(World J Gastroenterol 2010 June 28; 16(24): 2978-2990)
SIBOとは上部消化管において, 一部の細菌が多量に増殖することで生じる症候群.
小腸は細菌増殖を予防する様々な機構がある;
胃酸, 小腸の蠕動運動, 回盲弁, 膵液, 胆汁が予防に関与.
これらにより腸内細菌層を保っており, それらが障害される様な病態でSIBOを生じ得る.
● 分泌障害; 無胃酸症, 膵外分泌障害, 免疫不全
● 構造障害; 腸閉塞, 憩室, 瘻孔, Blind loop, 回盲弁の切除
● 蠕動障害; 強皮症, 自律神経障害, DM, 放射線療法後, 偽性閉塞
大抵, 複数の因子を有する例が多い
(Infect Dis Clin N Am 24 (2010) 943–959)
肝硬変患者の50%でSIBOを満たす.
無胃酸症で最も多いのは長期のPPI投与. ただし, これについては議論が多い所.
膵外分泌障害; 慢性膵炎の30-40%で合併する.
免疫不全症; 特にIgA欠損症, AIDSなど.
強皮症; 強皮症患者の43-56%でSIBOを満たす.(Rheumatology 2009;48:1314–1319)
他, 様々な疾患でSIBOは合併し得る.
慢性下痢や吸収不良, 低栄養の1つの原因として意識するのが大事.
SIBOの臨床症状
SIBOの症状としては, 腹部膨隆, 下痢, 吸収不良, 体重減少, 低栄養が主
無症候性も多く, 後述するSIBOの基準を満たす患者の内, 2.5-22%が有症状との報告もある. (World J Gastroenterol 2010 June 28; 16(24): 2978-2990)
SIBOでは消化障害, 吸収障害を来す.
細菌が消化酵素の活性化を阻害する機序, 吸収, 代謝を障害する機序.
細菌がFructose, lactose, sorbitolを分解することで, Saccarideの吸収障害も呈し得る.
小腸粘膜の障害により, 粘膜透過性が更新し, 蛋白漏出性胃腸症となる例もある
ビタミン欠乏症; Vit B12, Vit D欠乏など
細菌がVit B12を消費することで欠乏する.
細菌による毒素産生
外毒素, アンモニア, D-lactateを産生し, 炎症反応を惹起することが知られている.
>> 慢性の小腸炎を生じ, 粘膜形態に変化を生じる.
また, Candida albicans, Saccharomyces cerevisiaeにより, エタノールを産生することもある.
IBSとの関連性もあり.
SIBO患者の30-85%がIBSの診断基準を満たす.
実際IBSの治療の1つとして抗生剤治療があり, IBSと診断されている患者は実はSIBOではないかとの指摘もある. (CLINICAL GASTROENTEROLOGY AND HEPATOLOGY 2009;7:1279–1286)
SIBOの診断;
SIBOの診断; Gold standardは十二指腸液の細菌検査. 他にはGlucose, Lactuloseを使用したHydrogen, Methane呼気試験が非侵襲的検査として挙げられる.
通常, 十二指腸内の細菌量は<103-104/mL
Lactobacilli, enterococci, Gram陽性好気性菌が主で, 嫌気性のBacteroidesは認められないのが普通.
空腸になると増加し始め, 空腸末端では109/mLまで増加する.
健常人の十二指腸液の1/3が無菌との報告もある.
十二指腸液の細菌量 ≥105/mLでSIBOと診断するという基準が多い.
呼気試験の方法 (Infect Dis Clin N Am 24 (2010) 943–959)
Rice flour breath hydrogen test; 30-50gの米粉を摂取させ, Baselineと摂取後30分毎の呼気中水素濃度を評価. 5時間つづける. 空腹時 水素濃度が>15ppm or 摂取後に>14ppm上昇する場合に陽性
Hydrogen breath test using xylose; 25gのD-xyloseを250mlの水に溶解させて摂取. 吸収不良がある場合, 大腸まで到達し, 分解され, 呼気H2が増加. Baselineから25ppm以上の増加で有意と判断.
Lactulose breath hydrogen test (LHBT);
Lactulose 10gを摂取した後, 15分毎に呼気中H2, メタンを評価(3hr). 通常は吸収されず, 大腸で分解されるが, SIBOでは上部で分解.
メタンは正常でも上部で発生し得るため, H2を測定した方が良く, 上部での分解ピーク, 下部での分解ピークの2峰性をとるのが診断に有用な所見.
もしくは, 摂取後90分でH2が上昇する所見, 摂取後180分以内にBaselineより20ppm上昇する所見を有意とする.
Glucose hydrogen breath test (GHBT);
グルコース50-75gを用いて10%溶液を作成し, 摂取. 摂取後15分毎に呼気H2を3時間に渡り評価.
Baseline H2が>12ppmの場合, 摂取後2時間以内で >12ppm上昇する場合を有意と取る.
Glucose負荷試験の感度 62.5%, 特異度 82%,
Lactulose負荷試験の感度 52%, 特異度 86%と, Glucose負荷試験のほうが診断能は良好.
(World J Gastroenterol 2010 June 28; 16(24): 2978-2990)
SIBOの治療 (World J Gastroenterol 2010 June 28; 16(24): 2978-2990)
基本は基礎疾患の治療と栄養の改善.
細菌の栄養になりやすい単糖類やLactoseは少なくし, その分のCalを脂肪やMCT oils(Medium-chain triacylglyceroles)で補う.
抗生剤の長期投与は様々な問題がある.
原因菌に効果のあるAbxが望まれるが, 長期投与では下痢やCDAD, 副作用が問題となりやすい.
以前はテトラサイクリンが使用されていたが, 27%で改善したのみと, 効果は乏しかった.
使用される抗生剤の一覧; (Infect Dis Clin N Am 24 (2010) 943–959)
抗生剤治療を7-10日間行うことで, その後数ヶ月に渡りSIBOを改善し得る.
ただし, 9ヶ月で44%の再発率であり, 定期的な治療, 根本治療, SIBO予防の併用が必要.
予防に関しては明確なEvidenceが無い.
病態に応じて,
腸管蠕動促進薬
PPIやH2阻害薬をさける
Probioticsの使用 等が選択肢として挙げられる.
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SIBOは輸入脚症候群で有名だが, 意外にいろいろな病態に合併し得ること, 慢性下痢や低栄養のリスクにもなっており, 結構見逃している症例は多いのかもしれない.
先ずはこういった病態が, 結構な人で診られるという点、疑った場合にどのような検査を行うかという知識を片隅にでも入れておいてください。