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2014年12月1日月曜日

甲状腺 Subclinical hypothyroidism

Subclinical Hypothyrodism
JAMA 2004;291:228-38

TSHが異常, T3, T4は正常の病態
一般人口の4-8.5%で認められる
 >60yrの女性では20%.
 >74yrでは男性と女性の頻度は同等(16% vs 21%)
 2-5%/year が顕性Hypothyroidismへ移行
 Thyrotropin(+)群では2.6%, 抗甲状腺抗体(+)では2.1%, 両方(+)では4.3%/yr
TSH値による分類
Screening and Treatment of Thyroid Dysfunction: An Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force
Ann Intern Med 2014.

橋本病(抗TPO抗体陽性)が50-80%を占め, 他の原因としては薬剤性(amiodarone, phenylbutazone, sulfonamide, lithium, IFN-αなど)

Subclinical hypothyroidismの場合, 2-12wk後に再検査が推奨.
 再度Subclinical hypothyroidismであった場合は, 抗TPO抗体を評価し, Hypothyroidismへの進展Riskを評価する.

女性における 年齢, TSH値, 甲状腺抗体の有無別の顕性甲状腺機能低下症の発症頻度
Clinical Endocrinology (2010) 72, 436–440
 20年以内の発症率(%)

Subclinical hypothyroidismの治療、評価について
"Subclinical"であるため, 評価は偶発的に発見されるか, スクリーニングをかけるしかない.
また見つかった場合に甲状腺ホルモンを補充するかどうかも重要である.
文献上では,
 TSH>10mU/Lでは5%が顕性hypothyroidismと進展するため, 治療が推奨されている
 TSH 4.5-10mU/L群では治療はControversial.
  腺腫やTPO抗体陽性, LDL高値, 症状(+)例では治療しても良いかもしれない
  治療によりLDL-cholの低下が期待できる.
  治療しない場合は6-12mo毎にフォローを.
 妊娠希望女性では, 治療する方がBetter. という推奨がされている
Am J Med 2010;123:502-4 NEJM 2001;345:260-5

しかしながら, 顕性に発展するリスクが高いのならば定期評価をしつつ、顕性となれば治療を開始するのでも良いはずであり, 早期発見と治療開始の意義は臨床的アウトカムの改善があるかどうかが重要である。

Subclinical Hypothyroidismでは心血管イベントリスクが上昇すると言われている
Subclinical hypothyroidismと心血管イベントを評価したMeta JAMA. 2010;304(12):1365-1374
 T3,T4正常, TSH 4.5-19.9mIU/Lで定義.
 11のProspective cohortより, N=55287, 542494pt-yrを評価.
 内3450(6.2%)がSubclinical hypothyroidism.
Outcome

HR
CHD Event
TSH 4.5-6.9 vs Euthyroid
1.01[0.86-1.18]

TSH 7.0-9.9 vs Euthyroid
1.22[0.99-1.49]

TSH 10-19.9 vs Euthyroid
1.86[1.22-2.82]
CHD死亡
TSH 4.5-6.9 vs Euthyroid
1.06[0.88-1.28]

TSH 7.0-9.9 vs Euthyroid
1.53[1.13-2.07]

TSH 10-19.9 vs Euthyroid
1.54[1.07-2.23]
全死亡
TSH 4.5-6.9 vs Euthyroid
1.07[0.96-1.20]

TSH 7.0-9.9 vs Euthyroid
1.11[0.92-1.33]

TSH 10-19.9 vs Euthyroid
1.24[0.82-1.87]
 Subclinical Hypothyroid全体では有意差無いが, 
 TSH>7.0ではCHD死亡riskが上昇,
 TSH>10ではCHD event riskが上昇.
 全死亡riskはTSHに関わらず, 有意差無しという結果.
Baseline, フォロー中にチラーヂン使用した群を除外した評価では,

TSH 4.5-19.9
THS 10-19.9
CHD Event
1.17[0.91-1.50]
2.17[1.19-3.93]
CHD 死亡
1.25[1.04-1.51]
1.85[1.13-3.05]
 全体の評価と同様, CHD, CHD死亡リスク上昇を認める.

甲状腺機能異常と心血管系イベント, 死亡を評価した10 prospective population based cohortのMeta(N=14449) Ann Intern Med. 2008;148:832-845.
 Subclinical hypothyroidismと心血管系イベントリスクは有意差なし
CHD RR
1.20[0.97-1.49]
CHD死亡 RR
1.18[0.98-1.42]
全死亡 RR
1.12[0.99-1.26]
 これはTSH値別でも変わらない
CHD RR
TSH ≥4.5
1.06[0.91-1.25]

TSH ≥10
1.69[0.64-4.45]
 Subclinical hypothyroidism群の内, 年齢<65yr群での解析ではCHDリスクが上昇.
<65y
1.51[1.09-2.09]
≥65yr
1.05[0.90-1.22]
<60yr
1.58[1.02-2.43]
60-79.9yr
1.06[0.91-1.24]
≥80
0.47[0.11-1.90]
 Subclinical hyperthyroidismと心血管系イベントリスクも有意差無し
 また, Hyperthyroidでは年齢は関係無し.

Studyの母集団の最小年齢 <65yr, ≥65yrで分けて解析したMeta-analysis (SCH 2531名, Euthyroid 26491名) J Clin Endocrinol Metab 93: 2998–3007, 2008
Ouctome
<65yr
≥65yr
IHD incidence
1.57[1.19-2.06]
1.01[0.87-1.18]
IHD prevalence
1.68[1.27-2.23]
1.02[0.85-1.22]
IHD 死亡
1.37[1.04-1.79]
0.85[0.56-1.29]
 虚血性心疾患は基本的に<65yrを含んだStudyで有意差(+),
 ≥65yrのみのStudyでは有意差認めないという結果.

JAMA 2010年とArch Intern Med 2008年の違い;
 双方ともProspective population based cohortを使用.
 Study数, N数はJAMAの方が多く, より大規模と言える.
 双方とも, Subclinical hypothyroid全体 vs Euthyroidの比較では, CHD, CHD死亡に有意差ないが, JAMAではTSH値で細分化(4.5-7, 7-10, ≥10)した解析で有意差を認めている.
 Arch Intern Medでは, TSH ≥4.5, ≥10でのみ解析. それでは有意差無し.
 Arch Intern Medでは, 各Studyの母集団年齢別の評価がされており, 若年(<65yr)ほどCHDリスクが上昇するとの結果がある.
 JAMAでは, 65-79yr群のみCHD死亡で有意差を認めている ⇒ 真逆の結論.

Subclinical hypothyroidと心不全, 拡張障害. J Am Coll Cardiol. 2008 September 30; 52(14): 1152–1159
≥65yr, HF(-)の3044名を12年間フォロー. Euthyroid, Subclinical hypothyroid, Subclinical hyperthyroid毎にリスク評価
 12年間のフォローにおいて, 736名がHFを発症.
 TSH ≥10群でのみ有意差を持ってHFリスクが上昇; 41.7 vs 22.9/1000pt-yr, HR 1.88[1.05-3.34]
 Thyroxinの使用の有無で分けると, TSH ≥10におけるHFリスク
  Thyroxin(+) HR 0.50[0.14-1.74] 
  Thyroxin(-) HR 1.83[1.05-3.20].
 エコーでの評価では, TSH≥10群では有意にLV massが増加.拡張障害も増悪している.

以上をまとめると,
Subclinical hypothyroidはCHDリスクを上昇させる可能性がある.
 ただし, 全体の死亡は両者で有意差無し.
 ただしそれは若年者(<65yr)でのSubclinical hypothyroidで顕著.
 高齢者では有意差が出ない可能性が高い.
Subclinical hypothyroidismに対してチラーヂンを投与した群と経過観察の群での比較Studyは未だ無く, Subclinical hypothyroidを治療すべきか or NOTの判断はExpert opinion.
(Subclinical hypo = 基礎疾患がある, 高齢者が多い ため,  CHDが増加しているだけの可能性は否定できていない.)
65歳以上でTSH≥10の群では拡張障害、心不全リスクが上昇する. 特にThyroxin投与がない群でよりリスクが上昇している

40-70yrのSCH 3093例, >70yrのSCH 1642例のCohort.
Arch Intern Med 2012;Apr. 23. Levothyroxine Treatment of Subclinical Hypothyroidism, Fatal and Nonfatal Cardiovascular Events, and Mortality
 上記のうち, 40-70yr群の52.8%, >70yr群の49.9%でLevothyroxine投与.
 Levothyroxine投与群 vs 非投与群で虚血性心疾患リスクを比較.
Outcome; 平均7.6yrフォロー
 Levothyroxineによる虚血性心疾患リスク低下効果は40-70yrの群のみで認める.
 死亡リスクも低下するが, 悪性腫瘍による死亡が有意差があり, Biasが関与?
 >70yrの群では虚血性心疾患リスク低下効果は無し.
 Evidence Levelは低いが, <65-70yのSCHでは治療してもよいか?

各年齢毎のIHDリスク
 40-50歳はそもそもIHDのリスクが低く, 治療効果は期待できない.
 50-60歳は徐々にIHDリスクが上昇するため, SCH以外にIHDリスクがある場合は投与しても良いかもしれない.
 60-70歳はIHD予防効果が期待できる.
 >70歳では投与による予防効果は期待できない

SCHでは, 60-70歳もしくは  50-60歳でIHDリスクが高い場合にチラーヂンを考慮すると考えるべきか.

U.S. Preventive Services Task Forceの推奨では,
 Subclinical hypothyroidismの治療はCohortでのみ心血管イベントリスクの低下効果が認められている.
 他にQOLや血圧, BMI, 認知機能の改善は認められていない.
 高脂血症の治療効果があるかもしれないが, そこまで顕著ではない
 従って, 甲状腺機能のスクリーニングをルーチンで行うことについては情報が足りないとの結論としている
Screening and Treatment of Thyroid Dysfunction: An Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force
Ann Intern Med 2014