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2023年5月31日水曜日

GCAに対するIL-17A阻害薬(セクキヌマブ)

・GCAに対する治療では, TNF阻害薬やアザチオプリン, シクロホスファミドなどのデータは乏しく, または効果が期待できない結果が得られている.

・一部の報告ではMTXは効果が期待できるが, それも結論が得られていない

・IL-6阻害薬は効果が証明された薬剤の一つであるが,
 CRPを抑制することでモニタリングが困難となる欠点がある.


・GCAの血管炎病変では, 外膜の活性化樹状細胞とIFNγを産生するTh-1細胞とIL-17を産生するTh-17細胞の集積が認められる.
 

 IL-17Aが多く発現していることから, IL-17Aを阻害することで病勢のコントロールができる可能性が示唆されている.


TitAIN trial: 初発/再発性のGCAでBio未使用, PSL 25-60mg/dを使用中である患者を対象としたphase II DB-RCT.

(Lancet Rheumatol 2023; 5: e341–50)

上記患者群をSecukinumab(IL-17A抗体) 300mgを週1回, 4週間. 以後4週毎
とPlacebo群に割り付け, 28wkにおける寛解維持率を比較した.
 

 また52wkまでフォローし, PSL累積投与量, PSL減量成功率など比較

・PSLは両群で26wkにOffとするように減量.

・12wkまでに寛解が達成できなかった患者群や寛解後に再燃した患者, PSL減量が守れなかった患者群は責任医師の臨床判断にてPSLを使用(Escape群とした) 
(Secukinumab, Placeboは継続)



アウトカム


・28wk時点での寛解率は介入群で70% vs Placebo群で20%
 

 RD 0.50[0.29-0.67]と有意に介入群で良好

・52wkでの寛解率は
 59% vs 8%と有意に介入群で良好

・再燃までの期間は
Placebo群で197日[101-280]
 介入群では計算不可

・PSL投与量は,


介入

Placebo

~28wk

2506mg[990-6156]

2359[441-4996]

~52wk

2506[990-6156]

3466[441-6274]

Escape群

9例

19例

PSL5mg @19wk

88%

50%

PSL5mg @28wk

83%

45%

PSL5mg @52wk

90%

76%


 IL-17A阻害薬投与群でPSLの減量成功例は多く, 1年間の総投与量も減少できる結果

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まだ選択肢が少ない疾患であり, 選択肢が増えるのは歓迎できる.
Phase 3にも期待.

2023年5月18日木曜日

後天性第XIII因子欠損症

高齢者の筋肉内血腫や皮下出血など出血が顕著な症例.

PTやAPTTは正常で血小板減少や機能には異常はない...


PT, APTTが正常な凝固障害として想起するのが後天性VWDと後天性第XIII因子欠損症である

出血時間が伸びる場合はVWDを疑うものの, 今回は正常であったという程で考える



ということでお勉強です


後天性XIII因子欠損症 (Transfus Apher Sci . 2018 Dec;57(6):724-730.)

・第XIII因子はαγフィブリン鎖を結合することで凝血塊を安定化させる作用を示す

 欠乏により出血や創傷治癒の遅延の原因となる


・第XIII因子欠損症ではAPTT, PT, 血小板数や機能は正常であり原因が不明な出血傾向がある患者において後天性vWDと共に想起することは重要


・症状は無症候性〜重度な出血まで様々

 出血部位は筋肉内出血や皮下出血が7割を占める

 他に頭蓋内出血が13-18%, 腹腔内や後腹膜出血も認められる.


日本国内より免疫性第XIII因子欠損症(後述) 93例をまとめた報告

(Blood Rev . 2017 Jan;31(1):37-45.)


・患者の平均年齢は65.8±18.1中央年齢70歳であり高齢者ほど頻度は増加する

 また男性例が51女性例が42例と若干男性例が多かった


・出血部位は筋肉内出血が68%, 皮下出血が60%と多い.

 頭蓋内出血が11腹腔内・後腹膜出血が19%で認められた

 術後の出血も16%で報告された.


後天性第XIII因子欠損症の機序は免疫性非免疫性に分類される.


・免疫性では第XIII因子の中和作用を持つインヒビターとXIII因子のクリアランスを亢進させる非中和型の抗体がある

・非免疫性では産生の低下また消費の亢進が挙げられる.


・それぞれの機序と背景疾患は以下.

機序

病態の特徴

関連する背景疾患

免疫性

XIII因子の阻害代謝の促進

XIII因子活性の高度低下(<10%)
重度の出血.

XIII因子抗体の存在*

クロスミキシング試験による第XIII因子活性評価が鑑別に有用.

SLE, 関節リウマチ
悪性腫瘍(固形腫瘍血液腫瘍)
薬剤性(主にイソニアジド他にプロカインアミドアミオダロンペニシリンシプロフロキサシン)
MGUS

47%は背景疾患が不明な特発性.

非免疫性

消費の亢進

XIII因子活性の軽度低下(20-70%)
出血は少ないまたは軽度
他の凝固因子の低下も伴うことが多い

外科手術
DIC,
炎症性腸疾患
IgA
血管炎
敗血症
血栓症

産生の低下

肝疾患
白血病
薬剤性(バルプロ酸トシリツマブ)

*コマーシャルベースには測定困難中和抗体ではBethesdaアッセイ非中和抗体ではBindingアッセイを用いる.

(Transfus Apher Sci . 2018 Dec;57(6):724-730.)(Haemophilia . 2021 May;27(3):454-462.)(Blood Rev . 2017 Jan;31(1):37-45.)

 


・基本的に免疫性第XIII因子欠損の方が第XIII因子活性は低下(<10%, 平均8.5±8.2%)出血も重度となる

 非免疫性では活性は20-70%程度と軽度の低下となり出血症状も軽度であることが多い

 第XIII因子活性が低いほど重度の出血に関連する.


・検査は第XIII因子活性と第XIII因子抗原の評価を行う.

 免疫性第XIII因子欠損症の診断基準は以下の通り.


可能性あり

1.     主に高齢者における最近発症した出血症状

2.     先天性の第XIII因子欠損や他の凝固因子障害の家族歴を認めない

3.     過去の外科手術や侵襲的処置外傷で出血症状を認めていない

4.     抗凝固療法や抗血小板薬の過剰使用がなく薬剤では出血が説明できない

5.     XIII因子活性や抗原が<50%と低下している.

準確診

上記1-5を満たしさらに第XIII因子インヒビターが認められる(クロスミキシング試験の2時間値で再度活性が低下することで証明)

確診

上記1-5を満たしさらに抗XIII因子抗体が証明される

(Thromb Haemost . 2016 Sep 27;116(4):772-774.)


 

・出血症状がありXIII因子活性(±抗原)の低下が認められれば後天性第XIII因子欠損症を考慮する.

・さらにクロスミキシング試験にてインヒビターが証明されれば免疫性第XIII因子欠損症と診断する.

・抗第XIII因子抗体が証明できれば確定診断となるもののコマーシャルベースでは検査はできない.


免疫性と非免疫性の鑑別ではクロスミキシング試験における残存第XIII因子活性の評価が有用(Haemophilia . 2021 May;27(3):454-462. )


・免疫性非免疫性の後天性第XIII因子欠損症患者においてXIII因子抗原活性を評価比較した報告では免疫性の方がより抗原活性共に低値であるがその値には重なりも多く認められた(A)(B)



・クロスミキシング試験後に再度第XIII因子活性を評価した「残存第XIII因子活性」では免疫性群で活性低下が持続する一方非免疫性群では活性は軽度改善を認めその差は明確となった(D).



後天性第XIII因子欠損症の治療


・出血を安定させるためにXIII因子製剤を投与する

 乾燥濃縮人血液凝固第XIII因子(ブロガミンP®)が使用可能である

 すぐに手配ができない場合は新鮮凍結血漿を用いる.


・非免疫性では第XIII因子活性を>10%に維持するように投与を行う

 また侵襲検査や外科手術時には>50%を目標に投与を行う

 治療可能な背景疾患への対応も重要である.

 トラネキサム酸を併用することで出血リスクを低下させる報告もある.


・免疫性第XIII因子欠損症ではさらに免疫抑制療法が推奨される

 ステロイドやカルシニューリン阻害薬シクロホスファミドが用いられる

 適応外使用となるがリツキシマブも効果的である

 また免疫グロブリン静注療法も効果が期待できる背景疾患への治療も重要である.


・免疫性第XIII因子欠損症の長期予後は不明確ではあるが, 50-68%の患者で免疫抑制療法が終了できたとの報告もあり.


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自己免疫疾患や血液疾患に合併し, さらにPTやAPTTでは異常がでないが出血傾向となる病態

把握しておくと良いと思う.




2023年5月17日水曜日

感染性心内膜炎 Duke基準の2023年改訂: 2023 Duke-ISCVID基準

感染性心内膜炎の診断基準であるDuke基準は1994年にオリジナルが発表され,

2000年に現在よく使用される修正Duke基準となった.


さらにそれから画像検査技術の発達; 心臓CTやMRI, PET/CTなど,

 培養検査の発達; PCRなどがあり, 修正Duke基準に追加する形で各ガイドラインが画像基準などを組み込んでいるのが現状.


修正Duke基準から23年. あらたなDuke基準. 来る.


2023 Duke-ISCVID基準 (Clin Infect Dis. 2023 May 4;ciad271. doi: 10.1093/cid/ciad271.)

修正Duke基準からの変更点は太字としました.

Major criteria

Major criteria

内容

A) 微生物学的基準

(1)血液培養陽性
・心内膜炎の原因となる細菌*が別々で採取された2セット以上で陽性となる.
・時折, たまに心内膜炎の原因となる細菌が別々に採取された3セット以上で陽性となる.
(2)血清学的検査陽性
・Coxiella burnetii, Bartonella spp, Tropheryma whippleiのPCRや核酸検査が陽性
・Coxiella burnetiiのphase I IgG >1:800, または1回でも血液培養で分離される
・Bartonella henselaeまたはBartonella quintanaのIgM, IgGが検出され, IgG 
1:800を満たす

B) 画像基準

(1) 心エコー, 心臓CT検査所見
・疣贅の証明, 弁/弁尖の穿孔, 弁/弁尖の瘤形成, 膿瘍, 仮性瘤, 心内瘻孔

・心エコーにおいて, 新規の著明な弁逆流を認める. 以前認めた逆流所見の増悪や変化のみでは不十分とする
・以前の画像と比較して, 新たに人工弁の部分剥離が認められる.

(2) PET/CT所見
・自然弁, 人工弁, 上行大動脈グラフト(弁を含む), 心内デバイス(リードや人工物)の異常な代謝信号を認める

C) 外科基準

心臓手術において, 直接観察された心内膜炎所見を認める.
画像基準やその後の組織所見, 微生物学的基準を満たす必要がない.

* 心内膜炎の起因菌として典型的な細菌: S. lugdunensis, E. Faecalis, 肺炎球菌と溶連菌を除く連鎖球菌, Granulicatella spp, Abiotrophia spp, Gemella spp.

 
人工弁や心内デバイス留置患者では典型的と判断する菌: CNS, Corynebacterium striatum, C. Jeikeium, Serratia marcescens, Pseudomonas aeruginosa, Cutibacterium acnes, NTM, Candida spp.

Minor criteria

Minor criteria

内容

A 背景因子

心内膜炎の既往

・人工弁

・心臓弁手術の既往

・先天性心疾患

・中等度以上の弁逆流症や弁狭窄症

心血管植え込み型電子デバイス

・閉塞性肥大型心筋症

・静注薬物濫用

B 発熱

38度以上の発熱

C 塞栓所見/徴候

臨床的, 画像的に認められる動脈塞栓, 肺の敗血症性塞栓, 脳膿瘍や脾膿瘍, 細菌性動脈瘤, 頭蓋内出血, 眼瞼結膜出血, Janeway lesion, 化膿性紫斑

D 免疫学的徴候

リウマチ因子陽性, Osler結節, Roth斑, 免疫複合体性糸球体腎炎

E 微生物学的証拠
(Major criteriaには及ばない)

・心内膜炎の起因菌となる細菌が血液培養より検出されたが, Major criteriaは満たさない

・心臓組織, 心内デバイス, 塞栓以外の無菌部位より採取された培養より心内膜炎の起因菌となる細菌が検出される. または弁やワイヤーより, 皮膚常在菌のPCRが1回のみ検出され, 他に心内膜炎を示唆する証拠が認められない場合.

F 画像基準

人工弁, 上行大動脈グラフト(弁を含む), 心内デバイス留置後3ヶ月以内で, PET/CTにより異常な代謝信号が認められた.

G 身体所見基準

心エコーが困難な状況で, 聴診により新規に弁逆流が認められた場合
以前に認められた心雑音の増悪や変化のみでは不十分である


判定

判断


Definite

A) 病理学的基準
(1) 臨床的に心内膜炎を疑う状況で, 疣贅や心臓組織, 人工弁や心内デバイス, 上行大動脈グラフト, 動脈塞栓より微生物が検出される.
(2) 心臓組織, 人工弁や上行大動脈グラフト, 心内デバイス, 塞栓より検出された疣贅より, 活動性の心内膜炎を示唆する所見が認められる

B) 臨床基準
(1) 2つ以上のMajor criteriaを満たす
(2) 1 Major + 3 Minor criteria

(3) 5 Minor criteriaを満たす

Possible

A) 1 Major + 1 Minor criteria
B) 3 Minor criteria