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2023年2月28日火曜日

関節リウマチと線維筋痛症

 線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)についてはこちらも参照

http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/04/fibromyalgia.html


1年前に感染症を契機として, 全身の関節痛が出現した中年女性.

近医を受診し, 軽度のCRP上昇, ACPA弱陽性からRAと診断され, DMARDが開始.

しかしながらDMARD開始後も疼痛が改善せず薬剤はどんどん増量.... したが疼痛は持続.

転医を希望され, 紹介となった, という設定の症例.



診察すると腫脹関節は認めないが, 関節はかなり痛がる様子.

おかしいな? と思いエコーを行うが, 滑膜肥厚やPDの亢進所見は認めない.


これは,「 RAだけではない or RAじゃない」のではないかと考えて全身の疼痛を評価すると,

頸部、肩、肘〜 手指はDIP、はたまた関節外の筋把握痛など... さまざまな部位に圧痛を認める


これはFMぽい. 最初はRAだったのか? それは最初に見てないからわからない.

詳細は避けるが, 掘るとどんどん出る環境因子...



ところでRAでFMを合併するのはどの程度か, というのを調べてみた.


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RAとFM

RAとFMSは合併することがある

・報告では381例のRAのうち25.7%でFMの診断基準を満たすものや (Ann Saudi Med 41(4): 246-252. )

 
13.4%で合併するとした前向きCohort 
(Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 794–800)

 20.8%で合併していた報告など (Clinical Rheumatology (2022) 41:1235–1240)

・2019年のSystematic ReviewではRAの18-24%, axSpAの14-16%, PsAの18%で合併すると記載 (Best Practice & Research Clinical Rheumatology 33 (2019) 101423)


・およそRAの5-10人に一人がFMを満たす.


FMを合併したRA患者では, 非合併例と比較して,

・圧痛関節数が多く, PGAも有意に悪い.


 ESRやCRPといった炎症パラメータ, 腫脹関節数は有意差なし (Ann Saudi Med 41(4): 246-252. )

・ステロイドや他のDMARDの使用量も多くなる傾向がある. (rev bras reumatol. 2017;57(5):403–411)


FM合併例と非合併例の比較 (Clinical Rheumatology (2022) 41:1235–1240)

・特に圧痛関節数に大きな差があり, その影響でVASやQOLの低下がある

・また, よくうつ症状や不安症状
倦怠感を訴える例も多い.


同様に合併例と非合併例の比較 (Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 794–800)

・FMに関連する症状として,

 
頭痛や倦怠感, 異常感覚, 
口渇感やドライアイ
睡眠障害, 気分障害がある

・また, 全身の疼痛が目立つ
圧痛点の数も多い.


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・RAとFMはそれなりに合併があり得る.

・FM合併例ではPGAやTJCが増加し, RAの活動性が高く見積もられるものの, それに対してDMARDを増量しても, 解決にはならない可能性がある. 

・しっかり関節所見の評価, エコーなども用いてFMを意識し, それに対するアプローチを行った方がよりよい疼痛管理, 適切なDMARDの使用ができるのでは.

2023年2月21日火曜日

破傷風

 症例: 高齢者, 腸管穿孔による腹膜炎, 敗血症で搬送された.

 緊急手術となり, 手術自体は問題なく終了. 術後ICU管理となった.

 ICU管理2日後, 意識障害と38度台の発熱, 下肢の筋硬直が出現. 

 顎を確認すると, 開口が困難であった.



さて, 何を考えるか?








というわけで, 表題通り破傷風です.


破傷風はClostridium tetani(破傷風菌)による感染症. 

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・嫌気性のGPRであり, 嫌気状態で芽胞化し, Neurotoxinを放出(tetanospasmin, tetanolysin).


 下肢の創傷, 産後・中絶後感染症, 不衛生なIM, 解放骨折がRisk.

 
他にはIM, IV, 鍼灸, ピアス,
中耳炎, 褥瘡からの感染もある

・QuinineのIM後に
発症するものは予後不良
(QuinineはLow pHであり, 
神経移行性がUPするため)

・また, 30%で明らかなEntryが見つからない

・潜伏期; 24hr~60dと幅広い. 
7-10dが最多. 
感染部位, Toxinの性質に由来.


外科手術後の破傷風

・75例の破傷風症例の解析では,
 外傷後が40.9%, 皮膚障害が33.8%, 外科手術後が16.9%の頻度(Med Sante Trop. 2019 Aug 1;29(3):333-336.)

・近年は抗菌薬や周術期の衛生管理の発展があり,
およそ0-3.5%が外科手術後の発症

・主な感染源は消化管.

・一般人口の1-10%で糞便よりC. tetaniが検出される.

・腹部外科手術, 腸管壊死症例などで, 術後の破傷風を発症した症例報告がある.

(BMJ Case Rep 2019;12:e229701.)


腹部外科手術後の破傷風の症例 (Surg Today (2012) 42:470–474)


ワクチンが普及したとは言え, 
未だ800 000~1 000 000/yrの死亡がある.

(内400 000は新生児例)
死亡率は6-60%

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・死亡例の80%がAfrica, 東南アジア.


 先進国でもたまに見られる疾患であり, 注意が必要.

・アメリカでは0.10/100万人口/yrの発症率(2001-2008年).


 65歳以上では0.23/100万とリスクは増加.
(大半がワクチン未接種 or 10年以内のブースター無しの群)

・死亡率は13.2%

・破傷風による死亡率は年齢差が大きく,
<30yrではほぼ0%, >60yrでは50%に及ぶ.(破傷風の75%が>60yr)

(Southern Medical Journal 2011;104:613-617)


ワクチンは10年毎のブースターが必要

・小児期にDPTワクチンを行うが,
 時間経過と共に効果が消失するため, 10年毎のブースターが推奨

・実際96例の日本人旅行者のAntitoxin levelを評価したStudyでは,
 (J Infect Chemother 20 (2014) 35−37)

 <40歳ではほぼ全例で
ブースター前から破傷風に対する
免疫は有しているが, 

 
≥40歳では約半数のみしか有さない

 
ブースターしても100%ではない.


Neurotoxin: Tetanus, Botulinus Toxinは共通部分が多い

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004;75(Suppl III))

・100kDaのHeavy chain, 50kDaのLighter chainを有し,
 H鎖は末梢神経末端のGangliosideに結合し, Endocytosisを起こす.

・H鎖は小胞壁に通過性の孔を形成し, L鎖が細胞質内へ侵入する.

・Botulinus, Tetanus ToxinのL鎖はZn Activated Proteaseであり,
 Synaptobrevin(VAMP), SNAP-25, Syntaxinに結合, 作用する

・ToxinとTarget Proteins

Toxin

Target

Tetanus toxin

VAMP

Botulinum toxin A

SNAP-25

 B

VAMP

 C

SNAP-25

 D

VAMP

 E

SNAP-25

 F

VAMP

 G

VAMP

 ・Tetanus, Botulinumも作用部位は同じであり,
 分解作用, 伝導の阻害作用を示すが,
 一方は強直, 一方は弛緩症状が主.

・Botulinumは末梢神経末端に残存,

・Tetanusは軸索を逆行し, 神経細胞, CNSへ.
 中枢を抑制し, 末梢は興奮してしまう

 ・両方とも自律神経系も同様に作用するが,
 Tetanusの方が強く作用, 自律神経障害を認める


破傷風の臨床

・全身性破傷風; 全身の筋硬直, 疼痛, 頭痛, 硬直性発作

 局所性破傷風; 感染部位周囲の硬直, 疼痛

・全身性が一般的であるが, 局所性の場合は予後は良好.

・初発症状として, Lock jawが最も多い.

・軽い刺激(音, 触, 光, 注射, 吸引) で硬直発作が誘発されるため,
暗室に入院させ, 出来るだけ刺激を避ける必要がある.

・Spasm ⇒ 喉頭閉鎖, 胸郭の運動低下 ⇒ 肺コンプライアンス低下
, 呼吸停止による死亡例が多い.
(新生児では死亡率65-90% without Ventilator vs 10% with Ventilator)

・Spasmは2wkでピークとなり, 
自律神経障害はSpasm発症後 数日~2wkで出現する
 

 交感神経↑ ⇒ 唾液分泌, 頻脈, 高血圧, 下痢と褐色細胞腫Like.

・筋硬直は6-8wkまで持続することもある.


成人例 500名の解析(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・Entry Site; 下肢 53.3%, 頭部 10.4%
, 上肢 10.8%, 注射 1.8%
, 不明 22.2%

・潜伏期間;  平均9.5d [1-60]

・初発症状~Spasmまでの期間; 48hr[0-264]

・入院時の症状;

Lock jaw

96%

Spasm

41% 

背部痛

94%

発汗

10%

筋硬直

94%

呼吸困難感

10%

Dysphagia

83%

発熱

7%

Reviewより, 入院時の症状の頻度 (Lancet 2019;393:1657-1668)

破傷風の診断は臨床診断が決め手となる

(Southern Medical Journal 2011;104:613-617)

・特異的な検査は無く, 創部培養も補助手段程度の診断能しかない

・創部培養は通常陰性. 症例の30%程度でしか菌は検出されない.

・検査は他の疾患の除外目的として行われる.

・鑑別診断として,


 Tetany, ストリキニーネ中毒, 薬剤性ジストニア, 狂犬病,
 口腔, 顔面感染症, セロトニン症候群, 蜘蛛刺傷など

 
新生児例では,
 低Ca血症, 低血糖, 髄膜炎, 髄膜脳炎, てんかんも重要な鑑別


重症度


破傷風の治療:

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

治療は創部のデブリ & 抗生剤で毒素放出の抑制し,
 遊離毒素の中和をTetanus immunoglobulinで行う.

Anti-tetanus Immunoglobulin(テタノブリン); 発症24hr以内に投与.

 Doseは小児も成人も500IUを筋注.
500IU IMは3000-10000IU IMと同等の効果を示す.

 重症例では1500-5000Uを筋注もしくは緩徐に静脈投与

 罹患期間, 重症度の改善効果を示すが,
 Anaphylactic reactionが20%で認められる.

 カテコラミン, ステロイド, 補液を必要とするものは1%程度


・破傷風トキソイド

 Immunoglobulinによる短期的免疫反応に加えて,
トキソイドによる長期的免疫反応を引き起こす.

 トキソイドでアレルギーを来すのは1/50 000と稀
しかも大半が疼痛,浮腫,Flu-like illness.


破傷風トキソイドとグロブリンは同じ部位に投与しては×

注射部位で反応を起こしてしまう.
同じ部位に投与する場合は, グロブリンの投与量を調節すべき

抗生剤の1st choiceはMetronidazole

・Metronidazole; 400mg q6hr直腸投与. 7-10d継続


  500mg q6hr IV投与. 7-10d継続

・他にはエリスロマイシン, テトラサイクリン, VCM, 
クリンダマイシン, ドキシサイクリンなどを使用.

・ペニシリンも有効であるが, てんかん閾値を下げるため避ける

 PCのβ-lactam環より遠位部の構造がGABAと似ており,
 高濃度で使用すると, CNSにてGABA抑制効果を示す可能性が示唆される

 破傷風の中枢性の筋硬直を助長する可能性があり, 避ける.

 Metronidazoleによる治療と比較し,
 Outcomeは同等であるが, 鎮静, 鎮痛剤の必要量は低下する.

呼吸筋硬直, 喉頭閉鎖による呼吸不全治療, 予防に
挿管, 人工呼吸管理も重要な治療

・PropofolはSpasm, rigidityのコントロールも可能で良い適応.
・鎮静剤としてはベンゾも有用 
⇒ 自律神経障害にも有効だが, 半減期が長く,残存する可能性も.
・筋弛緩薬; Pancuronium, Vecuroniumが良く使用される.

自律神経障害

・カテコラミン過剰状態 ≒ 褐色細胞腫の症状と類似.
 発汗, 頻脈, 高血圧, 流涎など
・ベンゾジアゼピンやβ, α阻害薬が有効.
・Diazepamは大量に必要となり, 200mgまで増量することも.

その他の治療

・マグネシウム
 >15yrの破傷風患者256名のRCT; 硫酸Mg IV群 vs Placebo群で比較
(DB, 7dフォロー) (Lancet 2006;368:1436-43)
 Mg; 40mg/kg 30minでLoading
 Wt >45kgでは2g/hr, Wt =<45kgでは1.5g/hrで持続.
 人工呼吸器使用, 生存率は有意差認めなかったが,
 鎮静剤の必要量は有意に低下を認めた.
 副作用は有意差無し

・Vit B6, ステロイド