ページ

2023年10月4日水曜日

低Na血症の補正速度は?

各種ガイドラインにて, 低Na血症の補正速度は大体 8mEq/L/24時間を超えないようにすべきとの推奨がある.

これはそれ以上では浸透圧性脱髄症候群を生じるリスクがあるため.

しかしながら, どの程度の速度がリスクとなるか, というのは結構曖昧であったりする.


古い論文では,


(J Am Soc Nephrol 1994;4:1522-30)

血清 Na=<105mEq/Lの56 Casesを解析.

・その内14名が補正に伴う神経症状を認めた(恒久的10名, 一時的4名)

 神経症状; 痙攣, 意識障害, 構音障害, 歩行障害, 頭痛, 嘔気など

・神経症状出現 vs 非出現群の比較.

Variable

Cutoff

All pt
神経障害出現

Chronic HypoNa
神経障害出現

~120mEq/Lまでの補正速度

=<0.55mEq/L/hr

0

0


>0.55mEq/L/hr

35%

56%

24hrでの補正量

=<12mEq/L

0

0


>12mEq/L

33%

50%

48hrでの補正量

=<18mEq/L

0

0


>18mEq/L

33%

52%

 24時間で12mEq/Lを越える上昇で神経障害が出現する結果.


近年, 2つのコホートがでていたのでまとめてみる。


カナダにおける多施設cohort

(NEJM Evid 2023; 2 (4) DOI: 10.1056/EVIDoa2200215)

・2010~2020年の入院患者において, 初期に低Na血症(<130mEq/L)を認める患者群を抽出し, 浸透圧性脱髄症候群(ODS)を発症した患者のリスク因子を評価した.

・ガイドラインを超える補正速度(>8mEq/L/日)を認めた場合「急速補正」と定義.


低Na血症を認めた患者は22858件, 17254例.

・平均年齢68歳. 女性50%

・Na<110が1.2%, Na 110-119が11.9%であった.

・急速補正は17.7%で認められた.


・ODSと診断された例が12例(0.05%)


 初期Na<120の症例のうち, ODSを発症したのが0.3%

・ODSを発症した12例の初期Na値は111[106-115]mEq/L(vs 非ODS群126[122-128]) 


 Na<110が7例(58%)と多い(vs 非ODS群では1.1%)
 

 その分血清浸透圧も低い

・急速補正例はODS群で5例(42%)(vs 非ODS群で15.9%)


重度の低Na血症(<120mEq/L)で入院となった患者群を対象としたCohort study.

(NEJM Evid 2023; 2 (10) DOI: 10.1056/EVIDoa2300107)

・1993-2018年にMassachusetts General Hospital, Brigham and Women’s Hospitalに入院した重症低Na血症患者を対象.

・Naの補正速度と死亡リスク, CPM(Central Pontine Myelinolysis)リスクを評価.

・対象患者は3274例. 
補正速度は<6mEq/L/24h, 6-10mEq/L/24h, >10mEq/L/24hで分類.

 補正速度<6が38%, 6-10が29%, >10が33%とほぼ同数認められた.


アウトカム


・院内死亡リスク: Na補正<6は死亡リスクが高く, >10の群では死亡リスクが低い結果.
 

 また高齢者や合併症が多い患者も死亡リスク因子となる.
 

 Propensity-score analysisでは補正速度<6のみ死亡リスクに関連


補正速度の死亡リスク因子に関わる背景疾患

・悪性腫瘍や心不全症例では緩徐なNa補正は死亡リスクを上昇させうる

・肝硬変では急性のNa補正は死亡リスクを低下させる

 (速度よりも原疾患に対する影響はつよいか)


CPMの発症は7例のみ.

・補正速度は
 8mEq/L/24hを越える例が2例: 19, 17
 

 GL通り, <8mEq/L/24hで生じた例が5例: 3, 6, 6, 8, 8


--------------------------------

まず, ODS自体, Na<110-120となるような低Na症例の0.2-0.3%程度と非常に稀な合併症.

補正速度が速い場合, リスクにはなり得るが, ではガイドライン通りの補正速度ならば大丈夫かというと, それでも生じる.

背景疾患(悪性腫瘍やアルコール依存, 低栄養など)や, 初期のNa濃度も重要なリスクとなる.

また, 背景疾患によってはNa補正をはやめた方が予後がよい可能性もあり, 「ODSを怖がって迅速な補正をしない」ことの不利益にも眼を向けるべきであろう.