ブログ内検索

2016年11月16日水曜日

Re-expansion Pulmonary oedema (REPO, REPE)

Re-expasion Pulmonary Oedema(Edema): REPO, REPE

Ann Thorac Cardiovasc Surg 2008; 14: 205–209, Interact CardioVasc Thorac Surg 2008;7:485-9

再膨張性肺水腫
気胸, 胸水に対する胸腔ドレナージに合併する肺水腫
・急激な肺の拡張により肺血流が増加 ⇒ 静水圧の増加, 血管透過性の亢進が生じ, 著明な肺水腫, それに伴う循環血液量の低下 J pneumol 2003;29:101-6
・93%が患側, 6.7%が両側, 0.3%が健側で肺水腫を生じる

・胸腔鏡下の縦隔腫瘍切除後の発症報告も数例あり.
・頻度は0-1%, 報告では男性に多く(38:9), 平均年齢は42yr[18-84]
 別の報告では4:5で女性に多いとの報告もあり(胸水)
・また, 気胸における場合と胸水穿刺における場合でも発症頻度は異なる.
・83%が, ≥3d虚脱していた肺に生じている(気胸の場合)
53名のREPO中, 20%が致死的なREPOであった  (Ann Thorac Surg 1988;45:340-5)

9320例の胸腔穿刺例での解析では, 医原性気胸は0.61%, REPE 0.01%, 出血 0.18%の頻度
・1mL胸水ドレナージ量が増加する毎にREPEリスクは0.18%[0.09-0.26]上昇する
(Thorax. 2015 Feb;70(2):127-32.)

穿刺からREPO発症までの時間は様々.
・直後に発症するものもあれば, 数時間(~2hr)のものもあり.
 64%が1hr以内に生じる. また発症前に咳嗽を認めることもある
 24hr以内に必ず発症する. Ann Thorac Cardiovasc Surg 2008; 14: 205–209

REPOのRisk Factor
 若年患者, 7日間以上の肺の虚脱, >3Lのドレナージ, 排液, 排気のVol, 肺血管透過性亢進, サーファクタントの欠乏
Interact CardioVasc Thorac Surg 2008;7:485-9
British Thoracic Societyでは一度に1.5L以下のドレナージを推奨しているが, 1-1.5Lのドレナージ群でも発症する可能性あり
吸引圧は>-20cmH2Oを維持する必要あり. それ以上の圧での吸引はREPOのRisk Factorとなる. J pneumol 2003; 29(2):101-6

動物実験では, 胸腔内圧 > -27cmH2OではLow Risk (Chest 2009;135:Issue 1(Jan 2009))
 胸腔内圧 < -54cmH2OではHigh Riskとなる
 つまり, 正常肺(Pleural Elastanceが正常)ならば,  穿刺Vol.に関係なくREPOは来しにくい
 Lung Entrapment, Trapped Lung, 長期胸水貯留による無気肺(+)では, 少量の胸水穿刺でも陰圧を来しやすく, REPOのHigh Riskとなる

気胸におけるREPOのリスク因子
日産玉川病院における2007-2012年に診断され, 入院治療された462例の特発性気胸を解析.
(Surg Today. 2014 Oct;44(10):1823-7.)
・このうちREPEは6.5%で発症.
・REPEはより虚脱時間が長期間: 7.7±9.1日 vs 2.4±4.6日
 また, 虚脱率も高度であった.

気胸で胸腔穿刺を行なった306例の解析では,
・REPEは16.0%で合併. 
・REPEのリスク因子は糖尿病と気胸の虚脱率
 糖尿病 OR 9.93[2.17-45.49]
 虚脱率10%増加毎 OR 1.07[1.04-1.09]
 緊張性気胸 OR 2.19[0.95-5.05] (有意差なし)

虚脱率とREPEのリスク
(Journal of Cardiothoracic Surgery 2013, 8:164 )

特発性気胸 173例(156名の患者より)中, REPEは15.6%で発症
(Respir Investig. 2013 Mar;51(1):35-9.)
・小牧市民病院での後向き解析.
・REPEのリスク因子は症状の期間と気胸の虚脱率.


3年間のProspective cohort @韓国のER. 特発性気胸で胸腔ドレナージ(陰圧20cmH2O)を施行した患者84名
(Am J Emerg Med. 2009 Oct;27(8):961-7.)
・全員に胸部レントゲン, CTを施行.
REPEは29.8%[21.0-40.2]に認められたが, 重度のARDS, 死亡まで至った例は1例のみ(1.2%)
・大半REPEが胸部CTのみで認められるような無症候性REPEであった
・虚脱率が高いほど, REPEを生じるRiskも高い.
 虚脱率 86.0%[44.4](REPE群) vs 52.8%[33.1](正常)

REPOのCT所見; 22例のRetrospective study J Thorac Imaging 2010
・2/22(9%)がICU管理を必要とするREPO
・22名のREPO患者(M14, F8)のCT所見.
・胸腔ドレナージ後1d[0-3]でCTを評価.
CT所見 No(%) 特徴 No(%)
スリガラス状陰影 21(95%) Peribronchovascular
Perihilar
Multifocal(Ipsilateral)
Localized
Contralateral
4(18)
2(9)
10(45)
11(50)
6(27)
小葉間隔壁肥厚 17(77%) Smooth
Multifocal(Ipsilateral)
Contralateral
17(100)
4(18)
3(14)
Consolidation 14(64%) Multifocal(Ipsillateral)
Localized
Contralateral
Nodular
5(23)
9(41)
3(13.6)
1(4.5)
無気肺 19(86%)


Air-bronchogram 6(27%)


Nodules 5(23%) Centrilobular
Random
4(18)
1(4.5)
Dependent change 15(68%)


Diffuse involvement of ipsilateral lung 12(54%) Diffuse GGO
Diffuse septal thickening
Diffuse consolidation
10(45)
4(18)
5(23)
Persistent pleural effusion 21(95%)


 上中下肺野の分布の優位性は認めない.



----------------------
再膨張性肺水腫は胸水ドレナージよりも気胸の治療時に生じるリスクが高い.
リスクとなるのは
・発症から時間が経過した気胸, 
・虚脱率の大きい気胸.
・胸水穿刺では陰圧をかけて吸引している場合, 
・大量の胸水を排液する場合. が挙げられる.

気胸で多いのは吸引するのが気体であるため, 急速に肺が広がりやすいためであろう.
REPOの発症頻度は1%未満との報告が多いが,
気胸のみでの報告では10%以上となる報告もある.

また, 無症候性の肺水腫も多く隠れていると考えられる.

2016年11月14日月曜日

コンタミを減らず採尿法は?

尿培養を提出する際は, 陰部をよく拭いて, 滅菌された容器で中間尿を採取する
・これをMSCCを呼ぶ(Midstream urine collected with cleansing)
・しかしながらしばしば説明に時間がかかったり, 適切に行えないことも多い.

排尿時痛を認め, UTIが疑われる成人女性242例を以下の3群に割り付け
(Arch Intern Med. 2000;160:2537-2540)

会陰清拭, 大陰唇を広げる
中間尿採取指導
 腟内へのタンポン挿入
1群
なし
なし
なし
2群
あり
あり
なし
3群
あり
あり
あり
・尿培養におけるコンタミ率を比較した.
・コンタミは複数菌の検出で定義. 理由は特に尿路系の基礎疾患のない成人女性(17-50歳)を対象としており, 複数菌が検出される可能性は低いと考えられるため.
 また, 皮膚や膣内に常在している細菌が<104/mL認める場合もコンタミと定義

検出された菌
清拭あり vs なしでのコンタミ率
・清拭の有無に関わらず, コンタミ率は変わらない結果.
・腟内タンポン挿入でもコンタミリスクは変化なし.

Meta-analysisでは, (Clin Microbiol Rev. 2016 Jan;29(1):105-47.)
・女性における, 中間尿培養において, 清拭の有無でコンタミリスクは有意差なし

・MSCC vs 早朝尿では前者の方がコンタミリスクは低い(A女性, B男性)

女性のMSCC, 中間尿培養とカテーテル採尿における培養の比較
・感度, 特異度はほぼ同じ

男性のMSCC vs カテーテル採尿, 骨盤穿刺吸引による培養の比較(下)
・Studyによりばらつきがある.

小児における比較
・小児ではMSCCの方がコンタミリスクは低い

清拭時にPaper soapを使用した報告では,
15-45歳で尿培養検査を行われる600例を対象とし,以下の3群に割り付け, コンタミリスクを比較.
(J Lab Physicians. 2013 Jan-Jun; 5(1): 17–20.)
(I) Paper soapを使用して清拭し, 中間尿を採取する群
(II) 水道水を利用して清拭し, 中間尿を採取する群
(III) 清拭なしで中間尿を採取する群
・尿培養は以下のように判断;
 18-24hで培養陰性 >> 培養陰性(<103CFU/mL)
 陰部や皮膚常在菌のみの場合 >> コンタミ
 3種類以上の細菌が陽性 >> コンタミ
 UTIの起因菌となる細菌が陽性 >> 尿培養陽性

各群の結果

・コンタミ率はPaper soap使用群で最もリスクが低い結果.
・性別に関係なくPaper soapでよりリスクは低い.

ただし, Soapや消毒薬を使用する場合, それらが検体に混入すると培養の偽陰性リスクとなる可能性も指摘されており, 注意は必要と考えられる.

2016年11月9日水曜日

インフルワクチンは皮下注より筋注で

ワクチンは基本的に皮下注射を行うが, 筋注することで局所の発赤や疼痛のリスクが軽減する. また, ワクチンの効果自体は皮下注と筋注では変わらない.

Advisory Committee on Immunization Practice(ACIP)はインフルエンザワクチン(TIV)は筋注で使用するように推奨している.
(MMWR Recomm Rep. 2010 Aug 6;59(RR-8):1-62.)

20-40歳の日本人健常者へWhole-virion influenza A(H5N1, NIBGR-14)ワクチンをIM, SCで投与した報告では,
(Microbiol Immunol 2010; 54: 81–88)
・IMの方が血清学的反応率は良好であり, さらに副反応の頻度は少ない結果であった.

ワクチン投与後のSeroconversion, Seropositivityの割合

副反応頻度

IM
SC
疼痛
35%
37%
発赤
25%
67%
腫脹
7%
23%
硬結
2%
3%
そう痒感
2%
18%
発熱
8%
5%
頭痛
18%
17%
不快感
20%
30%
悪寒
7%
10%
下痢
7%
7%
・筋注の方が局所症状が少ない

65歳以上の高齢者, 55歳以上の慢性呼吸器疾患, 心疾患, 腎疾患, DM, 担癌患者, 免疫不全患者でインフルエンザワクチンを投与する720例を対象としたRCT
(Vaccine 24 (2006) 2395–2402)
・ワクチン投与経路をIM群 vs SC群に割り付け, 効果と副反応を比較
・IMでは男性全例と女性でBMI<35の群では23G 25mm針を使用, 女性でBMI≥35では23G 32mmの針を使用し, 三角筋に90度の角度で穿刺
・SCでは全例23G 25mm針を使用
・ワクチンの効果は接種前, 接種28-31日後の血清を評価し, ワクチン株に対する抗体を評価(haemagglutination inhibition)

副反応の頻度
・圧痛や発赤, 腫脹は有意にIM群で少ない結果
・全身性副反応は有意差はない(筋肉痛を除く)

ワクチンによる抗体産生はIM群で高い結果

インフルエンザワクチンは皮下注射よりも筋注の方が局所の障害頻度は少なく済む
効果は同等か, 筋注の方がむしろ良い可能性がある.

他のワクチンではどうなのだろうか?

VZVのワクチン(Zostavax®)での評価.
50歳以上の354例において, IM投与群 vs SC投与群に割り付け, 比較したRCT.
(Vaccine 33 (2015) 789–795)
・投与前後(投与後4wk)の抗体価(geometric mean titers), 副反応頻度を比較.

GMTは両者で同じ程度上昇を認めている.

局所反応はIMで有意に少ない.
発赤, 疼痛, 腫脹の頻度が低下する

12-18ヶ月の小児でのMMRワクチンとVaricellaワクチン(VARIVAS®)の投与において, IM群 vs SC群に割り付け比較
(BMC Medicine 2009, 7:16)
・ワクチンによる抗体誘発効果は両群で有意差は認められず.
・局所の副反応はIM群で少ない傾向が認められた.

高齢者における23価肺炎球菌ワクチンでの比較
(Vaccine 25 (2007) 4767–4774)
・患者は60歳以上か, 55歳以上で慢性呼吸器疾患, 心疾患, 腎疾患, DM, 担癌患者, 免疫不全を有する患者群 254例を対象
・肺炎球菌ワクチンをIM投与群 vs SC投与群に割り付け, 比較した.

ワクチンの効果の比較: PPS 3,4,6のIgGが2倍以上上昇もしくは1µg/mL以上上昇した割合で評価
双方とも効果に変わりはない

局所症状はIM群で優位に少ない結果
・特に女性で少ない.
・男性ではSCでもそもそも局所反応が少ない.
・SCは局所反応リスク上昇因子となる: OR 3.2[1.1-9.1]

全身性反応は有意差なし

ということで, ワクチンは筋注の方が局所反応が少ない.

ところでワクチンを筋注するには三角筋を穿刺することが多いが, どの程度の長さの針を使用すべきか?

65歳以上の患者群において, 三角筋部の皮下組織厚をエコーで評価
(Vaccine 24 (2006) 937–940)
・男性ならば25mm長の針で筋層に到達可能.
・女性でもそれで可能だが, BMI≥35ではさらに長いものを使用する方が良い


抗凝固中の患者では筋注は可能?
スペインにおける多施設研究. 抗凝固療法中でインフルエンザワクチンを予定している229例を対象としたRCT.
(BMC Blood Disorders 2008, 8:1)
・筋注群(129) vs 皮下注群(100)に割り付け, 合併症リスクを比較した.

・腕周囲長の変化は両群で有意差なし.
・局所反応はむしろIM群で有意に低い結果.
・抗凝固療法中患者へのIMは血腫形成リスクにもならない

IM群における, INR値別の合併症頻度

INR <2.5と≥2.5で腫脹や疼痛リスクに差はない
---------------------

ワクチンの多くは添付文章において皮下注射が推奨されているが, 筋注の方が局所反応は少なく, 効果は同等以上が期待できる.
筋注は抗凝固療法中の患者でお安全に施行可能である. ただし注意は必要.

私は毎年自分にインフルワクチンを打つ時は筋注にしています

2016年11月8日火曜日

市販薬による中毒症: 咳止めシロップ, 金パブ中毒

過去の市販薬による中毒症シリーズ

ジフェンヒドラミン中毒


咳止めシロップ, パブロンゴールドAによる中毒症
(ブロン中毒, 金パブ)
市販の咳止めシロップにはコデイン, クロルフェニラミン, カフェインなどが含まれている.
・例えば, 新ブロン液エースは1本120mlで, 
 ジヒドロコデインリン酸塩が60mg
 グアイフェネシンが340mg
 クロルフェニラミン24mg
 無水カフェイン124mg 含有.
 成人では1回10ml使用する.
・参考までに処方薬のリン酸コデインの場合は, 1回20mg, 1日60mgまで.

咳止めシロップの例(パブロンゴールドAを含む)と含有成分

新ブロン液エース®
(120ml)
パブロン咳止め液®
(120ml)
アネトン咳止めZ®
(100ml)
パブロンゴールドA
(1
)
コデインリン酸塩
60mg
60mg
83mg
8mg
dl.メチルエフェドリン塩酸塩

100mg
125mg
20mg
クロルフェニラミンマレイン酸
24mg
16mg
20mg
2.5mg
グアイフェネシン
340mg
400mg

60mg
無水カフェイン
124mg

100mg
25mg
リゾチーム


100mg

キキョウ流エキス

1.6g


オウヒ流エキス

2.4g


ゼネガ流エキス


2.5g

アセトアミノフェン



300mg
・基本的にリン酸コデイン, エフェドリン, カフェインが含まれる
 また他に漢方がいくつか

しばしばこのコデイン, メチルエフェドリンを目当てに,これら薬剤を濫用する輩がいる.
・パブロンゴールドAの濫用を「金パブ」と呼ぶ.
 パブロンゴールドAにはアセトアミノフェンも300mg含まれているため, 劇症肝炎のリスクにもなる点に注意.
・SSブロンという錠剤があり, コデイン30mg, メチルエフェドリン50mg, クロルフェニラミン8mgがが含有され, 依存症も多かった. 
 クロルフェニラミンの作用にて痙攣発作も認められることも多い(ジフェンヒドラミン中毒を参照)
(Inter Med 47: 1013-1015, 2008)

各成分の特徴
(Inter Med 47: 1013-1015, 2008)
ジヒドロコデインはオピオイドの1つ.
・鎮痛作用はモルヒネの1/10であるが, 鎮咳作用を有する
・依存も他のオピオイドと比較して少ないが, 長期間の高用量の使用では身体依存をきたす.
オピオイドの中毒症状:

Vital sign
意識
呼吸
皮膚, 粘膜
腸管
尿
Narcotic
BP, HR, BT
意識障害
呼吸抑制
縮瞳

蠕動低下

メチルエフェドリンはβ2受容体刺激作用を有する
・中枢にも作用し, 精神的依存をきたす
 症状は頻脈, 振戦など.

カフェインは中枢刺激作用を有する

ジヒドロコデイン, メチルエフェドリン, カフェイン3種類の混合作用によりさらに依存性をもつと考えられる
・ジヒドロコデイン, メチルエフェドリン, カフェインの合剤による依存, 中毒症状を, 元々ブロンにより流行した経緯からブロン中毒, ブロン依存と呼ぶ.

ブロン液の依存により生じる症状
(IRYO 2000;54:201-205)
症状のタイプにより, 3つに分類
・分裂病型(幻覚妄想): 幻聴, 被害・注察妄想があり,  離脱期に自律神経症状を呈することが少ない
 症状出現までの期間が比較的短期(数カ月〜1年)
 断薬症状が比較的早期に消失する
・感情障害型: 不安, 焦燥感, 抑うつ感, 感情鈍麻が主症状.
 離脱期に発汗, 振戦, 頭痛, 口渇, 下痢, 嘔吐などの自律神経症状や不安, 不眠, 落ち着きのなさなどの精神症状を呈する.
 症状発現までの期間も2-3年と長期.
・移行型

ブロン, シンナー, メタンフェタミン中毒患者の症状タイプ
(北里医学 1988;18:677-689)
左から
 幻覚妄想状態
 感情障害
 その双方
・ブロンでは感情障害タイプが他よりも多い

またブロン中毒では離脱症状も他のシンナーやアンフェタミン中毒より多い.

ブロン中毒における症状タイプと, 離脱症状のリスク
・感情障害型では離脱症状も多い.


咳止めシロップによる中毒症
(デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物中毒)
同じ咳止めシロップでも, エスエスブロン液Lはコデインやメチルエフェドリンは含まれておらず, デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物が含まれている.
・エスエスブロン液Lの成分
 デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物 240mg
 グアイフェネシン 680mg
 クロルフェニラミンマレイン酸塩 48mg
 無水カフェイン 248mg
・デキストロメトルファンは処方薬で言えばメジコン®

デキストロメトルファン(DM)はケタミンやphencyclidineと同じ, 幻覚作用がある薬剤の1つ.

・経口摂取により速やかに吸収され, 2.5時間後に血中濃度はピーク
・体内でCYP2D6により代謝され, デキストルファンとなり作用する.
・Vdは5.0-6.7L/kg
 代謝経路は腎臓. 糞便へは0.1%程度しか排泄されない
(Pediatric Emergency Care Volume 2004;20:858-63)




・治療用量では, DXはσ受容体に結合し, 鎮咳作用を呈し, 古典的なオピオイド作用(μ, δ受容体)はきたさない.
・高用量ではNMDAアンタゴニスト作用, PCP様精神症状を呈する
 >> 興奮症状となる
(J Pharmacol Sci 106, 22 – 27 (2008))(Pediatric Emergency Care Volume 2004;20:858-63)

DMは通常の投与量ならば鎮咳作用を示し, オピオイドと異なり消化管症状を来しにくい薬剤であるが,
・高用量(120mg以上, もしくは2mg/kg以上)使用するとPhencyclidine(PCP)様の作用を呈する
 >> 体外離脱感, 見当識障害, 離人症, 混迷, 傾眠, 嗜眠, 協調性の低下, 焦燥感, 行動や会話のいびつさ, 解離麻酔, 幻視など.
・特に幻視は>2.5mg/kgの高用量で生じる

急性中毒の報告: 上 6歳未満, 下 6歳以上
(Clinical Toxicology (2007) 45, 662–677)
・小児や若年での報告例が多い.
 6歳以上では体重あたり2mg/kg以上の摂取でリスクとなる. 大半は5mg/kg以上の摂取

慢性中毒
・健常人ボランティアによる調査では, 60mg/dを7日間使用すると74%で軽度の副作用を認める(悪心嘔吐, 腹痛, 頭痛, 下痢, めまい)