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2013年11月30日土曜日

特発性 ”血” 気胸

特発性血気胸 Spontaneous Hemopneumothorax(SHP)

Current Opinion in Pulmonary Medicine 2006, 12:273–277
血気胸は特発性気胸の1-12%で合併する
 男性例で多く, 男女比は8-30 : 1
 特発性血気胸は稀な疾患であるが, 出血量は大量,  持続出血となることが多く, 血行動態不安定リスクが高い病態. 外科的処置を必要とする.
 特発性血気胸の80-100%は初発の特発性気胸に血胸が合併, 10-12%は再発性気胸に合併, 10%が初発気胸と反対側の気胸に合併する.
 
 臓側, 壁側強膜間の癒着や同部位に先天性の異常血管があり, 気胸発症時に血管損傷を生じると考えられる.
Bullaの周囲に多数の血管があり, 癒着を生じている.
 外科治療にて53%程度出血源が特定される.

特発性血気胸の場合, 70%は来院時に既に血胸あり.
 残りは少量の血液のみで, 徐々に増加する経過. また, 初診時は気胸のみだが, 後々に出現する例も10%程度であるが, それは胸腔ドレーン挿入による出血の機序が考えられる

SHPの13-46%が出血性ショックを来たす
 輸血を必要とする例は64-100%

Caseシリーズでは,
 特発性気胸の2-6.6%で血気胸を合併.
 出血量(ドレナージ量)は594-1242mlと多く, 経過観察で加療したのは0-22%程度と, 外科処置となる例が多い.
また, 急性期で手術治療とならなくても,
 持続性の出血や凝血塊による肺拡張障害で手術が必要となる例も多い.

韓国のSanbon Medical Centerの12年間において, 983例の特発性気胸の内, 17名(1.7%)が血気胸. 
Ann Thorac Cardiovasc Surg 2008; 14: 149–153
 平均出血量は1308ml[450-2900]であった.
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若い男性の特発性気胸において, 胸水貯留を認めた場合は大量出血となるリスクが非常に高いため, 早期に輸血の手配, 外科コンサルト, 外科的治療を考慮する必要があり, 要注意.

2013年11月29日金曜日

褐色細胞腫 尿中メタネフリンのCutoffと感度、特異度

Endocrine Journal 2012, 59 (9), 831-838
韓国のSamsung Medical Centerにおける815名の尿中メタネフリン値の評価 (103名が褐色細胞腫)
 24h蓄尿における, Fractionated metanephrineを評価.

患者群は以下の通り
尿中メタネフリン量のデータ

男女別のカットオフ値と感度, 特異度(上)
統一カットオフ値による感度, 特異度(下)

尿中メタネフリン、ノルメタネフリン両方で評価する方が感度は良好.
どちらか引っかかれば特異度は9割を超える.

また, 数値は女性の方が低くなる傾向があり, カットオフ値は性別で分けるべきという結果であった.


ちなみに褐色細胞腫の尿中、血清カテコラミン、メタネフリンに関しては
JAMA 2002;287:1427-34 にこのようなデータがある.
(左が遺伝性, 右が孤発性に対する感度, 特異度)
項目
Sn(%)
Sp(%)
Sn(%)
Sp(%)
Plasma
Free メタネフリン
97%
96%
99%
82%
カテコラミン
69%
89%
92%
72%
Urine
Fractinated メタネフリン
96%
82%
97%
45%
カテコラミン
79%
96%
91%
75%
Total メタネフリン
60%
97%
88%
89%
VMA
46%
99%
77%
86%


カットオフ値は
Plasma(nmol/L)
Cut off
Urne(µmol/d)
女性
男性
Free メタネフリン
Fractionated メタネフリン
 ノルメタネフリン
0.6
 ノルメタネフリン
1.7
3.0
 メタネフリン
0.3
 メタネフリン
0.7
1.2
カテコラミン
カテコラミン
 ノルエピネフリン
2.9
 ノルエピネフリン
0.5
 エピネフリン
0.5
 エピネフリン
0.1


Total メタネフリン
6


VMA
40


国内ではmg/d, µg/dが使用される一方, 海外ではmol単位がよく使用されており,
これも海外文献を漁る上で面倒と思ってしまう1要因。
そこで, ここでは単位変換式も示しておこうと思う.

単位変換; カテコラミン



エピネフリン
pg/mL
5.454 pmol/L
尿エピネフリン
µg/24h
5.454 nmol/d
随時尿エピネフリン
µg/g cre
0.617 µmol/mol cre
ノルエピネフリン
pg/mL
5.914 pmol/L
尿ノルエピネフリン
µg/24h
5.914 nmol/d
随時尿ノルエピネフリン
µg/g cre
0.669 µmol/mol cre
ドパミン
pg/mL
6.524 pmol/L
尿ドパミン
µg/24h
6.524 nmol/d
随時尿ドパミン
µg/g cre
0.738 µmol/mol cre

単位変換; メタネフリン



メタネフリン
pg/mL
5.07 pmol/L
尿メタネフリン
µg/24h
5.07 nmol/d
随時尿メタネフリン
µg/g cre
0.574 nmol/mmol cre
ノルメタネフリン
pg/mL
5.46 pmol/L
尿ノルメタネフリン
µg/24h
5.46 nmol/d
随時尿ノルメタネフリン
µg/g cre
0.617 nmol/mmol cre
Total
pg/mL
5.26 pmol/L
尿Total
µg/24h
5.26 nmol/d
随時尿Total
µg/g cre
0.595 nmol/mmol cre

2013年11月27日水曜日

ANCA関連血管炎に対するリツキシマブ

RAVE-ITN trial (NEJM 2010;363:221-32)
重症ANCA関連血管炎(GPA148, MPA48)患者197名を対象としたDB-RCT
Rituximab 375mg/m2/wk for 4wk 
 vs CYC 2mg/kg/dで3-6m継続, 寛解導入後AZA 2mg/kg/dを12-15ヶ月継続群で比較.
ステロイドは両群で投与し, 5.5ヶ月かけて減量するレジメ。

Outcomeはステロイドoff後6mo続く寛解.

Outcome
 寛解に達したのはRituximab群で64%, CYC群で53%(P=0.09)
 再燃例に対する効果はRituximabの方が有効で, 再燃例の寛解率 67% vs 42% (P=0.01)
 寛解率はWG, MPN別で解析しても有意差認めない. また, 腎炎合併, 肺胞出血合併例でも有意差なし

このstudyの長期フォロー結果も出ており, (N Engl J Med 2013;369:417-27.)
長期間の寛解率, 治療への反応率は両者同等.



リツキシマブでは1ヶ月、計4回の投与でCYC,AZA投与と同等の効果が期待できる.
高齢者でCYCが使用しにくい患者ではとても有用と思われる.

薬価は500mgで24万円、4回で100万円近くと高いが, 国内では再発性、難治性ANCA関連血管炎として保健適応ある.
今後ジェネリックもでてくる予定であり、その場合は8割程度まで値段は下がるという。

高齢者のANCA関連血管炎をよく診る身としてはとてもありがたい。
CYCが投与難しい場合はステロイド単剤投与 → 反応性悪い or 再燃 → リツキシマブ、という流れもあり、期待したい薬剤.

2013年11月26日火曜日

COPD急性増悪; どのような患者に抗生剤を使用すべきか?

Chest 2013;144:1571-1577
軽症〜中等症のCOPD急性増悪患者310名を対象に, AMPC/CLA投与 vs Placeboに割り付け比較したRCTにおいて, Placebo群の152例を解析.
 患者は40歳以上で, FEV1/FVC<70%, FEV1>50% predicted.
 Abx群の治療成功率は90.5%, Placebo群では80.9% (p=0.022)と, 有意にAbx投与群の方が治療成功率は良好であった.

Placebo群152例において, Placeboでの治療失敗率をAnthonisen criteria別に評価.
また, Criteriaで最も寄与する因子を評価.

Anthonisen Criteriaによる抗生剤の判断;
Criteriaは以下の3つのうち, いくつ満たすかで評価.
3つ(type I), 2つ(type II), 1つ(I)で分類
 呼吸苦の増悪
 喀痰の増量
 喀痰の膿性の増加
Anthonisen criteriaと治療失敗率
Type IではAbx無しで1/3が治療失敗
Type II, IIIでは, 喀痰の膿性増加が重要な因子となっている.

各項目を評価すると, 治療失敗のリスク因子は, CRPと膿性痰.
FEV1<65% predictedもリスク因子となる.

“痰の膿性の増悪” と “CRP >4mg/dL” の2つがある場合, 抗生剤無しでの治療の失敗率は63.7%となる.
 喀痰の膿性の増悪が無く, Criteria II,IIIならば治療失敗率は5%程度であり, Abx無しで治療することもありかもしれない.

AKIにおける透析導入のタイミング

AKIに対する透析導入のタイミングは決まっておらず,
臨床的な判断で行われているのが現状.

Am J Kidney Dis. 62(6):1116-1121. 
AKIに対する透析導入のRCT.
 西インドにおいて, 徐々にBUNが上昇するAKI患者208名を, 早期導入群 vs 通常の導入群に割り付け, 比較.
 早期導入群では, BUN ≥70mg/dL, もしくはCre≥7mg/dLで導入.
 通常導入群では, 施設の腎臓内科医の判断にて導入.

母集団;
透析導入時のパラメータ
 通常の透析導入群では尿毒症症状での導入が多い.

アウトカム;
院内死亡率, 維持透析移行率に有意差無し.
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予測していたイベント率に到達せず, 従ってサンプルサイズが少ないのが難点だが, 早期導入しても特に利点はないという結論.
臨床的に導入したら良い.

尿中Alb-Cre比のバラツキ

Am J Kidney Dis. 62(6):1095-1101.
安定したCKD患者157名において, 連日, 朝9時にSpot尿を評価し, ACRを計算.
また, 24h蓄尿も平行して行い, 尿中Alb値を測定
 患者群のデータ
 患者群の平均尿中Alb値は226[2.5-14000]mg/d
 初日と2日目のACR値のプロット. 大体一致しているように見える

アルブミン尿の分類と, 24hアルブミン尿をCutoffとした時のACRの分布.
アルブミン尿
24hアルブミン尿
基礎ACR
1回再検査
2回再検査
3回再検査
正常; <30mg/d
~30mg/d
27
0-150(467%)
0-133(400%)
0-124(367%)
微量Alb尿; 30-300mg/d
~100mg/d
88
0-239(170%)
0-212(140%)
0-212(140%)
Alb尿; >300mg/d
~300mg/d
265
44-486(83%)
71-460(73%)
80-451(70%)

~1000mg/d
884
389-1379(56%)
460-1308(48%)
486-1291(46%)
ネフローゼ; >3000mg/d
~3000mg/d
2652
1397-3916(48%)
1565-3739(41%)
1627-3677(38%)
ACRの単位はmg/d, ()内は基礎ACRとの変動率(%).

例えば, 微量アルブミン尿をチェックする場合
ACRは0-239mg/gの範囲で変化する可能性があり, 例え<30mg/gだとしても否定が難しいということ. ACRが<300mg/gでも顕性Alb尿かもしれないということを示唆.

また, ACRでフォローしていても, 微量アルブミン尿群では, 400%以内の変化では増悪していると判断できない. それ以上の変化があれば増悪, 改善していると判断する。

ACR測定を繰り返せば, より精度は上がるが, それでもバラツキは大きい.
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このくらいの範囲でバラツキがあるという点は覚えておく必要がある.
腎不全の評価ではやはり1度は蓄尿はすべきであろうと思うが, やはり行うのは大変なのでどうしてもACR,PCRに頼ってしまうなぁ...

膜性腎症に漢方薬を

Am J Kidney Dis. 62(6):1068-1076.
特発性膜性腎症(IMN) 190名を対象としたopen-label RCT.
 ○患者は18-75y, タンパク尿≥3.5g/d, eGFR>30ml/min.
 ○除外項目はIMN以外のネフローゼ, 二次性, DM, もしくはHbA1c >6.2mmol/L, 6m以内のステロイド使用歴あり, 4wk以内の免疫抑制剤使用歴, HBV,HIV, 悪性腫瘍(+), 肝障害, コントロール不良の高血圧

上記患者群を神気(Shenqi) 9.6g x3回/d群と,
 PSL 1mg/kg/d + Cyclophosphamide 0.8-1g/m2を月1回使用群に割り付け, タンパク尿, Alb値をフォロー.
 PSLは12wk継続し, その後Taperingし10mg/dまで減量
 CYCは1回/mを6m, その後1回/3mを6m継続.

Shenqi particleの含有物 (しんどくて訳せませんでした...)
母集団
アウトカム;

 追跡率は69%と低い. 
 CR,PRは漢方薬とPSL+CYC群で同等.
 タンパク尿の低下, 血清Alb改善も両者で同等.

重度の副作用
 PSL+CYCではやはり重度の合併症は多い傾向.
 神気ではそれら重度の副作用は少ない.

PSL+CYCとShenqiが同等との結論. 追跡率が少ないのが残念な所だが,
中国4000年の歴史は深いね。