2012年にNEJMより発表されたUSCORE trialにおいて, 膵炎の高リスク群におけるNSAIDs坐薬によるERCP後膵炎予防効果が明らかとなった.
USCORE trial; ERCPによる膵炎発症リスクが高いと判断された602名のDB-RCT.
(N Engl J Med 2012;366:1414-22.)
・ERCP直後にインドメタシン50mgの経直腸投与 vs Placeboに割り付け, 手技後24hr以内の膵炎発症率を比較(腹痛, AMY,LIP>3ULN)
・膵炎発症リスク高は以下のMajor 1項目以上か, Minor 2項目以上を満たす場合で定義.
Major 1項目以上 |
Oddi括約筋の異常§が臨床上推測される |
Post-ERCP膵炎の既往あり |
膵管括約筋切開術施行 |
Precut sphincterotomy |
>8回のCannulationを行った場合 |
胆管のPneumatic dilatation |
Ampullectomy |
Minor 2項目以上 |
<50yrの女性 |
2回以上の膵炎の既往あり |
3回以上造影剤が膵管に入る. その内1回は膵尾部まで造影されている |
膵腺房まで造影されるほど造影剤を使用 |
ブラシを用いて膵管から細胞を採取した場合 |
§Oddi括約筋の異常
Biliary type I | 胆道系による腹痛, LFT異常, 総胆管>9mm |
Biliary type II | 胆道系による腹痛とLFT異常+総胆管拡張あり |
Biliary type III | 胆道系による腹痛のみ |
Pancreatic type I | 膵臓系の腹痛, 膵酵素上昇, 膵管拡張 もしくは再発性膵炎 |
Pancreatic type II | 膵臓系の腹痛, 膵酵素上昇, 膵管拡張 |
Pancreatic type III | 膵臓系の腹痛のみ |
母集団データ:
Outcome; ERCP後膵炎の発症率
・ERCP後膵炎発症率は有意にNSAID経直腸投与群で低くなる.
16.9% vs 9.2% (p=0.005), NNT 13.
8.8% vs 4.4% (p=0.03)
・NSAID使用による出血リスクは有意差無し.
このStudyに加えて, 2016年にいくつかの新しいRCTが出てきた
ERCPを予定している449例を対象としたDB-RCT
(Gastroenterology 2016;150:911–917)
・ERCPの術中にインドメタシン100mgを経直腸投与する群 vs. プラセボ群に割り付け, ERCP後膵炎のリスクを比較.
・ERCP後膵炎の定義は, 新規上腹痛の出現, リパーゼ ≥3ULN, ERCP後2日間入院が必要で定義
・患者は18歳以上でERCPを予定されている群.
急性膵炎やNSAIDを使用できない患者, 妊婦, 授乳婦は除外
・患者の70%がERCP後膵炎の中等度リスク群
ERCP後膵炎既往は4%,
カニュレーションが困難であったのは2割程度.
Oddi括約筋の以上が疑われた患者は2.8%のみ.
アウトカム:
・ERCP後膵炎の発症リスクは両者で有意差なし.
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前者2つのRCTでは母集団が異なる.
・USCOREではERCP後膵炎の既往や, Odds括約筋異常の割合が多い.
・患者層もUSCOREの方が若年で, 女性が多い
・カニュレーション試行を>8回必要とした症例は2割程度で同等.
・Pancreatic acinarizationもUSCOREで多く, 全体的にUSCOREの方がERCP膵炎リスクが高い.
プラセボ群のERCP膵炎は16.9%
後者のStudyでは4.9%
・またインドメタシンの投与タイミングもERCP後か, 術中かで異なる.
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そこで, リスクに応じてERCP後に投与する群と, 全例でルーチンにERCP前に投与する群を比較したRCT.
中国における多施設, Single-blind RCT.
・ERCPを予定されている18歳以上の 2600例を対象とし, 全例でERCPの30分前にインドメタシン 100mgを経直腸投与する群 vs. 高リスク群のみERCP後に経直腸投与する群に割り付け, 比較.
(Lancet 2016; 387: 2293–301 )
・ERCP後膵炎の定義は, 新規上腹痛の出現, リパーゼ ≥3ULN, ERCP後2日間入院が必要で定義
・ERCP後膵炎の高リスク群はUSCORE trialの定義と同様.
母集団のデータ
・ERCP施行歴がある患者は少なくERCP後膵炎の既往も少ない.
・Oddi括約筋不全も3%のみと少ない
ERCP所見
・高リスク群, といってもOddi括約筋不全はUSCOREと比較して少ない.
アウトカム
・ERCP後膵炎は, ERCP施行前にルーチンでインドメタシンを投与する群で有意に少ない結果.
・両群の高リスク群のみで評価した結果では, 手技前に投与した方が良い結果.
・中等度リスク群でも同様
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ERCP後膵炎の予防としてのインドメタシンの投与方法は以下の3パターンがある.
・ERCP所見を踏まえて, 高リスク群のみ, ERCP直後に投与する (USCORE)
・ERCP所見を踏まえて, 高リスク群のみ, 術中に投与する.
・ERCPの所見に関わらず, 全例で術中に使用する
・ERCP施行前に全例で使用する
これらのStudyから, 現時点は, 膵炎のリスク別に考慮するのではなく,
全例でERCP術前に投与する方が予防効果が良好と言えるか.