左眼は完全に光覚弁、右眼も耳側下方の1/4を残して他は光覚弁の状態。
眼球運動問題無し。対光反射は, 左の直接、間接対光反射消失。右は直接, 間接ともに反射あり。
眼底所見は左視神経乳頭浮腫あり。出血なし。右視神経乳頭問題無し。
他の脳神経所見、四肢麻痺無し。
顎跛行無し。頭痛なし。発熱、体重減少無し。首はちょっと痛いと言っているのみ。
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視神経炎? 虚血性視神経症?
虚血性視神経症 (Ischemic Optic Neuropathy) (Indian J Ophthalmol: 2011;59:123-136)
視神経の血流は大きく2つの支配を受ける.
視神経の前方はPCA(Posterior ciliary artery)から血流を受け, それ以外はPCAではなく, 他の複数の血管から血流を受けている.
PCAから血流を受ける視神経の障害を “Anterior ischemic optic neuropathy”(AION)と呼び,
それ以外は “Posterior ION”と呼ぶ
それ以外は “Posterior ION”と呼ぶ
AIONにはさらに2つに分類;
Arteritic AION; 動脈性の虚血であり, 大半がGiant cell arteritisより.
稀な例としてPN, SLE, VZVが原因となることもある.
Non-arteritic AION; 上記以外の虚血. 原因が不明なものも多い.
PIONは3つに分類;
Arteritic PION; Giant cell arteritisにより生じる虚血
Non-arteritic PION; GCA以外の原因による虚血
Surgical PION; 外科手術に伴う虚血.
NA-AIONについて (Singapore Med J 2012; 53(2): 88–90, J Ophthalmol 2011;4:272-274)
高齢者に生じる視覚障害で, 視神経乳頭部の虚血による視力障害を呈する.
何故視神経乳頭部の虚血を生じるかは分かっていない.
50歳以上の人口では, 2.3-10.2/100000/yの発症率.
機能予後も視神経炎に比べて悪く, 失明の重大な原因の1つ.
Singapore National Eye Center (SNEC)で5年間で診断したNA-AIONは121例.
特徴
|
|
男性例
|
56%
|
年齢
|
36-89y
|
初発年齢
|
61y
|
両側性
|
9.8%
|
視力障害, 視野障害の予後; 6ヶ月後の評価
視力
|
Base
|
変化無し
|
改善
|
増悪
|
6/6-6/9
|
21(40%)
|
21
|
0
|
0
|
指数弁, 手の動きのみ感知
|
15(28%)
|
12
|
1
|
2
|
その他
|
17(32%)
|
12
|
3
|
2
|
全体
|
53(100%)
|
45
|
4
|
4
|
視野欠損
|
Base
|
変化無し
|
改善
|
増悪
|
鼻側下方
|
24(45%)
|
20
|
4
|
0
|
耳側下方
|
16(30%)
|
12
|
2
|
2
|
耳側上方
|
4(7.5%)
|
3
|
1
|
0
|
中心暗点
|
4(7.5%)
|
1
|
1
|
2
|
その他
|
5(10%)
|
5
|
0
|
0
|
全体
|
53(100%)
|
41
|
8
|
4
|
視神経炎と異なり, 長期予後はかなり悪い. 視力障害が改善する例はかなり少ない.
NA-AIONの治療; (Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2008;246:1029-1046)
治療に関しては色々と議論されており, 確定されたものは無いのが現状.
ステロイドに関してはProspective cohortで視野, 視力障害の改善が見込める.
NA-AION 613名のProspective cohort (non-RCT)
312名にステロイドを投与, 301名はステロイド無しで比較.
ステロイドは, PSL 80mg/d 2wk, 70mg/d 5d, 60mg/d 5d, 以後5dで5mg毎Tapering
アウトカム; ステロイド投与群の方がより視覚障害改善が良好の可能性
Visual acuityの改善を認めた割合;
期間
|
ステロイド
|
No ステロイド
|
OR
|
乳頭浮腫改善時
|
44.2%[33.1-56.0]
|
21.2%[13.2-32.2]
|
2.95[1.42-6.17]
|
初診~3mo
|
47.1%[35.8-58.7]
|
16.7%[9.6-27.3]
|
4.45[2.03-9.75]
|
初診~6mo
|
69.8%[57.3-79.9]
|
40.5%[29.2-52.9]
|
3.39[1.62-7.11]
|
初診~1y
|
72.2%[60.2-81.6]
|
39.0%[27.6-51.7]
|
4.06[1.92-8.57]
|
視野障害を認めた割合
期間
|
ステロイド
|
No ステロイド
|
OR
|
乳頭浮腫改善時
|
36.6%[29.7-43.9]
|
19.6%[13.8-27.0]
|
2.36[14.1-3.96]
|
初診~3mo
|
37.7%[30.8-45.0]
|
19.7%[13.9-27.2]
|
2.47[1.48-4.12]
|
初診~6mo
|
40.1%[33.1-47.5]
|
24.5%[17.7-32.9]
|
2.06[1.24-3.40]
|
初診~1y
|
40.0%[33.0-47.3]
|
24.7%[17.8-33.1]
|
2.03[1.23-3.36]
|
ここから分かることは, ステロイド投与する価値があるという点と, 改善は発症~6moまで認め得るが, それ以降は改善の見込みは乏しいという点.
A-AIONの治療 (Indian J Ophthalmol: 2011;59:123-136)
A-AIONは大半がGCAに伴うもの. 従ってステロイドが治療となる.
投与のタイミング, 量に関しては一致した見解がないのが現状.
A-AIONでは視力障害, 機能予後が非常に重要であり, この文献の著者は以下を推奨している.
GCAの症状(+), ESR高値例, 急激な視力障害では, 側頭動脈生検を待たずにステロイド投与を考慮すべき.
平均Doseは80mg/d(1-1.5mg/kg/d).
ステロイドはESR, CRPが陰性化するまで継続(2-3wk) その後徐々にTaperingを開始する.
それでも一旦失われた視覚障害が改善する見込みは乏しい.
NA-AION vs A-AIONの鑑別点
A-AIONならば血管炎の治療が重要であり, NA-AIONでは明らかな治療方法が無く, 両者の鑑別は大事.
● A-AIONならば, 全身状態をチェック. GCAならば顎跛行(OR9.0), 頸部痛(OR3.4), 食欲不振がある. 他にもGCAの所見をチェックすることは大事. 側頭動脈エコー, 生検など.
● 一過性黒内障はA-AIONを示唆し, NA-AIONでは極めて稀.
● 炎症反応高値はA-AIONを示唆. NA-AIONでは通常炎症所見は高値とならない.
● <50yではGCAは稀.
● 早期の著明な視力障害(指数弁, 光覚弁)はA-AIONの54%で認める一方, NA-AIONの14%のみ.
● Chalky white optic disc edemaはA-AIONの69%で認める一方, NA-AIONでは稀な所見であり, 特異性が高い.
Chalky white optic disc edemaとは白みがかった乳頭浮腫で, 下図を参照;
A-AIONでは乳頭浮腫は白みがかかり, NA-AIONでは赤みがかかる.
● A-AIONではCilioretinal arteryの閉塞が認められる.
● Fluorescein fundus angiographyにてPCA閉塞があればA-AION.
● Choroidal fillingがPCAから認められないことから診断可能. ただし, 発症後数日以降では側副血行路があり, 所見がハッキリしない場合がある.
● 側頭動脈生検; GCAの診断として.
NA-AION vs 視神経炎の比較 (Korean J Ophthalmol 2011;25(1):33-36)
高齢発症 vs 若年発症, 眼痛の有無が見分けるポイントとなり得る
視野障害の程度, 視覚障害は特に有意差無し.
また, MRI所見や眼底所見でも見分けることは困難.