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2014年1月31日金曜日

困った時のホスホマイシン?

Fosfomycin (ホスミシン®).
尿中排泄が良好で, 尿中濃度を高く維持可能であり, また多剤耐性菌やESBLにも感受性を示すことがあり, それらが原因の単純性尿路感染症に対して選択肢の1つとなる薬剤.

多剤耐性の腸内細菌に対するFosfomycinの感受性を評価したMeta-analysis
(Lancet Infect Dis 2010;10:43-50)
多剤耐性は5057例, 内4448例はESBL.
Fosfomycin感受性を示す(MIC ≤64µg/mL)のは90%以上.
ESBL E coli 1657例中, 1604例(96.8%)はFosfomycin感受性あり.
ESBL Klebsiella pneumoniaeでは608/748(81.3%)で感受性あり.

ESBL産生菌によるLower UTIならばホスミシン内服で治療可能かも.
2つのホスミシン感受性(+) ESBL E coliによるLower UTIのStudyでは, ホスミシン内服にて93.8%が臨床的に改善あり.(細菌学的には78.8%)
ホスミシンは3gを2日毎に内服, 6d. 膀胱炎ならば3gを1回のみも可能.
(投与方法は3g/d ~ 3g/2-3dまで様々, 国内では3g/dで保険適応あり)
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ということで, 耐性菌の単純性UTIではFosfomycinはとても良い薬剤. 自分もしばしば使います.
では複雑性や前立腺炎に対してはどうか? というと, ここで濃度の問題がでてくる.

血中濃度, 尿中濃度, 前立腺組織内濃度を評価したStudy
Clinical Infectious Diseases 2014;58(4):e101–5
健常人でBPHに対して前立腺切除術(TURP)を予定している26名を対象としたProspective study.
 切除術の17時間以内にFosfomycin 3gを経口投与し, 切除した時点での血中濃度, 尿中濃度, 前立腺組織内濃度を評価.
 eGFR<40mL/min, 悪性腫瘍が疑われる患者は除外.
 対象の平均年齢68±9歳, 体重86.2±13kg, GFR 67±12mL/min
各濃度は以下の通り;

測定までの時間
濃度
血中
565±149min
11.42±7.6µg/mL
尿中
581±150min
570.57±418µg/mL
前立腺(TZ)
598±152min
8.30±6.63µg/g
前立腺(PZ)
608±155min
4.42±4.10µg/g
前立腺全体
603±153min
6.50±4.93µg/g
前立腺/血中

0.67±0.57
TZ; Transitional zone, PZ; peripheral zone

尿中濃度は血中濃度の50倍もの濃度となり, 確かにUTIでは有効な可能性が高い.
従って, Fosfomycinの耐性MIC値は >64 もしくは >32µg/mLとしている.
前立腺組織濃度は4-6µg/gとなることが多く, ≥4µg/gは70%で達成. ≤1µg/gは1例のみであった. しかもこれは非炎症組織での濃度であり, 前立腺炎の際はもっと移行性は良くなると予測される.

ちなみに細菌別のFosfomycinのMIC値の分布は,
EUCASTより

前立腺濃度が4-6µg/gであることから, MIC ≤4µg/mLでラインを引くと,
前立腺炎や菌血症, 複雑型UTIにおいて, 効果が期待できない菌種はEnterococcus. 

E coli, Hemophilus, Klebisiella, Proteus, Pseudomonas, Serratia, MRSAは効果は期待できる可能性はある. が, 確実とも言い難い.

結論;
FOMは使いやすいが, 血中, 組織濃度は尿中よりも低く, UTIとして評価した 『S』か『R』かは, MIC値が高く設定されているため, 単純性UTI以外にはアテにならない点に注意すべき.
 その点に注意し, MIC値が≤4µg/mLならば組織移行性はそれなりに良好であり, 前立腺炎や複雑型UTIにも使用可能かもしれない.

2014年1月28日火曜日

脳梗塞、TIA後の再発予防; 抗血小板療法のまとめ

Lancet Neurol 2014; 13: 178–94 より.

以下の表でまとまっており, とても便利ですね。
今日はこれだけ。

2014年1月24日金曜日

腹膜垂炎

40歳台女性, 主訴は3日前からの腹痛.

3日前より特に誘因無く左下腹部痛を自覚. 持続痛で圧迫すると強い痛みがある.
下痢や食欲不振無し. 排便習慣問題無し. 便秘無し.
月経は不順で最終月経は2週間前. 量は少なめ.

発熱は無し.
診察すると, 左下腹部の深い部位に圧痛を認める.
後腹膜に近い部位で5cm程ずらすと圧痛は無く, 限局した後腹膜付近の圧痛と言える.
反跳痛や筋性防御は無し.

ちなみに体格は肥満体型.
既往歴無し.

このキーワードから想定する疾患は?
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腹膜垂炎 Acute Epiploic Appendages
Epiploic Appendages 腹膜垂; 結腸のみに認められる, 漿膜にかこまれた嚢状の構造物. 結腸ヒモの近位部にある.
 0.5-5cm程度の長さで, 脂肪組織と血管組織を含む.
 全体で100箇所程あり, S状結腸付近が最も大きい. また直腸付近には無し.
RadioGraphics 2005; 25:1521–1534 

Acute Epiploic Appendagitis; 腹膜垂炎
 腹膜垂の捻転により虚血を生じ, その結果炎症が生じる病態を腹膜垂炎と呼ぶ.
 197例の腹膜垂炎の解析では, 捻転が73%, ヘルニア嵌頓が18%, 腸閉塞が8%, Intraperitoneal loose bodyが<1%認められた.
 腹膜垂炎は肥満, ヘルニア, 慣れない運動との関連性もあり. 発熱や白血球上昇は認められないことが多い.
 腹膜垂炎の好発部位はS状結腸, 下行結腸, 右半結腸が多い. 通常自然に改善するが, 一部で癒着や腸重積, 腸閉塞, 腹膜炎等を来す.

J Korean Soc Coloproctol 2011;27(3):114-121
韓国での腹膜垂炎 31例の解析;

腹膜垂炎の画像; RadioGraphics 2005; 25:1521–1534 
 腹膜垂は結腸ヒモに隣接しており, 従って結腸の前面, 後面に認める卵円状の嚢状の病変として認められる. 直径は1.5-3.5cmで5cmを超えない程度. 内部は脂肪組織.
嚢の内部のHighな部位は静脈血栓を示しており, 腹膜垂炎に特異的な所見. 
周囲の腹膜は炎症で肥厚する. 結腸壁の腫大は少ない.

腹膜垂炎 vs 憩室炎 World J Gastroenterol 2013 October 28; 19(40): 6842-6848
 腹膜垂炎と所見, 病態が類似している疾患として憩室炎が挙げられる.
 前者では抗生剤は必要なく, 経過観察のみで改善する一方, 後者では抗生剤, 入院が必要であり, その2つを鑑別するのは重要である.

左下腹部痛で来院し, CT評価にて腹膜垂炎 or 憩室炎と診断された患者群をRetrospectiveに比較.
 腹膜垂炎 28例, 憩室炎 25例を比較. 
 腹膜垂炎の方がやや若い. 症状は発熱が7.1% vs 40%とPEAで少ない.
 腹部の圧痛では, PEA(腹膜垂炎)でより局所的な圧痛(85.7%)
 びまん性の圧痛は憩室炎で52%と多い. 反跳痛も憩室炎で多い.

PEAと憩室炎症例の比較 (韓国のStudy) J Korean Soc Coloproctol 2011;27(3):114-121
 PEAはより若年で肥満に多い. 発熱やWBC上昇は伴わない.
 限局性の圧痛はPEA症例の全例で認められた. 

12例の腹膜垂捻転例の解析では,  その全例に局在がはっきりとした限局性の圧痛を認めており腹部圧痛の部位, 深部の評価がより診断に重要と考えられる.
The American Journal of Surgery (2010) 199, 453–458

腹膜垂炎の治療
抗炎症薬のみで治療可能であり, 抗生剤は必要ないことが多い.
大半の患者が10日以内に改善する.
憩室炎と誤診すると, 不必要な入院や抗生剤投与がされてしまう. 
憩室炎と診断された内の2%が後の評価で腹膜垂炎であったとの報告あり.
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この患者さんも腹膜垂炎の疑いでCT評価し, キレイな卵円形の腹膜垂とその中央に静脈血栓と考えられる部位を認めました.

"Well localized tenderness" と呼ばれるかなり限局した圧痛、それは広さの範囲のみならず, 深さの範囲で評価し, 下行結腸の一部に限局的に圧痛がある、という認識をすることが大事と思います. そういう診察ができるとより外来診療も面白くなりますね。

2014年1月23日木曜日

Intravenous Lipid Emulsion

局所麻酔中毒で大量に脂質を血管内に投与することで,薬物を脂質内に吸着し, 血中濃度上昇を緩和する治療法.
麻酔科ガイドラインでは局所麻酔中毒で記載あるが, 脂溶性の薬物中毒ならばどれも効果が期待できる可能性がある

具体的な方法としては, イントラリピッド20%®を, 1.5mL/kg bolusを3回まで,
その後 0.25-0.5mL/kg/分を1時間投与.

例えば50kgの患者ならば, 75ml bolusを3回 (計225mL), その後 12.5-25mL/minで1時間 (計750-1500mL)

脂溶性薬剤; 局麻, ハロペリドール, TCA, 脂溶性β阻害薬, カルシウムch阻害薬等のOverdoseに効果が期待される.
Emergency Medicine Australasia (2011) 23, 123–141

ヒトでの使用経験; ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2009; 16:815–824
局所麻酔, Verapamil, Atenololによるショックでは効果良好.
動物実験でも同様. TCAやPropranolol, テオフィリンによる中毒の改善効果が見込めた.

TCA, 局所麻酔による不整脈, 心停止例では, 改善するまで脂肪製剤のIV投与が勧められる(1.5mg/kg)

2014年1月20日月曜日

強皮症と肺胞出血

強皮症(SSc)に伴う呼吸器, 肺障害は間質性肺炎や肺高血圧が有名であり, ANCA関連血管炎やOverlap syndrome(RA, SLE)でもなければ肺胞出血は稀である.

 上記に当てはまらず, SSC+びまん性肺胞出血は2001年の症例報告をみると, それまでに報告された症例は5例程度しかないとの記載がある. (Med Sci Monit, 2001; 7(5): 1013-1015)

肺高血圧症 + 強皮症腎クリーゼに肺胞出血が併発した症例報告もあり, その場合はステロイド投与でさらに増悪する可能性がある. 

一方でステロイドパルスに著効した症例報告もあり, SSc+肺胞出血の症例では機序の推定が重要となる(Rheumatol 2001;7:115-119)

強皮症に伴う肺胞出血の機序としては,
小血管炎, 毛細血管炎 (ANCA関連血管炎, D-ペニシラミンによるGoodpasture-like syndrome)
免疫複合体沈着 (Overlap syndrome)
肺高血圧(クリーゼ)に伴う肺胞出血
免疫不全に伴う感染症 (細菌性肺炎, カリニ肺炎, 真菌感染) が挙げられる.

また, これらは急性腎不全を伴うことが多く(特に血管炎やクリーゼ), その場合Pulmonary-Renal syndromeと呼ばれる(PRS)
PRS15例の症例報告では,
 ● 年齢は33-68歳. ステロイドユーザーは5例であった.
 ● 血栓性微小血管溶血(TMA)合併は7/15で認められ, その内6例が血圧正常腎クリーゼ+肺胞出血であった. (ANCAや抗GBM抗体の有無は不明.)
 ● 残りの8例中, 4例でANCA陽性で血管炎所見を認めた.
 ● それ以外に4例でDペニシラミンによるGoodpasture-like syndromeの病理所見を認めた. その殆どが2-3年間使用している症例であり, ANCAや抗GBM抗体は陰性.
(Mod Rheumatol (2007) 17:37–44)

強皮症におけるPRSの原因;

強皮症における肺胞出血は稀なものの, 致命的な病態の1つとなる.
機序も1つのみではなく, 自己免疫性, 非自己免疫性としてクリーゼや感染症もある. 非免疫性の場合はステロイドがマイナスに働く可能性もあり, 注意が必要.

機序を推定し, 迅速な対応が必要な病態である. 

2014年1月18日土曜日

感染症と蕁麻疹

Allergology International. 2012;61:517-527
蕁麻疹は最も多い皮疹の1つ.
血管拡張と透過性亢進, 掻痒感を呈する病態で, 通常数時間で改善する経過をとる.
肥満細胞の脱顆粒によることは知られているが, 何故それが起きるのかは不明な部分が多い.

感染症に伴う蕁麻疹もあり, 以下の感染症との関連が報告されている.
Allergy, Asthma & Clinical Immunology 2009, 5:10
細菌感染症;
 ウイルス, 寄生虫感染症;
急性蕁麻疹が一般的であるが, 6週間以上持続する慢性蕁麻疹に関連する感染症として, ピロリ感染, Strept, Staph, HCV感染症がある.

Helicobacter pylori感染も慢性じんま疹の原因となる
Indian J Med Sci 2008;62:157-162
慢性特発性じんま疹 67例と, 年齢, 性別をマッチさせたControl群でHP感染を評価.
慢性じんま疹群では, 48/67 (70.58%)がHP陽性
Control群では67.64%がHP陽性であり, 有意差は無し(p=0.284).

除菌療法を施行したのは48例. 除菌成功した46例中, 21例で慢性じんま疹は改善, 18例で軽快を示した.

11例のHP感染 + 慢性じんま疹患者で除菌療法施行し,
有意に症状が軽快, 改善した報告もある. 
このとき小腸細菌過増殖症候群(SIBO)+慢性じんま疹例でも除菌を試みたが, その群では改善は乏しかった.
Acta Derm Venereol 2013; 93: 161–164.

ピロリ感染と慢性じんま疹の機序は
胃粘膜透過性が亢進し, アレルゲンがより体内へ取り込みやすくなる
ピロリに対する特異的IgEが他に作用する
ピロリによる免疫賦活効果が関連する, 等色々説がある. 
Eur J Dermatol 2009; 19 (5): 431-44

ただし, 慢性じんま疹患者へのピロリ菌除菌については未だEvidenceレベルの低いStudyのみであり, ルーチンとして感染チェック, 除菌をするには調査が足りない.
現時点では小規模のDB-RCTが1つ, 他はObservational studyのみ.
Curr Opin Allergy Clin Immunol 2010;10:362–369

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一般外来をやっていると, 慢性蕁麻疹は結構内科受診しています.
その際色々とチェックしますが, どれも引っかからない場合も多々あり.
ストレスとか, 疲れとか, 環境変化とかで片付けてしまうこともあると思います(Idiopathic).

まだEvidenceは不十分ですが, ピロリ感染の多い日本で, 慢性蕁麻疹で特に原因が見つからない場合はダメもとで調べても良いかもしれません.

ちなみに, 日本の蕁麻疹診断アルゴリズムを紹介します.
Allergology International. 2012;61:517-527

2014年1月15日水曜日

大腸癌術後のフォローアップ方法

JAMA 2014;311:263-270
FACS trial; 大腸癌根治的切除後の患者1202名のRCT.
患者はTNM stage 1-3の大腸癌で根治的切除術を施行した患者.
断端は腫瘍細胞を認めず, CTでも転移病変は無し. 術後CEA ≤10µg/L.

術後のフォローアップを以下の4群に割り付け, 比較
 ① CEAのみ (3ヶ月毎チェックを2年, 6ヶ月毎チェックを3年)
 ② CTのみ (6ヶ月毎チェックを2年, 1年毎チェックを3年)
 ③ CEAとCTでフォロー
 ④ minimal follow up; 特に的フォロー無く, 必要があれば12-18mでCT.

Studyの最初とフォロー終了時に大腸内視鏡検査を施行.

母集団;

アウトカム
平均4.4年のフォローにおいて, 癌の再発は199例(16.6%[14.5-18.7])

各群で大腸癌の再発率は変わりなし.

各群の再手術による根治頻度
minimum follow-upと比較して, CEA, CT, CEA+CTフォロー群では4-6%根治率が上昇する. 
CEA vs no-CEAの比較, CT vs no-CTの比較では有意差無しとの結果.
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CEA単独での評価, CT単独での評価, その併用で術後患者の癌再発の発見, 早期手術治療に差は無いという結果.

ただしっかりフォローはしないと再発発見の遅れになり, さらに根治の機会を逃すという結果. 

2014年1月14日火曜日

Healthcare-associated pneumonia (HCAP) 医療・介護関連肺炎

肺炎には市中肺炎(community-acquired pneumonia; CAP)と医療・介護関連肺炎(Healthcare-associated pneumonia; HCAP)と院内肺炎(hospital-acquired pneumonia; HAP)と人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia; VAP)がある.

Type
定義 (Chest 2005; 128: 3854–62)
VAP
24hr以上人工呼吸器管理されている患者に発症した肺炎
HAP
入院>2d経過してからの肺炎, VAPの定義に入らない患者
HCAP
入院=<2dで発症した肺炎 or 以下の何れか.
(1)
他の長期滞在型医療機関から入院した患者での肺炎,
(2)
長期透析患者で生じた肺炎,
(3)
過去30d以内に入院歴がある患者の肺炎
CAP
VAP, HCAPに当てはまらない患者での肺炎


何故分けるかというと, 原因菌が異なり, 抗生剤カバーも異なるため. 予後も異なる.
昔はCAP, HAP, VAPの3つであったが, 現在はそれにHCAPというものが加わっている.
これは, 2002-3年のRetrospective cohortが切欠 (Chest 2005; 128: 3854–62.)

4543名の免疫正常な肺炎患者の解析において, HCAPが21.9%.
それらHCAP患者では, Enterobacteriaceae(25.8%), MRSA(26.5%), P aeruginosa(25.3%), Acinetobacter spp(2.6%)が占める割合が多かった.
又, 死亡率も19.8%と高く(CAPでは10%, 院内肺炎では18.8%), CAPとは別のカテゴリーとして認識すべきとの結論に至った.

原因菌
CAP
HCAP
HAP
VAP
S aureus
25.5%
46.7%
47.1%
42.5%
 MRSA
8.9%
26.5%
22.9%
14.6%
Streptococcus
13.4%
7.8%
13.9%
7.0%
S pneumoniae
16.6%
5.5%
3.1%
5.8%
他のGPC
7.1%
7.7%
8.1%
8.6%
Pseudomonas sp
17.1%
25.3%
18.4%
21.2%
Haemophilus sp
16.6%
5.8%
5.6%
12.2%
Klebsiella sp
9.5%
7.6%
7.1%
8.4%
Escherichia sp
4.8%
5.2%
4.7%
6.4%
Enterobacter sp
2.9%
3.5%
4.3%
5.6%
Acinetobacter sp
1.6%
2.6%
2.0%
3.0%
他のGNR
4.1%
9.5%
3.7%
6.2%

病院外発症の肺炎でも, 長期施設に入所している患者や, 介護を受けている場合は耐性菌のリスク, 死亡リスクが院内肺炎と同じようなものですよ, という警鐘であったが,
このStudyは原因菌の頻度が明らかにおかしい.
市中肺炎でも肺炎球菌よりブ菌が多いなんてあり得ません.

その後も色々と, HCAPの原因菌の頻度, 死亡リスク等評価されており,
そのMeta-analysisがでました (Clinical Infectious Diseases 2014;58(3):330–9)
HCAPにおいて, 耐性菌(MRSA, Enterobacteriaceae, P aeruginosa)の頻度, リスクを評価した24 trialsのMeta-analysis.
HCAP vs CAPの原因菌比較
HCAPでは肺炎球菌, 非定型が少なく, 耐性菌が多い.

やはり高リスクなのだっ! と思いますが, これらのStudyは後ろ向きだったり, バイアスがあったり, そもそもHCAPの定義が微妙に異なったり, HCAPも国毎に事情が違ったり, と色々あった.

耐性菌のリスクも, Adjusted analysisでは有意差が無くなる.

HCAPという情報がどの程度耐性菌を予測し得るか, 菌種別, 地域別の解析. 
アジアでは比較的PLRが高いが, 実臨床の印象と解離がある.
前向き, High-qualityではPLRは低め.

CAPに対するレジメでカバーできない耐性菌の頻度を, NNTで評価(CAPレジメで何人に1人治療失敗するか).
A; MRSAはNNT 4-499,
B; 緑膿菌はNNT 5-330,
C; EnterobactericeaeはNNT 6-282とこれもバラツキが大きい.

結論としては,
HCAPはCAPと比較して, 確かに耐性菌のリスクは増加するが, 臨床的に意味のある程の上昇かどうかは不明瞭.
Studyによっても大きく異なり, Biasも多い. 初期治療としてスペクトラムを広げる必要性があるかどうかは疑問である.

それよりも, 免疫状態や抗生剤の使用歴, 誤嚥の有無, グラム染色所見で決めた方がよっぽど有用だと思う.

2014年1月10日金曜日

抗インフルエンザ薬

最近 インフルエンザが流行ってきました。
自分の周りで、製薬会社 シオ◯ギ製薬のCMが商売根性丸出しでやり過ぎだろう、という批判が多いので, 今まで溜め込んだ抗インフルエンザ薬の文献記載を気ままに載せます。

去年までの文献が多いっす。

タミフルとリレンザ
Oseltamivir; タミフル®, Zanamivir; リレンザ®
Neuraminidase阻害薬であり, インフルエンザに対する治療薬として有名

効果は, 症状持続期間を半日~1日短縮する
症状改善までの期間短縮(日)

小児
成人
老年
タミフル®
0.9[0.3-1.5]
0.9[0.3-1.4]
0.4[-0.7~1.4]
リレンザ®
1.0[0.5-1.5]
0.8[0.3-1.3]
0.9[-0.05~1.5]

また, インフルエンザ患者との接触がある場合, 発症予防効果も期待できる

Flu発症予防 *1
家族内発症予防*2
タミフル®
0.26[0.08-0.84]
0.10[0.04-0.29]
0.39[0.18-0.85]

リレンザ®
0.31[0.14-0.64]
0.19[0.09-0.38]
0.41[0.25-0.65]

流行季節における予防 *1
家族内で発症者(+)の場合のPost-exposure prophylaxis *2
タミフル 1cp 7-10日間
BMJ 2003;326:1235-42 †BMJ 2009;339:b5106

ただし, 予防投与を濫用するとその分耐性化のリスクも上昇するため, 
予防投与自体は一般人口群には推奨されない.
感染した場合重症化しやすい患者群や、介護者や医療者で、その人が感染することでさらに広げる可能性がある群に限るべきである。

627名の発熱+上気道症状(<36hr)患者(内374名, 59.3%がインフルエンザ)を3群に割り付け, 比較したRCT JAMA 2000;283:1016-24

Oseltamivir 75mg bid, 150mg bid, Placebo

Outcome; (Oseltamivir 75mg, 150mg群では有意差無し)
Outcome
インフルエンザ患者(374)
母集団全体(627)
Placebo
Oseltamivir 75mg
Placebo
Oseltamivir 75mg
症状改善までの時間(hr)
103.3[92.6-118.7]
71.5 [60.0-93.2]
97.0[86.3-113.6]
76.3[66.3-89.2]
咳嗽改善(hr)
55[36-73]
31[24-42]


筋肉痛改善(hr)
28[24-36]
16[10-20]


鼻閉改善(hr)
43[31-64]
33[25-43]


咽頭痛改善(hr)
21[8-29]
10[4-19]


倦怠感改善(hr)
41[26-50]
24[19-34]


頭痛改善(hr)
14[8-23]
8[6-15]


熱感改善(hr)
23[16-29]
10[8-14]



Placebo
タミフル®
副鼻腔炎
8.5%
4.1%
気管支炎
6.2%
3.3%
肺炎
0.78%
0
2次合併症
15%
7%
抗生剤使用
11%
4.9%
嘔気
7.4%
18%
嘔吐
3.4%
14%

抗インフルエンザ薬は、症状持続期間を1日程度短縮するのは確かだが,
その分悪心、嘔吐といった消化管症状を1-2割に人に引き起こす副作用もある.

抗インフルエンザ薬のMeta-analysis Ann Intern Med. 2012;156:512-524.
Oseltamivir, Zanamivir vs Placeboを比較した74 RCTsのMeta
Oseltamivir vs No treatmentの比較
Outcome
Evidence level (n/N; Control vs Oseltamivir)

>48hrで内服
死亡リスク
Low(59/242 vs 31/439)
OR 0.23[0.13-0.43]
OR 0.33[0.12-0.86]
入院率
Low(1238/100585 vs 431/50125)
OR 0.75[0.66-0.89]
OR 0.52[0.33-0.81]
肺炎合併
Very Low(2111/100449 vs 647/50017)
OR 0.83[0.59-1.16]
OR 0.22[0.15-0.33]
中耳炎
Low(546/40022 vs 285/38385)
OR 0.75[0.64-0.87]

心血管イベント
Low
OR 0.58[0.31-1.10]

致命的な副作用
Low
RR 0.76[0.70-0.81]

Zanamivir vs No treatmentの比較
Outcome
Evidence level (n/N; Control vs Zanamivir)

死亡リスク
Very Low(5/74 vs 0/13)
OR 0.47[0.02-8.97]
入院率
Very Low(69/2411 vs 22/2350)
OR 0.66[0.37-1.18]
肺炎合併
Very Low(263/2337 vs 301/2337)
OR 1.17[0.98-1.39]
中耳炎
Very Low(21/2337 vs 25/2337)
OR 1.19[0.67-2.14]

Oseltamivir vs Zanamivir

RCTは全てLow quality evidence levelのみ.
Oseltamivirには症状持続期間, 重症度を緩和させる効果がある.
Zanamivirにもあると考えられる. OseltamivirとZanamivirには効果に差は無し.

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まとめると, 確かに抗ウイルス薬は重症度や症状を緩和し、1日程度早く改善させる効果があるが, ほっておいても勝手に治る.
それよりも濫用による耐性化の方が今後、問題となる可能性があり、必要ない患者には必要ない。例えば、元々健康な人がインフルになった所で、家で寝ていたっていっこうに構わないと言うことである。

逆に普通の風邪なのに、「インフルエンザかもしれない」という不安にかられ(TV CMを見て)病院を受診。長ーい時間待たされ、その間に待合室で感染しちゃいました、なんてことは笑い事ではなく、本当に多い。困った物だ。

海外において、抗インフルエンザ薬を考慮すべき人々は以下の通りである
CID 2009;48:1003-32
  • 12-24ヶ月の乳幼児
  • 喘息, COPD, Cystic fibrosisを基礎疾患に持つ患者
  • 血行動態不安定な心疾患を持つ患者
  • 免疫不全患者
  • HIV感染患者
  • 鎌状血球症, 他のヘモグロビン症を有する患者
  • RAや川崎病などで長期のアスピリン内服が必要とされる患者
  • 慢性腎障害
  • 悪性腫瘍
  • DMなど慢性の内分泌疾患を有する患者
  • 神経筋疾患, 痙攣, 認知障害, 喀痰排泄能力が落ちている患者
  • >65yrの高齢者
  • 施設入所者, 長期入院患者
そうでない人は正直家で寝ているか、ドラッグストアで対症療法の薬剤でも買ってください、というのが医師の本音であったりする。
(注; かなり私見が入った意見です)