
  Φ <5.5cm
0.5%
2.6%
0.10
  Φ >=5.5cm
0.4%
3.2%
0.02
間欠跛行の増悪, 出現
8.3%
4.6%
0.02
 死亡原因, 手技の失敗に関しては両者有意差無し
 術後1年以内のMI, Stoke, 下肢切断, 腎不全合併も有意差認めず
 血管内治療の方が術後死亡率は有意に低くなるが, 2年間で比較すると有意差は認めない. やや低下する傾向にある.
 間欠性跛行は血管内治療群で有意に増加するとの結果

OVER trialの長期予後 (平均5.2年, 最大9年間) N Engl J Med 2012;367:1988-97.
 長期での死亡率は両者変わらず.
 術後早期(~2yr)では, 血管内治療の方が死亡率は少ない.
Sub-analysis; 年齢で最も差が大きく,
 <70yrでは血管内治療の利点が大きく,
 ≥70yrでは開腹手術の方が死亡リスク低くなる可能性がある

EVAR 1 trial; >60yrで, 径>5.5cmのAAA患者1252名を, Endovascular vs Open repairに割り付け, 比較したRCT NEJM 2010;362:1863-71
*外科手術適応例のRCTがEVAR 1で, 非適応例をEndovascular治療したものがEVAR 2 trial
Outcome; /100pt-yr
Outcome

Endovascular
Open repair
HR
全死亡
全体
7.5
7.7
1.03[0.86-1.23]

0-6mo
8.5
15
0.61[0.37-1.02]

6mo-4yr
6.7
6.3
1.12[0.86-1.45]

>4yr
8.4
7.9
1.09[0.82-1.44]
動脈瘤関連死亡
全体
1
1.2
0.92[0.57-1.49]

0-6mo
4.6
10
0.47[0.23-0.93]

6mo-4yr
0.6
0.4
1.46[0.56-3.82]

>4yr
0.8
0.2
4.85[1.04-22.72]
Outcome

Endovascular
Open repair
HR
合併症
全体
12.6
2.5
4.39[3.38-5.70]

0-6mo
48.7
15.6
3.18[2.23-4.52]

6mo-4yr
9
1.1
7.92[4.80-13.09]

>4yr
5.1
1.4
3.33[1.76-6.29]
再手術
全体
5.1
1.7
2.86[2.08-3.94]

0-6mo
22.9
13.8
1.75[1.16-2.63]

6mo-4yr
3.4
0.3
9.12[3.90-21.3]

>4yr
2.4
0.8
3.24[1.48-7.11]
 OVER trialと同様, 血管内治療では術後早期の死亡率は低下.
 しかしながら, 人工血管に由来する合併症は多く, 長期的で見た時の死亡率は同等.
 再手術Riskも上昇してしまうとの結果.
EVAR 2 trial; >60yr, 径>=5.5cmのAAA患者で, 開腹術が不適応と判断された404名をEndovascular repair vs 経過観察のみの群で比較したRCT NEJM 2010;362:1872-80
Outcome; /100pt-yr
Outcome

Endovascular
経過観察
HR
全死亡
全体
21
22.1
0.99[0.78-1.27]

0-6mo
26
19
1.32[0.68-2.54]

6mo-4yr
21.4
23.6
1.02[0.75-1.37]

>4yr
17.3
20
0.72[0.42-1.24]
動脈瘤関連死亡
全体
3.6
7.3
0.53[0.32-0.89]

0-6mo
16.3
9
1.78[0.75-4.21]

6mo-4yr
2.3
7.6
0.34[0.16-0.72]

>4yr
0
5.5
NC
 Graft-related complicationは97名(49.2%)の患者に計158回(15/100pt-yr)
 術後6年間の間に27%がReinterventionを必要とした.
 外科手術に耐えられない患者群において, 血管内治療はAAA由来の死亡Riskは改善させるものの, 全体の死亡Riskは改善させない.
 Graft由来の合併症やReinterventionも多いためと予測される.

DREAM study; 平均年齢70yr, 径>5cmのAAA患者で, 血管内治療, 手術治療双方に耐えられる患者351名のRCT. NEJM 2010;362:1881-9
 Endovascular vs Open repairに割り付け, 長期予後を比較.
 6.4yr[5.1-8.2]フォロー(5yrで100%, 6yrで79%フォロー)
Outcome
Endovascular
Open
AD
6yr生存率
68.9%
69.9%
1.0[-8.8~10.8]
Freedom from Secondary Intervention
70.4%
81.9%
11.5[2.0-21.0]
 他のStudyと同様, 長期予後は両者有意差無し.
 再手術率はEndovascular repairで多い.
 再手術の原因
Indication
Open(178)
Endo(173)
全原因
30
48
Graft関連
4
36
 血栓閉塞
3
12
 Endoleak type 1
0
12
 Migration
0
7
 人工血管感染
0
2
 Endotension
0
1
 Material failure
0
1
 吻合部周囲瘤
1
0
 動脈瘤破裂
0
1
創部関連
15
3
 切開部ヘルニア
14
0
 創部感染
1
2
 その他
0
1
局所, 全体
11
9
 出血
5
2
 Endoleak type 2
2
6
 腸切除, イレウス
3
0
 その他
1
1

AAA破裂症例に対する治療
IMPROVE trial; 腹部大動脈瘤破裂例 613例のRCT. BMJ 2014;348:f7661 
 >50歳で臨床的に腹部動脈瘤, 腹部〜腸骨動脈瘤破裂と診断された患者群を対象.
 血管内治療群 vs 開腹手術治療群に割り付け, 予後を比較.
 血管内治療群では, CT評価にて血管内治療に適すると判断した場合に施行し, 不適と判断された場合は開腹手術を行う.
 血管内治療群に割り付けられた316例中, 283例(90%)がAAA破裂の確定診断をえた.
 また, 272例でCT評価を行い, 174例で血管内治療に適すると判断.
 不適の理由として多いのは動脈瘤の基部での破裂であった(75/84).
 血管内治療は154例で施行された.
 開腹治療群に割り付けられた297例中, 261例(88%)で手術を施行.
アウトカム;
 30日死亡率は 血管内治療群で35.4% vs 37.4%(開腹術), 有意差無し.
 Sub-analysisでは, 女性でより血管内治療群で予後が良くなる以外は, 有意差を認める項目は無し.
血管内治療と開腹手術では, 死亡率は変わらないが,直接病院から自宅退院となる率が有意に良好となる.