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2023年4月13日木曜日

薬剤性パーキンソニズムの症状/所見

朝のカンファレンスで薬剤性のParkinsonismでは, Parkinson病(PD)と比較して, 振戦が少ないとの話があった.

確かにそんな話はある. でも実際どの程度少ないのだろうか? と疑問に思った.

ちなみにJAMAの論文から, PDにおける症状の頻度は以下の通りである;

(JAMA. 2014;311(16):1670-1683.)

運動症状

Timing

頻度(%)

安静時振戦

診断時晩期

~70%(診断時)

Bradykinesia

診断時

全例

固縮

診断時晩期

~90%

早期の非運動症状

Timing

頻度(%)

嗅覚障害

診断前よりあることも

25-97%

倦怠感

診断前よりあることも

~60%

抑うつ

診断前よりあることも

~25%

REM睡眠障害

診断前 15年以上前〜

~30%

便秘

診断前よりあることも

~30%

晩期の非運動症状

Timing

頻度(%)

治療抵抗性の体軸症状

症状出現〜5-10


 Freezing/姿勢不安定/転倒


~90% (15年以内)

 嚥下障害


~50% (15年以内)

精神症状

症状出現〜5-10


 不安


~55%

自律神経症状

症状出現〜5-10


 起立時のふらつき


~15%

 唾液分泌過多


~30%

 排尿障害頻尿


~35%

 夜間尿


~35%

 性行為不全


~20%

認知機能障害

経過と伴に増加


 軽度認知症


~35%(診断時), 50%(5)

 認知症


>80%(20年以内)


これによると, 安静時振戦の頻度は「~70%程度(診断時)」とある.


薬剤性のParkinsonism(DIP)の症状を評価している論文を探してみると, 1つ興味深い報告を見つけたのでシェアする. 原因薬剤のクラス別に報告してあるものである.

(Neurol Sci (2017) 38:319–324)

薬剤性Parkinsonism(DIP)はParkinsonismの代表的な原因の1つ

・原因薬剤として多く報告されているのは
第一世代/第二世代の向精神病薬とCa-ch阻害薬.

 他にはバルプロ酸, 消化管蠕動促進薬(スルピリドなど)

・古典的なDIPの基準として,
 薬剤中止後6ヶ月以内に改善することが必要とされているが,
 中止後も持続/進行する症例が~25%で報告されており,
 不顕性の変性が薬剤の使用により顕在化した症例も含まれている可能性が示唆されている.


DIPの臨床的特徴として,

・急性/亜急性の, 左右対称性の錐体外路症状であり,
 Levodopaに反応せず, PDと比較して安静時振戦の頻度が少ないとされる

・この報告はD2 dopamine receptor阻害薬(主に第一世代向精神病薬)によるDIP症例で観察された報告に基づく(この報告における振戦の頻度は4割程度).(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1988 Jun; 51(6): 850–854.)


Parkinsonism診療の専門施設における前向きStudy

・Parkinsonismを認める患者群(安静時振戦, 固縮, Bradykinesia, 姿勢不安定のうち2つ以上を認める患者)において, DIPと診断された症例を評価した.

・DIPは以下の3要素を有する患者群と定義:


 原因となる薬剤を使用しており


 開始前には認められず

 中止後6ヶ月以内に改善した.

・薬剤は第一世代向精神病薬, 第二世代, Ca-ch阻害薬の3つに分類し
, それぞれにおける症状を比較.

・Action tremorの原因となる薬剤を使用中の患者は除外された.


2677例のParkinsonism患者のうち, 
264例(9.86%)がDIPを疑われた. 

・このうち20例は1剤以上の原因薬剤を使用したため除外


 第一世代(CN)が95例 → 薬剤中止後改善が78例

 
第二世代(SN)が23例 → 薬剤中止後改善が21例

 
Ca-ch阻害薬(CCB)が80例 → 薬剤中止後改善が58例 であった.


各原因薬剤における比較


・薬剤開始〜発症まで最も長いのはCCBでおよそ半年.


 DIPの期間もCCBで最も長い(改善までの期間も長い?)

・症状からは,
 

 Rigid-akineticはCN, SNで多く, およそ半数. CCBでは稀


 安静時振戦のみ認める例はCNで4割と最も多く, CCBやSNでは少ない.


 CCBはMixed tremorの頻度が高い → 安静時振戦はCCBでは認めるが, 姿勢時振戦も同様に多く認められる.

・前述の通りPD自体の安静時振戦は~70%であり, やはり薬剤性は少ないといえる.

 CCBではMixedの頻度が高く, 振戦の頻度は差はないのかもしれない.

 少なくとも向精神病薬によるDIPでは安静時振戦は少ないと言える可能性が高い(それでも2-4割で認められるが)

2023年4月5日水曜日

スタチンの使い方: 強度 vs LDL-C目標値

高コレステロール血症に対するスタチンの使用方法として,

強度を設定し使用する方法と, LDLコレステロール値を設定して調節する方法がある.


以前は強度で記載されていたが, 最近のガイドラインは併記されている.

国内のガイドラインは目標値設定. 

ACC/AHA ガイドライン(2018)におけるスタチンの推奨と治療目標

予防

患者群

スタチン強度治療目標

二次予防

以前にも動脈硬化性疾患既往があるまたは高リスク因子*を有する

高強度スタチン.

LDLコレステロール<70mg/dL

高リスク因子(). >75

中強度スタチン高強度がすでに使用されている場合は継続

高リスク因子(). ≤75

高強度スタチン.

LDLコレステロール50%以上の低下

一次予防

LDLコレステロール≥190mg/dL

高強度スタチン

LDLコレステロール70 mg/dL -190mg/dL未満, 40-75糖尿病(-), 10年間動脈硬化性疾患リスク≥7.5%

リスク7.5-20%, またはリスク因子*2がある場合はLDLコレステロール 30-49%の低下(中強度スタチン),リスク≥20%では≥50%の低下を目標(高強度スタチン)

LDLコレステロール≥160mg/dL, 20-39若年発症の動脈硬化性疾患の家族歴がある

スタチンを考慮する

40-75歳の糖尿病

中強度スタチン動脈硬化リスクが他にあれば高強度

*12ヶ月以内の冠動脈疾患心筋梗塞既往脳梗塞既往症候性の末梢動脈疾患のうち1つ以上.
 65歳以上ヘテロの家族性高コレステロール血症冠動脈バイパス術/経皮的冠動脈インターベンション既往糖尿病慢性腎臓病喫煙者スタチン最大投与量を使用してもLDL-C ≥100mg/dLが持続うっ血性心不全の既往 のうち複数が認められる.

*2 動脈硬化性疾患家族歴(男性では<55 歳,女性では<65 歳)LDLコレステロール160-189 mg/dL, メタボリック症候群(腹囲の拡大,トリグリセリド>150mg/dL,高血圧,高血糖,HDLコレステロール低値[男性<40 mg/dL,女性<50 mg/dL]のうち,3項目以上を満たす)慢性腎臓病慢性炎症性疾患(関節リウマチや乾癬,HIV感染症など)早期閉経の既往(40歳以前での閉経),妊娠に関連した動脈硬化性疾患疾患リスクを上昇させる合併症(子癇など)心血管疾患リスクが高い人種(南アジアなど), 持続的な高トリグリセリド血症(≧175 mg/dL, 足関節上腕血圧比(ABI<0.9

Circulation. 2019 Jun 18;139(25):e1082-43

 

ESC/EASガイドライン(2019)における心血管疾患リスク分類と治療目標

リスク

患者群

治療目標(LDL-C)

最高リスク

・動脈硬化性疾患を臨床的または画像的に指摘されている(冠動脈疾患既往狭心症,経皮的冠動脈インターベンション冠動脈バイパス術既往など脳卒中一過性脳虚血発作末梢動脈疾患画像上プラーク狭窄が指摘など)
・臓器障害を伴う糖尿病もしくは3つ以上のリスクを有する糖尿病, 20年を超える1型糖尿病
・重度の慢性腎臓病(予測GFR <30mL//1.732)
10年間致命的心血管疾患リスクスコア 
10%

・動脈硬化性疾患の既往や他のリスク因子を有する家族性高コレステロール血症

LDLコレステロール50%以上の減少, <55mg/dLを目標 (高強度スタチン)

高リスク

・次のいずれかが認められる総コレステロール >310mg/dL, LDLコレステロール>190mg/dLまたは血圧180/110mmHg
・家族性高コレステロール血症があり他のリスクは認められない
・臓器障害が認められない糖尿病, 10年以上の糖尿病罹患歴他のリスク因子を伴う糖尿病
・中等度慢性腎臓病(予測GFR 30-59mL//1.732)
10年間致命的心血管疾患リスクスコア 5-10%

LDLコレステロール50%以上の減少, <70mg/dLを目標 (高強度スタチン)

中リスク

若年者(2型糖尿病<50, 1型糖尿病<35)糖尿病罹患歴が10年未満他のリスク因子は認められない
10
年間致命的心血管疾患リスクスコア 1-5%未満

<100mg/dLを目標

低リスク

10年間致命的心血管疾患リスクスコア <1%

<116mg/dLを目標

Atherosclerosis. 2019 Nov;290:140-205

 

動脈硬化疾患予防ガイドライン(2022)におけるリスク分類と治療目標

リスク

患者群

治療目標(LDL-C)

二次予防

動脈硬化性疾患既往がある

<100mg/dL
高リスク群*では<70mg/dL

高リスク

糖尿病慢性腎臓病末梢動脈疾患あり
リスク評価(2)にて≥10%

<120mg/dL
リスク因子あり*では<100mg/dL

中リスク

リスク評価(2)にて2-10%未満

<140mg/dL

低リスク

リスク評価(2)にて<2%

<160mg/dL

*1冠動脈疾患家族性高コレステロール血症糖尿病アテローム血栓性脳梗塞
*
2糖尿病で末梢動脈疾患微小血管障害を合併した症例や喫煙者.

日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022

 

ちなみに, 強度とは

LDLコレステロールを>50%減少させる量を高強度

30-50%減少させる量を中強度

<30%減少させる量を低強度と定義し, 以下のような投与量となる.

国内保険適応ではほぼ中強度となり, 高強度はロスバスタチンのみという問題がある.



強度を基本としたスタチン投与方法と, LDLコレステロールの目標値を設定した方法はどちらが良いのかはこれまで直接的に比較されたものはなかった.

そんななか, 韓国より非劣性試験が発表された.


JAMA. 2023;329(13):1078-1087. 

LODESTAR: 冠動脈既往患者を対象とし. High-intensity群と, Treat-to-target群に割り付け, 臨床アウトカムを比較した非劣性RCT @韓国

・Treat-to-target群はLDL-Cを50-70mg/dLを目標に投与
 

 未使用例では中強度より開始, 使用例では目標達成まで増量.
  <50mg/dLでは減量する.

・
High-intensityはロスバスタチン20mg/日, アトルバスタチン 40mg/日を使用

・3年間における死亡, 冠動脈疾患, Strokeを比較. 
非劣性マージンは3.0% 


母集団


両群のスタチンの使用量


・Treat-to-target群では中強度例が4-5割を占め, Ezetimibe併用も
多い


LDL-Cの値とPrimary end point

・LDL-Cは両群で<70mg/dLを達成しており,


 Primary end point(死亡, 冠動脈疾患, Stroke)も同等.

・個別に見たアウトカムも両者で差は認めず.

・臨床的有意な差かどうかは不明であるが, 末期腎不全リスクはHigh-intensity群でやや多い.


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スタチンの使用可能量の国別の差により, 日本では海外で行われるような高強度スタチンの使用が難しい問題があった.

それでもエゼチミブなど併用しつつやっていたものの, 今回の報告からはそれで目標LDLコレステロールを達成できれば少なくとも3年間のアウトカムには差は認めないという結果.

長期フォロー結果も待ちたいところではあるが, 結局は低強度〜中強度で開始/投与しつつ, 目標値を意識しつつ管理, という方法はアリ.

2023年4月1日土曜日

MDS/MPNに伴うリウマチ性疾患や腸炎にJAK阻害薬はどうか?

 自分が総合診療/リウマチ膠原病の守備範囲の中でも, 比較的好んで診療しているMDS/MPN(特にCMML)に伴う自己炎症性の病態(あとは好酸球性疾患が好きです).

参考: 

MDSには自己免疫性疾患が合併することがある

治療は原疾患の治療(アザシチジン)だが, その適応が難しい場合はステロイドやTNFα阻害薬が試されるものの, ステロイドは減量で再発しやすく, TNF-α阻害薬も長期間の使用で不応となる例がある.


そこで, ふとMPN, 特に骨髄線維症や真性多血症で使用されるRuxolitinib(JAK1/2阻害薬)がこのような病態に効果が期待できるのでは。。。?と思ったが, そもそも上記のような疾患群は数が少なく, また狭間疾患ということもあり, ほぼ研究が進んでいない.


とりあえず手当たり次第に読んでみた.

CMMLとJAK阻害薬

CMMLでは, 異常クローンよりCFU-GM(colony-forming units granulocyte/macrophage)が形成される.

・GFU-GMはin vitroにおいてGM-CSFより分化増殖し, 顆粒球やマクロファージから成るコロニーを形成する造血細胞群.

・JAK1/2はGM-CSFシグナル伝達経路のセンチネルキナーゼであり, CMMLにおけるJAK1/2阻害は疾患の治療に有用な可能性がある(Eur J Haematol . 2016 Dec;97(6):562-567.)


CMML-1と診断された患者群20例において
Ruxolitinibを投与した報告(JAK1/2阻害薬)

(Clin Cancer Res . 2016 Aug 1;22(15):3746-54.)

・好中球数<250/µL, PLT<35000/µL, 
Cr >2.0mg/dL, T-bil ≥1.5ULNの症例は除外

 
また過去の治療歴とその内容は問わず.

・Ruxolitinibは1回5-20mg, 1日2回投与で評価.


 Cohort 1が5mg bid 6例
Cohort 2が10mg bid 4例
Cohort 3が15mg bid 5例
Cohort 4が20mg bid 5例

各患者の経過. 平均投与期間は122日[範囲28-409]

・血液所見の改善が4例. 1例はPRを達成.

 
脾腫を認めた5/9で脾臓サイズの改善


 疾患に関連する症状を認めた10/11で臨床症状の改善を認めた

・疾患の改善を認めた症例全てでJAK2変異は認められなかった(JAK2変異陽性は4/20)


CMMLと診断された50例の患者を対象とし, Ruxolitinib 20mg bidを投与.

(Clin Cancer Res. 2021 Nov 15;27(22):6095-6105.)

・好中球数<250/µL, PLT<35000/µL, Cr >2.0mg/dL, T-bil ≥1.5ULNの症例は除外

・Phase 1において10mg/dで開始され, 最大40mg/dまで増量. 20例を導入

 
Phase 2では40mg/dで投与(20mg bid). さらに30例を導入

・投薬は疾患の増悪や許容できない副作用が出現まで継続


治療反応性


・CRやPRは少ないながら認められる.


 脾腫のサイズの縮小は43.5%で認められた.

・全体的な反応率は38%


JAK阻害薬: MDS症例に対してはどうか?

・いくつかの研究により, NF-κβ活性化を特徴とする自然免疫, 炎症シグナルの調節がMDSの病態に重要な役割を示すことが示唆されている

・NF-κβ経路とJAK-STAT経路には相互関係が認められ,
 RuxolitinibはNF-κβを抑制する効果が認められるため,
 MDSにおいてJAK1/2阻害薬は病勢のコントロールに有用な可能性がある.

(Leuk Res. 2018 Oct;73:78-85.)


治療歴のあるLow, Int-1のMDS症例で,
 且つNF-κβまたはJAK-STATの活性化が認められる症例において, Ruxolitinibを投与した報告.

(Leuk Res. 2018 Oct;73:78-85.)

・NF-κβ活性はphosphorylated p65を認めることで定義


 JAK-STAT活性はJAK2変異を認めることで定義

 
(陽性細胞が骨髄細胞中≥5%を満たすことで定義)

・またβ2-microglobulin >2ULNを満たす患者群も導入された

・肝障害, 腎障害を認める患者群は除外

・患者数は20例.
 Ruxilitinibは5mg bid, 10mg bid, 15mg bid, 20mg bidの4群に分けて投与

母集団では

・CMMLが42%(8例)
 JAK2陽性例が42%(8例)


治療反応性を認めたのは

・MDSの4/11例.
 血小板改善が2, 貧血改善が1
, 細胞遺伝学的のPRが1例.


 CMMLでは反応性を認めた症例は無し.

・pp65発現例と治療反応性に関連を認めた.


Ruxolitinib + Azacytidineの併用療法

MDS/MPN症例35例を対象(MDS/MPN-U 14例, CMML 17例, aCML 4)

(Am J Hematol. 2018;93:277–285.)

・Ruxolitinibを1サイクル28日とし, 3サイクル先行投与し,
 4サイクル目からAzacytidine 25mg/m2(Day 1-5)を追加投与.

・Ruxolitinibは血小板数に基づき投与量を調節.


 Azacytidineは最大75mg/m2まで増量可.
 また急速に細胞数が増加した症例や芽球が増加した症例では4サイクル待たずに開始可能とした.


母集団


・JAK2変異は10例(29%)


アウトカム


・ORは57%で認められた.

・脾臓サイズの改善は9例(64%).
 AZA併用前に4例, 併用後にさらに5例で改善

・臨床症状の改善効果も期待

・輸血依存が改善したのは1/11


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JAK1/2阻害薬単独でのMDS/MPN, CMML治療はイマイチではあるが, 一部で反応性が認められる症例はある.

具体的な臨床症状や, 自己炎症性の病態を評価している報告はないものの, MDS/MPN, CMMLに伴う臨床症状の改善効果も期待できる.

原疾患の治療が難しい, 炎症性病態を有する患者群の選択肢として押さえていく価値はあるように思う.


JAK1/2双方を阻害するのはRuxolitinib以外にはTof, Bar, Pef, Upaあたりが選択肢.