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2014年12月3日水曜日

糖尿病患者における虚血性心疾患のスクリーニング(2014/12/3 UpDate)

糖尿病患者ではMicrovascularの障害である網膜症, 腎症, 神経障害の評価はルーチンで行うことが多い.
Microvascularの障害である虚血性心疾患, 脳血管疾患の評価も重要だが, どの患者群で行うべきかは明確ではなく, "リスクがある患者群" で行うことが推奨されている.

1998年のADAガイドラインでは, 以下の群において, 心臓負荷試験による心血管障害のスクリーニングを行うことを推奨している.

典型的, 非典型的な心臓症状
a) T-chol ≥240mg/dL, LDL≥160mg/dL, HDL<35mg/dL
安静時ECGにて虚血性心疾患, 陳旧性MIの疑い
b) BP>140/90mmHg
PAD, 頸動脈狭窄を認める
c) 喫煙歴
座位の多い生活, 年齢≥35歳で運動療法を始める予定
d) CADの家族歴
a-eのリスクで2つ以上を満たす
e) 微量, 顕性アルブミン尿を認める
Arq Bras Endocrinol Metab 2007;51:285-293

また, SFC/ALFEDIAM(French Cardiology Society/French-speaking Association for the Study of Diabetes and Metabolic Diseases)ガイドライン2004では, 以下を満たす2型糖尿病でスクリーニング推奨されている

>60 もしくは発症10年以上経過したDM
2
つ以上のリスクを伴う場合(a-d)
a) T-chol>250mg/dL, LDL>160mg/dL, HDL<35mg/dL, 
 TG>200mg/dLもしくは脂質降下薬を使用
末梢血管, 頸動脈狭窄認める
b) BP>140/90もしくは降圧薬を使用
蛋白尿を認める
c) 現在の喫煙者 もしくは 3年以内の喫煙歴
微量アルブミン尿 + 2つ以上のリスクを伴う場合
d) 第一親等で60歳未満でCADの既往がある
座位の多い生活, ≥45歳で運動療法を受ける予定あり

Arq Bras Endocrinol Metab 2007;51:285-293

AHA/ACCガイドラインでは以下を満たす場合に運動負荷心電図によるスクリーニングを推奨

CADの疑いがある患者
1DMの罹患期間が15年以上
2DMの罹患期間が10年以上, もしくは35歳以上
他の動脈硬化リスク因子がある
微小血管障害合併症(+), PAD, 自律神経障害あり
Circulation. 2006;113:583-592

どのようなスクリーニング方法が推奨されるか?
基本的には心臓負荷試験が推奨される.
運動負荷心電図, 負荷心エコー(運動, Dobutamine), 負荷核医学検査(Adenosine負荷SPECT等)

それぞれの検査の冠動脈病変の検出率は(Reference standardをCAGによる狭窄と定義)
検査
感度
特異度
負荷心電図
47%
81%
負荷心エコー
82%
54%
負荷核医学検査
86%
56%

Circulation. 2006;113:583-592

負荷心電図の感度は50%程度であり, 正常でも除外は困難.
負荷心エコー, 負荷核医学検査では感度は良好であるが, 特異性は劣る.
また, 運動負荷心電図では, 最大心拍数に到達できない患者もいる(肥満患者は下肢動脈障害がある患者群など)ため, その場合はさらに評価が困難となる.

上記は冠動脈狭窄をアウトカムとしているが,
心血管イベント(心血管由来死亡, 心筋梗塞, 狭心症発症)をアウトカムとした場合,
負荷心電図は感度50%, 特異度83%とほぼ同じ.
負荷心エコー検査では, 糖尿病患者群のデータが乏しく, 具体的数字は不明.
 負荷心エコー所見陽性 vs 陰性における, MI, 心血管死亡率は,
フォロー
異常(+)
(-)
1
2%
0%
3
12%
2%
5
23%
8%
と, 陽性例の方が明らかに心血管イベント発症率が高い.

虚血性心疾患の症状, 病歴が無い2型糖尿病群735例において, 負荷心電図検査を試行.
負荷心電図で所見ある場合は, 負荷心筋シンチを試行するプロトコール.
心血管イベントの発症率は, 心電図正常群で0.97[0.66-1.38]/100pt-y
心臓負荷試験で異常(+)群では3.85[1.84-7.07]/100pt-yという結果.

また, 最近は冠動脈CT, 心臓MRIといった検査も使用されている.
CTは造影剤が必要であり, 腎障害患者では使用できないのと, 石灰化がある場合は評価困難なのが問題点.

DIAD試験; 50-75歳, 心血管疾患の既往(-)の2型糖尿病患者1123例のRCT.
JAMA. 2009;301(15):1547-1555
 Adenosine負荷, Technetium-99m SPECTを使用したスクリーニング+5年のフォロー群と,
 スクリーニング無しの5年間フォローのみの群に割り付け, 心血管死亡, MI発症率を評価.
 母集団は30歳以降に発症した2型DMで50-75歳. 
 除外項目は狭心痛, 狭心症(+), 3年以内のストレス試験, CAG歴あり, MI, HF, 冠動脈再建の既往あり, ECGにて虚血性心疾患の所見(CLBBB含む), ストレス試験の適応がある患者群, 悪性腫瘍, 末期腎不全患者
 スクリーニングにて異常を認めた場合は特に決まったプロトコールは無く, その主治医の判断にて投薬の調節, 追加検査が進められた.

アウトカム; 
心筋梗塞, 心血管由来死亡, UAP, 心不全, 脳梗塞発症率すべてスクリーニングの有無で有意差無し.

両群におけるフォローアップ, 追加検査, 内服薬の比較
 スクリーニング群の方が当然早期のCAG試行頻度が高い.
 非スクリーニング群は必要に応じてストレス試験を行っている.
 両者の投薬内容は同等.

 心血管系死亡, 心筋梗塞のリスクとなる因子
 長期間の糖尿病罹患, 腎不全, LDL高値, 男性, 微量アルブミン尿, 末梢神経障害, 心臓自律神経障害, 心血管イベントの家族歴は上記アウトカムのリスクファクターとなる.


まとめると,
心血管症状, 既往が無い糖尿病患者における虚血性心疾患スクリーニングは, 様々な推奨適応はあるものの, 明確なEvidenceがある訳ではない.

DIAT試験の結果から, 上記患者群全例にスクリーニングをしても最終的な心血管イベント発症, 死亡リスクを軽減する結果には繋がらず, 必要に応じて検査を行う形も許容される.
(その必要性とは?と言われるとこれまたハッキリしない。。。)

ただし, DIAT試験ではスクリーニングが陽性であった場合のプロトコールが無く, 主治医の判断で追加検査, 薬剤調節が行われており, ここをしっかりとマネージメントする様なデザインのStudyならば結果は変わるかもしれない. その辺の評価は今後に期待したいところ.

現時点では, 心血管イベントのリスク因子となる長期間の糖尿病罹患, 腎不全, LDL高値, 男性, 微量アルブミン尿, 末梢神経障害, 心臓自律神経障害, 心血管イベントの家族歴のいくつかを満たす場合はスクリーニングすべきなんでしょう。

何でスクリーニングするかは、負荷ECG + 負荷エコー or 核医学検査となる.
負荷ECGで陽性 >> 冠動脈病変の疑いはかなり濃厚
負荷ECGで陰性 >> でも否定はできないので, 完全に否定したい場合は負荷エコー or 核医学検査. という流れか.

心臓CTの評価についてのRCT: RACTOR−64 trial JAMA. 2014;312(21):2234-2243 
1型, 2型DMを3−5年以上罹患しており,CADの症状を認めない900例を対象としたRCT.
 男性で50歳以上, 女性で55歳以上ではDM罹患期間3年以上.
 男性で40歳以上, 女性で45歳以上ではDM罹患期間5年以上.
 冠動脈CTで冠動脈評価する群 vs Control群に割り付け, 心血管イベントリスク, 予後を比較.

アウトカム: 4±1.9年のフォローにて
 HFの入院はCTA群で低いものの, 心血管イベント, 死亡率は両群で有意差なし.

さらに長期間のフォローや、Sub解析でスクリーニングに有意差がでるかどうか気になりますね。