ページ

2012年7月6日金曜日

甲状腺癌 Thyroid microcarcinoma

甲状腺結節の評価の項目で, <1.0cmでエコー上悪性らしい所見がなければ, 特にFNAの適応にはならず, 定期的なフォローで良いという記載を説明したが,
<1.0cmでも悪性のリスクは同等であり, 本当にそれで良いのかは議論がある.


<1.0cmの甲状腺癌は "Thyroid Microcarcinoma"と呼ばれている.


Thyroid microcarcinomaとは, 最新の定義では以下のように定義されている.


“A tumor ranging 0.1-1.5 cm (most between 0.4-0.7 cm), microscopically non-encapsulated, sclerotic, often located subcapsularly, mainly papillary, often infiltrating the surrounding thyroid”.


以前は長径<1.0cmの甲状腺癌と定義されており, その定義のもとで調査されたStudyが大半であるため, 現在も<1.0cmの甲状腺癌と認識しても間違いではない.
組織形はほとんどが乳頭癌であり, Papillary microcarcinomaと呼ばれることもある.


無症候性で, 健常人にも多数認められる可能性があり,
剖検例では10%[2.0-35.6], 手術例での解析では8.5%[1.3-21.6]でMicrocarcinomaが認められるという報告もある.
(Best Practice and Research Clinical Endocrinology and Metabolism 2012;26:381-389)


Microcarcinomaの解析
伊藤病院のにて,1988-1998年に手術治療を行ったPapillary microcarcinoma 259例の解析では, その半分でリンパ節転移を認めたと報告.
しかも腫瘍径≤0.5cmでもリンパ節転移は55.7%, >0.5cmでは73.7%で認めた.
(Annals of Surgery 2003;237:399-407)


他の報告でも, Microcarcinomaにおけるリンパ節転移は10-50%で認めている.
しかしながら予後は良好で, 再発率は1.4-7.3%, 死亡率は0.2-1.0%のみ.
(Best Practice and Research Clinical Endocrinology and Metabolism 2012;26:381-389)


ならば Microcarcinomaも早期に見付けて, 治療した方がよいのであろうか?


隈病院における, Papillary microcarcinoma 1395名を対象としたProspective cohort.
(World Journal of Surgery 2010;34:28-35)
340名は手術治療をせず, 経過観察を選択. 1055名は即手術治療を選択した.
経過観察は平均74ヶ月[18-187]行い, 腫瘍径の増大, 明らかなリンパ節転移を評価.


結果, >3mmの腫瘍径の増大は, 5年で6.4%, 10年で15.9%認められ,
明らかなリンパ節転移は5年で1.4%, 10年で3.4%のみという結果であった.
腫瘍径の増大に関与するリスクファクターは認めなかった.


340名中, 109名がフォロー途中で手術治療へ切り替え, 治療を行ったが,
術後再発を認めた例は無く, 経過観察による手術治療の遅れが不利益となることは無いと結論している.


ちなみに, 手術治療への切り替え理由は以下の通り.


まとめると,
甲状腺の径1.0cmを下回る様な腫瘍の場合は, 例えそれが癌であっても即手術治療とする必要性は微妙なところ. 
リンパ節転移は実は多いが、それが臨床的な意義を持つかは別問題となる。
(再発や予後不良に関わるかは不明)
経過観察を行い, 増大傾向がある場合などに治療を行う手もあり, 待つことは不利益にならない可能性が高い.


つまり, 甲状腺の<1.0cm程度の結節ならばFNAは行わず、定期的なフォローをしても予後には影響しないであろうと言える.
そのフォロー間隔は微妙なところだが, 1年毎か、半年か、定かではない.


ちなみに,
チェルノブイリ事故後の甲状腺癌スクリーニングや, 福島原発事故後のスクリーニングでは, <0.5cmの結節ならば2年毎フォローとされている様だが, その根拠は見つけることができなかった. 


でもまぁ、ありといえばありか。


関連記事
甲状腺癌 53856例の解析
甲状腺結節の評価について