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2013年12月9日月曜日

全身性硬化症(強皮症)と心臓障害

(症例; ちょっとだけフィクションあり)
Diffuseタイプの全身性硬化症 SScと診断された70台の女性. 他に既往は無し.
1週間前より徐々に下肢の浮腫が出現し, 臥位時呼吸苦が増悪したために来院.

ECGにてV2-4のAbnormal Q波、陰性T波が認められ, エコーではDiffuse Hypokinesia, EF 30%と心筋梗塞(Recent MI)に伴う心不全との診断で入院. 冠動脈造影を行った.

冠動脈造影では, 冠動脈に狭窄無し. 他に明らかな異常は認められず.
心不全治療中に徐々に腎機能が増悪し, 転科となった.

腎機能は最終的にCre8台, 無尿となり, 透析導入. 腎生検の結果強皮症腎クリーゼに矛盾しない所見.(来院時Cre 0.7程度と問題なし)

心不全は徐々に改善し, 最終的にECGは改善し, EF 60%台まで改善した.

というところで、今度は敗血症を発症; Entryは透析用のルートから.

敗血症の治療中に再度心不全症状、うっ血あり、エコーにてEF 30%台のDiffuse hypokinesiaへ. ECGではV3-4あたりで再度Abnormal Qと陰性T波が出現….

この繰り返す心機能悪化とECG上虚血所見, 冠動脈はIntactとの状態. これは一体?
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全身性硬化症と心臓障害について
SScは心血管系障害に対する独立した危険因子.
953例のDiffuse SSc症例のうち, 心臓障害を来したのは15%
 10年間のフォローにて心臓障害は死亡例の20%の原因を占めた.
 特に最初の5年間が多く, 心臓障害による死亡は44%.
(Rheumatology 2006;45:iv14–iv17)
865例のSSc患者におけるMI, Strokeの発症率は
 MI 4.4/1000pt-y, Stroke 4.8/1000pt-yであり,
 一般人口と比較してMI HR 1.80[1.07-3.05], Stroke HR 2.61[1.54-4.44].
(Ann Rheum Dis. 2013 Jul;72(7):1188-93. )

心臓障害; 2つの機序
(Clin Exp Rheumatol 2010; 28 (Suppl. 62): S48-S53.)(Rheumatology 2006;45:iv14–iv17)
1つ目は微小血管障害(Microvascularの障害).
 SScは末梢毛細血管の破綻, スパスム, 狭窄を来たし, 手指の虚血や腎クリーゼ, 肺高血圧症を来す.
心臓においても同様の微小血管障害がほぼ全例で認められるが, 症候性となる例は10%[8-28]程度. ただし, 症候性となった場合の予後は悪い.
 心臓の全ての部位で障害を来してもよく, 心嚢水, 不整脈, 伝導障害, 弁膜症, 心筋虚血, 心筋肥大, 心不全等を来す
 これはCutaneous type, Diffuse type双方とも合併する.

2つ目がMacrovascularの障害
 SSc自体が虚血性心疾患のリスク因子となることが分かっており, 無症候性の冠動脈狭窄, 石灰化の頻度が高い. (Ann Rheum Dis. 2013 Jul;72(7):1188-93. )

Microvascularの問題がメインとなることが多く,
 急性心筋梗塞で冠動脈造影を行った患者群において, SScは『冠動脈造影正常』というアウトカムに対するOR 33.89. (Rheumatology 2008;47:578–583)

つまりSScでは冠動脈造影, 冠動脈CTが正常でも虚血性疾患を来すことが大いにあり得るという認識が重要.

SScによるMacrovascularの障害 (Rheumatology 2008;47:578–583)
SScによるMacrovascularの障害はメインな障害となり難いが, 確かにリスクは上昇する.
 機序としては, HDL-Cholの低下, 血管内を障害する自己抗体(AECA)の存在, 慢性炎症, 血管内皮障害を介してMacrovascular障害を来す.

53例の強皮症と, 年齢, 性別, 糖尿病をあわせた106例のControl群で冠動脈CTを撮影し, 石灰化を評価
(ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol. 63, No. 5, May 2011, pp 1387–1395)
SSc患者では冠動脈石灰化Scoreが高い患者が多く, 冠動脈石灰化に関連する因子としては 高血圧や高脂血症よりもORが高いという結果であった.

SScによるMicrovascular障害 (Rheumatology 2006;45:iv14–iv17)
SSc患者の心筋生検, 剖検を行うと, びまん性の斑状の線維化とバンド状の壊死が認められる.
 これは心膜上の血管の虚血ではなく, 心膜内の血管の梗塞を示唆する
 晩期となると血管支配に一致しない分布をとる.
 また, SSc患者では冠動脈造影は正常であるにもかかわらず, 狭心症やMIを発症する例もある.
 虚血-再灌流を繰り返すことで不可逆性の心筋線維化を生じる. 線維化が進み, 拡張障害が最初に出現することが多い.

冠動脈造影や冠動脈CTでは狭窄は認められない.
 冠動脈造影にてDipyridamole等で血管拡張を誘発すると, 拡張能がControlと比較して低下しているとの報告もある.

SScによる心筋微小血管障害はスパスムがメイン
 SSc患者21名で寒冷刺激を与えつつThallimu-201 SPECTを施行した結果, 12/21でスパスムが証明できた(Control群では0/8). 上記の12名のうち, 10名が無症候性であった. 
 SSc 10例と他の膠原病患者で同様の調査をすると, SScでは4/10, 他膠原病ではスパスムが誘発された例は無し.

参考; SSc患者における心筋血流シンチ
(Clin Exp Rheumatol 2010; 28 (Suppl. 62): S48-S53.)

また, MRIは心膜下の血流評価に有用であり, SScによる心筋虚血評価にも応用可能.

SScによる心筋虚血への対応 (Rheumatology 2006;45:iv14–iv17)
Ca-ch阻害薬; スパスムの予防.
 SSc患者におけるNifedipine(アダラート®) 60mg/d投与前後14日でのMRIの比較では全体に38%の血流増加が認められた.

Nicardipine使用前後のLVEF, RVEF値の変化を比較
 両者ともNicardipine(ペルジピン®) 40mg/d投与後に改善効果が見込める.

血管拡張薬; Dipyridamole (Annal of the Rheumatic Disease 1986;45:718-725)
 23例のSSc患者において, 安静時とDipyridamole 0.14mg/kg/min 4分負荷後にThallium-201 SPECTを施行.
 心筋を9部位に分け, 其々の部位で血流に応じて0~2まで0.5刻みで評価. (0; 血流無し, 2; 正常)

アウトカム;
 安静時SPECTのThallium欠損部位は全体で138箇所. 各患者で平均6.0[2-9]部位
 Dipyridamole負荷後は55箇所消失(44%改善)を認めた.
 Scoreは10.2(1.8) → 11.4[2.1], p<0.02と有意に血流欠損が改善.
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ということで, 強皮症患者における心筋虚血は珍しい物ではなく, リスクは高い.
またその場合血管造影でも狭窄は検出されないことが多いという点に注意が必要.
狭心痛エピソードがある場合やエコー上所見がある場合はCa-ch阻害薬(Nifedipine, Nicardipine)やDipyridamoleを併用することが重要.
疑わしければSPECTでチェックするのも良いであろう.

また, 強皮症腎クリーゼに関しても, この症例のように
特に心疾患既往無い強皮症患者が,
突然の心不全 → 腎クリーゼ発症、という劇的な経過をたどることがあるため, 常々準備を怠るなということ。