ブログ内検索

2018年8月24日金曜日

症例: 繰り返す原因不明の貧血

80歳男性, 倦怠感を主訴に受診.
 顔面蒼白, 労作時呼吸苦を認め, 血液検査を施行するとHb 7.2g/dL, MCV 86flと貧血が認められた. 他血球は異常認めず. 
 食事量, 内容からは栄養障害リスクは低く, 明らかな黒色便や黒色吐物は無し. フェリチンは20台と低値. 網赤血球は5万はあり.

 過去病歴を探ると, 普段のHbは10g/dL程度とやや低い. 3年ほど前より年2回程度、Hb 4-6g/dL台まで低下し, 入院, 輸血, 緊急内視鏡を施行されている. 
 内視鏡では毎回明らかな出血源は認められない.
 便潜血は陽性のことが多い.

 既往歴: 高血圧, 弁膜症, 狭心症
 内服: クロピドグレル, アムロジピン, アーチストなど.

 皮膚や粘膜の出血所見は認められず. 血腫を示唆する腫脹もなし.
 心雑音は心尖部〜頸部に放散する収縮期雑音を強く聴取.

 心エコーでは重症ASあり. PG 平均48mmHg, Max 78mmHg  壁運動問題なし.

ここまで提示すれば, 貧血の原因はある程度推測がつくと思いますが(実症例ではついてませんでしたが), 何でしょうか?























重症ASに伴う後天性von Willebrand Syndrome type 2A(wWS-2A),
それに伴う再発性消化管出血, 鉄欠乏性貧血
= Heyde症候群


Heyde症候群
(Age and Ageing 2009; 38: 267–270 )(Aortic stenosis and anemia with an update on approaches to managing angiodysplasia in 2018. Cardiology Journal)

1958年にEdward HeydeがASと重症消化管出血の10例を報告し, ASに伴う消化管出血と鉄欠乏性貧血をHeyde症候群と呼称された
・後にASは消化管出血リスクを3倍に上昇させる報告もあり
・現在はHeyde症候群はASによる後天性の凝固障害(von Willebrand syndrome type 2A), 腸管の血管異形成からの出血, 特発性出血による貧血で定義される.
・vWS-2AはvWFのHigh-molecular-weight(HMW) multimerの低下による凝固障害で, 消化管粘膜下の血管異形成による消化管出血を呈することが多い.
・400例のTAVIを施行した患者のうち, 9.2%で消化管出血既往あり, さらに1.7%(7例)で血管異形成が証明された.
・治療はTAVIや弁置換により改善する例が多い.

ASと腸管の血管異形成
・腸管の血管異形成はどの部位に生じても良いが, 最も多いのは上行結腸, 特に盲腸で多い.
・1938例のCF施行例のうち, 血管異形成は3%で認めた. 80%が無症候性
 盲腸が37%, 大腸が18%
・AS自体が血管異形成のリスクとなるかどうかは報告により様々.
・重症ASが繰り返す消化管出血に関連する報告はある(OR 3.0-6.4)
 特に石灰化を伴うASでリスクが高い.
・ASによる低酸素やコレステロール血栓により異形成が形成される理論もあり

ASと凝固障害
・重症ASにおけるShear stressにより凝固因子が消費され, 特にvWFが低下することで凝固障害を呈する.
・vWF multimerの高分子(HMW)が破壊される.
・PGが50mmHgを超えると凝固障害のリスクとなると言われている.
・ASで弁置換を施行された50例の解析では, 重症ASの21%が皮膚粘膜の出血症状, 67-92%で血液異常が認められた.
・これら異常はASの重症度と相関していた.

(CMAJ. 2016 Feb 2;188(2):135-8.)

ASを含む後天性のvon Willebrand syndromeのリスクとなる因子

Heyde症候群の診断
・AS患者におけるIDAではHeyde症候群の可能性を想起する.
 当然悪性腫瘍や栄養障害の可能性は最初に考慮すべき.
・上下部内視鏡検査にて明らかな出血源が認められない場合や上行結腸, S状結腸などに血管異形成を認める場合はHeyde症候群の可能性をさらに上げる
・機械弁置換を考慮する場合, 術後に抗凝固療法の継続が必要となるため, よりHeyde症候群には気を使うべき.

vWS-2Aの診断ではvWFのGel electrophoresisが重要.
・vWS-2AはvWF multimerの消失が認められる.
・検査の感度は以下の順で良好:
 gel electrophoresis, PFA-100 closure time, 皮膚出血時間, vWF restocetin cofactor activity, vWF antigen level.

vWFに関連する検査
・国内で可能なのはvWF活性(Ristocerin cofactor:RCo), wWF multimers, wWF Ag(自費検査)
 以下の図の赤線
CMAJ. 2016 Feb 2;188(2):135-8. 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
知っている人は知っているものの, 知らなかったら結構見落とす可能性がある病気.
ASと消化管出血、貧血で想起できるようにしておくと良いと思います

皮膚所見が目立たない乾癬性関節炎の皮膚鏡所見

Seronegative RAと乾癬所見が目立たない乾癬性関節炎(PsA)の診断はしばしば難しい. 初期にSeronegative RAや原因不明の末梢関節炎と診断された患者が後日皮膚所見が出現, 判明し, PsAとされることもある.

両者の鑑別には皮膚鏡による評価が有用な可能性がある.

PsA sine psoriasis 15例(乾癬所見が目立たないPsA), RA12例において, 肘の所見と指のNail-fold capillaryを評価した報告
(Journal of Dermatology 2016; 43: 1217–1220)
・肘もNFCもDermoscopyを使用した.

Dermoscopyの所見
 ・PsAの爪所見では発赤を背景とした点状の血管, 発赤のみが多い
・肘所見ではびまん性の発赤, 点状血管が主となる


爪の所見
a) PsA症例. びまん性の発赤に点状の血管を認める
b,c) RA症例. 「魚の学校」様に細かい血管が群生(b), 不整, 不鮮明な紫色の血管所見(c)
d) コントロール群. 正常所見


肘の所見
a) PsA症例: びまん性の点状血管
b,c) RA症例: 不整, 不鮮明な紫色の血管所見や血管消失所見

早期のPsA, RA(seropositive, negative)で手指の障害, 症状を認める患者群を対象
(J Rheumatol. 2018 May;45(5):648-654)
・ERA(発症<12M), EPsA(発症<24M)で紹介された患者を対象.
 診断はACR/EULAR 2010, CASPARで評価され, さらに末梢関節が有意に障害されている患者を導入(DIPメインは除外)
・上記患者において, 手のUS, 皮膚鏡評価を施行.
 またその後膠原病+皮膚科に紹介し, 詳細に再評価を行った.

患者は73例で, 内訳は
・Seronegative ERA 23例, Seropositive ERA 25例, EPsA 25例
 Seropositive ERAの19/25はRF, CCP抗体陽性
 EPsAの22/25が乾癬所見あり, 23/25がCASPAR ≥3

初期にSeronegative ERAとされた23例中, 
 6例(26.1%)が後に爪や皮膚所見を生じ, PsAと診断された.
・このうち4例は肘のみで皮膚病変が認められる限局型. 皮膚鏡のみで検出可能であった.
・2例は爪のみで乾癬性の変化が認められた


関節US所見や皮膚鏡所見のPsA予測に対する感度, 特異度
・超音波所見もPsAに特異的な所見は多いが, 感度が不十分.
・爪の皮膚鏡所見(点状血管)は感度96%, 特異度83.3%でERAとEPsAの鑑別に有用.
・超音波所見と組み合わせると, 感度は低下する. 特異度は若干の上昇.

--------------------------------
・乾癬所見が目立たないSeronegativeな末梢関節炎でも後にPsAが顕在化する可能性がある. 
・早期に検出する方法として爪や肘のDermoscopeによる評価が有用な可能性.

2018年8月14日火曜日

症例: 70歳台女性, 変な感じが持続する

70台女性, 主訴: 言葉で言い表せない感じ

 高血圧に対して降圧薬を使用している程度の背景の女性.
 特に今まで問題なく生活していた.
 3ヶ月ほど前より, 「言葉で言い表せないような感覚」を自覚. 最初は発作的に30分程度あり, それを繰り返していた. 強いて言うならばイライラ、モヤモヤ、不安などと言った症状. 動悸や冷や汗もあったとのこと. 
 症状の頻度は増加し, 常に変な感覚が付きまとい, たまに強く不安になる. よっとした音や光が過敏に感じ, イライラ, ムカムカするためにテレビも見ない. 食事も食べたくないなど症状が増悪した.
 他病院を受診し, 血液検査など一通り評価したが異常なし(甲状腺機能含む). 精神疾患が疑われ, 精神科がある病院を受診せよとのことで当院へ(精神科外来ありませんが・・・). そして内科へ.

 下痢はなく, むしろ便秘気味. 嘔気, 食欲低下あり.

既往:高血圧, 内服:アムロジピン

 診察時はやや興奮気味ではあるが, 意識晴明. 見当識障害もなし. BP 130/60, HR 105bpm, reg. RR 22, SpO2 99%, BT 36.2度
 頭頸部に問題なし. 心音は雑音や過剰心音なし. 頻脈. 他胸腹部に異常所見なし. 四肢の筋緊張は強く, なかなか脱力してくれない. 促すと可能.
 DTRは減弱亢進なし. 左右差なし. 神経障害も明らかな異常なし.

 -----------------------------













新規発症の精神症状であり, 精神科紹介前にやはり二次性の評価は必要
便秘症状や食欲低下などもあり, 甲状腺機能は前医にて正常範囲との報告.そこで基本的な血液検査を再度評価.

>>血清Ca 11.6mg/dLと高Ca血症あり.

ということで高Ca血症に伴う精神症の可能性を考慮. 補正をしつつ原因精査を開始した.


高Ca血症では消化管症状とともに精神症状も有名.どのような症状があるのか?

高Ca血症による精神症状
(Am J Psychiatry. 2017 Jul 1;174(7):620-622.)
・機序は不明確であるが, Caが中枢神経のMonoamine代謝に関わることが関連していると考えられている.
・長期間の高Ca血症により生じるが, 高Ca血症の重症度と精神症状は相関するとは限らない.
 著明な高Ca血症は昏睡となるが, 10-14mg/dLでは抑うつ症状~イライラまで様々.

PHPT(原発性副甲状腺機能亢進症)において, 軽症の高Ca血症があり, 精神症状のみ認められる症例報告もある
(Am J Psychiatry. 2017 Jul 1;174(7):620-622.)
・PHPTに対して副甲状腺切除を行なった患者群の解析では,
 不安症状が43.1-53.0%
 抑うつ症状が33.0-62.1%, 自殺念慮が22%
 易怒症状が51.9%
 幻覚, 妄想が5-20%
 認知障害が37.3-46.5%
・特に高齢者では見落とされやすい

-----------------------------
・高Ca血症による精神症状には抑うつ症状や無為など陰性症状〜興奮, 妄想幻覚, イライラなど陽性症状まで様々な精神症状呈する.
・精神症状は軽度の高Ca血症でも生じえる. 昏睡までいくのは>14mg/dLの高度上昇例で多い
・急性~亜急性経過の精神症状, 認知機能低下では高Ca血症に伴うものの可能性も考慮する.(Psychosomatics 2002; 43:413–417)