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2023年5月18日木曜日

後天性第XIII因子欠損症

高齢者の筋肉内血腫や皮下出血など出血が顕著な症例.

PTやAPTTは正常で血小板減少や機能には異常はない...


PT, APTTが正常な凝固障害として想起するのが後天性VWDと後天性第XIII因子欠損症である

出血時間が伸びる場合はVWDを疑うものの, 今回は正常であったという程で考える



ということでお勉強です


後天性XIII因子欠損症 (Transfus Apher Sci . 2018 Dec;57(6):724-730.)

・第XIII因子はαγフィブリン鎖を結合することで凝血塊を安定化させる作用を示す

 欠乏により出血や創傷治癒の遅延の原因となる


・第XIII因子欠損症ではAPTT, PT, 血小板数や機能は正常であり原因が不明な出血傾向がある患者において後天性vWDと共に想起することは重要


・症状は無症候性〜重度な出血まで様々

 出血部位は筋肉内出血や皮下出血が7割を占める

 他に頭蓋内出血が13-18%, 腹腔内や後腹膜出血も認められる.


日本国内より免疫性第XIII因子欠損症(後述) 93例をまとめた報告

(Blood Rev . 2017 Jan;31(1):37-45.)


・患者の平均年齢は65.8±18.1中央年齢70歳であり高齢者ほど頻度は増加する

 また男性例が51女性例が42例と若干男性例が多かった


・出血部位は筋肉内出血が68%, 皮下出血が60%と多い.

 頭蓋内出血が11腹腔内・後腹膜出血が19%で認められた

 術後の出血も16%で報告された.


後天性第XIII因子欠損症の機序は免疫性非免疫性に分類される.


・免疫性では第XIII因子の中和作用を持つインヒビターとXIII因子のクリアランスを亢進させる非中和型の抗体がある

・非免疫性では産生の低下また消費の亢進が挙げられる.


・それぞれの機序と背景疾患は以下.

機序

病態の特徴

関連する背景疾患

免疫性

XIII因子の阻害代謝の促進

XIII因子活性の高度低下(<10%)
重度の出血.

XIII因子抗体の存在*

クロスミキシング試験による第XIII因子活性評価が鑑別に有用.

SLE, 関節リウマチ
悪性腫瘍(固形腫瘍血液腫瘍)
薬剤性(主にイソニアジド他にプロカインアミドアミオダロンペニシリンシプロフロキサシン)
MGUS

47%は背景疾患が不明な特発性.

非免疫性

消費の亢進

XIII因子活性の軽度低下(20-70%)
出血は少ないまたは軽度
他の凝固因子の低下も伴うことが多い

外科手術
DIC,
炎症性腸疾患
IgA
血管炎
敗血症
血栓症

産生の低下

肝疾患
白血病
薬剤性(バルプロ酸トシリツマブ)

*コマーシャルベースには測定困難中和抗体ではBethesdaアッセイ非中和抗体ではBindingアッセイを用いる.

(Transfus Apher Sci . 2018 Dec;57(6):724-730.)(Haemophilia . 2021 May;27(3):454-462.)(Blood Rev . 2017 Jan;31(1):37-45.)

 


・基本的に免疫性第XIII因子欠損の方が第XIII因子活性は低下(<10%, 平均8.5±8.2%)出血も重度となる

 非免疫性では活性は20-70%程度と軽度の低下となり出血症状も軽度であることが多い

 第XIII因子活性が低いほど重度の出血に関連する.


・検査は第XIII因子活性と第XIII因子抗原の評価を行う.

 免疫性第XIII因子欠損症の診断基準は以下の通り.


可能性あり

1.     主に高齢者における最近発症した出血症状

2.     先天性の第XIII因子欠損や他の凝固因子障害の家族歴を認めない

3.     過去の外科手術や侵襲的処置外傷で出血症状を認めていない

4.     抗凝固療法や抗血小板薬の過剰使用がなく薬剤では出血が説明できない

5.     XIII因子活性や抗原が<50%と低下している.

準確診

上記1-5を満たしさらに第XIII因子インヒビターが認められる(クロスミキシング試験の2時間値で再度活性が低下することで証明)

確診

上記1-5を満たしさらに抗XIII因子抗体が証明される

(Thromb Haemost . 2016 Sep 27;116(4):772-774.)


 

・出血症状がありXIII因子活性(±抗原)の低下が認められれば後天性第XIII因子欠損症を考慮する.

・さらにクロスミキシング試験にてインヒビターが証明されれば免疫性第XIII因子欠損症と診断する.

・抗第XIII因子抗体が証明できれば確定診断となるもののコマーシャルベースでは検査はできない.


免疫性と非免疫性の鑑別ではクロスミキシング試験における残存第XIII因子活性の評価が有用(Haemophilia . 2021 May;27(3):454-462. )


・免疫性非免疫性の後天性第XIII因子欠損症患者においてXIII因子抗原活性を評価比較した報告では免疫性の方がより抗原活性共に低値であるがその値には重なりも多く認められた(A)(B)



・クロスミキシング試験後に再度第XIII因子活性を評価した「残存第XIII因子活性」では免疫性群で活性低下が持続する一方非免疫性群では活性は軽度改善を認めその差は明確となった(D).



後天性第XIII因子欠損症の治療


・出血を安定させるためにXIII因子製剤を投与する

 乾燥濃縮人血液凝固第XIII因子(ブロガミンP®)が使用可能である

 すぐに手配ができない場合は新鮮凍結血漿を用いる.


・非免疫性では第XIII因子活性を>10%に維持するように投与を行う

 また侵襲検査や外科手術時には>50%を目標に投与を行う

 治療可能な背景疾患への対応も重要である.

 トラネキサム酸を併用することで出血リスクを低下させる報告もある.


・免疫性第XIII因子欠損症ではさらに免疫抑制療法が推奨される

 ステロイドやカルシニューリン阻害薬シクロホスファミドが用いられる

 適応外使用となるがリツキシマブも効果的である

 また免疫グロブリン静注療法も効果が期待できる背景疾患への治療も重要である.


・免疫性第XIII因子欠損症の長期予後は不明確ではあるが, 50-68%の患者で免疫抑制療法が終了できたとの報告もあり.


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自己免疫疾患や血液疾患に合併し, さらにPTやAPTTでは異常がでないが出血傾向となる病態

把握しておくと良いと思う.