CLEAR trial: MRSAキャリアの入院患者を対象とし, 退院後除菌療法+教育 vs 教育のみに割り付け, その後のMRSA感染症リスクを比較したRCT
(N Engl J Med 2019;380:638-50.)
・患者はカルフォルニアの17病院, 7施設に30日以内に入院・入所していた成人で, 自力・介助で入浴が可能な患者
入院中もしくは30日以内のMRSAスクリーニングで陽性となった患者を対象とした.
・除菌は0.12%クロルヘキシジンを用いたうがい(1日2回), 4%クロルヘキシジンリンスを用いたシャワー・入浴と, 鼻腔内ムピロシン塗布を1クール5日間, 1ヶ月に2クール, 6ヶ月間施行する.
・1年間フォローし, MRSA関連感染症の頻度を比較した.
感染症の定義はCDC基準を用いて判断
母集団
アウトカム
・MRSA関連の感染症は有意に除菌群で低下する.
HR 0.61[0.44-0.85]とおよそ4割減少する結果
・予測MRSA感染予防NNTは30[18-230]
Any infectionの予防NNTは26[13-212]
入院予防NNTは28[21-270]
・特に減少するのは肺炎, SSI
肺炎 0.026/pt-y vs 0.013/pt-y, %では教育群で1.7% vs 除菌群0.85%,
SSI 0.019/pt-y vs 0.003/pt-y, %では教育群で1.2% vs 除菌群0.19%
それぞれ約1%程度低下. NNT 100程度
・副作用は4.2%で認められたが, すべて軽度であった.
・ムピロシン耐性MRSAの出現頻度は両群で有意差なし.
(初期に感受性があった群において, フォロー中に高度耐性を獲得したのは除菌群で1.4%, 教育のみの群で1.6%)
--------------------------------
MRSAキャリアにおける除菌(クロルヘキシジンやプピロシン軟膏鼻腔内塗布)は長期的なMRSA感染リスクは低下させる
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2019年2月14日木曜日
2019年2月9日土曜日
副腎出血
60歳代の女性
尿路感染症による敗血症性ショック, 心不全でICU管理中.
来院時の腹部CTにて両側性の副腎腫大が認められたが, 以前のCTでは認められず.
さらに5日後の腹部CTフォローでは副腎腫大は消退傾向があった.
画像は論文から拝借(Crit Care Resusc 2011; 13: 123–124)
・副腎は両側性の腫大しており, 造影されない. 周囲の脂肪織混濁も伴う.
診断は画像に書いてある通り, 敗血症に伴う両側性副腎出血.
副腎出血
副腎は血流が特殊であり, 複数の細動脈より流入するものの, 流出するのは1本の静脈のみ.
静脈圧の上昇や静脈血栓症によりうっ血しやすい構造であり, Vascular damとか呼ばれる.
・静脈がうっ滞・血栓形成→副腎うっ血・腫脹→阻血・梗塞→出血 という機序で副腎出血が生じる.
・原因となる病態はいくつかに分類され,
出血傾向: 抗凝固療法や血小板減少
血栓傾向: 抗リン脂質抗体症候群や本態性血小板増多症, 多血症, ヘパリン誘発性血小板減少症
急性ストレス下: 敗血症, 熱傷, 多発外傷, 多臓器不全, 術後
副腎腫瘍
特発性
(Ann Hematol (2002) 81:691–694 )(Abdom Radiol (2016) 41:303–310 )
・さらに心不全や静脈圧が上昇する疾患は修飾因子となる可能性がある.
両側性副腎出血のリスク因子
(MEDICINE® 80: 45-53, 2001 )
・カナダの多施設Case-control studyによる評価
・画像や組織で副腎出血と判断され, 副腎不全が証明された成人例
Controlはコンピューターでランダムに抽出(入院期間と年齢は誤差1年以内). Case 1例に対してControl 4例を評価
・Case 23例とControl 92例比較
・リスク因子は, PLT低下, ヘパリン使用, 敗血症が挙げられる
両側性副腎出血120例の合併・併発疾患
(Medicine (Baltimore). 1978 May;57(3):211-21.)
抗リン脂質抗体症候群では初発症状として副腎出血がある
APSで副腎の病変を認めた86例の解析
・男性が55%, 女性が45%
・平均年齢は43±16歳. 範囲は3日~72歳
・71%がPrimary APS, 16%がSLEによるAPS, 8%がLupus-like syndrome
他は薬剤性や傍腫瘍症候群によるAPS
・副腎不全がAPSの初期症状であった症例が36%
以前にMajor vascular occlusionの既往があったのが53%
DVTは40%で合併(うち15/34はPEも),
動脈閉塞は19%で合併あり.
・初発症状では, 副腎不全以外に腹痛が55%, 低血圧 54%, 発熱 40%
悪心嘔吐が31%, 倦怠感/悪寒/脱力感が31%, 意識障害 19%
体重減少13%, 皮膚色素沈着 10%, イレウス 6%, 下痢 4%
(Medicine 2003;82: 106–18)
両側性副腎出血の症状頻度
症例報告135例のReviewでは, 発熱, 胸痛や側腹部痛, 腹痛, 悪心嘔吐, 低血圧など
(Medicine (Baltimore). 1978 May;57(3):211-21.)
(BMJ Case Rep. 2014 Nov 19;2014.)
副腎出血の画像所見
(AJR 2012; 199:W91–W98 )
・副腎出血では造影されない, 低濃度, 混合濃度のMassとなる
・一部正常に造影された副腎が残存していることもある
・単純CTでは副腎腫大と周囲の脂肪織混濁を伴う(副腎うっ血所見)
・MRIでは出血はT1高信号となる
(J Clin Endocrinol Metab 98: 3179–3189, 2013)
副腎出血の前に副腎うっ血所見を拾い上げることが重要との意見もある
(Abdom Radiol (2016) 41:303–310 )
・敗血症や術後, 熱傷, 低血圧でも副腎出血を生じることがある.
これは副腎血流が増加する一方で, 副腎静脈の血流が障害される, また副腎静脈血栓症を生じ, 副腎がうっ血し, 出血を生じる仮説がある
・腹部CTにおいて, 早期の副腎うっ血を検出することが, 副腎出血のリスク評価として有用な可能性がある.
・うっ血の所見は副腎腫大と周囲の脂肪織混濁像.
この論文では, 副腎うっ血所見後、副腎出血を呈した4例の報告と, 別にICU管理となった症例からランダムで12例を抽出し, 画像を評価したControl群ではいずれも副腎うっ血所見は認められなかったことから, 急性疾患においてCTでこの所見が得られる場合はその後の病状の増悪に注意した方が良いという結論.
それ以上の副腎うっ血所見の意義を評価した論文は見つからず.
-----------------------------
・自験例では両側性副腎腫大をみとめたものの, 初回造影はせず虚血や出血については不明確であった. 5日後のフォローでは腫大は改善傾向にあり、副腎うっ血を見ていた可能性が高い. 出血も一部であったのであろうと考えた.
・副腎機能は当初は正常範囲であったが敗血症コントロールにおいて低血圧が遷延し、ステロイド併用を開始. これも減量後にACTH負荷試験の必要がある.
・副腎出血は無症候性や腹痛症状が主となることもあり, また画像でしばしば見逃しがちという点から意識してチェックするものと思う. 論文でも剖検から診断されることが多く, 見逃されている症例も多いように思う.
・副腎うっ血所見の有用性はまだ不明確であるものの, 確かに当院のICU症例の画像をいくつか見直すとあまり見ない所見ではあり、今後意識して見てゆきたい.
尿路感染症による敗血症性ショック, 心不全でICU管理中.
来院時の腹部CTにて両側性の副腎腫大が認められたが, 以前のCTでは認められず.
さらに5日後の腹部CTフォローでは副腎腫大は消退傾向があった.
画像は論文から拝借(Crit Care Resusc 2011; 13: 123–124)
・副腎は両側性の腫大しており, 造影されない. 周囲の脂肪織混濁も伴う.
診断は画像に書いてある通り, 敗血症に伴う両側性副腎出血.
副腎出血
副腎は血流が特殊であり, 複数の細動脈より流入するものの, 流出するのは1本の静脈のみ.
静脈圧の上昇や静脈血栓症によりうっ血しやすい構造であり, Vascular damとか呼ばれる.
・静脈がうっ滞・血栓形成→副腎うっ血・腫脹→阻血・梗塞→出血 という機序で副腎出血が生じる.
・原因となる病態はいくつかに分類され,
出血傾向: 抗凝固療法や血小板減少
血栓傾向: 抗リン脂質抗体症候群や本態性血小板増多症, 多血症, ヘパリン誘発性血小板減少症
急性ストレス下: 敗血症, 熱傷, 多発外傷, 多臓器不全, 術後
副腎腫瘍
特発性
(Ann Hematol (2002) 81:691–694 )(Abdom Radiol (2016) 41:303–310 )
・さらに心不全や静脈圧が上昇する疾患は修飾因子となる可能性がある.
両側性副腎出血のリスク因子
(MEDICINE® 80: 45-53, 2001 )
・カナダの多施設Case-control studyによる評価
・画像や組織で副腎出血と判断され, 副腎不全が証明された成人例
Controlはコンピューターでランダムに抽出(入院期間と年齢は誤差1年以内). Case 1例に対してControl 4例を評価
・Case 23例とControl 92例比較
・リスク因子は, PLT低下, ヘパリン使用, 敗血症が挙げられる
両側性副腎出血120例の合併・併発疾患
(Medicine (Baltimore). 1978 May;57(3):211-21.)
抗リン脂質抗体症候群では初発症状として副腎出血がある
APSで副腎の病変を認めた86例の解析
・男性が55%, 女性が45%
・平均年齢は43±16歳. 範囲は3日~72歳
・71%がPrimary APS, 16%がSLEによるAPS, 8%がLupus-like syndrome
他は薬剤性や傍腫瘍症候群によるAPS
・副腎不全がAPSの初期症状であった症例が36%
以前にMajor vascular occlusionの既往があったのが53%
DVTは40%で合併(うち15/34はPEも),
動脈閉塞は19%で合併あり.
・初発症状では, 副腎不全以外に腹痛が55%, 低血圧 54%, 発熱 40%
悪心嘔吐が31%, 倦怠感/悪寒/脱力感が31%, 意識障害 19%
体重減少13%, 皮膚色素沈着 10%, イレウス 6%, 下痢 4%
(Medicine 2003;82: 106–18)
両側性副腎出血の症状頻度
症例報告135例のReviewでは, 発熱, 胸痛や側腹部痛, 腹痛, 悪心嘔吐, 低血圧など
(Medicine (Baltimore). 1978 May;57(3):211-21.)
(BMJ Case Rep. 2014 Nov 19;2014.)
副腎出血の画像所見
(AJR 2012; 199:W91–W98 )
・副腎出血では造影されない, 低濃度, 混合濃度のMassとなる
・一部正常に造影された副腎が残存していることもある
・単純CTでは副腎腫大と周囲の脂肪織混濁を伴う(副腎うっ血所見)
・MRIでは出血はT1高信号となる
(J Clin Endocrinol Metab 98: 3179–3189, 2013)
副腎出血の前に副腎うっ血所見を拾い上げることが重要との意見もある
(Abdom Radiol (2016) 41:303–310 )
・敗血症や術後, 熱傷, 低血圧でも副腎出血を生じることがある.
これは副腎血流が増加する一方で, 副腎静脈の血流が障害される, また副腎静脈血栓症を生じ, 副腎がうっ血し, 出血を生じる仮説がある
・腹部CTにおいて, 早期の副腎うっ血を検出することが, 副腎出血のリスク評価として有用な可能性がある.
・うっ血の所見は副腎腫大と周囲の脂肪織混濁像.
この論文では, 副腎うっ血所見後、副腎出血を呈した4例の報告と, 別にICU管理となった症例からランダムで12例を抽出し, 画像を評価したControl群ではいずれも副腎うっ血所見は認められなかったことから, 急性疾患においてCTでこの所見が得られる場合はその後の病状の増悪に注意した方が良いという結論.
それ以上の副腎うっ血所見の意義を評価した論文は見つからず.
-----------------------------
・自験例では両側性副腎腫大をみとめたものの, 初回造影はせず虚血や出血については不明確であった. 5日後のフォローでは腫大は改善傾向にあり、副腎うっ血を見ていた可能性が高い. 出血も一部であったのであろうと考えた.
・副腎機能は当初は正常範囲であったが敗血症コントロールにおいて低血圧が遷延し、ステロイド併用を開始. これも減量後にACTH負荷試験の必要がある.
・副腎出血は無症候性や腹痛症状が主となることもあり, また画像でしばしば見逃しがちという点から意識してチェックするものと思う. 論文でも剖検から診断されることが多く, 見逃されている症例も多いように思う.
・副腎うっ血所見の有用性はまだ不明確であるものの, 確かに当院のICU症例の画像をいくつか見直すとあまり見ない所見ではあり、今後意識して見てゆきたい.
2019年2月7日木曜日
脾摘後の血小板増多, 血栓症リスク
外傷性脾損傷や脾摘後では血小板増多や血栓症(主に門脈血栓症)リスクが上昇する.
脾摘後の血小板増多
脾摘を施行された297例中, 術後血小板増多(>45万)は66.3%, >100万となるのは23.2%で認められる.
・術後の血小板最大値の中央値は60.7万[37.6-95.8万]/µL
・血栓症を併発したのは7.7%(23例)で, 門脈・腸間膜血栓症(16), 肺血栓塞栓症, DVTが主.
(World J Surg. 2018 Mar;42(3):675-681.)
脾外傷症例156例の解析では, 外傷後血小板増多を認めたのは41.0%.
・特に脾臓摘出術が行われた患者で顕著となる.
・また, PLTがピークとなるのは外傷後2-3wkくらい.
・脾全摘症例では76.1%で血小板増多, 保存的加療では26.4%で認める.
・血小板増多は術後・外傷後のVTEリスクを上昇させる可能性がある
血小板増多ありでは15.6%, 増多なしでは3.3%
・ASAの使用による予防効果も認められない.
(Injury, Int. J. Care Injured 48 (2017) 142–147)
脾摘や脾臓損傷患者では半数以上で術後血小板増多が認められる.
100万を超えるような症例も珍しくはない.
上昇のタイミングは術後2-3wkでピークとなる
脾摘後の血栓症(門脈血栓症)リスク
主に血液疾患において, 待機的腹腔鏡下脾摘を予定されている成人症例を前向きにフォロー
・背景疾患は ITP 52%, リンパ腫27%, AIHA 7%, 鎌状赤血球症 3%
・抗凝固療法が必要な患者は除外
術後門脈血栓症は25%で合併.
・術前の脾臓のサイズが大きいほど, 術後の門脈血栓症リスクが高い
(Surg Endosc. 2016 May;30(5):2119-26.)
肝硬変に関連して脾摘を行った130例の解析では
・37.7%(49)が術後門脈血栓症を合併.
・抗凝固療法による予防投与を行った患者では22/73(30.1%), 行っていない患者群では27/57(47.4%)
・門脈血栓症のリスク因子は, 血小板増多, d-dimer高値, 門脈径, 脾臓サイズ
抗凝固療法の使用はリスク軽減因子となる.
(Int J Surg. 2017 Aug;44:147-151. doi: 10.1016/j.ijsu.2017.05.072.)
肝硬変(悪性腫瘍を除く)で脾摘を行った420例の解析では, 術後門脈血栓症は16.9%(71/420)で発症
・門脈血栓症の特徴:
無症候性が約半数と多い.
・門脈血栓症のリスク因子は,
術後7日目のPLT増加が≥20万: OR 2.81[1.49-5.30]
PT ≥15秒:OR 1.85[1.04-3.30]
門脈径 ≥13mm: OR 5.70[2.69-12.10]
(Hepatobiliary Pancreat Dis Int. 2013 Oct;12(5):512-9.)
脾摘後の血栓症では主に門脈血栓症が多く, その合併率は17-50%と高い.
合併リスク因子は血小板増多や脾腫大, D-dimer, 門脈径の拡大など,
抗凝固療法による予防はリスク軽減効果が期待できる.
脾摘後の血栓症予防
肝硬変患者で脾摘を行なった患者における, 術後の抗凝固療法と門脈血栓症予防効果を評価したMeta(~2015年9月).
・17 trials, N=1497. RCTはなく, CohortとCase-controlのみ.
・術後門脈血栓症のリスクは抗凝固療法群で有意に低下する:
全体: OR 0.31[0.23-0.40]
Cohort(7): OR 0.21[0.12-0.36]
Case-control(10): OR 0.35[0.26-0.49]
・Funnel protでは出版バイアスが認められる
(Am Surg. 2016 Dec 1;82(12):1169-1177.)
2017年発表のMeta.
・11 trials, このうちRCTは4, 患者は全例LCを背景とした脾摘.
予防として抗凝固療法 vs 予防なし
予防レジメの比較 新規レジメ vs 従来のレジメ を比較
抗凝固療法 vs Control群の比較では有意に門脈血栓リスクは低下
ただし, 出版バイアスはある
治療レジメの比較
・新規治療: LMWHにASA併用やワーファリン, Prostaglandin E1, antithrombin IIIなど
・従来治療: ASA + 低分子デキストラン, irregularな抗凝固療法
(J Laparoendosc Adv Surg Tech A. 2017 Mar;27(3):247-252.)
脾摘後の血栓症予防により門脈血栓症リスクは有意に低下するが, RCTはまだない〜乏しく, 出版バイアスもあり, 明確な結論はだせない.
行うならば抗血小板薬よりも抗凝固薬を用いるほうがよいのかもしれない.
抗血小板薬を用いる場合は, なるべく早期より開始すべきとの報告もある.
肝硬変, 門脈圧亢進を背景とし, 脾機能亢進, 食道静脈瘤が認められる脾摘症例を後ろ向きに抽出.
・肝細胞癌や担癌患者は除外
出血性ショックや腹部外傷, 重度の背景疾患がある患者は除外
・術後1日おきにPLTを評価し,
PLT≥20万でアスピリンを開始した群(A)と
PLT≥30万でアスピリンを開始した群(B)で門脈血栓症リスクを比較
・術後PLTが急速に上昇し続ける場合はさらにジピリダモール50mg/dを追加
抗血小板薬は出血性合併症がなければ1年間継続するレジメとなっている.
患者群データ, 血栓症
・門脈血栓症は21/139(15.1%)で認められ, Group Aでは3/64(4.7%), Group Bでは18/75(24%)とより早期の抗血小板薬の使用でリスクが低下する可能性がある.
リスク因子
・PLTが高値なほどリスクは高く, 抗血小板薬はリスク軽減効果が期待できる.
(ANZ J Surg. 2018 Oct;88(10):E725-E729.)
-----------------------------
超まとめると,
・脾摘後は血小板上昇し, 約4-6割で45万を超えて, 100万超えることも稀ではない.
・脾摘後は門脈血栓症リスクも上昇. 2-5割程度と合併率も高い.
リスク因子は背景疾患や脾腫, 血小板増多となる.
・上記予防には抗凝固療法の併用が有用な可能性があるが, RCTは乏しく, 明確な推奨は難しい. 出血リスクが少なければ使っても良いかもしれない.
抗血小板薬も有用であるが, 使うならば早期から. 血小板増多がなくても, 術後血小板が増加し, >20万となるようならば導入するのも手. ただし肝硬変症例での報告なので注意.
・外傷による脾摘, 脾損傷例で, 血小板増多がなければ血栓症合併率は3.3%程度.
この場合は血小板増多を伴う例で予防を検討すれば良いのかも.
脾摘後の血小板増多
脾摘を施行された297例中, 術後血小板増多(>45万)は66.3%, >100万となるのは23.2%で認められる.
・術後の血小板最大値の中央値は60.7万[37.6-95.8万]/µL
・血栓症を併発したのは7.7%(23例)で, 門脈・腸間膜血栓症(16), 肺血栓塞栓症, DVTが主.
(World J Surg. 2018 Mar;42(3):675-681.)
脾外傷症例156例の解析では, 外傷後血小板増多を認めたのは41.0%.
・特に脾臓摘出術が行われた患者で顕著となる.
・また, PLTがピークとなるのは外傷後2-3wkくらい.
・脾全摘症例では76.1%で血小板増多, 保存的加療では26.4%で認める.
・血小板増多は術後・外傷後のVTEリスクを上昇させる可能性がある
血小板増多ありでは15.6%, 増多なしでは3.3%
・ASAの使用による予防効果も認められない.
(Injury, Int. J. Care Injured 48 (2017) 142–147)
脾摘や脾臓損傷患者では半数以上で術後血小板増多が認められる.
100万を超えるような症例も珍しくはない.
上昇のタイミングは術後2-3wkでピークとなる
脾摘後の血栓症(門脈血栓症)リスク
主に血液疾患において, 待機的腹腔鏡下脾摘を予定されている成人症例を前向きにフォロー
・背景疾患は ITP 52%, リンパ腫27%, AIHA 7%, 鎌状赤血球症 3%
・抗凝固療法が必要な患者は除外
術後門脈血栓症は25%で合併.
・術前の脾臓のサイズが大きいほど, 術後の門脈血栓症リスクが高い
(Surg Endosc. 2016 May;30(5):2119-26.)
肝硬変に関連して脾摘を行った130例の解析では
・37.7%(49)が術後門脈血栓症を合併.
・抗凝固療法による予防投与を行った患者では22/73(30.1%), 行っていない患者群では27/57(47.4%)
・門脈血栓症のリスク因子は, 血小板増多, d-dimer高値, 門脈径, 脾臓サイズ
抗凝固療法の使用はリスク軽減因子となる.
(Int J Surg. 2017 Aug;44:147-151. doi: 10.1016/j.ijsu.2017.05.072.)
肝硬変(悪性腫瘍を除く)で脾摘を行った420例の解析では, 術後門脈血栓症は16.9%(71/420)で発症
・門脈血栓症の特徴:
無症候性が約半数と多い.
・門脈血栓症のリスク因子は,
術後7日目のPLT増加が≥20万: OR 2.81[1.49-5.30]
PT ≥15秒:OR 1.85[1.04-3.30]
門脈径 ≥13mm: OR 5.70[2.69-12.10]
(Hepatobiliary Pancreat Dis Int. 2013 Oct;12(5):512-9.)
脾摘後の血栓症では主に門脈血栓症が多く, その合併率は17-50%と高い.
合併リスク因子は血小板増多や脾腫大, D-dimer, 門脈径の拡大など,
抗凝固療法による予防はリスク軽減効果が期待できる.
脾摘後の血栓症予防
肝硬変患者で脾摘を行なった患者における, 術後の抗凝固療法と門脈血栓症予防効果を評価したMeta(~2015年9月).
・17 trials, N=1497. RCTはなく, CohortとCase-controlのみ.
・術後門脈血栓症のリスクは抗凝固療法群で有意に低下する:
全体: OR 0.31[0.23-0.40]
Cohort(7): OR 0.21[0.12-0.36]
Case-control(10): OR 0.35[0.26-0.49]
・Funnel protでは出版バイアスが認められる
(Am Surg. 2016 Dec 1;82(12):1169-1177.)
2017年発表のMeta.
・11 trials, このうちRCTは4, 患者は全例LCを背景とした脾摘.
予防として抗凝固療法 vs 予防なし
予防レジメの比較 新規レジメ vs 従来のレジメ を比較
抗凝固療法 vs Control群の比較では有意に門脈血栓リスクは低下
ただし, 出版バイアスはある
治療レジメの比較
・新規治療: LMWHにASA併用やワーファリン, Prostaglandin E1, antithrombin IIIなど
・従来治療: ASA + 低分子デキストラン, irregularな抗凝固療法
(J Laparoendosc Adv Surg Tech A. 2017 Mar;27(3):247-252.)
脾摘後の血栓症予防により門脈血栓症リスクは有意に低下するが, RCTはまだない〜乏しく, 出版バイアスもあり, 明確な結論はだせない.
行うならば抗血小板薬よりも抗凝固薬を用いるほうがよいのかもしれない.
抗血小板薬を用いる場合は, なるべく早期より開始すべきとの報告もある.
肝硬変, 門脈圧亢進を背景とし, 脾機能亢進, 食道静脈瘤が認められる脾摘症例を後ろ向きに抽出.
・肝細胞癌や担癌患者は除外
出血性ショックや腹部外傷, 重度の背景疾患がある患者は除外
・術後1日おきにPLTを評価し,
PLT≥20万でアスピリンを開始した群(A)と
PLT≥30万でアスピリンを開始した群(B)で門脈血栓症リスクを比較
・術後PLTが急速に上昇し続ける場合はさらにジピリダモール50mg/dを追加
抗血小板薬は出血性合併症がなければ1年間継続するレジメとなっている.
患者群データ, 血栓症
・門脈血栓症は21/139(15.1%)で認められ, Group Aでは3/64(4.7%), Group Bでは18/75(24%)とより早期の抗血小板薬の使用でリスクが低下する可能性がある.
リスク因子
・PLTが高値なほどリスクは高く, 抗血小板薬はリスク軽減効果が期待できる.
(ANZ J Surg. 2018 Oct;88(10):E725-E729.)
-----------------------------
超まとめると,
・脾摘後は血小板上昇し, 約4-6割で45万を超えて, 100万超えることも稀ではない.
・脾摘後は門脈血栓症リスクも上昇. 2-5割程度と合併率も高い.
リスク因子は背景疾患や脾腫, 血小板増多となる.
・上記予防には抗凝固療法の併用が有用な可能性があるが, RCTは乏しく, 明確な推奨は難しい. 出血リスクが少なければ使っても良いかもしれない.
抗血小板薬も有用であるが, 使うならば早期から. 血小板増多がなくても, 術後血小板が増加し, >20万となるようならば導入するのも手. ただし肝硬変症例での報告なので注意.
・外傷による脾摘, 脾損傷例で, 血小板増多がなければ血栓症合併率は3.3%程度.
この場合は血小板増多を伴う例で予防を検討すれば良いのかも.
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